ステイアウェイ トウ ヘヴン
1
「何をしているのですか」
旅人は言った。老人は答えた。
「空を見ているんです」
旅人は言われて首を持ち上げた。曇って面白みのない空がそこにある。もう雨の降りそうなどんより思い雲以外に何もない。
「昨日も一昨日もこれを」
旅人も老人も、同じものを見ていた。
「ええ。今日と同じ空をいつも見ています」
旅人は少し老人を疑った。こんなにもつまらないものに時間をかけるなど、栓のないことだと思っていた。それに、晴れない空などあるはずがない。
「どこに風情でもあるのですか」
旅人は言った。
「そんなもの、ありはしませんよ。私は天使達の隙を伺っているのです」
老人は答えた。
2
「何をしているのですか」
旅人は言った。女性は答えた。
「雲の切れ間を見ているのです」
「しかし、貴方は泉をみているではないですか」
町の噴水に映る女性は、顔もなく言葉にした。
「私には、直接見るには堪えられないのです」
たしかに、水面にはあの空がある。だが旅人は未だ理解できなかった。なぜ空を。
「天使達は見えますか」
「顔も伺えます。ですが、彼らは私に気付くことはないでしょう」
女性は答えた。
3
旅人は再び老人を訪ねた。老人はやはり空を見ていた。
「天使達に会いに行かないのですか」
旅人は言った。老人は答えた。
「私達には会う資格も権利もありません。この悪魔の翼は彼らとは対等ではないのですから」
老人は続けた。
「幾ら大金を積もうと、紙のように吸い取られてしまう。黄金では天国への階段にはならないのですよ。では、どうすればよいと思います」
旅人は少し首を傾ける。
どうすればいい。漠然とした答すら出ず、考えれば考えるほどわからなくなっていく。
「私には難しいようです。ですが、興味が沸きました」
旅人は空を見つめ、その一点を見つめた。
「私自身で確かめます。天国へ行ってみようと思うのです」
4
旅人は今頃天国へたどり着いている頃。きっと気付いただろう。私達と、天使達に。確かにヒトには変わりないだろう。形も変わらないだろう。だが彼らの目は私達の魂を染め上げて映し、その色の違いに天使達と私達を隔てたのだ。
魂は無色だ。命とは無色だ。目に見えるものを信じてはいけない。天使達もきっといつかそれに気付くだろう。だが、旅人。君が絶望するであろうこの空は、鉄でできているのだ。錆びない銀は美しかろう。それほどに完璧な鋼鉄なのだ。
リハビリ作品、テーマは差別。批評指摘どしどし送ってください。
…半年近く掲載してなくてごめんなさい。気付いたら作者はc、作品はnまでいってるのねん。びっくりだぜー。