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ブルマの天使

 それは少女と呼ぶには、あまりに幼すぎた。


 小さく、儚く、可憐で、萌え萌えすぎた。


 彼女はまさに、穢れ無き幼女であった。



「と、言う訳でだ、同志岩男」

「何が「と、言う訳で」かは分からんですが、何です?」


 出発を前に慌しく動く世界樹の下。その集団の中央で腕を組みニヤニヤと笑みを浮かべる露天商と、呆れたようにため息を吐くロックが並び立っている。


「幼女って素晴らしいな」

「同意しかねるし、繰り返しますが、中身は成人の男です」


 二人の視線の先には、ミカと共に歩くレンの姿。ジャージにブルマを身につけた少女の姿は、周りを囲む鎧にローブといったファンタジーな群集の中にあって異様なほどに浮いてしまっている。いや、それを置いても、周りより頭二つ分は小柄な少女は黙っていても人の目を引く存在であった。


「いや、同志岩男。ここは異世界。俺達は既に向うの世界での常識に囚われている場合では無いのだよ。具体的にぶっちゃけると黒髪姫ロリ万歳っ!!」

「意味不明だよ!!」


 ニヤリ笑いから一転、至極真面目な表情になったかと思えばオチを付ける露天商にロックが盛大に脱力すれば、そんな騒ぎを聞きつけたのか、レンが二人を認識する。


「あぁ、ここに居たんだ」

「お待たせしたであります」


 並び立つレンと軽装のミカ。手を繋ぎ姉妹とも見える二人は仲良く駆け寄ると、ロック達の前で笑顔を見せる。


「待たせたけど、とりあえず準備完了。どうだ?」

「渾身の作であります」

「に、似合ってるんじゃないか」

「うん、レンきゅんなら何を着ても似合うよ」


 くるりと回るレンに、自慢げに無い胸を反らせるミカ。そんな二人の仕草に思いっきり引きながらロックが当たり障りの無い感想を返すが、対するレンはそんなロックの態度を気にすること無く下半身を締め付けるブルマを軽く引っ張って口を開く。


「これ、想像以上に股間を締め付けるな。アレが無いからぴっちり張り付いて、ちょっと違和感が」

「レン様、そういう事は男の前ではやっては駄目です。男は狼ですから、隙を見せると幼女でも押し倒されるであります!!」

「そそそ、そんな事あるかよ!!」


 レンの発言をミカがたしなめれば、レンはまた思い出したとばかりに慌てて手を離し、ロックへと視線を上げる。まるで『狼』がロックその人を指すのだと言わんばかりの勢いで。


