4.征空セヨ
さて、発動機が冷めたら点火プラグを確認してカウルを閉じれば終わりだ。
弾薬装填は始動前でもできるが。
今は機体に付いた油を拭いている。
まあ。終わったら手を休めて昼の休憩に入っても良いか?
飛行場のサイレンが鳴る。
「うん?何だ?コレ。昼の終わりか?」
「あ、いえ。コレは空襲警報ですね。」
元水兵だった整備員が呟く。
「空襲って。」
「「廻せー!!」」
建物から飛び出してくる。兵隊さんたち。
ラッパも鳴っている。
「オイ!コノ機体はどうなってる!?」
鬼の形相のG軍曹が詰め寄る。
「燃料満タンで演習用弾は未だ搭載していません。エンジンカウルは外して在りますが未だ点火プラグ点検は終わってません。」
「よし!!弾持ってこい!!14番だけ点火プラグを確認しろ。カウルを取り付けろ!!出撃する。」
弾かれた様に動き出す整備員、海軍や陸軍出身の者が多いのもウチの会社の特徴だ。
装填した弾倉から演習弾を取り出し空の木箱につめる兵隊。
木箱を二人で持って走ってくる兵隊。
「だんやーく!!7.7粍と20粍弾だ実弾だ!!」
「こっちだ!!早く!!」
「プラグ点検完了。異常なし、カウル取り付け完了。」
「よし。ハシゴそのまま7.7粍込めろ。あせるな落ち着いて早くだ!!クランク用意しろ。」
「飛べるか?G軍曹、M少尉はもうスグでる!!」
ズレた飛行帽を被りS上等飛行兵曹が走ってきた。
指差す先は午後用の予備機である九六式の発動機が回っている。
「コレからエンジン始動です。エンジンは未だ暖かいです。油温が上がれば飛べますが未だ弾薬の用意ができません。」
「急げ!!コイツで出る。」
操縦席に飛び乗るS上等飛行兵曹。
合図を受けて手でプロペラをゆっくり廻す。
「7.7粍装填完了!!」
「下がれ、エナーシャーを廻す!」
クランクを片手に機体に飛びつくG軍曹。
エナーシャー唸りを上げる。
合図を受けて叫ぶ兵。
「コンターック!!」
プロペラが回り始め咳き込みながら回転が安定する。
未だ暖かい発動機はスグに始動した。
確認した軍曹は機体の後ろに回りクランクを胴体に収納する。
発動機音は問題無さそうだ。
「油温上がってきた!!弾薬!!まだか!!」
詰め終わった弾倉を持って兵隊が走る。
同時にフラップテストを行なっているS上等飛行兵曹。
主翼の左右に取り付いた兵が二人ずつ。
弾倉が付けられハッチを閉めて確認のサインがでる。
M少尉の九六式は今、飛び立った所だった。
「よし!出るぞ!」
兵の誘導で滑走路に進んだ”ハチクマ”はそのまま
青い空に消えていった。
最後の戦闘機が飛び立つと基地はまるでウソの様に静かになった。
「G軍曹なにが起きたんですか?」
声を下げて話す軍曹。
「帝都が爆撃されてその敵機が西に向かっているらしい。」
「え?そんな。バカな。」
「声が大きい。未だ被害も解からん。めったなコトは話すな。」
「は、はい。」
「我々は飛行機を信じて待つだけだ。」
無線車が出てきて飛行機と交信している様子だ。
自然に兵が集まって行く。
「木村さん。格納庫で待ちましょう。」
「はい。そうですね。」
元兵隊の社員に促されて格納庫で何もしない仕事をする。
「木村さん吸いますか?」
煙草を勧められたがボクは吸わないので断る。
「いえ。遠慮します。」
「ははは、軍隊入ると待つのも仕事なんですよ。で、つい煙草を吸うクセが付くんです。こんな時は何もすることは無いんです、信じて待つしかね。私も慣れるまで随分時間が掛りました。」
「そうですか…。信じて待つ。」
ボクは自分の作った飛行機でさえ自信が無いのに、信じて待つか…。
その後二時間ほどでバラバラと九六式戦が戻ってきた。
少数破損しているものも有る。
敵と遭遇したのか?
