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第十六話 誰しも長所や短所はあります

 大きな恒星が空から見下ろす今日は、今年一番の暑さになるらしい。だが、例え今日が晴れであっても雨であっても雪であっても、ゆいがキャップを被らないわけがない。珍しく、隣を歩く周平が帽子を被っているが、夏実の物なのだろうか、少し可愛らしいマリン帽だ。周平の顔つきと体格には似合わないが、何も言わないでおく。


「俺が復活したんやし、まずはどこ捜しましょ?」


 安静をとって数日後、二日酔いだったとは思えないほどに復活している。しばらくは酒を飲まないと言っていたが、周平のしばらく(・・・・)がどれほどの期間か分からない故、油断は出来なさそうだ。


 捜すところと言っても、毎日同じところを捜すばかりで、今日はどこどこにあるなになにを探そう、という予定は皆無だ。行き当たりばったりで、適当に辿り着いたところを見て回る。だから、ゆいは周平の質問にうまく答えられずにいた。


「……別に、はい、何処でも良いです」

「何や、何処でもって。はっきり言わん女は好かんで」

「好かれなくて結構です」


 ゆいの相変わらずの態度に、周平は慣れてきた。こういう言葉を言えば、またあの態度をとるんだろうな、と勘づくことが出来る。まだ出会って一週間弱だが、ゆいの考えが読めるようになってきた。


「何や、そんな冷たいこと言うなよ。捜したっとんやから」

 そう言って、ゆいの背中を叩く。

「捜したっとんではなく、捜させてもらっている、ということを忘れないでください」

「おお、そうやったそうやった。捜させてもらっているんでしたね」


 敬語で話す周平に新鮮味を感じたが、やはりタメ口の方が似合っている気がする。もしゆいが年上だったら、周平は敬語を使っていただろうか。


「この間はアパートを見て回りました。サユリがどこかに住んでいるかと思って」

「まあ、ここにおるんやったらそうやろなぁ」


 とはいって、捜したのは極一部で前回捜した範囲で見つからないだろうということは分かっている。


「思うんやけどな、サユリの実家に電話して、住所聞いたらええんとちゃうの? その方が効率ええやろ」


 少し口ごもらせたゆいは、ぼそぼそと何かを言ったようだが、周平には聞き取れなかった。

「あ?」

「いえ」ゆいは向き直すと、「私からサユリの両親に電話することはできません」


「何でや、サユリと連絡がとれへんって、その親が言うたんやろ? やったら、どっかからその情報が入ってくるやろ」

「母親が電話しているところを盗み聞きしたんです。何故か、私がサユリと連絡するのを嫌がるようで、電話も一切代わってくれません」


「怪しすぎるやろ、それ。小さい頃からか?」

「小さい頃は電話していることに気付かなかったので分かりません。けど、もしかしたらその時から関わるのを拒んだかもしれません」


 幼い頃の友人は、子供にとっては大切な存在であることが多い。引っ越したからと言ってもう関わらせないというのは、何とも薄情だ。もし何かあるとすれば、その引っ越し自体に意味がありそうだ。


「電話に代わってくれんって初めて知ったんは何時(いつ)や?」

「まだ最近です。サユリと連絡がとれないって話をしているときなので」

「ほんまに最近やなぁ」


 周平は腕を組み、右手を顎に当てて、まるで探偵のようにして悩んでいる。探偵でもそんなことはしないかもしれない。


 これは、決して探偵ごっこではない。本当に、サユリを捜しているのだ。周平の姿を見てゆいは、じわじわと焦燥で満たされているのを感じていた。そんな風に考えて答えが出るのなら、はじめからそうしている、私がしているのは人捜しだが、周平がしているのは探偵ごっこではないのか。


 次第にそれが体にあらわれてきた。悩む周平をよそに、ゆいは足を早める。


「とりあえず、どこか建物内に入りましょう。どの季節でも、太陽は人間の天敵です」


 その言葉は、足を早めた理由を誤魔化した他ない。そんなことに気付かない周平は短めの返事をして、ゆいの隣を歩く。


「でもゆい、太陽のおかげで俺らは明るい空の下で暮らせてるんやで?」

「誰しも長所や短所はあります」

「納得したわ」

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