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2人の距離 2
どれ位の時間をそうしていのだろうか。
いつのまにか、私の背中に彼女の手が回り、私が彼女に抱きしめられているような錯覚すら覚える。
腕の力を緩め、片方の手で彼女の顔を上げさせると、涙で濡れた瞳と目が合った。
ゆっくりと頬を伝う滴に引き寄せられ、目に、額に、頬に唇を寄せる。
くすぐったそうに身じろぎする彼女を見ると、涙は止まったが瞳はまだ潤んでいて、目元が薄く染まっていた。
唇には噛みしめ過ぎて赤い血が滲んでいる。
彼女の頭を引き寄せて、唇を合わせ下唇をなめると鉄の味がした。
一度では足りず何度も何度も唇を合わせる内に、鉄の味は消えて軟らかく温かな感触に夢中になった。
触れ合うたびに濃くなる彼女の香りに頭の芯が痺れて、思考は溶けてなくなり心の赴くままに彼女を求めた。
彼女がそれを受け入れてくれることに、身体が、心が幸福で満たされていく感覚がした。
―――――本当は君とこうして愛し合いたかった――――
そう伝えたら、彼女はとても幸せそうに微笑んだ。




