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世界征服エンダール -異世界災厄転生記-  作者: 葵大和
第三章 【独立都市:迷宮都市サリューン】
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40話 「二転してまた芋虫」

「ほう、ハクロウは〈黒白戦役(こくびゃくせんえき)〉に参戦していたのか! 私も知っているぞ。あの戦はとかく一気に燃え上がったというな」

「ぬ、ではあの黒白戦役の時に我らを助けてくださったのはあなたでござるか?」

「いや、それは私ではない。私は話を爺様に聞いただけで、直接その場にいたわけではないのだ。力になれなくてすまんな」

「いや、ジャンヌ殿が謝ることではないでござるよ」


 俺とイゾルデとメウセリアが前を歩き、その後ろをハクロウとジャンヌが隣り合って歩いている。

 どうやらハクロウが例の探しているという英雄のことを、ジャンヌに訊いていたらしい。

 だが本人ではないようだ。

 ハクロウは犬顔に少し残念そうな表情を浮かべるが、すぐに笑みを乗せた。

 いやホント、あれ本当に狼だよね? 中に人が入ってたりしないよね?


「ねえ、エイラ。あんたのお姉さんって絶対ちょっと変よね」

「うん、絶対変だよ」


 普通だったら「いやいやそんなことないよぉ」とか否定してもおかしくないが、俺は自信を持って頷ける。あいつは変だ。

 ちなみに俺の背にくっついて俺に天を衝くような崖を登らせたのも、彼女である。


「昔はさ、あれでもかなり貧弱でさ」

「えっ?」

「本当だよ。まあ、英雄にしては、って前置きがあるけど」


 事実だ。

 ジャンヌは今でこそおそらく英雄である兄姉の中で最強だが、十二、三歳までは一番貧弱だった。

 とにかく育つのが遅かったのだ。

 しかし中身はあのままで、傍若無人とまでは言わないが、『我が道を行く、ついでに周りを巻き込んで』というスタンスを取っていたことは確かだ。

 周りというより基本的に巻き込まれるのは俺であったが。


 それが急に育って、しかもえらいハイスペックを呈するようになったのは十四歳くらいの頃か。

 爺さんは「まあ、そうじゃろうな」と納得の体だったが、俺はそんなのほほんとしてもいられない。

 それまでは絡まれても、相対的に貧弱で虚弱であったから、無理難題を聞くことさえクリアすればなにも問題はなかった。

 じゃれられても――いやあっちのが年上なんだけどさ――適当にいなしておくことができた。


 だがスペックがあがってからはそんなこと言ってられない。

 さっきもそうだが、俺の身体でさえジャンヌの力に悲鳴をあげるのだ。

 俺の肉体が傷にやたら強くなったのは、ジャンヌのおかげでもある。

 おかげというと無条件で良いみたいだからアレだが、ともかく、俺の骨をガッツリ折ったランキング一位はジャンヌだ。

 手合わせの際に手を抜かないのもジャンヌの特徴で、騎士道精神というか、なんというか。

 『手を抜いたら許さないからな!』みたいなおっかないことを最初はよく言っていた。

 それでもまあ、俺に紫炎を要求しなかったから、彼女なりに考えてはいたのだろう。

 そうして彼女は俺の骨をポキポキやって、終わった後に泣きながら謝りに来るまでが日常だった。

 良くも悪くも真っ直ぐすぎるのだ。


「なんか遠い目をしてるけど、大丈夫……?」

「昔を思い出して痛みの記憶がな……」

「兄さんかなり折られてましたからね……」

「えっ? 折られて? なにを?」

「身体と心をな……」


 メウセリアが相槌を打ってくれたので、するりと会話が進んだ。


「えっと、メウ君だっけ?」


 するとイゾルデの感心がそのメウセリアに向いた。

 メウセリアはイゾルデに爽やかな笑みを見せ、快活に答える。


「はい! メウセリアです! ちゃんと挨拶ができませんでしたね、すみません」


 軽く頭を下げるメウセリアからは、苦労人のオーラが噴き出しているように見えた。

 ジャンヌの付き人というステータスのせいでもあるのだろうけど、なんかこう、日々の接待に疲れた下っ端会社員みたいな空気が……。

 俺は前世の記憶を援用しながらそんな姿をメウに重ねた。


「あの、失礼かもしれないけど、メウ君って何歳?」


 イゾルデが訊く。その話しぶりは自分より圧倒的に年下の少年に接するようなもので、俺はイゾルデがメウの年齢を実年齢よりはるかに下に見ていることを察知した。


「はい! 十六歳です!」


 『メウセリア十歳です!』まではギリギリ許されると思う。


