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永夏の町  作者: 柚茶菓子
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『永の夏』

 さて、いつになるだろう。自分が小さな頃はこの町の雪景色に感動していた、そう記憶している。

 まだ小難しいことはわからなかった当時は、ただ綺麗という印象しかなかったが、学を修め、社会に出てからというもの、いかにこの雪景色が観光資源として役に立っていたのかわかる。

 二十代になってからだろうか、馴染みとなっていた景色に少しずつ違和感を感じ始めたのは。

 地方のテレビ番組では温暖化の影響がどうのと方言混じりの言葉で報道されていたが、それも数ヶ月の話。

 段々と、確実に、降雪量が減っている。一年、二年では終わらないから問題になっている。

 そう、この町だけが。


「今年も夏か」


 誰に言うでもなく、呟く。

 年が明けて、思うことは毎年同じになりつつある。

 それは違和感などではなく、もはや異常なほど、夏だった。

 残暑が一年中ずっと続いているような感覚、もう四季なんて概念もなくなりつつある。

 炬燵に身を寄せ合うこの時期でさえ、扇風機の羽を回さざるを得ない。


「さて、行こう」


 小さな戸棚にしまい込んでいた、上井直也(かみい なおや)と書かれたネームプレートを取り出し、玄関へと向かう。

 勤めている役所で顔代わりになるネームプレート。

 なぜ選んだのかは自分でもわからないが、役所に就職した。

 お堅い印象しかないこの仕事に、俺みたいな人間がこうも長く勤め続けていることに驚きだが、天職なんだなとは感じている。

 そのうえ、観光課なんてとこに所属しているもんだから、雪景色を無くしたこの町の新たな観光資源を探すことになっている。


「まったく、そもそも他に目玉になるようなものがないから今困っているんだろうに」


 誰もがそれを理解している、愚痴を言ったところでどうにもならないことも。

 気象の専門家や、原因を突き止めようしている学者連中に聞いても、わからないの返答のみ。

 オカルトなんか信じない連中が真面目に調査しているんだ、本当にわからないんだろう。

 俺自身、そういったことに詳しいわけでも、少しかじった程度の知識さえもない。

 観光資源もない、この謎を解明できる連中も現れそうにない。


「だからって、俺個人でも調べろなんていう上司の頭はおかしいと思うがな」


 数日前から、個人でこの事象について調べ始めた。というよりは、強制的に調べさせられているといったほうが正しいかもしれない。

 調べるといっても、難しいことは専門家に全部任せていればいい。

 俺はそれ以外の部分で、この事象について少しでもアプローチしていかなければならない。


「こっちのほうが難しいだろ、どう考えても。専門家連中にできることはそっちに任せるなら、俺はどうしろっていうんだよ」


 こんなもの、独り言が多くなっても文句はないだろう。


「はあ、文句ばっか言ったところでどうにもならんしな」


 履き古した靴の紐をきつく結び、最低限の身なりを整え、また終わりの見えない調査へと向かうのだ。

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