やっと着いたよ~街編~ こんにちは守衛さん2
『あ~街に入るのか?街に入るなら、ギルド発行の証明書を見せてくれんか?』
そう男に声を掛けられ、守衛らしきオジサンさんに注目すると。岩のような顔の割りに、目は怖くはない。きっと、なんでこの岩みたいなオジサンと?とみんなが思うであろう程の、美人な奥さんが居て、可愛らしい娘さんが居るに違いない。などと、よくある設定に思い当たる。
「あ~すみません、ちょっとお聞きしますが……ギルド発行の証明書が無い場合は、街には入れないのでしょうか?」
男は、守衛らしきオジサンに聞くが、質問をしていると言うか、何かのマニュアルに則って、こう聞かれたら、こう答えるみたいな感じで聞くと。
『ん?お兄さん、どっから来たんだい?今時、ギルドの証明書を持たない人なんて居ないはずなんだが……』
男にしてみれば、そう言うのを分かりきっていた。と、得意のドヤ顔が飛び出すぐらい予想出来る質問をしてくる。
「じ……実は……ギルドの証明書は持っていたんですが、街に来る途中にある森に差し掛かったところで、盗賊に出くわしまして……」
1回目の時に、確かに、道の横に広がる森の途中で、盗賊達に出くわしている。
『あ~そりゃ災難だったな、盗賊達は、名前なんか名乗ってなかったか?名前が分かってりゃ、教えて欲しいんだが』
「えっと……私もビックリしてて、ハッキリ聞いた訳では無いんですが、確か……【漆黒の蒼翼】とか名乗ってたような……」
盗賊達の、こっ恥ずかしい名前を伝える。
『【漆黒の蒼翼】……なんだそりゃ?黒なのか蒼なのか、小1時間程、問い詰めたくなるような名前の盗賊だな』
どうやら、この世界の人全てが、バカなのではなく、やはり盗賊などと言う特殊な職種に従事する人特有の、疾患のようである。と男は、少し安心した。
『それで、被害金額は、いくらになるんだ?』
守衛らしきオジサンの質問で、どうやら、調書のような物を作成してくれるようだと推察した男は、男が日本に居た頃から所持していた、とある特殊スキルを、繰り出し、ベラベラと話し始めた。
「いや~前の街で、買い物するのに、小銭が無くて、金貨で支払ったのまでは良かったんですが……店側もですね、こんな小さな店での買い物に、金貨なんか使う人は居ない、お釣りが払えるか分からんと言われてしまいまして」
「それからが、また大変でしたよ……両隣の店で、両替したり、タンスの引き出しの中身を引っ張り出したりで……それで、なんとかお釣りは貰えたんですが、大量の銅貨が袋一杯に……それで、その銅貨で一杯になった袋を、盗賊達に差し出して、盗賊達が袋を漁ってるスキに、どうにかこうにか逃げ延びてですね……だけど、袋の中に、うっかり証明書を入れてたようで……」
これが男が異世界に来る前から所有していた数少ない特殊スキル【息をするかのように嘘を吐く】である。
《マスターの【精神的抑圧感】上昇、尚、現在【念話モード】にて通告》
さすがの男でも、異世界に来てから、初めて使うスキルの効果が、上手く発動するかの不安は、あったようで、多少のストレスを感じたようだ。
無駄に高性能なお知らせ機能により、少しの胃の痛みを感じながらも、顔をひきつらせ、さも上手い事、盗賊から逃げおおせたかのような顔で、守衛のオジサンに答える。
『そうか~そりゃ、お兄さん上手い事機転を効かせたなぁ』
守衛のオジサンは、男の言葉を、ハナから鵜呑みにして、感心した顔で、男に言う。
『銅貨ばかりとはいえ、被害は被害だ、一応被害届を、こちらで書いておくよ、それで、お兄さんの名前だけ聞いていいかな?』
「あっ……ケンゾーです、名前はケンゾー」
『ケンゾーさんね……了解……それで、証明書がない場合の処置なんだが……通行税として、銀貨5枚を貰う事になるんだが』
貨幣の価値を、まったく知らない男だが、カバンの中に銀貨が何枚か入っている事を、頭の中で確認すると。背中からカバンを下ろしカバンの中から、銀貨を5枚取り出し、掌に乗せて、守衛のオジサンに手を差し出す。
『2……と3と4と……5……』
守衛のオジサンは、男の掌に乗せられている銀貨を、自分の手の人差し指で、軽く弾くように、枚数を確認していく。
『はい、確かに銀貨5枚、預かりました、じゃあコレね』
守衛のオジサンが、男が差し出した銀貨を受け取ると、代わりに、男に何か木で出来た札のような物を渡す。
男が、なんすか?この小汚ない木の札は?と今にも言いたそうな顔をしていると。
『街のギルドで証明書を再発行してもらったら、この札をここに持ってきてよ、そうしたら、銀貨5枚返却するから』
守衛のオジサンの言葉を聞いて、男は突然、体の横に沿わしていた、両方の手に固く握り絞めた拳を作ると、力を込めすぎているのか、少しプルプルと震え出す。
「なんなんだ……お前らは……」
男は、守衛のオジサンには、聞き取れない、小さな声でそう言うと。
《マスターの【精神的抑圧感】急上昇、尚、現在【念話モード】にて通告》
システム88から、ストレス急上昇の警告が走る。
この時点で、本来であれば、苦痛で立つのも困難な程の胃痛に見舞われるはずなのだが、例によって、男の脳内から分泌されるアドレナリンに邪魔をされる。
男は尚も続ける、熱い怒りを胸に抱いて、胃痛とアドレナリンの熱い攻防を、その身に宿して、蚊の無くような小さな声で……
「なんなんだって聞いてんだよ……なんで……せっかく徴収した、税金をあっさり返すんだよ……」
《マスターの【精神的抑圧感】上昇、尚、現在【念話モード】にて通告》
「この国が、王制なのか、民主制なのかは知らねぇが……国民から税金貰って、国の運営してんだろ?……国の金が増えるチャンスなのに、バカ正直に、返却しますだと?」
「なんで毎回……毎回……異世界の門番は……税金をホイホイ返すんだよ……」
《マスター!マスター!落ち着いて下さい!深呼吸深呼吸!このままだと、また戻っちゃいますよ、尚、現在【念話モード】にて会話中》
フォローも出来る、高性能システムの名に恥じぬ、システム88からの警告。少し最後の方が、無駄と言えば無駄なのだが、作った光の人型や、その上の【駄目神】を思えば、許容範囲である。
「ふぅ……ふぅ……深呼吸……吸って~吐いて~深~く吸って~大きく吐く~」
男は、システム88の警告により、我を取り戻すと、深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着ける。
『お……おい、お前……大丈夫か?なんかプルプル震えてブツブツ言ってたけど、なんか持病の発作でも出たのか?治療院に連れてってやろうか?』
守衛のオジサンから掛かる、暖かい言葉。
「いえ……大丈夫です……それで、街に入っていいですよね?」
その言葉を残して男は、待ちへの門をくぐる。まだ残っている胃痛に顔を歪めながら……
守衛のオジサンの、可哀想な人を見るかのような生暖かい視線を残して……