「えっ!?」


 ほらみろ。目が真ん丸だ。


「知ってました……知ってましたよ……みんなそういう目で僕を見ますからね……」


 結構ダメージ負ってる。メウも実は気にしているのだろうか。

 対応はしっかりしているし、話す雰囲気は大人と相違ない。

 礼儀正しいし、加えて抜け目もない方だ。

 ――であるが、やはりそのルックスがネックになって、メウは年下にみられる。

 そうなると礼儀正しさも信用の顕れというより、愛嬌の一種に変わる。


「いいじゃん、年下好を落とせよ」


 年下好きじゃすまねえな……。ショタコンかな……。


「兄さんっ!」


 怒られた。

 するとまたイゾルデがメウに言う。


「あの、またちょっと失礼かもしれないけど、メウ君ってその……死霊転生者……なんだよね?」


 失礼と思いつつガンガン訊きやがるな。商人パワーか。


「はい、そうです。僕は術式で転生した死霊転生者です。お爺さんが親みたいなものですね」


 イゾルデには俺たちが一人の爺さんによって育てられたことを言ってあるから、今の言葉も伝わっているだろう。


「初めて見るわ、死霊転生者」

「そうですか? たまに僕以外にもいますよ? まあ、死霊転生もかなり魂の資質に影響されますから、みんながみんな転生できるわけじゃないんですけどね」

「そうなんだ」

「はい。基本的に生前長生きした人は転生できません。理由はわかりませんが、まあ、『世界の摂理』ってやつでしょう。死霊転生がうまく合致するのは生前二十歳前後までに死んだ者で、さらに死霊術に適性のある者だけと言います。死霊転生術の事象式や変数式が、魂に刻まれている存在式に適合すると――」

「あ、あの、私術師じゃないからそこらへん言われても分からないかも……」

「あっ、すみません! つい熱くなってしまって……」


 メウセリアが恥ずかしそうに頭を掻いている。

 メウセリアは伝説の武具だとかなんとかも好きだが、このように術式系も好む。

 どちらにも造詣が深い。

 しかし、メウセリア本人には術師としての適性があまりない。それでもその知識は十分に俺たちの助けになってくれている。


「死霊転生者って生前と何か変わったりするの?」


 イゾルデがまた訊ねる。なかなか好奇心旺盛だ。


「はい。死霊転生者は痛みに強かったり、身体が丈夫だったりします。身体が丈夫、というと少し語弊があるかもしれません。精確には『死に慣れる』んです。二度目の生を受けるとき、その身体は自分の魂によって生成されますが、その際に魂が死の記憶をもとに身体を変容させます。だから、生前病によって苦しんで死ねば病に強くなりますし、同じ原理で傷によって死ねば傷に強くなります。まあ、通説ではありますが」

「へえー、なるほど、なるほど。メウ君の説明分かりやすいわね。エイラだと的を射ないことあるし。あと面倒がって端折(はしょ)ることもあるし」


 悪かったな。


「ふふっ、エイラ兄さんは昔からそうですよ」


 メウセリアが楽しげに言った。

 イゾルデはさらにメウセリアに何か訊ねると思っていたが、俺の予想とは裏腹にそこで質問は途切れた。

 メウセリアがどういう前世を経て、そしてどういう理由で二度目の生を受けたのか、そこまで訊くと思った。しかし彼女は訊かなかった。

 察しがいいというか、なんというか。

 そこまで踏み込むべきではないと、たぶん彼女は判断したのだ。

 メウもメウで、それに気づいて、それでいてイゾルデの対応に好感を得ているようだった。

 メウはこんな礼儀正しい好少年でも、なんだかんだと警戒心が強い。

 抜け目ないとはそういうことだ。

 メウは心を許しているように見えて、相手への疑いの観察を決してすぐにはやめない。そういう意味でもこいつは優秀だ。

 ジャンヌの隣に一番いて欲しい人材でもある。


 さて、そんなことを考えていたら、シャルルにオススメされた例の飯屋が見えてきた。


「また芋虫かぁ……」


 イゾルデがうな垂れている。

 見た目はあれだけどおいしかったじゃん。――ホント見た目はあれだけど。


「別の頼んでみれば?」


 俺は青光芋虫にチャレンジするぞ。


「他のメニュー見たんだけど、他も虫系だったのよね……こう、足がいっぱいある系とか……」


 俺絶対芋虫にするわ。



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『やあ、葵です』
(個人ブログ)
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