平民な日常2
台車から箱を持ち上げ、先に置かれた箱の上へ置く。
箱の中身と数を確認して受取書へサインを書き、帳簿にも記入する。
「これで終了っと。女将さん、終わりました~。」
「そうかい。それじゃあ、今日はこれで終いだ。お疲れさん。」
「はい!ありがとうございます!」
「こっちこそ、仕事が早くて助かるよ。これからもよろしく頼むよ。」
腰に巻いていたエプロンを片付けて、仕事場を一通り見渡し、やり残した仕事が無いかを再確認する。
「よし!それでは、失礼します。」
一礼して店を後にした。
本日のお仕事終了である。
卸し市場をしばらく歩くと、店舗が並ぶ通りに出た。
教会に行くにはその通りを抜けていかなければならないが・・・。
(いつもの時間より少し早い・・・、どうしようかな。)
図書館に寄るには時間が足りないし、今教会に行って邪魔になっても申し訳ない。
遠回りして時間を潰そうかな、と角を曲がろうとした時、怒鳴り声が響いた。
「さっさと盗んだ物を出さんか!!この盗人め!!」
声の方向に振り返ると、男が少年の腕を掴み叫んでいた。
「盗んでないって言ってるだろ!」
「嘘を吐くな!貴様が盗んだのは判っている!」
少年は男の手を振り払おうともがいている。
「だから俺じゃないって!くそっ、離せよ!」
「ロビン!!」
「っ!?シャロン姉ちゃんっ!」
シャロンは少年に駆け寄ると少年の横に屈み込み、男を見上げた。
「…この子がどうかしましたか?」
「なんだお前は!?」
「この子の・・・保護者です。」
ロビンは教会で預かっている子供たちの内の1人で、教会にいる子供たちは、神父さんやシスター、地域の人、皆で育てているようなものだから、あながち間違ってはいない。
「それならば話は早い!その子供が私の財布を盗んだのだ!返したまえ!!」
「・・・本当にそんなことをしたの、ロビン?」
「俺は盗んでない!本当だよ!!」
「そう・・・、この子が嘘をつくとは思えません。何か勘違いをされているのではないでしょうか?」
ロビンの顔や様子からは嘘をついているように見えなかった。それに、神の御許で生きている子供たちが盗みを働くなんて思えない。
私はロビンの言葉を信じている。
「私が嘘を言っているとでも!?」
「いえ、そうではなくて――」
「うるさい!このまま衛兵に突き出してくれる!」
「うわっ!」
ロビンは男に掴まれた腕を引かれ、床に倒れた。
男はそれに構わず歩き出し、ロビンは引きずられる形で引っ張られていく。
「やめてください!」
「邪魔だ!!」
「きゃっ!」
私は男の前に回り込み止めようとしたが、男に押し退けられ床に尻餅をついてしまった。
「姉ちゃんに何するんだ!!」
「痛っ!この下等生物が!」
私を助けようとロビンは男の手に噛み付いた。
男はロビンを振り払い、噛まれた手を確認すると顔を真っ赤にして、腰に下げていた杖を掴み上へと振りかぶった。
「ロビンッ!!」
杖が振り下ろされる光景がとてもゆっくりに見え、ロビンの元へと心は急いでいるのに体が動くのが遅くてもどかしい。
やっとの思いでロビンに手が届くと、私はロビンを体の下へ隠した。
隠したと同時に頭から背中にかけて、衝撃が走った。
その衝撃は何度か続き、止まった。
衝撃がなくなると、熱さが広がっていくのが分かった。
「----だ!----っ!?」
周囲で人の声がしているようだが、耳の中で血液の流れる音が響いて聞き取れない。
「シャロン姉ちゃん!!」
「ぁっ・・・ロビン、大丈夫?」
背中に広がる熱さで声が出しにくく、搾り出すようにしてどうにか言葉を紡いだ。
「うん!俺は平気っ!」
ロビンの目には何故か涙が浮かんでいる。
「そう・・・、良かった・・・。」
何故泣いているのか、その涙を拭ってあげなきゃと思うのに体がしびれたように感覚がなくなっていて。
――私の意識はそこで途切れた。