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覗くものと覗かれるもの

 椅子に座る全裸の幼女。


 その小さな身体はかけられた湯で濡れ光る。

 後ろに立つは妙齢の女性。同じく全裸で泡立つ幼女の髪を手にし、優しく優しく洗っている。


「シルクさん、上手ですね」

「えぇ、妹と一緒にお風呂に入ることもあったからね。本職ほどじゃないけど、少しは自信あるのよ」


 レンがその気持ちよさに喉を鳴らしつつ問いかければ、シルクは苦笑しながらここに来る前の過去を思い出す。


「へぇ、妹さんが居るんですか」

「昔は煩わしかっただけだったんだけど、今では付き合ってあげてよかったと思ってるわ」


 何故か寄ってくる年下年上の『妹』達。

 苛められる事を悦びに感じる彼女らが、何故か自分に集まってくることを疑問に思いつつも、持ち前の性格からか律儀にシルクは付き合っていた。『先輩』に近づけないストレスを彼女らに(手加減はしつつ)ぶつければ彼女らは涙を流して悦び、そしてそんな事を繰り返しているうちに、シルクは彼女の知らないところで『女王様』と呼ばれるほどに信望者を増やしていた。

 ちなみに余談ではあるが、聖女親衛隊の第二小隊は彼女の追いかけである。


「向こうに、帰れると良いですよね」

「そうね、レンちゃんと一緒に帰りたいわね」


 -妹さんに会えると良いですね-

 -幼女なレンちゃんと現実に戻れたら天国ね-


 そんな、すれ違いまくっている二人はにこやかに微笑み合い、レンはその身体をシルクに委ねていく。


「でも、レンちゃんが思ったより早く納得してくれて良かったわ」

「あはは。一応、身体は女ですし、何より女性陣の半分以上が元男だって言われちゃ気にしすぎていたのが馬鹿みたいで」


 頭頂部を優しく揉みながら問いかけるシルクに、レンが苦笑する。

 簡易脱衣所に集まった裸の女性たち。シルクが一声かければ次々と挙がるリアル性別の嵐にシルクは「そんなもんよ」と笑っていた。逆に男側でも同様の組み合わせがあり、美形XショタやらショタX美形やらが可能だのなんだのと盛り上がっていたのを語っていた。


「はい、お湯掛けるから気をつけてね」

「大丈夫ですよ、これでも中身は・・・うぷっ」


 そんな微笑ましい二人を、無数の瞳が羨ましそうに眺めていた。



 ***



「なあ、一つ聞いて良いか?」

「何だ?」


 通路を走り続ける無数の男たち。

 闇の中灯り無しで走り続ける彼らの先頭を走るロックは、隣で並走する露天商へと問いかける。


「俺ら、何で腰に布を巻いただけの格好でダンジョン内を走ってるんだ?」


 問いかけるロックも、そして共に走る英雄達も全てが裸に腰布装備。魔法のこもった鎧も、剣も、彼らの強さを支える相棒を置いて彼らは走っている。


「これが風情というものじゃないか。覗きに重装備は無粋だよ」

「いや、ただたんにこの通路に魔法装備に反応する地雷が埋まってるだけだ」


 話に割り込んでジミーがしみじみと語れば、呆れたように露天商が訂正する。


「じっ、地雷!?そんなもん何処から!!」

「いやなあ、シルクに侵入者撃退用の地雷を作ってくれって言われてな。何に使うか想像できたんで断ったんだが、隣でレンきゅんが『がんばってください』って応援してくれたんで思わず・・・なあ」


 足元に何が埋まっているのか想像し声を上げるロックに、露天商は頬を掻きながら説明する。


「ふふっ、一度爆発すればダンジョンの一区画は吹き飛ぶ程の魔法の息吹を感じるよ。あぁ素晴らしい、巻き込まれた時には蘇生も出来ないほどにバラバラになるねえ」

「ちょっ、おまっ!!」

「思わず力一杯強力な物を作ってしまった、正直反省している」


 魔法を込めたのはシルクとカオリだが、それを可能にするだけの受け皿を作ったのは間違いなく露天商といえる。そんな反省しているとはとても思えない彼の態度に、ロックは盛大にため息をつく。


「んで、他に何か作ったんですかね?」

「うむ、色々と作ったんだがなあ、一番危険なのは・・・おぉ、一歩横にズレたほうがいい」

「・・・?」


 ゴオッ!!


 露天商の言葉に一歩ロックが横にズレた瞬間、空気を切り裂く音と共に大質量の『何か』がロックのすぐ隣を撃ち抜いていった。


 パァンッ!!


 続いて背後から響く何かが破裂した音。そのとても尋常なものとは思えぬその気配に、ロックの顔から一気に血の気が失せていく。


「ななななな、何だ?」

「うん、射出する矢の耐久性にちと問題があるな」

「バリスタかい?中々素敵な破壊力のある兵器だねえ」

「うむ、ドラゴンの鱗は愚かフォートレスの絶対防壁を貫く事を目的として作ってみた。破壊力向上についてはレンきゅんの『凄いですねえ』って感想に調子にのってしまった、本気で反省している」


 もはや言うことも無い。ロックは続けざまに膨れ上がる暴力的な気配を感じとり、紙一重でバリスタの矢を回避する。後ろに続く英雄達、それも魔法職の面々までも同様に回避するのを確認しつつ、ロックは何度目かわからぬため息を吐く。


「なあ、これは覗きだよな?戦争じゃなくて」

「何を言ってるんだい?これは戦争じゃないか、女風呂を覗くものと覗かれるもののね」

「なに、即死級のトラップはこれくらいだ。依頼のあった吊り天井と断頭鎌はさすがに時間が足らなかったのでな。レンきゅんの残念そうな顔が非常に残念だ」

「何作ろうとしてんだよ、あんたは!?それにレンの奴、中世の兵器か何かの本を読んでやがったな!!」

「うむ、俺も参考資料にと渡された。シルクの所持品だ」


 突っ込み合いを続けながらも足を止めないロックたち。下がったのか無人となったバリスタを横目に階段を駆け下り、第四層へと足を踏み入れた彼らは、しかしそこで一旦足を止める。


「あぁ、そうだったな。ダンジョンの罠よりよっぽど凶悪なのが居たか」

「そう、神の祝福を受けた英雄。それを殺せるのは同じ英雄のみだよ」

「そう、彼女らを突破せねばレンきゅんの下には辿り着けない」


 足を止めた彼らの前には同じく無数の英雄達。

 男の英雄である彼らと同じく、胸と腰に布を巻きつけた格好の彼女らは、不敵に笑みを浮かべながら戦闘体制を整えていた。


「レンちゃんの裸を見て良いのは女である私たちだけ。悪いけど死なない程度に叩きのめしてあげるわ」


 スキュラが、


「総統の指示で、私たちも武装解除しております。下種な男の視線に晒されるのは苦痛ですが、全力で無力化させて頂きます」


 ラミアが、


「水着無しってのはハイリスクであります。得意のカニバサミとか色々な意味で成年指定確実であります」


 ミカが語り、


「これに勝ってレンちゃんのサクランボの味を再度・・・あ、いえ、ごめんなさい。こ、今度は本気で割れちゃうから勘弁してください」


 そしてカオリが暴走を止めた。

 そんな彼女らを見つめながら、勢いに流されていたロックが最後に小さく呟いた。


「俺、正直帰りたいんだけど」



 ***



「そういえば、みなさん用事だって何処に行ったんですか?」

「戦闘訓練よ。こんな世界で生きていく上では必要な訓練だからね」

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