侯爵令嬢は関西人?~ですわ編~
関西の人……ごめんなさい。
便利屋ギルドから、1人の男が出てきた、足取り軽く、スキップするかのように。地図を片手に、時々、地図を見て、そのまま周囲を見渡す。自分の現在地を確認している。
周りを見れば、2~3階建ての長方形や正方形の建物が、整然と建ち並ぶ。建物の入り口横には、小さな板が何枚か貼ってあり、建物の中に何の会社が入っているのかを、訪れる人に向け、知らせているのであろう。建物の大きさこそ、小さいが、日本のオフィス街でよく見掛ける、ビル等に良く似ていた。
この世界は、男の読み漁っていた、ラノベ等に出てくる、異世界の街とは、まったく違う様相をしている。
乱雑に、空いてる土地に、建物を建てた。そんな場所は、この街には、どこにも無いだろう。スラムのような場所も、きっと無いだろう。
この街は、作る段階から、現在の姿を、明確に想像され、作られた街なのだろう。それは、どこか、地球人の考え方に、似ていた。
「車の代わりに馬車が、走ってるだけで、何とも異世界らしくないな……」
日本の街を歩いているかのような、錯覚すら感じる男は、街の印象を、そう結論付けた。
《本当ですね、ここ、日本って言われても、受け入れられちゃいそうですよ、歩いてる人の中にも、黒目・黒髪の人も多いし……尚、現在【念話モード】》
システム88が感じた、街の感想を聞いた男は、眉根をよせ、言う。
「だから、人前以外の場所では、普通に話せ、ガンガンして気持ち悪くなるんだよ!その、念話モードっての」
《あーすみません、切り替えるの忘れてました》
《それより、そろそろ、目的の場所では?すっかり、街の風景も変わってますし、お城もかなり大きく見えてますよ》
その言葉に、周囲を見れば、街並みも、オフィスビルのような物は、一切無く、街に張り巡らされた、移動に便利な、縦と横の道にて分けられた区画が変わらないだけで、建物は、西洋風のお屋敷や、どこかの避暑地にある、別荘のような建物が建っている。
「あれ?いつの間に貴族街に?住宅街って通ったか?」
《先程までは、サラリーマンが、定年まで払い続けるローンで買える感じの普通の家が続いてましたよ、気付きませんでした?》
この、割りと失礼な喩えを言う、システム88の中身を分解してみたいと、軽く思いつつ、男は、先程まで話をしていた、便利屋ギルドの受付嬢さんの事を、思い出し、脳内でデートしていたので、街の風景なんか、流していたのだ。
「しかし、予想外な程に、治安が良いんだろうな……」
《何故そう思われました?》
「いやーラノベとかだと、それぞれの区画を通過するのに、門や検閲所みたいなのが、あったりする事が多いだろ?この街、俺達が今、貴族街に居るように、そんなものまったく無かっただろ?治安が良い証拠だろ?」
そうなのだ、この世界、特にこの国は、教育に力を入れ、子供の頃に無料で通える学校に、必ず通わせるように、指導してきたのだ。心の貴賓は、学が作る。その言葉を、地で行く国なのであった。
「ここだな……」
男の目の前に、大きなお屋敷が、そびえ立つ。建物の壁は白く、屋根が深い紺色で塗られている。大小様々な大きさの窓があり、窓には、ガラスのような物も、はまっている。そんな、立派な屋敷の外壁と呼ぶには、少々心許ない高さの、塀と読んだ方が似合いそうな、塀に取り付けられた、金属の格子状の門の前に立った男。
《なんか、侯爵の屋敷の割りに、塀?が低くありません?》
「高い塀なんて必要ないんだろ、この街の治安の良さと、街の外壁の堅牢さがあれば、個人の屋敷の塀を高くする必要なんかないだろ」
《なるほどー納得です》
そんな、やり取りを、門の前で、繰り広げていると、屋敷の敷地から、男が立つ門に向かって、1人の初老の男がやってくると、誰何した。
「便利屋ギルドから来ました、お屋敷の草むしり、御依頼されましたよね?」
男の丁寧な挨拶を聞いた老人は、1つ納得すると、門を開け、男を招き入れる。
『便利屋ギルドの方でしたか、早くの派遣ありがとうございます、早速、草むしりして欲しいのですが?』
「はい、もちろん、それで、どの範囲の除草すればいいのですか?」
『付いてきて下さい、案内しますから』
初老の男の後を付いていき、屋敷の裏手に行くと、芝生が広がる、裏庭に出る。そして、裏庭の奥に、伸び放題に伸びた、雑草で覆われた一角の前に着いた。
『ここら辺りの目に付く雑草をむしって下さい、お任せしても?』
