確認作業終了
すっかり不貞腐れてしまった男は、残りのステータスの確認もせずに、その場にドカりと腰を降ろす。背負っていたカバンを背中から降ろすと、カバンの中身を漁り出す。カバンの中から、携帯食料と燻製肉をそれぞれ1つずつ取り出すと、一心不乱に貪り付く。そう男は所謂【ヤケ食い】モードへと移行したのだ。
黄色の箱に入っている、日本ではお馴染みのアレによく似た、携帯食料。1口かぶり付くと、味を噛みしめる。
アレとは違い風味はないが、甘味は強く、男の味覚は美味しさを感じた。美味しいのだが、アレと同じで、口の中の水分を急速に奪っていく。男は、カバンから水筒を取りだし、水筒の中身を流し込む。
口の中に水分を補充させた男は、次に燻製肉に取りかかった。口へと近付けると、桜のチップで燻製したのだろうか、ほのかな良い薫りが、男の鼻孔をくすぐる。
「塩気の少し足りない、ビーフジャーキーって感じだな……」
燻製肉の味の感想を言い、残った肉をかじる。
携帯食料と燻製肉を食べ終えた男は、満腹感を味わいながら、腹がくちるのを、のんびり景色を眺め待つ。30分ほど経ったであろうか、男は、自分の膝をパシンと1つ叩くと、残ったステータスの確認作業を再開する。
「システム88、これは【現実】なんだよな、やっとちゃんと理解した、残りのステータスの説明も頼む」
男は、潔い男らしいセリフを吐くと、表示されたままの自分のステータスを見る。
【固有スキル】
意思疏通
ウィルス耐性LV.Max
病原菌耐性LV.Max
やり直し (new)
【保持スキル】
鑑定LV.Max
「それで、意思疏通ってスキルは、この世界の人達と不自由無く話が出来るってスキルで合ってるのか?」
《合っています》
「ウィルス耐性と病原菌耐性ってのも、言葉の意味通り?」
《はい、その通りです、マスターの体は、この世界に存在する、ありとあらゆるウィルスや病原菌に対して完璧な耐性を持っています》
《ゴブリンが、川に向け排尿しているすぐ横の川の水を飲んでも、病気にならないレベルです》
もっと上手い例えはないのか……と思いつつ、この世界でも変わらずゴブリンの低い身分位置に、軽い同情も覚える。
「それで……新しく覚えた、やり直しなんだが……これはアレか?所謂、死に戻りってやつか?」
男がよく見ていた、ネット小説投稿サイトで、ものすごく有名で書籍化もされ、アニメにすらなった、某作品の主人公と同じ能力だと、喜んだ。
《違います、スキル:やり直しに付いて詳細を提示します》
《マスターのステータス欄にある、精神的抑圧感が、ある一定の数値を越えた瞬間に、強制的に転生直後の状態まで、引き戻されます》
「……何……そのスキル……」
これは、いよいよ遊ばれてるなと、確信に近いものを男は感じる。
「そ……それで、その一定の数値ってのは、いくつなんだ?」
《数値が100を越えた時点で発動されます》
システム88の説明を聞き、1つの疑問が湧いた。
「待て!スキルがある事は、納得出来ないが納得する、しかし……ストレスを感じるような場面に遭遇した時に、いちいちステータスを見て、確認は出来ないぞ」
《ご安心下さい、その点についてもフォローされております》
《マスターがストレスを感じ出すと、胃の粘膜を減らし、胃酸の分泌を促すように、自律神経に働きかけます》
「それは……すなわち……」
《はい、数値が10の単位で増える毎に、マスターは胃痛にみまわれます》
何とも……言い難いフォロー内容に愕然とする。
とんでもない、地雷を貰ってしまった事を、男は悔やんでも悔やみきれない。
《マスターに進言します、この場所に留まって、かれこれ2時間程経過しています、そろそろ移動されませんと、モンスター等に襲われる可能性が高くなります》
所詮はシステム、人の機微を考慮してくれる事もなく、この世の終わりが来たかのように、呆然と佇む男に、そう声をかける。男は、思考をしているのか怪しい様子ではあるが、システム88の言葉に従い、カバンを背負い直すと、目的地である、建造物に向け、歩みをはじめる。
非常にグダグタした、確認作業を終え、やっと街へと向かいます。
このあと、閑話を1話挟み、物語は本来書きたかった核心へ。
鑑定スキルに付いては、閑話の中で確認します。




