リアとルーンの出会い【臆病少女は世界を暗躍す】
(『霊榠山』に上ろう)
リアがそんな無謀なことを思ったのは、ギルドマスターに引き取られて間もないころだった。
貪欲に強さを求めていたリアは、一度も入ったことのないそこに上り詰めることを決意した。《超越者》にまだ至っていない当時のリアであったが、その年にしては十分に強者であった。
「出かける」
ギルドマスターである義父にそれだけ告げて、出かける。
あまりにもいつも通り出かけていくのもあって、ギルドマスターもまさかリアが霊榠山に登ろうとしているなどと思ってもいなかった。
どうせその辺で魔物を狩るのだろうと、そんな風に軽く考えていたのだ。しかし、実際は霊榠山に登ろうとしている。
気づけなかったのはまだギルドマスターとリアの付き合いも短く、ギルドマスターもリアの性格を今よりも把握していなかったのも原因であろう。
まぁ、そんなわけでリアは自分よりも格上の魔物しかあふれていない霊榠山に強くなりたい一心で足を踏み入れたのだ。
普通に考えて無謀である。
たとえばリアが自分の力を驕っていたのならば。ユニークスキルが発現していなければ。
そうすれば、リアは霊榠山に足を踏み入れた途端死亡していたことであろう。
しかし、リアは子供でありながら霊榠山に足を踏み入れるという無謀を犯すような性格でありながらも、《臆病者》であるが故にどこまでも慎重で、最悪の可能性を考えられる少女であった。
《何人もその存在を知りえない》を発動し、魔物の背後に近づき、その首を落とす。それも、群れには手を出さない。そこまでリアは無謀ではなかった。
(流石、霊榠山、強い)
強者である存在を、その手で殺める。それをできる技術が自分に身についていることが、リアにとってはうれしいことであった。だから、戦いの中で、リアは笑みを浮かべる。
(私は、強くなっている)
それを実感することが、リアにとって何より嬉しいことである。
もっと、もっと、もっと――誰よりも、強く、強くりたい。それがこの見知った世界にリアが生れ落ちてからの終わらない目標。
魔物を殺す。
群れから隠れる。
そうしながら、上へ上へと向かっていく。
山頂へ向かうほどに、魔物は強くなっていく。
まだ、大丈夫、だから登ろう。
リアは魔物を倒しながらそう感じ、どんどん登って行った。
そして、山頂にたどり着く手前に、それを見た。
それは、大きなドラゴンだった。
それは、真っ白な鱗で覆われていた。
---魔物の最上位、最高位のドラゴン《ホワイトドラゴン》。
そんな、正真正銘の化け物がそこにいた。
《何人もその存在を知りえない》を行使しながら、それを見る。
(《ホワイトドラゴン》………ドラゴンの中でも最強の存在。どうしよう)
十歳のリアはまだ子供であった。自分よりも強者がいることを誰よりも知っていたリアであるが、それでも、この世に絶対はないと思っていた。
だからこそ、無謀にも考えた。
(ユニークスキルを使いながらいけば、もしかしら)
と、可能性を。
そもそも、当時のリアは霊榠山の《ホワイトドラゴン》が強者であることは知っていても、どれほどの強者であるのかを正確に把握していたわけではなかった。養父であるギルドマスターもまさか、《ホワイトドラゴン》とリアが対面するとも思っていないため、そこまで注意もしていなかった。
(よし、やってダメなら逃げよう)
そんな軽いノリで、リアは《ホワイトドラゴン》に手を出すことにした。
そして《何人もその存在を知りえない》を行使して、近づき、武器を振り下ろす。しかし、それは、はじかれた。
え、と驚いたときにはもう遅い《ホワイトドラゴン》の尻尾がリアを吹き飛ばしていた。
「……ユニークスキルか」
それは、気づいていたのだ。ユニークスキルを使っていたリアに。
吹き飛ばされたリアを見て、冷たく、だけど面白そうな声をあげている。
リアは痛みを感じながらも立ち上がる。
そして、それと対面をする。
格が違う。リアが真っ先に思ったことはそれである。
逃げられない。対面したからこそ、またそんな思いも感じた。
でもリアはだからといってあきらめられなかった。
---死にたくない。
それが、リアにとっての最大の思いだったのだから。
故に、リア・アルナスは勝てないことを承知で《ホワイトドラゴン》に向かっていった。何度吹き飛ばされようとも、何度力を見せつけられようとも。
ボロボロになりながらも、あきらめることもなく何度も何度も向かってくるその小さな存在に《ホワイトドラゴン》は問いかけた。
「お前、なぜ俺に向かってくる」
「……死にたくないから」
リアの答えは《ホワイトドラゴン》にとって予想外のものであった。
リアが今、死んでいないのは《ホワイトドラゴン》の気まぐれである。面白いユニークスキルを使う、何度も向かってくる存在に対する興味があったから。故に、リアは適当にあしらわれていた。
「お前、面白いな。それに、まだ子供じゃないか」
絶対的強者を前に、諦めない存在はそうはいない。第一、この世界は強さがすべてともいえるべく、強者が君臨している世界だ。そんな世界でそれだけ向かってくる存在というのは希少である。
「お前、名前は?」
「リア……。リア・アルナス」
「俺はルーン。お前、面白いから生かして返してやるよ。だから、もっと強くなってまたこい」
面白そうだからとリアを生かしたルーン。
その当時のルーンはまさか、それから本当にリアがよく霊榠山を訪れ、自分の友人になるなど考えてもいなかった。
それが、リア・アルナスとルーンのはじまり。
書きにくかったですが、一応こんな感じになりました。