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世界征服エンダール -異世界災厄転生記-  作者: 葵大和
第三章 【独立都市:迷宮都市サリューン】
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18話 「白狼の奇癖と猫の習性」

 迷宮地層に降り立って一時間ほど。

 緩やかな斜め下への洞窟経路を進みながら、いくらかの分岐点を越え、ようやく未踏らしい場所へとたどり着いた。


「ふおおおっ! こ、これは未知の鉱石の宝箱ではないか!」


 あの狼のテンションがやや怖い。


 ハクロウは歓喜の声をあげていた。

 ちょっとした空洞に歩み出てみると、その外壁には色とりどりに煌めく鉱石群があった。

 煌々として探索者のロマンを刺激する未知の鉱石たちだ。

 ハクロウは犬が穴を掘るかのように、床下の鉱石を前脚を使って掘り出している。

 完全に犬だ、あれ。


「す、すごい勢いですね。それと鉱石を道具を使わずに掘り出すなんて……ボク一応ピッケルも持ってきたんですけど……」


 俺の隣でシャルルが少し肩を落としていた。


「あの白い狼ホントに狼なのか怪しいよな」


 かくいう俺は、そんなハクロウのなんでもありっぷりに慣れてきてしまった。

 あの白い狼が普通の狼でないことにはすでに確信があって、でもだからといってどんな狼なのかも分からないから、あえて断言せずにいる。

 いずれ訊いてみよう。

 そんなことを考えていると、尻尾を横に振りながら鉱床を掘っているハクロウに、シャルルがまた声を飛ばしていた。


「ハクロウさん、鉱石いっぱい持っていきたくなるかもしれませんが、珍しいだけで特別有用ではない鉱石もありますから、帰り道のことも考えていくつかを選んでくださいね」

「うむ! うむ! 分かっているでござる! 大丈夫! 我はこれでもそれなりに鉱石の知識はある! ふおおお! これも見たことがない鉱石でござるな!」


 あれ大丈夫かよ。

 「ふおおお」って言いながら弾けたりしないよな。パーンって。


「やれやれだな」


 ついつい演技ぶった仕草で言いたくなって、俺はシャルルに見えるように腕を開いて苦笑して見せた。


「ふふ、でもハクロウさんが嬉しがってるのって犬みたいでかわいいですよね――あっ、犬みたいって失礼でしょうか……」

「いや、どう見たって餌を前に興奮してる犬にしか見えないからそれでいいとおもうよ」


 ハクロウはハクロウで、別段それに怒ったりはしないだろう。

 あの狼は臨戦態勢に入ると野生の獣の如く恐ろしいが、普段は飼われた愛玩動物のように朗らかだ。

 シャルルは左右に振られるハクロウの尻尾を見て、少しうずうずとしていた。

 猫の習性だろうか。


 猫耳がピクピクしてる。


 やっぱり猫の習性だろう。

 今にもあの白い尻尾に跳びかからんとしているようだ。


「あっ、ボ、ボクはちょっと辺りを見てきますね」


 すると、シャルルが自分を制するように、視線をハクロウの尻尾から切って、踵を返した。

 きっと我慢できなくなる間際だったのだろう。

 少し頬が上気していて、こういうのもあれだが、それが艶やかだった。

 しっとりとした灰色の巻き毛を揺らし、シャルルがさらに一歩を進む。


「俺も行くよ」

「えっ!? そ、そうですか!?」

「ハクロウなら一人でも大丈夫だと思うし、ここから動こうともしないだろうから」


 あの白い犬はきっと何時間でもそこで鉱石を掘り当て続けるだろう。

 加えて、迷宮生物がいてもハクロウに関しては問題なさそうだ。

 当初からただ者じゃないとは思っていたけど、ここまでの道のりを共にすることでその思いが確信に変わった。

 この場合、かえってシャルルを一人にすることの方が危ない気がした。

 これは勘だ。

 勘だが、超絶的にそういう勘が利く英雄たちと共に育ってきた俺の勘でもある。


 シャルルは俺の付き添いの言葉に、少し驚いたように身体をビクリと反応させるが、


「じゃ、じゃあお願いしてもいいでしょうか」


