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初めて依頼~ギルド編~

 受付の女性から、カードを貰った男は、受付嬢と連れ立って、最初に行った、カウンターの席へと戻った。


 『なにか……大きな声が聞こえましたが、大丈夫でしたか?』


 クソ……可愛くて、髪の毛サラサラで、プルんプルんで……気遣いまで、出来るのか。受付嬢の印象を、うなぎ登りに良くする男は、この世界の文字を、読めるようにしてくれなかった、全ての者に、心の中で呪いの呪文を投げ掛けた。


 何故なら、制服なのだろうか?着ている服の、左プルんプルんに、名前が書いてあるであろう【名札】が、付いていたのだ。


 文字さえ読めれば、名前で呼べるのに……名札付いてるせいで、聞く事も出来ない……


 そんな男は、ふと自分に備わった、あるスキルの存在を思い出す。


 そう!男には【鑑定】スキルがあるのだ!


 受付嬢さんを、鑑定すれば、きっと名前も出てくるだろう。


 下心満載の男は、受付嬢さんの顔を、失礼に当たらない程度に、見つめると、心の声で大きく唱えた。


 「鑑定!」


 「………………」


 いつもなら、すぐに出てくる鑑定結果が、頭の中に浮かび上がらない。


 《マスター!エロマスター!むっつりマスター!お知らせします、鑑定ですが、人物を鑑定する場合、その人の目を見詰め、15分経過しないと、鑑定結果は出ませんよ、尚、現在【念話モード】》


 システム88からの、今さら過ぎる説明を、頭の中で聞いた男は。


 「ちょ…ちょっと失礼します、なんか緊張しちゃって……すみません、先にトイレ行ってきます……トイレどこですか?」


 そう、受付嬢さんに声を掛け、トイレの場所を、聞き出すと、駆け込むように、トイレの個室へと急ぐ。


 「おい、何だよ、その説明は、目を見続ける?15分?そんな、恋人同士でもなきゃ不可能な状況、どうやって作るんだよ」


 男から、システム88へ、もっともと言える、文句が返る。


 《人物の場合、無意識に、自分のプライベートを、知られたくないって心境が作用して、スキルに抵抗するんですよ、15分程掛ければ、スキルが侵食して鑑定出来るんですが……》


 システム88の説明を最後まで聞いていた男は、やっぱり、何か下らないオチがあったか……と思える顔をして、諦めたように、トイレから出てくる。


 すっかり目論見を潰された、ガッカリした顔で、トイレから席に戻った男に、受付嬢さんから、ギルドのシステムの説明、ギルドの規約等を聞いた男は、最後に、ギルド登録料の、銀貨1枚を受付嬢さんに渡す。


 《マスター!元気出して下さい、きっとその内、誰かが、あの受付嬢さんの名前を呼んでる場面に遭遇しますよ、尚、現在【念話モード】》


 システム88……本当に無駄に高性能である。


 『この後は、どうされますか?何か依頼を受けられます?』


 本来は、ギルドカードさえ、手に入れば、こんなギルドに用は無かった男だが、今は、ある崇高な目的が出来た為、なるべく、チャンスを増やす為にも、ギルドに関わって行こうと決めた。


 たかだか、可愛い、女の子の名前を知るためだけの事で、本当にご苦労様な事です。


 「そうですね、何か受けてみようかな……」


 男は、この受付嬢さんと、会話したい!それだけの理由で、依頼を受ける事を決める。


 『そうですね~初登録の、ケンゾーさんには……街中で出来る依頼の方がいいと思うので……』


 そう言って、手元の資料の束を、ペラペラとめくっていく受付嬢さん。


 『今ですと、引っ越しの手伝いに……庭の草むしり……この2つですかね』


 受付嬢さんが、男に合いそうな仕事を、ピックアップしてくれる。男は、選んでくれた仕事の内容を考え、引っ越しの手伝いは、力も体力も、人並みにしかない自分には、辛いと考え、庭の草むしりに決める。


 「草むしりの方で、お願いします」


 『それでは、この依頼票の写しを持って、依頼が完了したら、サイン貰ってきて下さいね』


 『場所は、貴族街1丁目東1の南1ですね』


 住所を聞いた男は、どこですか?そこ?って顔を、受付嬢さんに向ける。


 そんな男の顔に気付いた、受付嬢さんは、1枚の地図を取り出し、説明を始めた。


 『すみません、ケンゾーさん、この街に来たばかりでしたね、住所言われても分かりませんよね』


 気遣い出来る受付嬢さん、嫁にしたい!と、男は思った。


 『この都市ナコヤは、お城が街の一番南側に建ってます、お城の前を走る道が【城前通り】と呼び、ケンゾーさんも、ここに来るまでに通ったはずの、真ん中に公園のある大きな2本の通りを、お城から見て右を【西大通り】真ん中の公園を【中央公園】左の通りを【東大通り】って呼びます、ここまでは、分かりましたか?』


 受付嬢さんの説明に、理解を示す、首肯する。


 『お城から縦に伸びる道を、それぞれ、大通りから数えて、東1通り、東2通りといき、東4通りまであり、最後は、東外周通りになります、西の通りも、東と同じ数の通りがあり、最後は、西外周通りになります、横に伸びる道は、お城の前の、城前通りを1として、2通り、3通りと、こちらは、方角は付かずに、数だけで表します、この横の通りは、東外周通りから西外周通りまで、一直線に続いているので、東や西とは呼びません、そして、ケンゾーさんが通った門のある通りが、門前通りと呼びます』


 そう言いながら、地図に指を指し、通りの名前と、通りの位置を、男に教えていく、受付嬢。男は、キレイな指だなぁ……と思いながら、受付嬢の指す場所を、目線で追う。


 『横に伸びる、2通りまでの区画が、東も西も、貴族街と呼び、2通りから順に、住宅街、商店街、工場街、農業街と、区画に分かれてます、依頼の住所は……貴族街1丁目東1の南1ですので、東大通りから数えて1本目の東1道り、お城通り沿いの、この区画になります、分かりましたか?』


 「大変、分かりやすい説明でした」


 『それで、依頼人の名前が……オタ侯爵になってますので、ココになります』


 そう言うと、受付嬢さんは、住所の区画の中の、一際大きな敷地を、指差す。


 『あっこの地図、持っていっていいですよ、観光客用に、無料で配ってる地図ですから』


 受付嬢さんの、優しさに、すっかり出来上がった男は、依頼票と地図を持ち、ルンルン気分で、ギルドから出ていった。

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