「はい、分かりました、大丈夫ですよ」
ある種、形式通りの、やり取りの後、初老の男は、仕事を任せ、屋敷の中へと入っていった。
縦横、3m、9平米程だな。と、男は、除草する範囲の大きさを、大体の目算で算出すると、早速、腰を降ろし、また生えてこないように、丁寧に根っこから、雑草をむしり出した。
どれ程の時間が過ぎたのか、ゴールが、もうすぐのところまで、草をむしり終わった時、不意に背後から、男に声が掛けられた。
『貴方は、誰ですの?』
振り返ると、そこに、白いワンピースを着た、金髪で、縦にロールされた、少しつり目の女性が立っていた。
「便利屋ギルドから派遣されて、お屋敷の草むしりをしている者です」
男の答えに、どこか納得のいかない顔をした、縦ロールは。
『わたくしは、オタ侯爵令嬢の、アンナですわ』
『わたくしに、何の挨拶も無かったのは、いただけませんですわ』
この人、何怒ってるんだ?と言う顔で、金髪縦ロールを見ている男。
『ご理解なさってます?わたくしは、侯爵令嬢のアンナですわ!』
『この屋敷に、入るには、わたくしの、許可が必要なんですわ!』
『わたくし、貴方のような方が来る事をしらされてなかったですわ!』
『とにかく、わたくしが知らされてない方が、屋敷に居るのは問題ですわ!帰って出直してくださると、嬉しいですわ!』
《マスターの【精神的抑圧感】上昇、尚、現在【念話モード】》
最早、毎度おなじみの、お知らせがくる。
男は、むしっていた雑草を、地面に叩きつけた。
そして小さな声で、システム88に問い掛ける。
「おい……いや、もう確信してるが、この国に、オオザガとか、それに近い名前の都市あるだろ?独特の方言で喋る」
《独特の方言で話す都市名オオザガ、あります、尚、現在【念話モード】》
システム88の回答に、やはりなと思った男は。
「なんなんだ!お前は!侯爵令嬢?知るか!」
《マスターの【精神的抑圧感】上昇、尚、現在【念話モード】》
「こちとらなぁ!ギルド通した依頼で、来てんだ!ここにも無断で入った、そんな訳ねぇだろ!ちゃんと案内されて、ここで、草むしってんだよ!」
「大体よ!その、ですわ!って何だよ?」
「お前、この国の、侯爵の娘なら、オオザガって都市、知ってるよな?」
『そんなの、知ってて当たり前ですわ!』
侯爵令嬢の答えに、男は、更に続ける。
「その、都市に行った事あるか?その都市の人と話した事あるか?」
侯爵令嬢に話す話し方ではないが、男は止まらない。侯爵令嬢の方も、人生で初めて、平民に、そんな口調で言われて、ちょっとヒビってる。
『行った事も、その都市の領主の方と話した事もあるんですわ!』
《マスターの【精神的抑圧感】上昇、尚、現在【念話モード】》
「いいか!今から俺が言う事を、目を閉じて、頭の中に、思い浮かべろ!さっさと、目閉じろ!」
男の剣幕に、すっかりビビりきった、侯爵令嬢は、素直に、目を閉じる。
「ここは、そのオオザガだ、お前は今、オオザガの50才ぐらいの、オッサン同士の会話を、真横で聞いてる、想像したか?」
男の問いに、なんとか、想像出来た、侯爵令嬢は、首を激しく上下させる。
「いや~昨日は、あぶく銭が手にはいったんですわ!」
「ほ~ほ~、なんか良い事でも、あったんでっか?」
「それが!道あるいとったら、金貨が落ちとったんですわ!」
「そりゃ、また、ごっつい強運でしたな」
「神さんは、見てくれてはる~思ったんですわ!」
「それで?その金貨持って?」
「そうですわ!豪遊してきたんですわ!酒飲んで、綺麗な姉ちゃん横に、飲みまくったんですわ!」
「お前のその!ですわ!ってのは、アレか?オオザガのおっさんの話し方真似してんのか?貴族の令嬢が、オオザガのおっさんみたいに、ですわ!ですわ!言うか!!丁寧な話し方って思って、ですわ!ですわ!言ってるつもりだろうけどな!俺には、そのおっさんが話してるようにしか見えんわ!もっと、女性の話し方を勉強してこい!そんな口調で、チャットしたら、即、ネカマ認定されちまうわ!」
《マスターの【精神的抑圧感】急上昇、スキル【やり直し】発動、尚、現在【念話モード】》
システム88からの、最後通告を、頭に響かせ、男は、消える……
男の言葉通りに、想像してたら、確かに、オオザガの、おじ様達は、ですわ!ですわ!と話してた事を思い出し、今までの自分の、ですわ!ですわ!に、恥ずかしさを込み上げさせた、侯爵令嬢を残して……