 すぐさま頭を下げて言ってきた。

 最初から自分に交戦力がないと言うくらいであるから、その点については謙虚な姿勢を取れるのだろう。

 加えて言えば、命を懸けて迷宮に潜る探索者であるゆえに、危難の判断に関しては合理的なのかもしれない。

 実に良いことだと思う。


 もじもじとして俺の言葉を待っているシャルルに、俺はすぐに頷きを返した。


「こちらこそ、シャルルに守ってもらっている身だからね。――お願いします」


 別にへりくだっているわけではない。正直な思いである。

 俺は今現在、シャルルに守られているといっても過言ではない。

 というのも、シャルルが迷宮大変動に対する勘を持つからだ。

 耐久性の高い俺の身体と言えど、迷宮大変動に巻き込まれて地層に押し潰されればただではすむまい。

 だから、迷宮大変動には少なからず恐怖を抱いている。

 どんなに死にづらいとは言っても、やはり死への恐怖は生物である以上持っているのだ。

 シャルルは俺の隣にいてくれることで、俺を死の恐怖から遠ざけてくれている。

 

「じゃ、行きましょう、エイラさん」

「うん」


 ふとシャルルに手を取られて、俺は前への一歩を踏んだ。


「ハクロウ! 少し周りを見て来るから、そこで鉱石探してていいぞ!」

「合点でござる!」


 振り向きながら言うと、ハクロウが尻尾で返事をするのが見えた。


◆◆◆


 周囲の洞窟壁に観察の視線を入れながら、シャルルと歩く。

 紫色の粒粒が光っている鉱石群とか、緑色に光る鉱石だとか、いろいろなものが目に映るが、特段になにこれすごそう、ってものは見当たらない。


「ここらへん、宝石とかは多そうなんですけど、鍛冶に使えそうな特殊はあまりありませんね」

「シャルルは宝石とか興味ないの?」

「ボクですか?」


 シャルルが小首を傾げて見せた。


「探索者としてはそこまで、って感じです。宝石は迷宮じゃなくても取れますから。それに産出量も結構ありますし、迷宮都市で売る分にはあまり効率的じゃない気がします」

「なるほど。そりゃあ希少性がなければ価値もあがらないか」

「そんなところです。あと女としても、あまり興味はありません。確かに綺麗ですけど、実用性を考えると他の鉱石で代用した方がずっと便利ですし。――もっと大人になったら、宝石を身につけることに憧れるようになるのでしょうか」


 シャルルはそのままでいいよ。

 純朴な感じがすごくいいよ。


「シャルルならどんな宝石を身に着けても似合うと思うけどね」


 中間の個人的願望はあえて言葉にせずに、その部分だけを俺は言葉にした。

 双極する言葉であるが、しかしどちらも本心である。


「そっ、そうですか? 本当ですか? なんだかボク、うまいことエイラさんにおだてられてませんか?」

「俺はお世辞が下手だから、それらしく気取った言葉が出たら本心だよ」

「あ、イゾルデさんも『エイラはお世辞が下手』って言ってました」


 フフ、理解が早くて嬉しいような、哀しいような。

 少しもお世辞スキルをあげておこうと心に決めた。


「――そうですか。なんだか嬉しいです。ちょっと、女として扱われたみたいで――」


 なにを言っているんだ、シャルルほど男の心を巧妙にくすぐる女はいない。

 思考を飛躍させて「結婚したい」と思わせる者を女扱いせずに、はたしてなにを女扱いするべきなのか。

 シャルルは「えへへ」と頭を掻きながら頬を朱に染めて笑った。


「エイラさんは旅をしてるんですよね。やっぱりいろんな国にお友達とか、その――恋人さんとか、いるものなんですか?」


 偏見だ。

 友達はともかく、「俺世界中の港に待たせてる女がいるんだ」なんてプレイボーイな感じを想像したならば、それは旅人に対する偏見だ。

 シャルルはもじもじしながらこちらの顔を覗き込んできて、答えを待っていた。

 頬は朱に染まったままだ。きっと自分で言いながら、少し恥ずかしくなったのだろう。


「友人は少しもいるけど、恋人なんかいないよ。そもそも旅を始めたばっかりだし」


 モテないし、とは言わんぞ!


