03
「ごめんなさいね、今日はこれからお稽古なの、よかったらまた誘っていただける?」
「そうですか、残念ですわ……ではまた必ずお誘いし ますね!」
放課後、私は最後の一人を振り切りようやく迎えの車に乗り込んだ。
ちなみに私は、華道や茶道、ピアノにバイオリンといった、いかにもそれっぽいお稽古をしているが 、今日はどの先生ともお約束していない。嘘も方便ですわね。
それより、私のお稽古ってちょっと普通すぎない ?やっぱり深窓の令嬢を目指すなら琴とかハープとかやるべき?琴はともかく、ハープの先生なんて見つかるかしら……
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「えぇ、ただいま戻ったわセバス」
この人は深窓家に仕えてくれている千羽 さん。いかにも執事って感じの人で、なかなかに渋く大人の魅力に溢れた方だ。確か年齢は50後半くらいだったはず。 名前だけは何度聞いても教えてくれない……何故だ 。通称はセバス
「……」
「ん?どうしたのセバス?」
「千羽にございます。お嬢様」
「セバスじゃだめ?」
「千羽でお願いします」
ちなみにセバスと呼んでるのは私だけで、本人は 気に入っていないようだ。
「……昔のように千羽のおじちゃんとは呼んでくださらないのですか?」
そしてちょっと可愛いところもあるおじちゃんだ
「その呼び方じゃ子供っぽいでしょ?」
「お嬢様はまだ子供だと思いますが……」
「はぁ……じゃぁ、爺やにするわ。それなら別にいい でしょ?」
「え、えぇ……それなら……まだ……」
拗ねるな千羽さん
「ねぇ爺や、お母様やお父様は今日は?」
「本日はお二方共に鳳凰路のパーティーに行かれているので、遅くなるかと」
「そう、じゃぁお兄様は?」
「貴夜様でしたらもうしばらくで…」
バタンッ
「戻ったぞ」
「お帰りなさいませ、貴夜様」
「お帰りなさい、お兄様」
「あぁ、ただいま令嬢、千羽」
この人は深窓 貴夜 頭脳明晰、容姿端麗、クールな俺様だけど優しい時には優しく、たまに子供っぽい所もある。さらに深窓家の次期当主。いかにも少女漫画でヒロインの相手役をしそうなこの方こそ、私の3つ上のお兄様 だ。
「令嬢、少し話があるんだが……大丈夫か?」
「え?えぇ、大丈夫ですわ」
話?いったいなんだろうか……
「令嬢、お前……学園で仲間外れにされてるのか! 」
「はい?」
「なっ……!そ、そうなのですか、お嬢様!」
「今日、1年に弟がいる奴が言っていたんだ……お前が教室でいつも一人でいるって」
「なんということ!直ぐに当主様と奥様に連絡しな くては!」
「落ち着いて爺や、お兄様それは誤解ですわ、確かにわたくし、教室ではいつも一人でいますけど、別に 仲間外れにされてる訳じゃないですわ。むしろみなさん話しかけてきて鬱陶しいくらいです」
「ほっ……そうだったのですか……」
「そうなのか、よかった……ん?みんなに話しかけられてるなら、何故いつも一人でいるんだ」
「それはわたくしが女の子の派閥争いに関わりたくないからですわ」
「女の子の派閥争い……?なんだ、それは」
「えーと、あぁ、先日お兄様を学園でお見かけした時にお兄様の同学年の子達がどっちがお兄様とお昼休憩をごすか揉めてらしたでしょ?あれが派閥争いですわ」
「あれか……よし、令嬢!お前はあんなくだらないのとは関わるな!」
「くだらないと言うのはあんまりではありませんか ?あれで一応女の子には必要な事ですし、それにそのくだらない中に、お兄様の未来のお嫁さんがいる かもしれませんよ?」
「俺の嫁は万里子だから大丈夫だ!」
「あぁ……そうですわねー」
お兄様には思い人がいる。お兄様の2歳年上の万 里宮万里子 様だ。 万里子様はいかにも大和撫子といった方で、男子の理想をぎゅっと詰め込んだような方だ。
でもねお兄様、俺様キャラが年上に恋い焦がれるって少女漫画的にふられフラグじゃありません?
「ちなみにお兄様、その1年に弟がいらっしゃる方って女性の方?それとも男性?」
「あぁ、女だぞ」
「ちなみに正確にはなんておっしゃってたの?」
「ん?確か、貴夜様の妹様が教室でいつも一人でいると弟に聞いたので、相談にのってあげたいから今 度貴夜様のお宅に伺ってもよろしいですか?みたいな感じだな」
「あぁ、それでお兄様はなんて答えたのですか?」
「それを聞いてすぐに迎えの車に乗り込んだからな 、特に何も答えていない」
「そうでしたの」
はぁ……それはきっとお兄様に話しかける口実に使われたんだろうな……