「いけないなあ、ロック君。美しいレンきゅんに欲情するのは分かるが、少しは自重したまえ」

「女児パンツを持ってたのもロック殿であります!!回収するときに躊躇したと言う報告も受けているですので、レン様にとっては要注意人物であります!!」

「あのモンスターハウスのレア品?そういえばスキュラが手に入らないって何度も何度もソロで挑戦してたわね」

「だ、だだだ、大丈夫だぞ。お前がどんな趣味を持っていても親友は、親友だ」


 露天商が、ミカが、いつの間にか来ていたシルクが追い討ちをかけ、更にはレンが一歩、二歩と下がりながらフォローになっていないフォローでロックの心を抉ってくる。


「な、何でこうなるんだ?」

「まあ、あまり気を落とさないことだロック君。君の嗜好にあった伴侶がいつか見つかるさ」

「ギルさんみたいに、もうちょっと紳士になったほうが良いぞ。昔から女、女言ってた記憶があるからな」

「んを?」


 地面に手を付くロックに更に更に追い討ちをかける露天商とレン。しかしそのレンの言葉に、ロックは弾かれるように顔を上げる。


「ちょっと待て」

「ちょっと待つであります」

「ちょっと待ちなさい」


 ロックが、ミカが、シルクが声を上げる。


「ん?」

「今、ギルって言ったよな?誰のことだ?」

「そ、そうであります、聞きなれない名前を聞いたであります!!」

「ままま、まさか!?」


 三人の問いの意味に、レンは首をかしげたままで素直に返事を返す。


「誰って?ここにいるギルさんの事じゃないか」

「おうっ、私がギル=ドマスターだ」


 刹那、場の空気が凍りつき、そしてより大きな熱を持って解凍する。


「「「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」


 その場に集う、全英雄達の叫びと共に。


「?」

「失礼な奴らだな」



 ***



「だからな、ギルってのが本来の名前でな、ドマスターはギルド長になった時に、冗談で申請したら通っちまったって奴だ」


 騒動が一区切りついて少し。露天商は未だ呆然としたままのシルク達の前で、がさごそと作業をしながら説明を続けていく。


「ギルさんのフルネームは始めて聞きました。確かに意外といえば意外な名前だ」

「いや、俺はずっと露天商が本当の名前だと」

「それはそうと先輩。何を作ってるんですか?」

「ん?」


 少しずれた感想を漏らすレンと、呆然と呟くロック。そんな二人をよそに、シルクが刺々しい言葉で露天商に問いかける。


「何って、レンきゅんを背中に乗せて運ぶための背負い椅子?じゃないか」

「そう、それで先輩がレンちゃんを背負うって訳ですか」


 当たり前のように組みあがりつつある椅子のようなものを指し示す露天商に、シルクの目がどんどんと据わっていく。


「いや、本当は親友のロック君にその大役を任せようと思ってたんだが」

「え?」

「俺っすか?」


 と、何時もの暴走は何処へやらと、まともな意見を指し示す露天商に、シルクの毒気が一気に抜ける。


「あぁ、力仕事はフォートレスのロック君と、ベルセルクの私が適任だろう。まさか女性陣にやらせるわけにはいかんし、何より幼い身体となってしまったレンきゅんに大人の行軍に合わせる事はさせられない」

「ま、まあ当然の意見ですわね」

「・・・ご迷惑をかけます」


 真正面からの正論に返す言葉は無い。自信の身体を理解しているレンも、山登りに幼いこの身体が耐えられるかと問われれば、否と返すしかないのが現実であった。


「と、言う訳でロック君にお願いしたかった訳だが、先の騒ぎがなあ」

「騒ぎ?」


 そして、小さく隠れるように笑みを浮かべた露天商に嫌な予感を感じつつロックが問いかければ、露天商は待ってましたとばかりに畳み掛けてくる。


「うむ、レンきゅんを背に乗せて、ロック君の理性が耐えられる保証がない。最悪、暗闇に乗じて凶行に走られたら守るすべも無い」


 そこまで言い切ってから、露天商は小さく顔の前で手を振って否定する。


「いやいや、ロック君を信用していないわけではないよ。それほどにレンきゅんが魅力的だって事だ」

「あ、その、何だ・・・って、レン!?何でそんなに遠くに移動してるんだよ!!」


 露天商のフォローになんと返していいか決めかねていたロックは、ふと肝心のレンがロックから一番離れた位置の、しかもミカの背後に隠れるように位置していることに気付いてしまう。


「いわ・・・ロック。一つ言っておくことがある」

「な、なんだよ」


 ミカに隠れたままのレン。そのレンは小さく喉を鳴らしてから口を開く。


「親友としてのお前は信用している。うん、だから安心してくれ」

「どういう意味だよ」


 レンのフォローになってない語り口に、ロックは嫌と言うほど裏の意味を理解させられてしまう。


「と、言う訳で運んでもらうのはギルさんにお願いしたいと思う。申し訳ありませんがお願いできますか?」

「ロック君には残念だが承知した。あ、いや、何。決して君の思い人に手を出したりはしないよ。これでも私は紳士だからね」


 見上げお願いしてくるレンに紳士的な対応で返す露天商。その背後に回された手が思いっきりサムズアップしている姿に、ギャラリーとなってしまったロックたちは、静かにため息をついた。


「何で俺ばっかりこんな目に」

「・・・殺したい」

「総統ぉ、向うにつけば温泉が待っているであります。今は、今は耐えるときであります!!」


 血が滴るのではと思わせるほどに、強く拳を握り締めながら・・・

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