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世界征服エンダール -異世界災厄転生記-  作者: 葵大和
第三章 【独立都市:迷宮都市サリューン】
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43話 「エロに奔放な鴉と水国からの手紙」

 次の日。

 清々しい朝だった。

 そしてカーテンをめくって窓を開けたら――


「あっ! エイラさん! こんちはっす!」


 窓に見知った顔が張り付いていた。


 ――くっそぉ、なんでこのまま清々しい朝日を拝ませてくれないんだ。どいつもこいつも!


◆◆◆


 そいつは女だった。

 ちょっとシャルルに似ている鳥人系種族の娘。

 身軽そうな印象はそのとおりだが、シャルルと比べると少し活発の方向性が違う感じだ。

 悪戯好きそう、って方向で合っているだろう。

 彼女は〈鴉人族〉という人の身体に鴉の黒い翼を持った少女だった。


「エイラさーん、開けてくださいよぉー」


 そんな少女が愛嬌のある顔をにっこりと笑みに彩って、ばんばんと部屋の窓を叩いている。――落ち着け。


「はあ……」


 このまま窓を叩かれると他の宿泊客に迷惑だ。

 俺はそう思って窓を開けた。


「ちはっす! おつかれさまです!」

「なんだよ、レナ。こんな朝っぱらから――」

「手紙っすよ、手紙! エリオット様から〈神庭協団〉の近況報告書をあずかってきたっす!」


 そういって鴉人の少女――レナは、窓から勢いよく俺の部屋に入ってきた。

 飛翔の勢いがあまって俺に激突し、押し倒される。

 当のレナは俺を押し倒しながら、キャッキャと楽しげに笑っているが、俺としてあまり良い態勢ではない。

 早くそこをどきたまえ。


「このまま一発ヤっちゃいます? エイラさんご無沙汰っしょ?」

「なにいってんだおめえ」

「なにって、ナニの話っすよ!」


 キャピキャピしながらレナが俺の上に(またが)る。

 非常によろしくない見栄えだ。

 ヴァネッサが見れば喜びそうな絵柄である。

 レナが愛嬌のある美少女なだけに、俺の精神にまたよろしくない。


「ねー、いいでしょー? あれ、エイラさん童貞でしたっけ?」

「……」

「あれっ!? そうでしたっけ!?」

「それ以上さえずって見ろ、くちばしポキってするぞ」


 レナにくちばしはないが、これは例えだ。

 そのぷるんとした唇をつねることくらいはできる。


「えー、じゃあ初めてをわたしにくださいよー」


 一方的に攻められている。そろそろどうにかしなければ。


「いいからエリオットからの手紙をよこせ。そして渡して帰れ。――腰を上下に振るんじゃない!」


 甘えるようにすり寄ってくるレナの顔を手で押さえ、もうレナが片方の手に持っていた封筒を奪い取る。

 分厚いなこれ。

 どんだけ中に報告書が……


「あ、それ二十枚入ってますけど、うち十八枚はエリオット様のエッセイと、あとエイラさんに送る情念の歌らしいです。エイラさんへの思いが――」


 よし、その十八枚は〈赤炎〉で燃やそう。


「結構エイラさん探すの苦労したんすよー? エリオット様に『たぶんサリューンにいるから』って漠然とお願いされて、こうしてピューンと空を飛んできたんすけど、結構疲れました。疲れたなあ、わたし、頑張ったなあー」


