第五話 俺、カルボナーラ食べられへんねん
周平の言葉をおうむ返しする。「手伝ったるわ……?」
「あ、なんや? 言葉遣いが悪かったか? もっと丁寧に言おか?」
「あ、いや」ゆいは慌てて手を振る。「そう言うわけでは無いです」
ゆいは目の前にあったカルピスソーダを飲んだ。それを見た周平はつられて、残りのコーラを飲み干した。氷がぶつかり合う音がコップの中で響いている。
前に座るゆいを見る。どこか戸惑っている様子だった。
「別に、俺はゆいが困ってるから、ただ、助けたいだけで、そやからな……いやらしいことしたろ、とかは考えてへんでな?」
最後の部分だけ、小声で言った。それはむしろ、怪しさを増幅させる。
少し前に考えていたことをずばりと言われ、ゆいは肩を震わせた。それを見た周平は、「だから、そんなことせぇへんて。言っとくがな、俺、女には困ってへんねん」と言った。彼的にはフォローを入れたつもりなのだろうが、ゆいからすれば周平がセフレをたくさん持っているのかと考えられ、むしろ退いてしまう。突っ込みたいところだが、こんなところで口にするわけにはいかないので、止めておく。
そんなこと一切気づいていない周平は続ける。「だから俺は、ただ純粋に、ゆいの手伝いがしたいねん。困ってる奴を助けるんは人間の鉄則やろ?」
「知りませんよ」
「鉄則なんや、口挟むなや」
眉間に皺を寄せている。不良としての雰囲気は増すが、だいぶ慣れてきた。
「いいか、ゆい? 貰える優しさは、貰っとくもんなんや。俺があげたくてあげとんやからな」
その言葉に、心が曇った。その言い方ではまるで、ゆいが周平の手を借りない、と言うこと前提であるかのようだったからである。まだ何も言っていないのに言われて、ゆいは少し頬を膨らました。
「別にまだ、手伝わなくて良いです、とは言っていないじゃないですか」
「俺にはもう分かっとる。お前、絶対断るやろ」
「はい、断ります」
「やろうな」
周平はソファにもたれる。コップを持って、コーラが無いことに気づいた周平は、ドリンクバーへ向かった。
彼の背中を見つめる。ゆいとしては、手伝ってくれるというのならば、是非とも手伝って貰いたい。土地勘がある方が捜しやすくなるのは当然だ。だがゆいは、ここへ来る前、誰の手も借りずにサユリを探すと決めていた。それを真っ先に破ろうものなら、どれだけ決意が弱いのか、と思われてしまう。
周平の言葉は嬉しいが、断るしかない。
戻ってきた周平に、ゆいは早速伝える。
「周平さん、ありがたいんですけど、断らせていただきます」
「なんやねん、あんたしつこいなぁ」
「周平さん程じゃ無いです」
早速コーラを飲み、また半分まで減った。それだけジュースを飲んで、注文したものを食べきることは出来るのだろうか。
「じゃあ何や? また取り引きしたら、手伝わしてくれるんか?」
そう言われ、ゆいは顔をしかめた。「……そうはならないと思います。サユリを捜すのは、誰にも手を借りずに探すと決めましたから」
「可笑しな決意やなぁ。はよ見つけたいんやったら、助けてもらった方がええやろ?」
「そうですけど。もしかしたらサユリは警察署の方が言っていた通り、通信機具が故障して連絡がとれないだけで、元気にしているかもしれません。自分勝手で捜しに来た私が、手を借りるわけにはいかないので」
その時、周平が注文したハンバーグセットとカルボナーラが届いた。店員が去った後、ゆいは立ち上がり、「じゃあ、失礼します」と言った。
もう彼と関わることはないだろう、そう思った。
「――俺、カルボナーラ食べられへんねん」
その言葉に一度は足を止めたものの、振り返ることなくファミレスを出た。恐ろしかった、まるで、自分が立ち去ることを見越した上で、二つも頼んでいたことに気づいたときは。
周平はため息を付く。
「ったく、素直じゃない女やなぁ」