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バスルームから☆こんにちわ

作者: ブラボー

『ニュースの時間です。

 先ほど、世田谷区の綾小路さん一家惨殺事件の犯人が緊急指名手配されました。

 名前は尾崎准一、21歳。武器を所持している模様です~』



川嶋家の姉妹が住むマンション。

夕方六時頃、玄関の呼び出し音でモニターを見ると長女の小春だった。


次女の夏芽がドアを開けると、旅行バックやら荷物一杯の小春が

「ただいま。しばらく泊めて」

と不機嫌そうに玄関に入ってきた。


「何、また夫婦喧嘩なの?」


冗談半分で夏芽が小春をからかう。

夏芽は働いていて職業は看護師だ。


小春は靴を脱ぎ、かつての我が家に遠慮なくズカズカと入ると、リビングにいた三女の秋菜に手土産を渡した。

「はい、おみやげ。有名人気店のチョコ。並んで買ってきてやった」

と、恩着せがましい言い方をする。

「サンキュー、小春ちゃん」

女子大生の秋菜は、ソファに寝転がり、ヘッドフォンで音楽を聴いてリズムをとっている。


「お姉ちゃん、今度のケンカの原因は何なのよ?」

と夏芽が野次馬的に聞く。

「孝博のヤツ! 女子大生と浮気してたんだよ」

「あらら、浮気か~。それはそれは」

夏芽は面白がってるが、小春は自分の高ぶる感情で一杯一杯のようだ。


「何、何、浮気しちゃったの? お義兄さん?」

と秋菜もヘッドフォンを外して好奇心で小春に聞いてくる。

「そういえば、あんたも女子大生だったね」

と、怒りの矛先を秋菜に向けてにらむ。

「怖ーい。私が浮気相手じゃないし~。第一私好みじゃないもん、孝博さんなんて」

秋菜はテレビのチェンネルを変える。



ニュースが画面に流れる。若い男のモンタージュ写真だ。 

『~先ほど、世田谷区の綾小路さん一家惨殺事件の犯人が緊急指名手配されました。

 名前は尾崎准一、21歳。武器を所持している模様です~』



「まさか、孝博さんが浮気なんてね」と夏芽。

「私もイケメンの年下と浮気してやる!」と小春がくやしそうに宣言した。

「あらら、浮気宣言ですか」

「当然。やられたらやり返す。倍返しよ! 夏芽、誰か、若い肉食系男子紹介してよ」

「え~、そうねえ。まあ、考えとく」


そう答えながら、夏芽は孝博と寝た夜のことを思い出していた。だいたいが、小春の夫は心底、羽毛のように軽い男なのだ。妻の妹まで口説くのだから。


「ああ、お腹が空いたな。何か作ってよ。あれ、美冬は?」

と、小春は主婦のくせに、川嶋家の家事担当の末妹の姿を探し、食事を要求する。


「今、買出しにいってる。遅いよ、あの馬鹿」

秋菜が自分はテレビをのんびり見ながら、悪態をつく。


川嶋家では、家政婦がいなくなってからは、四女の高校生美冬が、料理はもちろん、洗濯、掃除全般をやらされているのだ。そう、美冬は、この一家では、まるで継母や義姉に苛められるシンデレラ状態なのである。実際に美冬だけ母親が違う。性格も肉食系の姉三人に対して、草食系で気弱で自己主張ができない性格なのだ。


「何してんだろうね、まったく」

と夏芽が眉をひそめて壁時計を見る。

「美冬はあいかわらず、ドン臭いんだから」

小春はテレビの情報番組を見ながら大あくびをした。



「川嶋~。金貸してくれよ。すぐ返すからさ」


美冬はスーパー近くの路地裏で、同級生の淳子たち不良五人に金をせびられていた。淳子たちのグループはこのあたりで恐れられている評判の不良集団だ。


「こ、困ります」


(怖い。どうしよう、誰か助けて)


美冬は恐怖で震えながら、蚊が鳴くような小さな声で、やっとそれだけをいった。


「こ、困ります。なんて、可愛いーー。川嶋ちゃん、へへへ」

淳子の腰ギン着の早川が、ニヤニヤ笑いながらモノマネをしてみせ、

「たまんないね、この黒髪、へへ」

同じく腰巾着で、肥満体の大石が、美冬の黒髪を手で厭らしい手つきで触リ出す。


(や、やめて、さ、触らないで!)