 わざとらしい猫撫で声に、俺はしぶしぶレナの頭を撫でておいた。

 巻き毛掛かった黒髪が手に絡まる。

 「もっと、もっと!」と身体を震わすレナをよそ目に、俺は片手で封筒を開けた。


「……くそっ、マジで十八枚エッセイと変な詩かよっ!」

「だから言ったじゃないっすかー」


 あいつこんなことしてる暇あるのかよ。超人の無駄遣いだろ。


「はあ……、まあいいや。あとで見るわ。これ返事必要?」

「いや、報告書だから特には、って言ってました。でも次向かう場所は教えておいて欲しいって、エリオット様が真面目な顔で言ってましたよ」

「ああ、そこはな」


 迷宮都市サリューンに向かうことは、あらかじめ手紙で伝えておいた。

 イゾルデと桜国から迷宮都市へ向かう途中に、空輸系の郵便屋とすれ違ったので、そこで軽く書きとめて送った。

 それに対する返答はこのレナが送ってきてくれたのだ。

 レナは水国と火国周辺を縄張りに、一人で郵便屋を営んでいる少女だ。

 それをエリオットとグスタフが雇って、〈神庭協団〉専属に近い郵便屋になっている。

 俺も水国で付き合いがあったから、顔見知りというわけだ。


「次は樹国だ。そう伝えておいてくれよ」

「樹国っすかー。樹精に受精させる感じっすか? ――なんて」


 おめえの思考回路はヴァネッサと同レベルだな。

 いやいっそヴァネッサよりひどい。


 レナもややエロに奔放系な性格だが、見た目が可憐な少女なだけに、そのギャップがまたこう、変人度をあげている気がする。


「今のツッコんだ方がよかった?」

「えっ!? 突っ込んでくれるんすか!?」


 なんかニュアンスが違う気がするなぁ……。

 『かもん! かもん!』そういってまた俺の上で騒ぎ出したレナを、さすがにそろそろどかす。

 首根っこを片手でつかんで、ひょいと持ち上げた。


「扱い雑じゃないっすか?」

「お前自分から雑になりにきてることを理解しろよ」

「雑な女にはなりたくねっす!」

「会話が成り立たねえ」


 俺の周りこういうの多いな。

 類が友を呼んでしまっているのか。

 俺が原因か!?


「ほら、そろそろ行け。他の仕事も頼まれてるんだろう?」


 俺はレナが肩掛けにしているショルダーバッグを見つめて、そのバッグの中にまだいくつもの手紙や封筒が入っているのに気付いた。


「そうなんすよねえ。水国と火国間でもいろいろ運ばなきゃいけないもんあるんすけど、桜国にも送るもんがあって」

「へえ、珍しいな」


 水国と火国という国家的に隣り合う領域を縄張りにしているレナが、そうして他の国まで郵便をすることは珍しい。


「なんでも、エリオット様が桜国騎士団とも連携することに決めたらしいっすよ。〈神庭協団:桜国支部〉ができるらしいっす。その辺の経緯も手紙に書いてあるらしいっす。あ、最後の二枚っすよ?」


 分かってる。今三枚目のエッセイを手元で燃やしたところだ。


「んで、その郵便もわたしの管轄ってことで。お金いっぱいもらってますし、仕事充実してるんでいいんすけど、やっぱたまにはちょっと遠出もしたいっすよね。今回は最優先でエイラさん探しにきたんで、おかげさまで迷宮都市まで飛んでこれて気分転換になりました! 次は樹国っすね! もっと速く飛べるように練習しとくっす!」


 元気な鴉だ。

 ありがたいのは確かなので、また最後に頭を撫でておく。

 『お? ヤるっすか? やっぱりノリノリになってきたっすか? エイラさんならわたしいつでも歓迎っすよ!』黙ってろ。


「あ、やべえ」


 そこでふと、俺は隣の部屋でごそごそ鳴る音に気付いた。

 イゾルデの部屋からだ。

 やばい、イゾルデが起きた。

 この放っておくと淫らな言葉を連発しそうな鴉をこの場においておくのは非常にまずい。


「よし、んじゃそろそろ帰れ」

「えっ!?」


 こういう時に限って潤んだ瞳で可憐にするな。

 いまさら清楚を気取ろうったって騙されねえからな!

 ――しかしこのままこの眼に見つめられるのは正直きつい。――こいつは見た目がずるい。


「あれ、童貞ならサクっと落ちると思ったのに」

「よっしゃあ! 遠投してやるぜ!!」


 俺は左手にレナの頭を持って、右手でへそのあたりを支えて、巨大な槍でも遠投するような体勢を取る。


「えっ!? ちょっ、エイラさん!?」


 恨むなら自分を恨め。――俺のメンタルを淡々と削ろうとする自分の口をな!


「せええええええいッ!!」


 そして俺は、窓目がけてレナを思いっきり投げた。

 レナの身体は窓枠に触れることなくスムーズに外へ投げ出され、そのまま斜め上に飛んで行った。

 数百メートルを凄まじい勢いで直進し、悲鳴がドップラー効果で小さくなっていくのを聞きながら、その行く末を見守る。

 レナはついに勢いが弱まって、空中でバサリと黒翼を開くと、うまく滞空して態勢を整えた。

 そうしてこちらを見て、大きく手を振っている。

 遠くで見えづらいが、楽しげな様相だ。

 まあ、今みたいなことを水国でも頼まれてやってたから、慣れたもんなのだろう。

 そうしてレナは何秒かの間手を振ったあと、そのまま東の方へと飛翔していった。

 大きなグリフォンとすれ違い、そのグリフォンの身体をくるくる回って、その上に手綱を持って乗るグリフォン使いの郵送屋に自分の飛翔テクニックを見せつけたあと、レナは彼方へと飛んで行った。


「最近こんなんばっかだなぁ」


 俺は知らずのうちに笑みを浮かべつつも、そんな言葉を思わずこぼしてしまった。



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『やあ、葵です』
(個人ブログ)
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