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陽動作戦

 深夜。


 虫の音も聞こえなくなった闇の世界。二つの影が世界樹跡地駐留軍の砦、その城壁上に立っていた。


「こっちが隠形できるのを知っててこの警備ってのは舐められてるのかしら?」

「一応スキル探知の結界は設置されてますよ」


 闇に隠れ立つ二人はスキュラとラミア。

 二人は砦の篝火が届かぬその闇の中で、寝静まった砦の中を見下ろしていた。


「でも、宣戦布告されてるんだから、もう少しねえ」

「ラルクが後をつけられていると考えないとは思えませんが。まあ、報告では彼はそのまま馬車で何処かへ移動したと聞いてますから、この砦を見捨てたか、今日の今日でこっちが動くと思わなかったかどちらですかね」


 二人の視線の先には砦の一番高い部分にある部屋の窓。

 その中で身分の高そうな騎士二人が激しく会話している様子を眺めながら、ゆっくりと場所を移動していく。


「ふむ、この城門なら一発で行けるわね。ドラゴンの胴体よりはずっと柔らかそうよ」

「普通は内から破壊するようには考えられてませんしね。

 それに、ほぼ腕力極振りのアマゾネスなんてビルドは、普通の人はやりません」


 続いて覗いた窓は一つ下の階。

 窓が開けはなれたその部屋の中では、3人ほどの男女がベッドの上で固まっているのが見える。


「さて、Mなラミアちゃんはああいうのがお好み?」

「何で私が男と!?私は姉さんみたいに可愛ければショタもロリも全部OKな人とは違います」


 静かに問いかけるスキュラに、こちらも声を立てぬよう声を張り上げるという器用な返事を返すラミア。


「まあ、否定する場所が違う気がするけど、私らは予定通りあそこを落としますか。他の娘たちは問題ないんでしょ?」

「えぇ、あっちは放置みたいなものだから、第二小隊の娘なら大丈夫。無血攻略なら今の私たちでも何とかなるわ」


 そしてスキュラが大きく延びをし、まるで跳躍するかのように身体に力を込めながら身を屈めて行く。

 外壁から見つめている窓まではおよそ10メートル。助走なしではとても飛び越えられないであろうその距離に、しかしスキュラは楽しそうに微笑んでいた。


「行けるわね?」

「これでもクラスはクノイチです。当然、姉さんより楽に飛べますよ」


 スキュラの問いに、ラミアは自然体で身体を落とす。

 剛のスキュラに、柔のラミア。そう感じさせる程に対照的な二人は、無音のまま宙へと飛び立った。


「行くわよ」

「行きます」


 直後に現れた見回りの兵士に一切の懸念も感じさせぬ程に。



 ***



 見張り交代後、就寝前の僅かな自由時間。

 彼等二人は、そこで英雄の女魔導師を使うのが日課であった。逃げ出す心配もないから見張りも置かれない休憩室。そこで一汗流してから水浴びをして眠る。そんな何時ものとおりの時間を女魔導師と過していた二人は、それに反応できなかった。


