CoHO
それは語りかける。
己を救う唯一つの希望へ。
母が想う懐かしき存在へ。
奇跡の顕現であった『彼女』を超える癒しの神子へ。
その、残った僅かな力を持って、必死に語りかける。
『オネガイ・・・ワ、私の下へ・・・来て』
そしてそれは届いた。
数多の世界にて、ただ一人存在する『聖女』の下へ。
「どうかした、レンちゃん?」
「あっちに・・・誰かが居る?」
***
彼、露天商は欲望に忠実であった。
幼女をこよなく愛し『YesロリータNoタッチ』を合言葉に、ひたすら可愛いNPCを観察するロリコンの鑑たる漢であった。そんな彼であるからこそ、確率が生んだ奇跡の顕現たるレンの存在は何者にも変えがたい代物であった。
「この先に、レンきゅんの艶姿が・・・その穢れの無いスジが!!」
一つ訂正しよう。
彼は『触りさえしなければ何でもOK』な、悪い見本である。
「絶対に、貴方は通すなと指示がでておりますので」
対するはラミア。
そのシルクに『苛めて貰うため』に丹精込めて作り上げた抜群のプロポーションを布で申し訳程度に隠した格好で、露天商の前に立つ。
「生産メインとはいえ、クノイチに腕力で負けるわけにはいかんぞ」
「いくら力があろうとも、あたらなければ問題ありません」
二人は不適に笑い、小さく構えを取る。
「じゃあ、レンきゅんのために無理やりに通らせてもらう」
「では、レン様とシルク様のため、全力で無力化させてもらいます」
そうして二人が動くと同時に、場の全ての英雄が戦闘を開始した。
***
彼、スカーは恍惚の極みにあった。
目にも留まらぬ速度で動き、スキルの恩恵無しで城門を破壊する常軌を逸した怪力。彼が為しえなかったドラゴンの鱗すらも力のみで切り裂くであろうその存在に惚れた。
そんな彼が今、その身一つを持って彼女と力を競い合っている。
「素手でダンジョンの壁砕くとか、姉ちゃんすげえなっ」
スキュラの腕が空ぶると同時に砕け散るダンジョンの岩壁。
その身に食らえばどうなるかと恐怖するそれより前に、スカーの身を喜びが駆け抜ける。
「あんたもスキルの使い方が上手いわよ。この拳、一発でもあたってくれれば終わりなんだけどね」
対するスキュラは微笑を浮かべたまま。
その引き締まった身体を布で隠し、またそれが『普段の格好』よりも露出度が下がっている事が彼女の『普段』の異常さを際立たせている。
「こっちの攻撃すらスキル無しでかわされてるがな」
「でもまあ、一つ教えてあげるわ」
そうして辺りに破壊を振りまきながらじゃれ合ううちに、スキュラが一つ指を立てる。
「私ね、筋力の極振りビルドなのよ。だからあんたの拳一発で簡単に昏倒するわ」
「条件は同じって訳かい」
二人は微笑み、一旦動きを止める。
「もし、私を昏倒させたらこの布の下、好きにして良いわよ。ヤったら殺すけどね」
「舐めるくらいはOKな訳だ。姉ちゃんの許可有りとなると俄然やる気が出てくるな」
二人は微笑みあい、同時に前へと跳躍した。
***
彼、ジミーは変態である。
幼女をこよなく愛し、その幼き秘口を己が剛直で貫くことを夢見る救いようの無い変態である。
「あぁ、愛しのレンちゃん。もう少しで君の下へ辿り着けるよ」
自らの身体を抱きしめながら、下半身にそそり立つ『それ』を隠そうともせず妄想世界にダイブする彼は、顔面に向かって飛来する火球を危なげなく回避しながら、前に立つ彼女へと視線を送る。
「貴方、私と同じ匂いがしますっ!!」
「ふふふっ、君も仲間かい?確かに同類の匂いがするよ」
対するカオリは敵意を隠そうともせずにジミーを睨み付ける。
火力職と支援職。互いに肉弾戦を得意としない双方がぶつかり合えば、火力職であるカオリに軍配が上がる。しかし、それを前提としてもカオリに余裕の色は無い。
「でも、女である君にはレンちゃんを本当の意味で味わうことは出来ない」
「くっ、道具は邪道だってこと位私も分ってるわっ!!」
余裕を見せるジミーに、辛そうに顔を顰めるカオリ。
レンが聞けば全速力で地平の彼方へ逃げ出すような内容を、二人は当然のように語り合っている。
「でっ、でもっ!!私はもうBは終わらせてるわよ!!レンちゃんのサクランボは美味しかったわ」
「くうっ、す、既にそこまでっ!!流石は我がライバル、油断できない」
しかし反撃とばかりにカオリが宣言すれば、今度はジミーがダメージを負い地面へ崩れ落ちる。なお、彼ら二人が邂逅したのは、当然ながらここが始めてであり、決して以前からのライバルではない。
「ふっふっふっ、女同士だからこその裸の付き合い。決して男である貴方には不可能ねっ!!」
「だがしかし、聖女教団には巨大な図書館がある!!ラルクから収集した情報と教団の後ろ盾っ!!この二つさえあればレンちゃんの心は僕のモノだ!!」
