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脱出

短い上に繋ぎの話で申し訳ありません。

次回からレン側のお話に戻ります。

 闇の中、静かに固まり機を待つ集団が一つ。

 新しき英雄の女性達と、古き英雄の男性達。40人程にもなった彼等一団は、砦の正門を遠くに見る建物の影で息を潜めていた。


「で、正門を破壊するのは良いけど、この大人数で門まで無事にたどり着けるの?」


 最初に口を開いたのはカオリ。

 古き英雄の中で唯一の女性である彼女は、正門まで続く見通しの良い地獄道に降り注ぐであろう矢の雨を思い、身体を小さく震わせる。


「そうね、そろそろ脱走もばれる時間ね。私も防御力には自信ないから、矢を食らったら痛いだろうなあ・・・レンちゃん居ないし」


 返すはビキニ鎧の戦士、スキュラ。

 彼女自身が語るとおり、傷一つ無い華奢な身体を覆う鎧は最小限を通り越し皆無に近く、ローブを羽織るカオリの方がよほど防御力が高いであろうと判断させる。


「なら、どうしろって・・・」

「隊長、準備できましたー」


 そんな状況でも気楽なスキュラに問いかけようとしたカオリのその背後で、一人の少女が陽気な声で手を上げる。


「ん、やはりその色のローブは良く似合うわね。場合によっては危険だけど、がんばってね」

「はいっ!!」


 満足そうに頷くラミアの隣で、嬉しそうに微笑む一番歳若い少女が一人。

 歳の頃15程度か、少女から大人への階段を踏み出した年齢に見えるその少女は、闇夜でも良く映える白のローブを身につけている。


「そ、そんな目立つ格好させておとりにでもするの?」

「えぇ、おとりよ。私たちの集団の真ん中においておもいっきり目立たせるのよ」


 顔色を変え問いかけるカオリに、更に無茶苦茶な言葉を返すスキュラ。


「遠目にでも、相手が勘違いしてくれれば絶対に弓矢は飛んでこないわ。よもや聖女様を傷つけたとなれば、彼等の首は間違いなく吹き飛ぶでしょうからね」

「それもシルクの発案でしょ?恋する乙女みたいな顔して、とんでもない腹黒ね?」

「・・・姉さん」


 更には説明を補足したラミアにスキュラが茶々を入れれば、ラミアが即座に引き抜いた短刀の柄をスキュラが押さえて止める。一歩間違えれば流血沙汰間違いなしのやり取りを行う二人を前に、しかしカオリは激しく反応した。


「聖女ってあの聖女ですか!?運営が冗談で導入したっていうネタ職のっ!!って、あ、あ、いやその、私の世界のゲーム中の設定で、あの・・・」


 目の色を変えて声を張り上げた直後、消え入りそうなほどに小さくなるカオリに、スキュラとラミアが目を合わせて微笑みあう。


「私たちもゲーム組だから意味は分かるわよ。CoHOって言うVRMMORPGのキャラなの、これ」

「ま、聖女がネタ職って言うくらいだから、同じ設定かな?」

「あ、そ、そうなんですか」


 スキュラとラミアが自らの胸を指し示してカオリに言えば、心底ほっとしたようにカオリが胸を撫で下ろす。


「私のはPlayBox3DSって言うゲーム機のオンラインゲームのキャラクターです。VRってのは良くわかりませんが、同じようなネットゲームですかね」

「そういう事。召喚されるパターンには、ゲーム世界派と異世界派に分かれるって訳ね」

「そして、どの世界でもレン様のような聖女は存在していない」


 語り合い、聖女の性能を思い出し苦笑するラミアにスキュラ。

 大樹の天使たるレンが居るからこそ意識が薄まっていたが、あれだけの地雷職を最高レベルまで鍛え上げる物好きは存在しないだろう。それがゲームならまだしも、別世界での1度きりの人生で、聖女として生き残ることなど不可能に違いない。


「それは・・・すごい、ですね」

「まあ、それ以前にレンちゃん見たら驚くわよ、色々とね」

「女同士で語り合ってる所悪いが、そろそろ行かないと不味くねえか?」


 語り合うカオリ達に遠慮気味に声がかかる。

 三人が振り返れば、そこには顔に大きな傷を走らせた壮年の男。居心地悪そうに頬を掻いているその男は、音の漏れ聞こえてくる壁を叩きながら、目を合わせたラミアの言葉を待つ。


「そうですね。では門の前に居る兵士を私が昏倒させますので、姉さんは門の貫木の破壊をお願いします」

「残りは、私らが動いたら二呼吸待って走ってくれれば良いわ。門は私がぶち開けるんで、一気に駆け抜けてよね」

「分かりました」

「あぁ、譲ちゃんたちに任せて悪いが、頼む」


 立ち上がり、静かに呼吸を整えるラミアと、大きく延びをするスキュラ。

 見守る視線を受け止めながら、二人は小さく頷きあう。


「行きます」「行くよ」


 そして、二人は比喩では無しに、その姿を消した。



 ***



 世界樹跡地駐留軍襲撃事件より10日後。

 帝国軍査問委員会、査問記録より抜粋。


「では、貴官の任務から話してください」

「えぇ、私は確かに内門の監視任務についておりました」


「結界の確認は?」

「当日も間違いなく確認しております。門、及びその周囲では間違いなく『スキル』の利用は出来なかったはずです」


「でも、気付かなかった?」

「はい。私が気付いたときには背後に誰かが居て、身体の力が抜け、地面へ倒れこむところでした」


「同僚も?」

「殆ど同時に倒れていたようです」


「他に確認できたことは?」

「ええと、信じられないかも知れませんが、半裸の女戦士が門に向かって両手剣を構えてました」

「門に?」

「えぇ、上段から剣を振り下ろしてたのを見ましたが、その一撃で閂が吹き飛びました」


「確かに内側から閂を破壊されたと記録にあります。しかし象でも突撃したレベルの衝撃だとも記録されているんですがね」

「しかし、意識を失う前、確かに私は見たんです」


「スキル無しで門の閂を破壊する戦士ですか?」

「はい、間違いありません」


「分かりました、下がりなさい」

「失礼します」


 以上。

 連日の監視任務で精神に異常をきたしたと判断。

 後方に下げ、任期満了まで支援任務へまわしておくこと。

 なお、閂の破壊については『教団』より出回り始めた火薬なる爆発物を使用したものと考えられる。

 継続して、召喚に成功した聖女との関連の調査を続行すること。

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