3.ハチクマ
昨夜の雨は早く上がり。
今朝は比較的暖かいココ、二、三日は北風が強かったり夕方雨がパラついたりしていたが天気予報では朝は北の風快晴、今夜は南の風晴れと言う話だ。
機体の点検に余念が無い。
整備兵の方も参加している。
特に整備のG軍曹は社員を捕まえ質問攻めにしている様子だ。
仕事熱心と言うワケでは無く単純に飛行機が好きで好奇心で集まっている様な印象を受ける。
新型機と言うだけで。
地上試験での射撃の調整を終える。
立ち会った整備兵達は。
「何で主翼の下にサンマをぶら下げているのか?と思ったがコリャやり易い。手も入るし。調整も弾倉交換も楽だ。」
「エンジンカウルも簡単に外せる。プラグも触り易い。上手くやればエンジン下ろさずにシリンダヘッドを外して弁の交換ができるかもしれん。」
「キャノピーにオイルが付き難いのも良い。キャノピーの雑巾掛けは気を使うからなあ。その分主翼付け根がオイルだらけになるが。」
何故か整備兵には大人気であった。
橙色の複葉機が飛び立つ。標的の吹流しを牽引する標的兼判定官の飛行機だ。
少し置いて他の九六式戦も飛んでいく。
S上等飛行兵曹が搭乗して準備をしている。
「俺たちは最後だ。まあ、速いから追いつくだろう。」
「S上飛曹、海に落ちないでくださいよ。一台だけなんですからね。」
M少尉が茶化している。
「大丈夫ですよ。M少尉どの。ちゃんとお返しします。クセを後で教えますから次は大福をおねがいしますね。」
「ああ、わかった。飯までには戻ってきてくれ。」
「では征ってまいります。」
笑顔で敬礼の後。車止めが外され”ハチクマ”が進む。
帽子を振る整備兵の中、オレンジ色の機体は青空に吸い込まれて行った。
最後の機体を見送るとやる事が無い。
整備兵達は格納庫内の零式の整備に掛っている。
発動機を下ろすそうだ。
昼頃のに帰還。交代してM少尉が飛ぶ。
昼から大騒ぎだ、ソレまでに準備を整え速い食事を取る。
帰還を待つと遠くに黒い点が見えた。
すぐにオレンジの機体だと解かる。
やっと来たか。もうすぐ11時だコレから急いで整備して14:00の飛行予定に間に合わせなければならない。
「オイルと燃料を用意。」
駐機場に戻る”ハチクマ”外見上の異常は無い。
「や~。遅い遅い。赤とんぼが止まって見える。機体の上下が安定しないし。20粍撃つと弾が暴れる暴れる。別の意味でイライラする。撃ち終わったらエンジン不調と言って先に帰って来た。」
S上等飛行兵曹より”ハチクマ”を預かり点検に入る。
と言ってもあまり点検する場所は無い。
オイルを確認して足す燃料を入れる。主翼タンクが空だったが胴体タンクは殆ど使ってなかった。
カウルはもう既に外してある、発動機が冷えたら点火プラグを確認しよう。
別の社員が弾の用意をしている。
演習用20粍弾を弾倉につめる。
整備のG軍曹が立ち会っている。
G軍曹は木箱から出した頭にペンキが付いた弾を一発ずつ検品して入れている様子だ。
他の機体が帰って来た。
最後は橙色の複葉機で終わりだ。
「よし、評価を行なうから集まれ。」
搭乗員が待機所に集まる。
もうじき昼のラッパが鳴る時間だ。
G軍曹は各所の点検を自らの目で行なっている。
どうやら納得したららしい。
「こりゃ良い機体だ。エンジン止めずに燃料とオイル足しできればスグに飛べるな。暖機の立ち上がりも良い。エンジンカウル外した後で申し訳ないが。瑞星は14番のプラグがカブって無ければその日は問題はない。」
「そうなんですか?」
「ああ、しかし、飛んだ日の夜には全部点検しているがな。14番からカブり始めるんだ。今のところ新品だが、コレからドコが壊れるか予想するもの整備の仕事だ。」
ラッパが鳴った。
「よっし!コレで安心してメシが喰える。木村さんどうするね?」
「ああ、我々はもう既に昼食を取りました。何か有ったらスグ対応するつもりだったんですが…。肩透しです。」
「ハハハ、そりゃ良い。海軍では要領の良くやるのが良い兵隊だ。オレは飯喰ってくるよ。コノ場は任せた。」
「はい、いってらっしゃい。」
ボツネタ。
(´_ゝ`)「ゴラァ!!審査機、搭乗員の菅野 直だ!ゴラァ!」
(´・ω・`)「アンタ未だ少尉候補生でフネしか乗ってないだろ!!」




