それは地雷職
本とネットブック、ベッドと、生活するのに最低限の物しか置かれていなかった部屋に、購入したVR設備一式が仰々しく設置されている。
「さて、と。まずは」
蓮は呟きながら、早速VRを・・・とは行かず、缶コーヒーを片手にネットブックを起動しながら腰を落ち着ける。
実際、一刻も早く仮想世界の本を手にし、思う存分に読みふけってみたい。
だが、それ以上に大事なのは、その先にある世界がネットゲームであり、そこには蓮以外の人物、プレイヤー達がゲームを楽しむ世界だと言う事だ。
ゲームであろうと人付き合いが発生する以上、最低限の常識は必要であるし、余計な軋みを生むような真似をすれば、その世界に居辛くなる事は間違いない。
そこで、蓮はCoHOの世界をそこそこ調べる傍ら、某巨大掲示板にアクセスし、慣れないながらも目的のスレッドを発見する。
-【CoHo】地雷職・地雷PC検証スレ【核地雷】-
そう銘打たれたスレッドを開き、じっくりと中を検証していく。
そう、蓮にとってはゲームとしてのCoHOには興味が無い。余計な軋みを生まず他PCから干渉を受けないプレイを楽しむのならば、CoHOの中で絶対にパーティに誘われないようなキャラクターを作ればよい、それが結論だった。
そうして地雷職まとめwikiまで参照して蓮は結論を出した。
彼の要件に最も良く合致するキャラクターが『聖女』であると。
さて、ここでCoHOでのキャラクタークリエイトのルールを説明しよう。
このゲームでキャラクターの能力・性能に直結する設定は、性別、メインクラス、サブクラスの三つだ。
外見と同じく、一度決めれば二度と変更できない設定であり、変更したいならばお金を払いキャラクター削除を行うか、キャラクター枠の増設(しかも月額費用に加算される)しか手段が無かった。
そういう意味で、キャラクター作成は慎重を要するものであり、だからこそ地雷職なる「駄目キャラクター」は、その時点で取り返しのつかないペナルティを抱えることになる。
・・・もちろん、そういった融通の聞かない部分が蓮にとっては好都合であるのだが。
では三つの設定の詳細を説明しよう。
まずは性別。
これは簡単で、外見のほか、キャラクターの大まかな能力値の傾向が決定される。つまりは、男なら頑強で、女なら華奢であると。代わりに魔法を扱う魔力においては、威力・総容量共に女性に軍配があがるようになっている。
つまりは、戦士職ならば男性が、魔法職ならば女性が有利なのである。
そして、メインクラスとサブクラス。
それは主要6クラス、戦士・モンク・盗賊・黒魔法使い、白魔法使い、精霊使いとなる。これに性別を組み合わせた72種がこのゲームでのキャラクタークラスの全てとなる。
戦士・戦士・男であれば、ベルセルク(狂戦士)
戦士・戦士・女であれば、アマゾネス
戦士・白魔法使い・男であれば、ナイト
白魔法使い・戦士・男であれば、クルセイダー
語れば長くなるが、以上のように大量の選択肢がある。
また、ナイトとクルセイダーがどう違うのかといえば、重装と盾を身につけパーティの盾となる役割は一緒だが、物理防御・自己回復魔法に特化したナイトと、魔法防御・他者回復魔法に特化したクルセイダーと結構個性がでるようになっている。
強力な物理攻撃を持つボス相手にはナイト、魔法使いなど範囲攻撃を行ってくる相手にはクルセイダーが有利とされている。
・・・まあもちろん、それは有利不利程度の差ではあるのだが。
さて、ここまでの説明の上で『聖女』とはどのようなクラスかと言うと。
白魔法使い・白魔法使い・女といった組み合わせである。
魔力に優れ、他のクラスを寄せ付けないほどの回復魔法の威力を誇り、超広範囲の全体回復魔法、そして唯一このクラスのみが蘇生魔法を持つといった、まさに回復職の花形といっていいクラスである。
ここまで説明して、何故聖女が地雷職と呼ばれるのか理解できない方もいるかとは思う。
だが、CoHOのシステムを思い出して欲しい、このゲームの敵は『ヒーラー相当のキャラクターを最優先撃破』するようになっている。強力な回復魔法を使えば使うほど、敵キャラクターは聖女を攻撃対象とする。強力すぎる回復魔法は容易にオーバーヒール(過剰回復)となり、そして全クラス再弱ともいえる紙装甲、体力により流れ弾一つで簡単に聖女は死んでしまう。
パーティ維持に最も重要なヒーラーが真っ先に死ぬ様では、まさに地雷職と呼ぶに相応しいものであった。
そして蘇生魔法についても、かなりの高レベルにならなければ取得できない上に、ゲームに設定されたタウンポータル魔法(街への転移)を利用すれば街で復活→パーティに合流が戦闘時以外という条件の上ではあるが容易にできてしまうため、その存在意義を殆ど失ってしまっていた。
まあ、そういう訳で、初心者は名前の響きとスキル内容から聖女を選ぶプレイヤーはそれはそれは大勢居たのだが、数日のうちに別キャラクターを作り直して出直す、というのがこのゲームでの日常風景となっていた。
さて、長くなったがそういう理由で聖女は、地雷職の名のとおりパーティには決して誘われない・・・つまりは蓮にとって最も都合のよいキャラクターとなっていたのである。
そう結論が出たならば、蓮の行動は早かった。
すぐさまVRを起動し、CoHOを立ち上げると、プレイヤーキャラクター作成画面で、名前をレン、クラスを聖女に設定すると、外見等他設定は全部ランダム設定にし、CoHOの世界に飛び込んだ。
その先に彼を待っているであろう、大量の本達に出合うために。
そう、満面の笑みを浮かべレンは降臨した。
英雄達の集う、仮想世界の広大な大地へと
されど彼は知らなかった。
製作者のお遊びで、ランダムクリエイト時にのみある一つの制限が外されていることを。
そして彼は見ていなかった。
大人向け板のCoHOスレッドで-【幼女】CoHO幼女探索スレ【万歳】-なるものが存在している事実を。
そして彼は残念ながら悪い意味で運が良かった。
およそ1%に満たない確率で、キャラクターの年齢制限が15歳(ゲーム内での成人年齢)を下回るが、蓮はそれを引き当ててしまっていた。
そうして彼は、大樹の天使の一歩を踏み出してしまった。
ナイトとクルセイダーの説明がフォートレスとかぶってたんで修正
全然気付きませんでした