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皇太子が踊り始めたのを皮切りに広間は次々と踊る人々で溢れていた。
ミルトニアも、今はカリカと踊っていた。
というのも1曲終わった所でカリカと交代をさせられた。
そのくせ、絶対見てろよ!と言われカリカとミルトニアの踊りを見学している。
(交代させておきながら、見てろとは意味が分からん。)
見てないと不安だとでも言うつもりなのか。
(幼児か、アイツは。)
でも、ミルトニアが楽しげに笑っているので良いかと思った。
「こちらのお飲物は如何ですか?」
踊り終えたのを見計らいアコニタムは飲み物を差し出す。
「ああ、貰おうか。」
「今年の葡萄酒は良質だそうですよ。」
「そうか。」
グラスに注がれた葡萄酒は甘い芳香をさせ黒々としていた。
昼間ならうっすらと赤が混じって見えるのだろうが、夜会の照明では本来の色は見えなかった。
(彼女も・・・・黒だったな。)
1年前まで婚約者だった黒髪の彼女。
カリカやロード等と共にミルトニアに行った悪事の証拠を突きつけた。
泣き喚いて否定や弁解をするか、それとも怒鳴り散らすか。
女性は・・・いや。
罪を暴かれたものは誰であれ、そうするものだと思っていた。
彼女も例外ではない。
この国でも高位の公爵家に産まれ、1人娘として甘やかされて育だった彼女ならなおのこと、自らの罪は認めたくないはずだ、と。
『ええ、全て私が行ったことです。間違いありませんわ。』
こちらが拍子抜けするほどに彼女は淡々した調子で罪を認めた。
表情の無い顔からは悔恨の意は伺えなかった。
その後も、彼女の行動は落ち着いていた。
カーライル公爵夫妻が突然沸き起こった事態に放心状態で動けない代わりに、国に領地を返還する手続きや借金返済の為の屋敷や調度品の売却。
殆どをを彼女自らが行い、滞りなく名門カーライル家は貴族社会から消えた。
(何の問題もなく・・・?)
名門と呼ばれるだけあってカーライル家は古くから政治でも重役に就いてきた。
しかし近年は、行政に関わることも減り歴史書の編纂や祭事の管理を行っていた為、カーライルの職を解いても混乱は起きなかった。
(そう、何事も無かったかのようにあっさりと)
カーライル家は仕組まれていたようなスムーズさで没落の道を歩んだのだ。
「・・・殿下?どうか致しましたか?」
「いや、・・・何でもない。」
沸き起こった小さな疑問を消し去るように皇太子はグラスで揺れる葡萄酒を飲み干した。
書いてから思ったんですけど・・・
「彼女も黒」は髪色の事で、犯人のクロじゃないですよ~(汗