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序章1話

 「はぁ、またかよ……」

6畳の洋室の角に置いてあるベッドの上から、愚痴のようなため息が聞こえた。


 ため息を吐いたのは、今年成人になったばかりの、極々普通の男。並と言えるレベルの県立高校から、並と言えるレベルの大学に通っている。

 容姿も、中肉中背で特に酷くも無く良くも無い。趣味も極々ありふれた趣味を持ち、極々普通に休みの日には、彼女を伴って出掛けたりしている。


 そんな普通の男は、いつもの様にスマホからネットに繋ぎ、特にアテも無く、色々なサイトや個人のブログ等を見て、いつもの様に暇潰しをしていた。そんな男の最近の暇潰しは、素人が書いた小説を無料で読める【小説投稿サイト】であった。


 最初は、所詮は素人が、自己満足の為に書いてる物だと思っていたが、色んなジャンルの投稿小説を読むにつれて、すっかりハマっていってしまった。


 「おっ新着のレビュー出てるじゃんか」


 男の目に止まったのは、所謂【異世界】に転移や転生する、このサイトでは、王道とも言えるファンタジー作品だった。


 「へー神様の手違いで事故に巻き込まれ、異世界に転移か」

 「王道、王道」

 「さてさて、この物語は、チートはあるのかな?武力チートかな?魔法チート?それとも知識チートかな?」


 男は、テンプレと言われるような、出尽くした設定の物語が特に好きで、この手の物語を手当たり次第に読み耽っていた。


 読み進めて数十分。ワクワクしたような、少し笑みのこぼれる顔から、一気に表情が消えていく。


 「はぁ、またかよ……」


 そう一言つぶやいたと思ったら、おもむろにスマホの画面を、ブラックアウトさせる。

 男は、王道と言われるテンプレ異世界モノが大好きではあったが、どうしても許せない事が1点だけ存在した。


 この手の物語の舞台になる、異世界の知的水準が、必ずと言っても差し支え無い程、低く書かれている事が許せなかった。

 物語を面白くする為に必要な事なのかも知れないが、男の考える異文化世界は、地球よりも科学が発展していなくても、科学の変わりに魔法が発展していて、地球に比べて【歪な世界】に見えたとしても、そこに生きる人達が、地球に住む人達より、知的水準が低い訳が無いと思っていた。


 王道テンプレ異世界モノが好きなくせに、その1点だけは、受け入れられず、あまりにも目に余る作品に出会うと、一気に気持ちが覚めてしまう男であった。


 「はぁ……」

 「あらすじはモロ好みだったんだがなぁ」


 男は、期待していた分だけガッカリとした顔で、寝転んでいたベッドから上半身を起こした。


 「そろそろ、メシでも食うとするか、冷蔵庫に何かあったかな?」


 ベッドから降りた男は、大学に通うのに便利だと、入学と同時に借りた一人暮らしの部屋を、小さなキッチンへと向かい足を動かした。

 冷蔵庫の冷凍室の扉を開け、冷凍して保存しておいた、ご飯を手に取りレンジに向かおうと、体を向け歩き出した時に【丸型の自動でお掃除する】例のアレに足をぶつけた。

 例のアレを、またごうとした時、バランスを崩し、そのままフローリングの床に後頭部を、したたか打ち付けた。


 (イテ……まったくツイてない)


 小さく舌打ちをして、上体を起こそうとした時に、転んだ拍子に投げ出したカチカチに固まった冷凍ご飯が、男の額へと降ってきた。


 ゴン


 普通有り得ない音と共に、男の意識もブラックアウトしていく……

 普通の家庭に生まれ、普通に生きてきた男は、普通では有り得ない事で、短い人生の幕を降ろしてしまった。

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