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合流

 それは眠り姫の目覚めの時。


 死屍累々と横たわる冒険者の群れの中。平穏そのものである広場の空間の一角で、同じくうたた寝をしていたシルクの膝枕から頭を起こす可憐な少女。


「・・・?」


 むせ返るような汗の匂い。

 吐き気を催すほどの血の匂い。


 未だ寝ぼけ眼で起き上がったレンが最初に感じたのがそれ。続いて無数の淡い赤の光を認識するにつれ、自らの現状を思い出す。


「黒の光はなし、と。でも何だ、こりゃ」


 視界内に死を知らせる黒の光が無いことに安堵するレン。しかし、その幼い表情を疑問符で埋めながら目の前の光景に視線を送る。


 多くは座り込むか仰向けで爆睡している英雄たち。出発前に戦闘職と分類された彼らは、血と土で薄汚れながら思い思いの場所に散らばっている。

 次いで生産職と呼ばれる英雄たち。彼らは大欠伸を漏らしながらレンには理解できない生産作業を黙々と行っている。

 最後に、山のように積み上げられた獣とモンスターの死骸。全部が全部首を落とされ、積み上げられたその山に向かい、何人かの魔法職の英雄が火炎の魔法を撃ち込んでいる。


 特に最後のそれはレンが意識を失う前からは考えられない凄惨な光景であり、それを黙々とこなす仲間の姿に、レンは強い違和感を感じてしまう。


「慣れたというよりも麻痺したって感じの表情ねえ」

「生き物を殺すってのは抵抗があるものです。嬉々として肉屋でバイトしてた姉さんのようには行きません」


 と、そんなレンの背後から陽気な声。

 慌てて振り返るレンの前に、別れの時と同じ格好で立つラミアとスキュラ、そして見慣れぬ薄汚れた人物たちの姿。その居並ぶ彼らがラミア達の行動の目標たる『英雄』と理解し、レンは破顔する。


「二人とも無事だったん・・・」

「うっわ~美幼女、幼女ですよ、これっ!!この娘も英雄なんですか?」


 声を上げかけたレンの視界が一瞬でブラックアウトする。同時に押し付けられる柔らかい物体に、レンの頭が誇張ではなく埋まってしまう。


「ぅっ!?」

「うわっ、ミルクの匂いっ。体操服にブルマって何処の変態の趣味よ!!ぐっじょぶっ」


 声の位置と背に回される手で、レンにも自らの状況が理解できた。が、理解できたとしても振り払う力の無いレンはされるがままに抱きしめられ、せめてもの抵抗をと手をバタバタと振っている。


「砦においてくるべきだったかしら?」

「直接的にレン様に手を出すプレイヤーというのも珍しいですね」


 レンを抱きしめ興奮するカオリを呆れたように見つめるラミアとスキュラ。害意の無い行動と分っているが故にとめるのを躊躇っている二人の隣に、気配が一つ増える。


「新人君も合わせてスルーするとは思わなかったわよ」

「女性からのスキンシップはある程度スルーしてよいと、総統閣下からの指示であります」


 気配の主を確認せずに問いかけるラミアに、ミカが報告する。


「へぇ、何か良いことあったのかねえ」

「それが・・・総統閣下がレン様の頬を突いてた時に、誤って口の中に指が入ってしまったであります」

「はぁ、それが良かったと?」

「吸い付いて来たのが想像以上に良かったようであります。計画を繰り越して蘇生術への対抗手段の展開の許可がでたであります」


 呆れたように言うスキュラに、ミカがその時のシルクの様を思い出しながら説明する。ニヘラと笑いながらミカを呼び寄せたシルク、彼女が計画を変更しなければ、前衛盾職の数人が死を経験するのを待つ予定であったことは、ミカ以下数人しか知らない事実である。


「首を落とせば蘇生できないだろうって言う予測か。やっぱ合ってたんだ」

「試したところ心臓の完全破壊でも良いようでありますが、首を刎ねた方が私たちには楽であります」


 首か、脳や心臓か、そのどちらかの破壊で蘇生できなくなるのではという予測が、正しく実地で証明されていた。現状、レンしか使えない蘇生魔法。それを当てにする以上、その限界を見極めることが彼らには必要であった。


