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第3章

第3章:魔術師


 夕暮れ時の薄い光りの中にあっても、その姿は異様だった。額に巻かれた黒いバンダナ。

光りを呑みこむような黒の外套の中も、黒しか身に着けていない。髪の毛まで黒いその男は、

唯一バンダナから覗く目だけが、空の様な青を湛えていた。

 一目で悪魔に通じる者だと分かる出で立ちに、俺は声を掛けずにはいられなかった。

「なあ、あんた、魔術師か?」

「…そうだが?」

「悪いことは言わねぇ。早くこの街を出た方がいい」

 魔術師の全てが悪人じゃないことは知っている。知っているが、今は時期が悪い。俺は返

事も返さない男に続けて語りかけた。

「あんた、黒魔術師だろう?魔術師の中でも、悪魔と深く通じるあんた達には、今のこの街

は危険だ」

 親切心で教えてやると、男は相槌を打ってからぼんやりと黙ってしまった。

「怨霊の集まりみたいなのが、わんさか居るんだ。普通の量じゃねぇ。教団の祓い屋やら楽

団やら、挙句の果ては天使様まで対処してるのに一向に祓えねぇし。裏で糸引いてる黒幕が

居るんじゃないかって噂もある。あんた達みたいのはいの一番に疑われるぜ?」

「…だろうな」

 だるそうに返事をした男は、ようやく俺に焦点を合わせた。

「いっそ、そこまで噂になってんなら話は早い。お前、この辺りの魔女か魔術師について、

何か知らないか?」

「なんだ?森の魔女のことか?最近見かけないが、あれは良い魔女だぞ。この辺の魔術師と

言ったらその位だな」

「そうか。まぁ、一応当たってみるよ」

 そう言って踵を返した男に、さらに言葉を投げかけた。

「いいのか?他の魔術師に茶々入れるのは、あんた達にはよろしくないことなんじゃないか?」

 森の魔女がまだ街に来ていた頃に聞いたことがある。魔術師同士の過度な干渉は理に反す

る、と。

「ああ、いいんだよ。どうせ、今の魔王は腑抜けだ。よほど禁忌を犯さなけりゃ、お咎めに

遭うことはねぇよ」

 からかうような笑顔が、やけに似合っていたのは気のせいか。

「…あんた、名前は?」

「カラス。通り名だが、もし祓い屋にオレのこと訊かれたら、オレに構わず教えてやれ」

 もうすぐ本格的に日が暮れる。怨霊達が蔓延る時間に、危険な森に踏み入れる黒い魔術師

を、俺は見送ることしかできなかった。


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