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序章

序章:幕開けの前に



 天界と魔界の長きにわたる戦争が終わった。


 天使と悪魔が「3番目」と呼ぶ世界は、その一報に大きく沸いた。民も王も酒を飲み、天

使にも悪魔にも感謝した。天使と悪魔も、長く、不毛だった戦争の終結を喜び、人々と酒を

酌み交わした。

 戦争というものは、思惑が絡む。

 人間であれ、天使であれ、悪魔であれ、戦争の終結を良しとしない者達がいた。

 神と天使を奉じる教団は、天使からの加護が少なくなることを危惧した。

悪魔と通ずる魔術師達は、悪魔が呼び出しに応えなくなることを恐れた。

 結果的に、10年という年月の中で、教団と魔術師達の危惧は在って無い様なものだった。

それでも、人と人ならざる者同士で、思惑の為に手を組む者達がいる。




 その街に異形が現れるようになったのは約3週間ほど前のことだ。

 別に悪霊怨霊の類は珍しくもないし、普通は丁寧に弔い、祈りを奉げれば一般人でも祓え

る存在だ。

 夏に舞う蝶のように身近で、野を駆ける獣よりも扱いは簡単。それが人々の怨霊に対する

認識だった。

 それが一変したのだ。

 その街に現れるようになった怨霊は、何故か祈りが届かなかった。それどころか、丁寧な

祈りの声に逆上し、人々に襲いかかってきた。最初はそれこそどこにでもいる、小さくか弱

い存在であった魑魅魍魎は、集まり融け合い次第に強力になっていった。

 有効な解決策も見出せないまま、自体は次第に悪い方向へと転がり始める。前例の無い怨

霊の異形化は瞬く間に街全体へと広がり、初めての被害者として怪我人が出たのが2週間前。

その頃からは、最早1人で身を守ることが難しくなってきていた。

 ただし、幸いなことに、祓えなくなっただけで、遠ざけることは出来た。

 怨みに呑まれた怨霊達は、基本的に夜にしか活動できず、戸や窓の空いていない家屋には

入れない。そして何より神聖なものに弱い。玄関先の盛り塩、神や天使の偶像、教団の祈り。

中でも、一般人でも誰でも扱え、魔力も必要の無い有効策がただ1つだけあった。




「全員を派遣して、よろしかったのですか?」

 目に痛いほどの白い空間で、大柄な男が玉座に腰かける男性に問いかけた。その精悍な表

情は、戸惑いの様なものに満ちている。

「勿論じゃ。と、いうより、あやつら以上に適任の者はおるまい?」

 玉座に腰かける男性が面白そうに返した。褐色の肌で、彫の深いその顔の、口の端に笑み

を乗せて。

「彼らは確かに、貴方様の直属の部下。どのようなご命令を出そうが、私共には口を出すこ

とはできません。 しかし、『3番目』とはいえ、人間界に全員を派遣するなど…」

「ゼノ、否、天使長よ、わしには既にそなたの言葉は、苦言にしか聞こえんのじゃが?」

 くつくつと喉の奥で笑う男性に、ゼノと呼ばれた男は顔をさっと青くし、そのまま跪いた。

「申し訳ございません!このゼノ、そのような意図は決して…!」

「よい、理解っておる」

 天使長と呼ばれたゼノがここまで恐れるのも当然だ。玉座に座る男性は、所謂『神』と呼

ばれる存在だからだ。

「そも、戦争を再開させんとする動きは地獄にも天国にもある。なにも戦争再開の動きがあ

るからというだけで、あやつらを送り込んだ訳ではないわ」

 必要以上にあの世の者が生きている者達に干渉してはならない。そう説いたのは、他なら

ぬ神自身だ。けれど、神は人間界に彼直属の特務部隊を送り込んだ。

「諜報部隊と、魔界にも確認を取った。彼の世界における禁忌の研究に、上級悪魔が加担し

たそうじゃ」

 頭を垂れるのも忘れ、ゼノは顔を上げた。

「それは、真ですか!」

「無論じゃ。しかもその上級悪魔、戦争派に属しておる」

 天使長の目が泳ぐ。何か言いたいのだろうが、それを覆す言葉が見つからないのだろう。

 戦争再開、上級悪魔の人間界への干渉、禁忌の研究。懸念事項のフルスロットルだ。

「それならば、私からは何も申しません。神ユニオン、貴方様の御意志のままに、我等の責

務を果たしましょう…」

 今一度頭を垂れ、ゼノは踵を返した。

 無駄に広い神の間の、扉が閉まる。その瞬間、玉座に座っていた男性が、姿を消した。代

わりにその場にいたのは、ユニコーンとペガサスを足した姿の美しい幻獣だった。

 ユニコーンペガサス。この天国を統べる神の、本当の姿だ。

「やれやれ、相変わらず肩が凝るわい。

 さて、あやつらは今頃どうしておることやら…」

 遠くを見つめるように目を細めるユニコーンペガサスは、どこか優しい面持ちをしていた。


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