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 さて、この話の主人公格たる五木蓮(いつき・れんはオタクである。


 オタクとは言ってもゲームやアニメではなく、本・読書のオタクであった。

 聖書だろうが歴史書だろうが、推理モノでもラノベでも、それが本であるならば、ありとあらゆる『紙の』本を読みふけっては悦に浸る特級のオタクであった。

 学生時代からキ○ガイとまで周囲に言われるほどに本にのめりこみ、就職してからも土日には朝から晩まで図書館に入り浸るほどであった。

 因みに、彼は司書などの本に携わる業界へは就職しなかった。

 もし、本と共にある職場などに就職しようものなら、仕事をそっちのけで本を読み始めることが本人にも容易に予想できたため、彼はあえて事務職へと就職し、その余暇の殆どを本のために使っていた。


 しかし、そんな彼にも悩みがあった。


 時代が進み、古書ともなれば紙媒体の入手が困難な時代となっていた。

 電子化の波に飲まれなかったのは新しく発行される書籍のみであり、遥か過去の古書などは、古本屋でも殆ど見なくなってしまっていた。

 近隣の図書館の本は既に読みつくしており、遠出しようにもそれで失う読書の時間のほうがより憂鬱であった。

 何より、県外の人間には図書館も貸し出しを渋る傾向が強かったため、社会人の限られた時間では、彼の思うままに本を読みふけるのは難しかった。


 そんな理由もあり、彼は渋々ながら電子書籍を持ち歩く日々を送っていたのだが、そんな彼の前に救世主が現れた。


「紙の本がよければさ、VRとかどうよ?

 CoHOってのがすげえぞ、あのゲームの中じゃあ、国立図書館なんて目じゃないクラスの本があるからな」


 それは大学時代からの友人の一人。

 彼の突き抜けたオタクぶりを受け入れた稀有な友人の一人であったが、その彼が、自分のプレイしているVRMMORPGを軽い気持ちで紹介したのだ。


「VR?」

「そ、VRMMORPGって奴。本当に本を触ってるみたいな手触りがあるぜ」


 その言葉を聞いた瞬間に、蓮と彼の友人は電気屋へ直行していた。

 いきなり連行され混乱する友人を引きながら、彼は電気屋のVR体験コーナーへ移動すると、店員の説明を受けながら『VR体験・絵本を読んでみよう』のプログラムを体感する。


 その時間はわずか5分。


 静かにVRヘッドセットを外した蓮を覗き込んだ友人は、その自らの行動を本気で後悔した。

 目を見開き、不気味な笑みを貼り付けた蓮の顔。

 腐れ縁と言えるほど友人関係を続けてきた彼でも、こんな蓮の顔は見たことがなかった。


「そのCoHOとか言うのをやるのに何を買えばいい?」


 そして、次の瞬間には襟首を掴みながら問いかけてくる蓮に、半ば呼吸困難になりつつも返事を返した後は、そのまま店員と一緒に文字通り店内を引きずり回された。

 そしてその『ちょっとした車が買えるだろう』金額を即金で支払う蓮の姿に、彼は乾いた笑みを浮かべながら大きなため息を吐き出した。


(あぁ、こりゃ間違いなく、スイッチが入っちまった・・・)


 それは自嘲か後悔か、しかし一ついえることは、間違いなく彼が蓮をMMO廃人街道へと突き落とした事であった。

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