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エルフの成り立ち【森の賢者様シリーズより】

アキヒサの息子目線。何気にシリーズ初登場

 「なぁなぁ、族長! 昔のこと聞かせてくれよ」

 「昔の話? よかろう。何を聞きたいのだ?」

 「んー、この里の成りたちとか!」

 「……あー、成り立ちかぁ」

 まだ生まれて百年も経過していない若いエルフ、その問いかけに正直わしはなんと答えるべきか困った。

 エルフの里の生い立ち、それについては余すことがないぐらい語りつくすことは可能だ。しかし、こんなにキラキラした目で見ている子供に伝えるべきかとちょっと悩む。




 なんせ、エルフの里の生い立ちといえば――と、わしは昔に思いをはせた。





 昔、今の世代の子供たちからは信じられないだろうが、世の中は人間のみで構築されていた。不老に近いハイエルフの方々でさえ、利用され迫害されていた。

 そんな世界でわしは生まれた。

 母親の情夫―――わしの母親は男好きでとっかえひっかえしていた平民の人間だった――との間の子供だと聞かされたものの、父親についてわしは知らなかった。物心がついたときにはもう傍にはいなかったし、わしにとっての家族は母親だけであった。

 母親が男好きであったが、わしのことは確かにかわいがってくれていた。

 が、そんな母親でさえも異常だと思えることがわしにはあったのだ。成長速度が遅かった。幼馴染と同じ年のはずなのに、わしはなかなか成長しなかった。あいつらが、10歳になるころ、わしは3歳ほどの見た目で、あいつらが、15歳になるころには5歳ほどの子供。おかしかった。

 母親はわしをかばってくれたが、それでもわしは迫害された。

 それも仕方がないことだった。わしは、おかしかった。人間社会の中で異端とされた。わしは呪われた子などと言われた。寿命が長いのは呪われているからなどと。

 わしは一時期母親の本当の子供ではないのではないかと悩んだものである。

 しかしそれを告げたわしに母親は「あなたは私の本当の子供よ」と抱きしめてくれた。そして聞いたのはもしかしたら父親の事情かもしれないということだった。

 父親にはあったことはなかった。ただひどく美しく不思議な男であったらしい。

 正直わしが生まれたのは父親がいたからだが、父親のせいでこのような目に合っているかと思うと当時のわしは父親を恨みたくなった。せめて父親がわしと母親を守ってくれたならともかく、傍にもおらず、ただの人間である母親と、成長スピードが遅く非力なわしではどうしようもなかった。

 迫害され、住む場所を追われた。

 わしと母親は放浪していた。わしがなかなか成長しないため、同じ場所にとどまってはおられなかった。そのうち、母親は体調を崩し、帰らぬ人となってしまった。

 その時わしは三〇歳にはなっていたが、見た目は十代前半といったところだった。悲しんでいる暇もなく、生きるのに必死だった。

 ただ生きるの必死な中で、わしは同じような存在たちとであった。同じように成長スピードが遅い存在に。わしらは共に生きることになった。そして同じ存在を見つけて保護することにもなった。

 はじめてあった同じ存在とは恋仲になり、迫害から必死に逃げ、守ろうとしていた。が、わしらは危機に追い込まれた。

 そんな中でようやく表れたのが、あのバカ父親である。

 ………助けられたときはキラキラした目であいつを見てしまったわしであるが、わしらがどういう存在か聞いたらぶん殴りたくなったものだ。美しい男はわしらの父親なのだという。そう、わしのではない。わしらのだ。

 恋仲になった少女と兄妹であった時の絶望といったらどうしようもない。が、あのバカはあっけからんと「別に兄妹でもいいんじゃね?」と軽く言ってのけた。というか、そもそもあのバカが欲求不満になったとかいって人間の女性の元を渡り歩いた末に生まれたのがわしらである。聞いた話では五年というたった短い期間でこれだけの子種を残したらしい。後からあのバカの伯母であるセイナ様は「もしかしたら人間と私たちって繁殖力が高いのかもね」っていってた。セイナ様もまさかこれだけ子供が生まれるとは思ってなかったらしい。

 で、まぁ、わしたちは全員父親であるバカに保護された。……そのわしらを保護する過程でもしょうこりもなく子づくりに励んでいたようで……弟妹が少なからず増えたのには絶句したが。

 アウグスヌスの森―――世界で聖地認定されているその場所に、まさか自分が足を踏み入れることになるとは思わなかった。が、まぁ、さすがにセイナ様も大量の子供たちに「……私は大勢は嫌いなの。あんたの責任なんだから、あんたが別に面倒をみなさい」と言い放った。セイナ様は元々人嫌いで有名な存在で、わしたちと一緒に暮らすという選択肢はなかったらしい。

 そんなわけでわしらは父親に面倒を見てもらうことになった。まず住むところの確保から始まった。わしたちは父親と交流し、その結果父親がわしらに『エルフ』という種族名をくれた。父さんは……正直当時を思い出すと父さんなどと呼びたくはないが……時折エルフを保護しに向かったりするため、わしとカノ(恋仲になったエルフ)が彼らの面倒を見ることも多く、いつからかわしらの住む場所はエルフの里と呼ばれるようになった。

 っていうのが、成り立ちである。

 エルフ族の『守護者』などと呼ばれている父親のかっこいいところを聞きたかっただろうが、しょうもないとしかわしはいえん。



 「族長? はやくはやく」

 「……歴史書でも読みなさい」

 結局夢を壊さぬために、わしは語ることはできなかったのである。




 

 

 

アキヒサは特定の人を作らずにふらふらしています。

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