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ふぃ~、とりあえずシャロンの現在の状況説明終了しました。
市場での仕事が終わると私は教会へ向かった。
下町で暮らす人の祈りの場となる小さな教会だ。
「こんにちは~。」
「シャロンお姉ちゃん!」聖堂の扉を開けると、中にいた子供達が集まってきた。
「今日は何のお話し~?」
「早く早く!」
小さな手が私の手を引いて奥へと連れて行かれる。
「ほらほら、引っ張ってはダメよ。シャロンが困ってるでしょう。」
「シスター。」
「お仕事お疲れ様。いつもありがとうね。」
「いいえ、私が好きでやってることですから。むしろ私の方が有り難いくらいです。」
私には仕事ともう一つ始めたことがあった。
それは、この教会で子供達を教えること。
一般教養からマナー、ダンス、私が知り得ること全てを伝えるつもりだ。
元々は皇太子の婚約者だった私は、将来王妃の座に着いたときに恥じないように教育されて来たし、私自身も努力はしてきた。
でも、それは王妃になる為ではなく、今回の人生では今日の日の為のものだった。
元婚約者の皇太子は贔屓目抜きに見ても優秀な方で、この先、即位されればこの国をより良く繁栄させていく。
優しいミルトニアは王妃になり、身分を問わずだれにでも平等に接し皆に愛される。
優秀な王様万歳。
優しい王妃様万歳。
それでは駄目だと、私は思う。
その優しい王様や王妃様が死んでしまったら?
次の王様が優しくなかったら?
人はいつか死ぬ。
どんなに賢い名君でも死は避けられない。
同じ人生を繰り返している私には私が死んだ後、この世界に未来があるかは分からない。
もしかしたら、この世界は同じ時を繰り返していて、私が転生している記憶があるのが異常で、この後の時間なんてないのかもしれない。
でも、私は確かに生きてる。そしてここにいる子供達も『今』を生きてる。
だから、私はみんなに身分なんて下らないものに縛られない人生を生きて欲しい。
優しい王様のおかげなんかじゃなく、自分自身の力で乗り越えて。
努力すればどんな人ても国を動かす力になれると認めさせて欲しい。
そのために私は、教会のシスターに頼み込んでここで子供達に学問を教えることを許してもらった。
最初は教会に附属する孤児院の子供達だけだったが、今は近くの家の子や時には大人も子供に混じって学びに来てくれることもある。
突然現れたにも関わらず、受け入れてくれた教会の方や町の人に感謝している。
この事が何かのきっかけに成れば良いと思う。
すぐには無理でもいつか。
同じ時間をなんども転生し続けている私だからこそ未来を誰より欲しているんだろうか。
『今』とは違った『未来』を。