 ふぉんっ


「風?」


 音と共に窓から飛び込んできた突風。

 その強い風に顔を顰めた男は、組み敷いていた女から手を離し、風に煽られた前髪を直そうとして違和感に気付く。


「あれ?俺の、手・・・あれ?」


 持ち上げた手は肘の先から、ぶらりとありえない方向に折れ曲がっている。その様を脳が理解できず、混乱する彼の背後で声が上がる。


「あっちゃあ~軽く叩いただけで折れたか。だけど、これは本気で嫌な手ごたえねえ」


 男が振り返れば、そこには下着としか思えぬ露出度の女、スキュラが一人。

 心底気まずそうに頭を掻いているスキュラは、振り返った男の首へと手刀を落とす。


「首の骨、折れないように気をつけるからね、死なないでよ」


 ごすんっ、と鈍い音と元に男の意識が落ちる。

 続いて、残されたもう一人の男が目を見開いたままでゆっくりとベッドの上へ崩れ落ちる。


「延髄狙って気絶させるのは危険ですよ?特に姉さんの場合」


 倒れた男の背後から黒装束の女、ラミアが浮かび上がるように進み出てくる。

 その手には小さな針。何らかの薬品か、雫を滴らせているそれを丁寧に瓶にしまいながら、ラミアはスキュラの隣へと移動する。


「流石は本職。そういうアイテムは色々と便利よねえ」

「レン様に使ったら嫌われますよ?ロック殿ならともかく」


 うらやましそうにラミアの手元を見るスキュラを窘めながら、ラミアは瓶と入れ替わりに腕輪を手にし、ベッドの上でただただ天井を見上げ続ける女性へと身体を寄せる。


「一歩間違えれば・・・いいえ、レンちゃんが居なければ私たちがこうなってた訳ね」

「レン様と総統閣下が居なければ聖女親衛隊もなく、スキル無しでの隠形術なんて訓練することもありませんでしたからね」


 虚ろな瞳のままスキュラ達へと視線を送ることもない裸の女性。それが自分であったのかも知れない可能性に二人は背筋を震わせる。


「レン様が聖女でなくても同様。いくら隠形ができても殲滅目的で弓や魔法を絶え間なく撃ち込まれればどうにもなりません」

「聖女であるレンちゃんが居たからこその、私たち、か」


 語りながらラミアは女性の手を取り、腕輪を装着させる。

 一呼吸、二呼吸、ゆっくりと女性の瞳が焦点を結び、そして大きく息を吸う。


「ひっ」

「はいストップ。大声出したら私たち終わりよ?」


 女性が叫び声を上げようとしたその瞬間、スキュラが女性の口を押さえて止める。

 そのまま女性の動きが止まり、小さく頭を縦に振るのを確認するまで、三人は無言のままその場で見詰め合っていた。


「もう大丈夫です」

「うん、落ち着いてくれて助かるわ。

 とりあえず私たちは貴女たち『英雄』を助けに来た者よ。とりあえず指示に従ってくれる?」


 落ち着いた女性にラミアは床に打ち捨てられていたボロボロのローブを手渡して問うと、女性は無言で頷きながら、汚れた身体のまま渡されたローブに袖を通しながら、ゆっくりと立ち上がる。


「・・・強いわね」

「ずっと画面の向うでの体験みたいな物でしたから」


 汚されて居た自身の身体に思ったより反応の薄い女性に、思わずスキュラが問いかけるが、女性は苦笑しながら自身を語る。


「ゲームの世界が突然現実になって、最強能力手に入れたって大騒ぎしてたらあっさり捕まったわ。その後、この首輪をはめられたら何も感じなくなって、逆に楽になったわ」


 スキュラと同じ、現実からゲームへと移動した『英雄』。

 そんなスキュラと同じ境遇でありながら地獄へ落ちた彼女は、無言のままのスキュラへと手を差し出し、握手を求めてくる。


「とにかく助け出してくれたのは感謝してる。私の名前はカオリ、見てのとおり魔導師よ」

「私はスキュラ、クラスはアマゾネス。あっちのがラミア、クノイチね」

「よろしく。とりあえず見張りは居ないわ。私が先行して眠らせるから、地下まで足音を殺して付いてきて」


 差し出された手を握り返してスキュラが自己紹介を返せば、ラミアが扉の向うを確認しながら声をかけてくる。


「地下?」

「そこにはこの砦の『英雄』たちが集まってるでしょ?もう彼等も解放されてるだろうから合流するのよ」


 姿を消すラミアを見送りながらのカオリの問いに、スキュラはニヤリと笑みを浮かべて背負った大剣の柄に手をかけた。


「んで、全員でこの砦から逃げ出すのよ。

 城門を真正面からぶち壊して真っ直ぐにね」



 ***



「お」

「おぉ?」

「おおおっ!?」


 少し時は遡り乙女の秘密基地。

 レンが着替えを受け入れローブを脱ぎ捨てた所、思わぬ光景に場の全員が声を上げていた。


「下着は?」

「これはスジであります」

「インナー装備つけてないと下着無しって事じゃない?」


 ローブを脱いだ瞬間に全裸となった自身に、呆然と呟くレン。

 脱衣を手伝っていた関係からミカが真正面で『それ』を凝視し、一歩離れていた隊員が思いついたように手を叩く。


「このままブルマ穿いて大丈夫か?」

「それは色々と食い込み的に危険であります。

 誰かインナー装備持ってないでありますか?」


 紺色のブルマ片手に問いかけるレンに、ミカが全力で首を振って否定する。


「あ、さっきロックさんから回収した女児パンツがありますよ。多分未使用じゃないかと思いますが」

「モンスターハウスの激レア品でありますか!!それで十分であります!!!」


 すかさず隊員の一人がロックの『戦利品』の一つを差し出せば、ミカがこれ幸いとばかりにそれを回収する。実際、ある特殊な嗜好者向けのモンスターハウスがロックの最終レベル上げポイントであっただけであり、ロックが年下趣味、いや小児性愛者で無いのは間違いない事実である。


 が、それを一番理解しなければいけない対象が、残念ながら最も激しく誤解を深めていた。


「巌・・・やっぱり、そうだったんだな」

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