「――イゾルデさんは?」

「イゾルデは――不慮の事故があって旅の供をすることになったんだ。ああ、俺が悪くてね。それでまあ、桜国からちょろっと一緒に旅をしてきたんだけど」

「そうなんですか。じゃあ、まだ出会ってからあんまり時間が経ってないんですね」

「そうだよ」

「なんだかとても仲が良さそうだったので、もっと長い付き合いなのかと思いました」

「そっか。俺もイゾルデもあんまり体裁を取り繕わないから、それがうまく合致したんじゃないかな。お互いに結構フランクだし、一時の付き合いだし、まあいっか、みたいな感じで」

「ふふ、それはちょっと違うと思いますけど、まだそのままの方が面白いので、あえて言わずにおきます」


 一体何を予想したのだろうか。

 確信的な物言いをするシャルルを見て、俺は思わず首を傾げてしまった。


「ボクも最初は旅人になりたかったんですよ」


 するとシャルルが話題を転換してきて、俺もそれに付き合うことにする。


「へえ。でも今は迷宮探索者?」

「そうです。少し汚い話をすると、まあ単純に、お金が足りなくてですね。旅をするにも初期資金が必要かなって思って、近場にあった迷宮にためしに潜ってみたら、これが楽しくなってしまって」

「期せずして天職を見つけちゃった感じか」

「天職と言えるほど自分が優れているとは思いませんが、個人的な思いはそれに近いです。でも実はまだ旅への憧憬もないわけじゃなくて、機会があったらやっぱり外の世界を回ってみたいと思ってます。今はいろいろ、『略奪者』とかの問題があるから、機会を見つける余裕もないんですけど、そのあたりに区切りをつけたら旅をしてみてもいいかな、って」

「いいじゃん。すごく面白そうな話だ。かくいう俺も、そういう『なんともなく世界を見て回りたい』って気持ちがあったりするから、共感するよ」

「ふふ、気が合いますね、ボクたち」


 またシャルルが笑った。

 綺麗な顔に涼やかな笑みが映って、俺の心をつついてくる。

 笑み一つでこちらの心を癒してくるとは、いよいよもってシャルルの攻撃力の上昇に俺の理性の力が追い付けなくなってきた。気をしっかり持たねば堕落してしまいそうだ。


「そうだね。じゃあ、『略奪者』の件もうまく解決できるよう祈っているよ」


 少し他人行儀になりつつも、そう言っておく。

 シャルルは探索者として略奪者問題をどうにかしようとしている。

 区切りをつける、というくらいだから、自分の力でなんとかしようとしているのだ。

 そこへ横から介入してどうこうするほど、俺はまだシャルルの心に踏み込めはしない。

 ただ、それでも、


 俺は俺で、自分の目的のために略奪者問題をどうにかしようと考えている。


 だから、シャルルの意気に手は加えないが、かといって略奪者問題にまで首を突っ込まないという確約はしない。

 英雄が呼び出されるほどの災厄。それが起こり得る要因に、略奪者問題がなりつつある。

 だから――


 どっちが早いか、勝負だな。


「エイラさんに応援されたのでなんとかなりそうな気がしてきました」

「なかなか都合の良い考え方をするじゃないか。たくましいかぎりだ」

「伊達に何年も探索者してませんからね!」


 シャルルが一歩前に先んでて、俺の目の前でくるりと身体を回して見せた。

 シャルルの灰色の尻尾が舞って、淡い軌跡を残していく。

 回ったあとのシャルルはこちらを見つめて、楽しそうに笑って見せた。


「頼りにしてるよ、シャルル」

「はい!」


 彼女の快活な笑みは、特にやましいところのない俺にとっても、眩しすぎるものだった。



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『やあ、葵です』
(個人ブログ)
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