基地の中は一転して騒がしくなっている。
しかし、”ハチクマ”に割り当てられた格納庫の一角は静かなモノだ。
段々と焦りが募る。
全開運転ならそろそろ燃料が尽きる頃だ。
どんなに頑張っても日没まで燃料は持たない。
日没は六時半頃だ。
自然と無線車から呼びかける電鍵と15分後の沈黙時間には緊張感か走る。
機体が納まり。
情報が集まってくる。
「名古屋城近辺で爆弾が落ちたらしい。」
「神戸でも来襲が有ったという話だ。」
「帝都で小学校が爆撃され死者が出たらしい。」
皆、怒りを顕にしている。
しかし、日が落ち始め太陽を見るしかない。
我々は、滑走路の彼方を見つめオレンジの機体を探す作業に没頭している。
夕日が地に着き始めた。
基地司令から未帰還機”K崎航空機試験機ハチクマ”の宣言を受けた。
「待ってください。まだ、ウチの機体は!!」
「もちろんだ。S上等飛行兵曹は大陸で未帰還になっても歩いて基地に帰った猛者だ、死んだとは思ってない。」
「もう少し待ってください。滑走路に灯りが付けば帰ってきます。」
「確かにそうしたいが。未だ敵機の概要がわからない状態で滑走路を曝すワケには行かない…。(コンコン)オイ何だ?」
ダァーをノックする音に抗議が中断される。
「ハッ、S上等飛行兵曹より電報が有り。”我、陸軍飛行場明野ニ緊急着陸セリ機体異常ナシ”だそうです。」
「良かった。」
「ファッ!!陸の厄介になるとはどういうコトだ!!」
激怒する基地指令を余所に、部屋を出た。
良かった。機体と搭乗員は無事だ。
使える飛行機を作ったんだ。
と、その時は思ったんだけど。
納品が終わって会社に戻って、随分と経った後。
そうだね…。その年の寒くなって来た頃に、専務に呼ばれてねえ。
その時は陸軍のキー96の作業をしていたんだけど。
海軍サンの手紙に”不採用”の文字だけだったんだ。
怒られると思ったんだけど。
「お金は貰えたから問題ない。海軍サンの顔も繋げたし機体の評判も概ね良かったよ。」
専務は何も言わなかったけど今から思うと”ほっ”としていたんじゃないかね?
その時工場はキ-61、三式戦の生産で大忙しだったからねえ。
それからのキ-60改”ハチクマ”がどうなったかは聞いてないねえ。
ただ、会社では昭和20年の初空襲から自主防空隊ができるんだけど。
その時の迎撃に出た社員のパイロットの話で。
「海軍サンがキ-100使っている。」
ってきいて、”ハチクマ”だと思ったんだ。
そのまま終戦で、会社もどうなるか解からない。
自宅で悶々としていたら、中等工業学校時代の恩師が教師を探しているって聞いて応募したんだ。
その後は教師の仕事を定年までやったんだが。
当時は公務員の定年が早くてね、教え子の会社にお世話になったんだ。
開閉弁の会社でねえ、イイ製品を作ってたんだ。
あの時、コレが有ったら苦労しなかっただろうと何度も思ったよ。
あの頃とは全然品質がちがうからねえ。
教え子には散々言ったんだ。
”ボクは飛行機の設計してきたから絶対に飛行機には乗らない。”って。
設計者が自信を持つことは難しいんだ。
だって、自分でも解からないコトが起きるのが世の中なんだから…。
(´・ω・`)
さて。”ドーリットル隊の迎撃に五式戦を出したい”
と言う話だけで作ったエセ戦記です。
キ-61が完成してないのに五式戦は…。
はっ、キ-60が有るやん!!コイツを空冷に…。
アカン!愛知飛行機に航空隊が居ない。
でも。1941年には飛行場が完成しとる、イケるやろ!!(ご都合主義)
(´・ω・`)主人公、木村(仮)にはモデルが居ますが。
(´;ω;`)本人に了承を取っていない。(故人)なのでスルーしてください。
木村勇一
○○中等工業学校入学
名古屋高等工業学校 1938年機械科入学
1939年4月航空工学科編入。
1941年4月K崎航空機製造所入社 そはら工場に勤務
K崎キ-60改(海軍向け:はちくま)
全長:8.30m
全高:2.75m
全幅:9.79m
主翼面積:16.21㎡
自重: 1,950kg
全備重量:2,680kg
エンジン:ミツビソ ハ-102 出力 1,055hp
最大速度:590 km/h(高度5,800m)
実用上昇限度:10,000m
武装:7.7粍機関銃2門(機首) 20粍機関砲2門(主翼)
最後に”ハチクマ戦記”を書きたいのでこのまま未完にしたいと思います。
S上等飛行兵曹がナゴヤ上空でB-25を追い掛け伊勢湾で死闘を繰り広げ。
最後、明野に着陸するまでの話ですが。
上手く書くコトが出来ればコッソリ完結します。