しかし、美冬の心の叫びは言葉にならない。


「あのな、困ってるのはウチラなんだよ。とにかく財布出してみろよ」

淳子が美冬を冷たい目で上から睨み付ける。淳子は背が高く、小柄な美冬を見下ろす格好になる。

「さ、さ、財布ですか」


「そうだよ、早く出せよ!」金髪の秀美が大声を出す。

「ご、ごめんなさい、わ、わかりました」

美冬が財布を差し出すと、秀美は淳子に 

「すぐ出せよ。本当、ドン臭い女だな。お前」

と言葉を吐き、「どうぞ」と財布を淳子に渡す。

「なんだ、あるじゃないか。この諭吉を一枚借りとくよ」

「は、はい」


淳子は去り際に、美冬の顎を握ると、

「いいか、川嶋、このことを誰かにチクるなんて、非友好的なことをしてみろ。その時は……」

ペロリと舌で美冬の頬を舐めて

「早川たちに、お前の身体を雑巾みたいになるまで蹂躙させるからな。もう死んだ方がましだと思えるくらいにな」

「は、はい。だ、誰にも言いません」

美冬が歯根が会わないほど、ガタガタ震えながら頷いた。



「遅いよー、美冬。早く食事作れよ」と夏芽。

「もう。遅い食事は美容に悪いんだからね」と秋菜。

「また、しばらく世話になるよ。とりあえずメシね」と小春。


自宅に帰り着いた美冬を舞っていたのは、三人の姉たちの食事の催促だった。


「うん、ごめん、急いで準備するよ」

(この姉たちに、相談しても仕方がないか……)


美冬は淳子たちにお金を取られ脅されたショックな気持ちを切り替え、健気に夕食の準備を始める。

誰一人も準備を手伝おうという者はいない。主婦の小春でさえも台所に来ない。それでも気弱で主張が苦手な美冬は姉たちに何も言えなかった。


(な、情けない。私って、どうしてこんななのかな)


まな板でタマネギを包丁で刻みながら、美冬は自然と涙が溢れるのが止まらなかった。


とその時だった。

部屋のどこからか、『ドン』という大きな物が落ちたような音が聞こえた。


「何、今の?」と夏芽。

「何だろう? 浴室からじゃない?」と秋菜。

「み、美冬。ちょっと見ておいで」と小春が命令する。

「そうね、ち、ちょうど手に包丁もってるし」

 と夏芽が美冬を背中を押す。


「え? ちょっと、夏芽姉ちゃん、押さないでよ」

「いいから、早く、ほら、一、二、一、二」


夏芽たちは、小春の小柄な体に隠れるようにして浴室に向かった。

皆を様子を伺うが、特に異常はない。だとするとあとは浴室しかない。 


「ほ、ほら、浴室のドアをあけてみて」

「わ、わかったから、もう、押さないで。小春姉ちゃん」


美冬は息を一回吸い込み深呼吸をする。

そして、包丁を片手に浴室のドアを空けてそっと覗く。

特に異常はないようだ……。


いや違う。

あ、あれは何だ?

浴槽に入っている肌色の塊は何?? 


若い男? 少年? し、しかも全裸だ。浴槽に膝をかかえたように丸く収まっている。 

男の肌には激しい傷跡とポツポツと血の跡が見える?

怪我をしているのか?


というか、いつ入ったきたの? この人? 

あのドンという音はいったい何だったのか?

この男が鳴らした音だったのか?


「何? 何があるのよ? 美冬」


秋菜が後ろから聞いてくる。


「よ、よ、浴槽に、お、男の、は、裸の人が……」

美冬が後に隠れている三人の姉に見たことを伝える。


「お、男?、は、裸?」

小春が素っ頓狂な声を出す。


もう一度を確認しようと浴室に一歩踏み込んだ美冬の前で、

浴槽からユラーリとその裸の男が立ち上がる。


「あ、あわわ……」

美冬は腰が抜けるかと思った。


後ろの三人が美冬の背中を押して四人姉妹が全員が浴室に雪崩れ込む。


四人の姉妹の目の前には、浴槽の中でフラフラと立ち上がった傷だらけの長身の男がいた。端正な顔つきの美男子だ。頭痛がひどいのか頭を抑えている。

だが、特に真っ先に目に飛び込んできたのは彼の股間にぶら下がったモノだった。


「やだ」目を思わず覆い隠す美冬。

一方、しっかりと目を見開いて、ジツとその大きさと色と形を確かめる姉三人。


「こ、ここは、どこなんでしょうか? 

 あ、あなたがたは誰ですか?」

男は四姉妹に訊いてきた。


「……」

あんたこそ誰なんだよ、と聞き返したい所だが、あまりのことに誰も答えられないでいると男は別な質問をしてきた。


「ぼ、僕は、いったい誰なんでしょうか?」


四姉妹は、その言葉に互いに顔を見合わせるのだった。

 

 







すいません。連載を短編で登録して消すに消せません。

連載小説の同じタイトルがありますので

そちらをごらん下さい。


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