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4度目の正直  作者: 冬真
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予兆

「さて、今日はこれで終わりにしましょうか。」

「えー、もう終わりー?」

「つまんなーい!」

シャロンが告げた言葉に返ってきたのは、不満げな言葉ばかりだ。

「暗くなる前に帰らないと危ないだろう?」

「えー。」

シャロンに続いたピアの声にも不服な声しか返って来ず、2人は顔を見合わせて苦笑した。

「まだ帰りたくない~、ねっ、リズもそうでしょ?・・・・・リズ?」

「・・・・・・。」

「・・・リズ?、大丈夫?」

「シャロンお姉ちゃん、リズが変なの!」

呼ばれた声に急いで駆け寄ると、リズと呼ばれた子の額に手を当てる。

「っ!!熱い・・・。」

「・・・・うっ!」

リズは小さくうめき、口に手を当ててそのまま吐いた。

「リズっ!?誰かシスターを呼んできて!」

崩れ落ちるリズの身体を支えながら発したシャロンの声に、数人の子供達が走ってシスターを呼びに行く。

「ピア様っ!子供達を教会の外へお願いします!私たちに近寄ってはいけません!」

「分かった。さあ、みんな慌てないで外へ行こう。」

「お願いします。」

子供達は不安な顔をしながらもピアの誘導に従って教会の外へ出ていく。

奥から慌てて出てきたシスターは、シャロンに状況を聞くと医師を呼びに治療院へと向かった。

リズの呼吸は荒く、ぐったりとしている。

シャロンは、嘔吐物が喉に詰まらない様にリズを横向きに床へと寝かせると立ち上がり、教会のドアへと向かった。

ピアの事だ、きっとドアの近くに待機していると思う。

それならピアに頼みたいことがある。


「ピア様・・・?」

「うん、居るよ。子供達も少し離れた所にまだ居る。」

予想通りドア越しでも声が届く位置にいるらしい。

「そうですか・・・。お願いしたいことがあります。」

「何だい?」

「はい。子供達に手をしっかり洗わせて、口をゆすいでから家に帰して欲しいのです。それと、しばらくは外出は控えるようにと。もちろん、教会へもです。

私も当分はココへは来ません。」

「・・・分かった。」

「ありがとうございます。」

シャロンがドアから離れていく気配を感じ取ると、ピアは子供達を集めてシャロンの言葉通りに実行させた。

子供達は後ろ髪をひかれながらも帰路に着いた頃に、医師が到着し、リズは治療院へと運ばれて行った。

「シスター、祭儀用のお酒を少し頂けませんか?リズが吐いてしまった床を清めたいんです。」

「今持ってくるわ、待っていて。」

シャロンはシスターが持ってきたお酒を床に零して、吐物が残らない様に念入りに床を拭く。

床を拭いた布はそのまま捨て、手を丁寧に洗い、シスターにも教会へは当分は訪れないことを伝えた。

教会の外へ出ると、ピアが待っていた。

「・・・リズが罹った病は人に移りやすいんです。ですから、出来るだけ患者には近づかない。接触してしまった場合は、手を良く洗い、口をゆすぐ事で移りにくくなると聞いたことがあるので。」

「まだ何も聞いてないが・・・。」

「『知りたい』って顔に書いてますよ。」

「・・・・そうか。」

シャロンの指摘に、ピアは困った顔をした。

「酒で床を拭く理由は?」

「患者の汚物からも移る可能性があるみたいで、お酒をかけることで汚物から移ることが防げるようです。」

この病は冬と共に流行し、暖かくなるにつれて収まっていく。

これからこの病がこの国に蔓延し多くの死者を出す。

そして自らの命を失う原因である事をシャロンは知っている。

3度に渡る人生で色々な本を読みあさり、、手を良く洗い、口をゆすぐことがこの病を予防する効果が期待できると辿り付いた。

だから、今まで子供達に口うるさく言って実践させていたし、シスターに街の人にも伝えるよう、お願いしている。

何もしないまま、見ているだけは嫌だったから。

(もしかしたら、あの子は・・・。)

この病の死者の大半は老人や子供。

高熱、嘔吐、下痢が、老人や子供の少ない体力を奪って衰弱させてしまうからだ。

「ピア様も可能な限り外出は控えて下さい。」

「ああ、シャロンも。」

「はい。」

昼間はまだ暑いが、朝夕は涼しくなってきた。

またすぐに雪の季節がやってくる。

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