Ты знаешь, я всегда рядом 4
また誠君に助けられた日から少しして真理さんから連絡があった。
「誠も良史亜のとこ出るって言うし、良史亜に迷惑かけてきたお礼も兼ねてパーティしよ。それと、誠のお誕生会も合わせてやってあげたいんだー」
「え、誠君の?」
「そう。誠って二十五日、クリスマスが誕生日なの。今年は日曜で仕事もないからラッキー」
「そうなの、いいね真理さん。私も何か一緒に準備したいなあ」
良史亜のうちで忘年会パーティだ。
クリスマスが誠君の誕生日?知らなかった。
わかって嬉しい。
みんなでお祝いできるなんてとても嬉しい。
「良かった、桐絵ちゃん手伝いにきてよ。ウチでなんか仕込んで、あっちでも買い物して持ち込もう。飲み物とかは良史亜に頼んでおくとして」
真理さんとの楽しい相談が一気に白熱して、当日がすごく待ち遠しくなった。
そしてクリスマスの日。
真理さんは昨日から仕事が立て込んで大変だったのに昼過ぎには私を家に呼んでくれた。
二人とも張り切って準備にかかる。
「うーん。昨日は店のクリスマスパーティでさあ、ゲキ呑みだったの。だけど今日があるからうまーく微妙にセーブしたよー。でもまだ目が充血してる」
そう言って目薬をさすと、真理さんはエプロンを着けた。
真理さんて誠君の彼女だし、クリスマスは彼氏と二人きりで過ごしたいんじゃないのかなあ?
大学の友達も、彼氏とイブやクリスマスにデートっていう子が多い。
「真理さん、誠君と二人でお祝いとかするの?」
「ううん、しないよ。誠はこうやってみんなでご飯食べるのが好きで、すごく楽しみみたいなんだよね」
「それは私も、良史亜もだよ。なんか家族みたいで」
四人で食卓を囲むと、いつも本当の兄妹のような家族のような気持ちになる。
私や良史亜の心の奥底にある寂しさが、そう感じさせるのかな。
誠君も亡くなったご両親との時間を思い出すのかな。
でも、みんなそれぞれに嬉しい時間なんだね。
私たちは一緒にローストビーフとマッシュポテトを作り、フルーツサラダを作った。
作りながらおしゃべりする。
誠君と良史亜が一緒に暮らすようになったきっかけを聞いた。
「街で二人が再会したことだけどね、その時私もその場にいたの」
「そうだったの?」
「うん。ホスト辞めてから消えちゃった誠を街で偶然見かけて、追いかけてた時だったから」
そうだったんだ。
高校時代の友達同士で偶然再会してって、そう良史亜が言っていたけど。
「誠のこと追いかけて道の真ん中で『ねえ待ってイリヤ!』って呼んだの。その頃、誠の本名は知らなくて、イリヤはホストの時の誠の源氏名だったから。大声出しちゃって。そうしたら通りかかった良史亜がなぜか誠の腕を捕まえてたの。良史亜と誠、お互いに顔を見合わせて突っ立ってた」
誠君の源氏名がイリヤだった。
イリヤって、聞き覚えのある名前。
思い出した。
いつか良史亜の部屋で手にした、あのクリスマスツリーの下に立つ男の子たちの写真。
写真の裏に書かれてた『伊理也と』って言う文字を。
これは偶然?
夕方、真理さんと良史亜のうちに向かう。
家から近い商店街のアーケードの手前にあるこぢんまりした広場には大きなクリスマスツリーが飾られていた。
夕暮れの中でイルミネーションが金銀に点滅している。
アパート近くの、いつも子供たちが遊んでいる公園も今は静かだ。
付近の家が様々なカーテンの色を映す灯りに彩られ暖かい風景が広がる。
私にも今日はこれから暖かい時間が待ってる。
買い物をして良史亜の家に着くと、温められた部屋の中にも小さなクリスマスツリーが飾られていた。
装飾のLEDライトがカラフルに点滅し、良史亜と誠君も飲み物やチキンを用意してくれている。
「大荷物だなぁ、駅で呼んでくれたら迎えにいったのに」良史亜が言った。
ケーキは私と良史亜と真理さんで連絡しあって、こっそり誠君の誕生日用のを注文した。
「メリークリスマス!そして誠ハッピーバースデー」
一斉にクラッカーを鳴らすと誠君はニコニコした。
「すっげー!ありがとうなあ、マコ爺嬉しいぜえ」
そして誠君はキツネ色をした丸ごとのチキンを綺麗な手さばきで解体し、みんなに取り分けた。
ナイフを扱う誠君の大きな手は美しく、右手の中指に光る銀の指輪を見ると胸に閉じ込めてる小さな憧れが騒ぎだす。
「ホント、こういう時の誠はずるいなあ」
真理さんが言って、私も小さくうなづいた。
こんな風にホームパーティーでクリスマスを祝うなんて生まれて初めて。
嬉しい、とても。
こうやって施設を出て暮らし始めて、大学生になって初めて経験したことが、今年は本当にたくさんあったな。
もちろん良史亜と一緒にこんなことするのも。
グレーのセーターを着た良史亜は、みんなに飲み物をつぎ分け、笑顔でチキンの皿を誠君から受け取っている。
こうして四人で過ごす時、穏やかで幸せそうな良史亜を見てると心から嬉しくなる。
彼の屈託ない笑顔を見ると、なぜだか安心する。
良史亜に気にかけてもらってばかりのくせに、彼にいつもこんな顔をしていてほしいと、安らいでいてほしいと願う自分に気がつく。
私から彼にできることがあるとしたら、それはどんなことだろう。
みんなでご飯を食べて、今年のいろんな出来事をおしゃべりしてると真理さんが言った。
「誠ってさあ、桐絵ちゃんがピンチの時に限って現れるなんて、ただの偶然とは思えない。よっぽど強力に運命が味方してるとしか思えないなあ」
私はどきっとした。
「そうだな、そこが不思議なんだよ」
良史亜も言って私を見た。
「俺だってそこは謎だあ」と誠君。
そして「真理、それちょっと俺に妬いてくれてるのか」と真理さんに向かって目を細めて言う。
「何よ誠、そんなんじゃないよ!」
真理さんはちょっと頬を染めて、ぷんと膨れるようにした。
「ここ出たら一緒に住んでいい?お前んちの子にしてくれる」
誠君は街で出会った私をからかったのと同じ調子で、真理さんを覗き込むようにした。
「ふん、タチ悪い誠。そうやって今度はウチに転がり込む気でしょ」と、彼を横目で見る真理さん。
「いやいや、そうしたら俺、真理のピンチの時とか側にいれるんじゃないかと思っただけ。運命に味方されなくてもさあ」
笑って誠君が言うと真理さんは答えなかったけど、誠君を見て微笑んだ。
ああ、真理さんは綺麗でスタイルも良くて、優しくてさっぱりしてて料理も上手くて、女の子が手に入れたい全てを持ってるような人。
一緒にいるのが嬉しくなる素敵なお姉さんで、そして自分のことよりもっと誠君を思って大切にしてる。
誠君の心を知って、誠君が大切にしたいものに寄り添ってる。
いつも通り仲がいい真理さんと誠君を見てたら、いいなあ、羨ましい二人だなあと思う。
でも誠君が「一緒に住んでいい?」って真理さんに言った時、確かに私の胸は痛くなった。