「ん~らぶり~。お姉さんとキスしましょっ、ね?」

「わっ、わっ、わっ、ちょっちょっと」


 顔が胸から離れたと思ったら頭をしっかりと固定されて近づいてくる女性の唇に、レンが目を一杯に見開いて叫ぶが、二人の顔の間に白い掌が差し込まれる。


「さすがにそれはストップ。それと、新人君もいきなり殺すのは無しね」

「ら、ラミアさん」


 優しく諭すラミアに、カオリは視線を下ろす。その視線の先、彼女の首には大振りのナイフ。見るからに切れ味の良さそうなそれを見つめながら、カオリはゆっくりとレンから手を離す。


「あんだけゆっくり接近されて気づかないものかしらねえ」

「普通は気づけないでありますよ。そのためのスキルでありますし」


 のんきに会話しながら近づいてくるスキュラとミカ。その二人へと視線を送ったカオリは、次の瞬間には首元のナイフが消えたことに、全身を嫌な汗で濡らしながら小さく安堵する。


「さて、こちらが砦に囚われてた英雄代表のカオリさん」

「あ、あははははは。カオリです、よろしく」

「そしてあちらに並んでいる汗臭いのが、その他大勢の英雄です」

「・・・ひでえ説明だな、よろしく」


 解放されたレンを前に、ラミアがカオリを丁寧に、その他大勢をぞんざいに紹介する。先の自分の暴走に顔を赤くしたカオリは大きくレンへと頭をさげ、その他大勢扱いされた男たちの一人、顔に傷のある大男が苦笑しながらも仲間と共に軽く頭を下げる。


「そしてこちらがレン様。我等召喚された英雄の希望となる聖女様よ」

「よ、よろしく」


 そしてラミアが大きく頭を下げながらレンを紹介する。ミカが、スキュラが、そしていつの間に起きたのかシルクが大きく頷く中、レンも顔を真っ赤にして頭を下げる。

 そんな、愛玩動物さながらの仕草を前に、紹介を受けた英雄たちは目を見開いた。


「せ、聖女さま!?」

「はい、そうですよ」


 自身の行動の意味を思い知ったカオリが顔を真っ青にし。


「え?スキルを極めてるのか、その嬢ちゃんが」

「現実組の方には不思議かもしれませんが、その通りです」


 顔に傷持つ男が、呆然としながら問いかける。


「何で驚いてんの?」

「現実世界で達人、英雄とまで言われるほど技を極めるには気の遠くなる年月が掛かるであります」


 スキュラの問いにミカが説明する。

 シルクたちが情報を集め調べたところ、この世界の英雄召喚には、大きく分けて2つのパターンがあることが判明していた。一つは、この世界と良く似た世界・・・つまりは世界樹が存在する世界から召喚されるパターン。そしてもう一つがこの世界に酷似したゲームの中から、プレイヤーごと召喚するパターンである。それを元に、シルクたちは現実世界から召喚された英雄を現実組、ゲーム世界を通して召喚された英雄をゲーム組と呼ぶことにしていた。

 実際、ゲーム世界を通して召喚された英雄と、現実世界から召喚された英雄で最も差がでるのが年齢、外見であった。ゲーム組は成年前の見目麗しい英雄が多く、現実組は青年から壮年の英雄が中心となっていた。特に英知を必要とする魔術系の英雄は、現実組は例外なく老人・老婆であったが故に、ようやく幼女から少女へと移行しはじめた程度の見た目のレンは、現実組の英雄にとっては意外な存在であった。


「まあ、おいおいレンちゃんの力には助けられることになるわ」


 シルクが立ち上がり、そして手を叩く。


「とりあえずは休憩が終わったらダンジョン攻略よ」

「親衛隊で駆除を進めているでありますが、沸き潰しに手間取っているであります」

「戦闘経験豊富なあなた方には期待しています。召喚直後でゲーム組のこちらは、まだ英雄としての戦いに慣れておりませんので」


 全員の視線が大きく口を開けるダンジョンの入り口へと集中する。


「まあ、あそこから自由にしてくれた恩義には報いるさ。元冒険者の身分としちゃモンスター相手のがやり易い」


 顔に傷持つ男にあわせ、皆が首を縦に振る。

 そんな彼らを嬉しそうに見つめながら、シルクは合流した英雄たちに歓迎の言葉を投げかけた。


「ようこそ、Company of Herosへ!!」



 ***



「ラルクっ!!神父の馬鹿がどっかに消えおった!!!!帝国に捕捉される前に探して保護しろ、絶対にだ!!」

「え、ええと、私の報告のせいでしょうか?」

補足として、育成に命の危険のないゲーム組は「効率最重視」なステータス振りが計画的に出来る関係上、現実組よりも能力的に強力な英雄が多くなります。

召喚のシーンで、召喚主達が語っていたのは、その点になります

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