ダンジョンマスターは人に紛れて嗤う【ダンジョン経営シリーズより】
むふふ、花本愛だよー。私のダンジョンがね? 『黒き死の森』なんていう中々かっこいい呼び名になったんだよね。正直そんな感じにかっこいいダンジョン名がついたことに、私凄い嬉しんだよねー。
順調に『黒き死の森』は恐怖の代名詞になっているんだよー。最高だよね。そんなダンジョンのダンジョンマスターであれるなんてさー。ちなみにあの謎の声の主はまだ接触してこないんだよ。うーん、もっともーっと、面白いことをやらなきゃかな? んー、どうやったら謎の声の主はもっと私に接触してくれるかな? 個人的にかなり仲良く出来ると思ってんだよね。なーんて考えながらも私がどこにいるかというと人の町だよ!
『黒き死の森』から近い町だね。実はね、この町を滅ぼせないかなって考え中なんだよねー。
町を滅ぼすってなると色々大変なんだ。まず、モンスターをどうやってここに侵入させるか。すぐにバレるようなら私の可愛いモンスターが殺されてしまって終わりなだけだしさー。そんな命の無駄遣いをさせたいわけでもないし、なるべくこちらが死なずに、相手が死ぬ。そんな状況に持っていくのが一番なんだよね。
うーん、どうやったらこの町の人たちを虐殺することが出来るかな?
なんて考えながら町の中をのんびり歩いている。
穏やかな町。まるで絶望など永遠に来ないと信じ切っているような笑顔。そんな笑顔を見ていると本当にその顔を絶望で染めてあげたくなるよね。
そんな風にこにこと笑っている顔が絶望に染まれば、きっと私は最高に楽しい。
一人だけでも絶望に染まらせることが出来たら面白いって思っているのに町全体がそんな風になるなんて本当に考えるだけでわくわくが止まらないよね。
あー、本当町滅亡ってさ、ダンジョンマスターっていう悪役になったからにはなんとしてでもかなえたいものなんだよね。そう、ダンジョンマスターとして、世界に恐怖を与える存在でありたい。『黒き死の森』がもっともっと、恐怖の代名詞になればいいって思っているんだよね。
あはははっ、そんなわけで侵入経路とかを色々考えているんだよねー。正直現状難しいんだけど、幸い死なない限り幾らでも時間はあるんだから、じっくり時間をかけて考えたいね。
幻術の魔法も仕えるし、上手くやれば定期的にこの町に遊びに来るぐらいも出来ると思うしさー。
「いらっしゃいませ」
町の中を歩き回っていたら、おいしそうなお店を見つけた。異世界のレストランって地球では見た事のないような料理が沢山並んでいて面白いんだよねー。《魔人》である私は食事をする必要は全くないわけだけど、でもそれでも食事は少しはしたいって思っちゃう。
人間であった頃の記憶って割と鮮明に残っているものなんだよね。おいしいものを食べる必要はなくても、おいしいものは食べたいものなんだよね。そんなわけで人間の町にやってきたときはいつも、食事はとるようにしているの。というか、食事をとらない人間っておかしいしねー。
「この町のおすすめ料理をください」
「あら、お嬢さん、外から来たのかい?」
「はい」
「なら―――」
ただあれだね、街は滅ぼすことはしても郷土の料理は作れるようになっておきたいなーとかわがままを思ってしまうね。こう、出された料理がおいしいとさ。
どうせ、街を滅ぼすのはまだ先の事なんだから、この町で失うのが少しもったいないなーってものがあったら取っておくようにしよう。人は滅ぼすけれども、知識としてでも私が取っておけるように。
「おいしいですね」
「喜んでくれて嬉しいよ」
にこにこと目の前でおばさんは笑っている。お店の料理をおいしいといってもらえたことが心の底から嬉しいと告げている。
私が、この町を滅ぼすことを考えているなんて一切考えていない。
「それにしてもこの町は平和ですねー。なんだか穏やかで好きになっちゃいそうです」
「そうだろう? この町は住みやすい町なのさ」
「モンスターとかもこないんですか? 私が住んでた町は時々来ていて、怖くて」
「まぁ、そうなのかい? この町には私は長く住んでいるが、モンスターの進行問題はほとんどないのさ」
自慢げにおばさんは語る。
この町の事が本当に自慢で、平和をうたっている。
このおばさんが生きている間に、絶望をこの町に与えたいななどと思った。平和を絶対的に信じている人って、どうしようもなく、ぶっ壊して遊びたくなる。
「そうなんですかー。じゃあ安心ですね」
いつか、私がその安心を、この平和を壊してあげるねとそんな思いで私は嗤った
―――ダンジョンマスターは人に紛れて嗤う