2人の距離
椅子の倒れる音がして、床に倒れ込むようにシャロンの体を引き寄せた。
腕の中ではシャロンが距離を取ろうともがいている。
シャロンが唇を食いしばり、泣くのを耐えている姿を目にして衝動的に抱きしめてしまった。
拒絶されているのは分かっていたが、それでも離れたくなくて腕にさらに力を込めて、シャロンを抱きこんだ。
「殿下っ!」
シャロンの焦った声が耳元で聞こえる。
抱きしめた体は見た目と違わず細く、以前よりも少し痩せてており心が痛んだ。
「離し―――――」
「すまない。」
ピアの言葉にシャロンの動きが止まった。
「いつも、辛い時に側に居られなくて、本当にすまない。」
昔から、近くて遠かった。
ピアが知るシャロンは強い棘を纏った美しい薔薇にも似た姿だった。
どんな状況でも冷静で、感情を荒げた所を見たことはない。
幼い頃に1度だけ泣いてる姿を見たことがあったが、あの時も、人気のない庭園の端で1人で静かに泣いていた。
泣き声も漏らさず、立ち尽くして涙を流していた。
眉間に皺を寄せて、今の様に唇を食いしばって辛いのを我慢するように。
その時は泣いてる姿に驚いて、固まってしまい、ただシャロンが立ち去るまで見つからない様に隠れて見ているだけだった。
きっと、いつもひたすら苦しみや悲しみに耐えて、何処かでああやって泣いているのだろうか。
「せめて、今は君の近くに居させて欲しい。」
大人しく腕の中にいるシャロンをピアはさらに強く抱きしめた。