二人は声を上げ、互いににらみ合う。
攻撃から口撃へとシフトした二人の戦いは、ぽっかりと不気味な空間をあたりに広げながら、延々と続いていた。
***
彼、ロックは苦悩していた。
巻き込まれたとはいえ付き合った攻防戦。PvPを模した戦闘訓練に丁度良いと思えば、目の前には小柄な少女。カニバサミが得意技だったよなあと思い出しつつ、今のお互いの格好ではどういう結果になるかと想定し滝のように汗を流す。
「あ~なんつーかな、やめないか?」
きっと、最悪のタイミングでレンが目撃する。そんな予知ともいえる『最悪の未来』を確信しつつ、ロックは他に相手をする女子が居ないかと視線を送る。
「さすがに大開帳するつもりは無いでありますが?」
対するはミカ。
スキュラやラミアが『女性』であれば、こちらは『少女』ともいえる起伏の少ない体系で胸を張りながら、じりじりとロックとの間合いを詰めていく。
「あ~これでも柔道は段持ちでな、組み技はやめておいたほうがいい」
「それなら安心であります。こちらも警察柔道選手権大会では優勝したことがあるであります」
ピシリ。
そんな音が確かにロックの脳裏に響く。
「け、警察官?」
「そうでありますっ!!毎日睡眠時間を削ってのCoHOは大変だったであります」
敬礼するミカに、ロックは更に後ろに下がる。段を『持っている』程度のロックと、警察官の中での大会で優勝したミカ。体格の差があれども、技術の面でロックが敵うとはとても思えない。
「ちなみに得意技は上四方固めであります!!」
「寝技の中でも一番危険な技じゃねえか!!」
ロックにとって最悪な意味で一番危険な技を得意技と宣言するミカに、思わずロックは突っ込みを入れる。起伏が無いとは言え胸を押し付けるような寝技。柔道着も無しでどこまで出来るのかは不明だが、それが極まった時には別の意味でロックの息の根がとまる。
「アソコが見えるわけじゃないから安心するであります。が、裏技とか言って指を入れたら潰すであります!!」
「何処にとは言わんけど下品だよ、アンタ!!」
叫びながらも逃げ場を探すロック。しかし背後が壁であることに気付き、小さく嘆息する。
「女に暴力ってのは趣味じゃねえ」
「中身は男でありますから気にしないで良いであります」
組み合う覚悟を決めた二人が手を広げ、『試合』が始まった。
***
そうして騒ぎは一区切り。
遊びとも訓練とも取れる騒動の渦中から外れ、物語は動き出す。
そう、異界で迷子となった英雄達の物語が。
***
「若木?」
それは洞窟の奥の奥。
静かに水を湛え何処からか月の光が差し込む小さな空間。そこに、自ら淡い光を放つ小さな小さな若木が存在した。
『そう、私。私が貴女を呼んだの』
場に響くは幼い少女の声。辺りを伺うまでも無くその声の主が若木と認識し、レンとシルクの二人は小さく息を呑む。
「世界樹の・・・若木ね」
「え?」
『そう、大当たり』
シルクの言葉に、レンと声が反応する。
枯れ果てた世界樹。その子とも言える若木がここに有る。
『私が大人になるためには大きな大きな回復魔法が必要なの。沢山の僧侶が沢山の年月をかけて魔法を使って大人になるんだけど、ここに貴女が来た』
世界樹の子は嬉しそうに声を弾ませている。
ダンジョンの奥の奥、そんな場所で回復魔法を使い続けられるモノなど居るはずもない。そんな絶望的な場所に『聖女』が訪れた。
「回復魔法で君は世界樹になれるの?」
『うんっ、そして大人になった私は世界を繋ぐ力を手に入れるの。この世界の何処にでも、そう異世界にでも門を開くことができるの』
そして紡がれる希望の言葉。
召喚されたのならば、帰る方法もある。それを証明する存在の言葉に、レンとシルクが目を輝かせる。
「みんな、帰れるんだ」
「そう、こんな場所に希望があったのね」
『だからお願い、私に協力して?』
そうして英雄達は『目的』を手に入れる。
英雄の解放と
現実への帰還
そのために彼らは、彼女らはこの『世界』の敵となることを覚悟する。
「もちろん協力するわ、小さな世界樹さん」
「よろしくね」
『ありがとう、聖女さま』
この日、国を持たない一つの軍隊が誕生した。
神の祝福を受けた英雄の軍勢たち。
国民は語る。
彼らは不死の軍団だと。
神出鬼没に世界に現出する、幻の軍隊だと。
天を掛ける竜すら狩る、神代の戦士だと。
そして彼らが語ったある単語が、ゆっくりと世界に広がっていき、彼らの軍の名前として定着していった。
そう、Company of Heroesと。
***
『そうそう、帝国にはね、私のお姉ちゃんが居るんだよ』
ここで一旦一区切り。
お付き合い、ありがとうございました。




