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召喚

 こことは違う世界。

 異なる時間の、どこかの国。


 白い大理石で作られた窓一つ無い部屋の中。

 顔を見せぬようローブを深くかぶった男達の中。

 一人の魔法士らしき女性と。

 一人の貴族らしき男性が。


 僕らの、私たちの『地球』を語っていた。



「世界の一つが資格を手に入れつつあるというのは本当かね?」


 男は口髭を弄りながら問いかける。


「えぇ、本日にでも門を接続できるかと思います」


 女は手元の水晶球を弄りながら静かに答えを返す。


「可能性はあるのかね?」

「残念ながら、マナの存在しない世界故に絶望的かと」


 男の問いに、女は表情を曇らせる。


「あぁ、『ぶいあーる』とか言うものが存在する世界か」

「ええ、門なる世界樹も大地にはなく、その中に存在しております」


 男は残念そうに頭を抑えると、もはや興味を失ったかのように首を振る。


「ぶいあーるの世界からの英雄は『他』よりも強いから良いとするか。

 後は任せる、何時ものとおり盾として使えるよう洗脳しておけ」


 男が去り、女は水晶球へと視線を落とす。

 周りを囲む男達が、朗々と呪文の詠唱を始める中、その中心たる女は小さく呟いた。


「あぁ、幾つの世界と繋がれば、貴女を見つけることが叶うのでしょう。

 あぁ、幾つの世界の英雄を虐げれば、貴女は助けに舞い降りるのでしょう。

 あぁ、今代の私こそは、貴女に会えるのでしょうか」


 女の瞳には涙。

 それが水晶球に落ち、はじけて消えた。


「あぁ、聖女さま、私は貴女にお会いできるのでしょうか・・・」



 ***



 蓮がレンとなっておよそ一年。

 CoHOの世界はいつもと変わらず平穏であった。


 そんなCoHOを楽しむプレイヤー達の一人、ロックもようやく一つの目標へと手をかけていた。


「ロック、行ける?」

「お前が落ちたら全滅だからな、見せてみろよフォートレスの底力をな!!」

「ボス特化のナイトとは違うって事を見せてやれよ!!」


 語りかけてくるパーティ仲間の言葉を背に受け、ロックは前方を見据えて唸る。

 ここはダンジョンの奥深く。目の前には無数の敵、敵、敵。数えるのも嫌になる程のモンスターの軍団が、ロック達の居る通路へとなだれ込んで来ている。


 骨の戦士が剣を振りかぶっている。

 蛇の化け物が毒液を吐き出している。

 三つ首の狼が炎の息をちらつかせている。

 巨大な一つ目の巨人が棍棒を振り回している。


 ここはモンスターハウスと呼ばれる化け物達の集会場。

 見つけたならば、見つかったならば即逃げよと忠告されるその場所に、ロックたちはあえて踏み込んでいた。


「おうさっ、上手くいけば俺もこれでカンストだ。

 意地でも受け止めてやらぁな!!」


 ロックは叫び、自らの武器である大斧を地面に突き立て両手を大きく左右に広げる。


『絶対防壁!!』


 ロックの言葉と共に左右に広がる不可視の壁。

 それと同時に押し寄せた矢が、毒液が、炎が、雷が、その全てが見えぬ壁に当たり床へと落ちる。


「ぐうぉっ!?」


 同時に響くロックのうめき声。

 肩には矢の痕が、顔色は毒に犯され、腕は炎に焼かれ、身体は雷に貫かれていた。


 それは城砦戦士であるフォートレスの固有スキル。それは、あらゆる脅威を自ら受け止める力。全てのダメージを受け止めるか、仲間共々死ぬかの二択しか許されぬそのスキルは、『城砦』をその名に持つフォートレスのみ使える守護の力であった。


「ファイア・ブラスト!!」

「サンダー・レイン!!」

「フロスト・ストーム!!」


 ロックの背後から続き放たれる大魔法。

 多大な詠唱時間と隙を引き換えに行使される大魔法は、その影響下にあるモンスター達を塵屑のように吹き飛ばしていく。数十匹のモンスターが一瞬で消滅し、しかしその背後から大量に押し寄せるモンスターがその隙間を埋める。


「さぁ、生きるか死ぬかの大勝負だ!!」


 ロックがみるみる減っていく体力に、凄絶な笑みと共に声を張り上げる。


「虎の子のマナポーションも準備OK!!」

「今日は破産するまで魔法乱射してやんよ!!」

「だから死ぬのだけは勘弁な」


 背後の魔法使い達が次なる呪文詠唱を開始する。


 それは砦狩りといわれるレベリング法。

 大群を受け止められるフォートレスを壁にし、範囲魔法の連発でモンスター軍団を殲滅する究極のハイリスク・ハイリターンな戦法である。一手間違えれば全滅、しかし成功さえすればボスモンスター数体分の経験値が一気に手に入る。


 そんな一発勝負なギャンブルが気に入り、ロックは数多の失敗と成功を繰り返しながら、頂点へ向かって駆け上がっていた。


「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」



 ***



「よっしゃあぁぁぁっ」

「おめでとう」

「おいしく経験値をいただけました、おめでとう」

「よく死なずに耐えてくれた、おめでとう」


 場所は移って世界樹前。

 モンスターハウスでの狩りを終え、戻ってきたロックたちが談笑を続けている。


「これで俺も廃クラスの仲間入りか」

「カンストキャラ専用フィールドかあ、私ももう少しだから頑張るか」

「これ繰り返してたら俺ら破産するがな」

「経験値効率はぶっちぎりなんだがなあ、失敗したときが泣けるか」


 最後のレベルキャップ解放から半年。

 既にレベル上限まで上昇した廃人、準廃人の数は相当なものとなり、次なる大型パッチの導入まではと、レベル上限者を前提とした高難度フィールドが解放されていた。そこではキャラの能力よりもプレイヤーの実力が試される場所であり、死んで当然、生き延びて賞賛されるという異常なフィールド難度が故に、CoHOにはまった廃人達の競技場と化していた。


「でもまあ、俺一人じゃあここまで来れなかったし感謝してる」

「こういうハイリスクな狩りってのも好きだから良いわよ」

「ボスのポップ待ちはきついからな」

「割り込み野郎氏ね!!」

『び~むっぴむっ』


 笑いながら語り合うロックを照らす癒しの光。

 時間帯的には既に深夜。もはや恒例行事となった暴発ヒールの光が自分を包み込んだ事に苦笑し、目を向ければ世界樹前で大の字に寝転がる天使の姿。


「レンの奴は寝落ちかよ」

「大樹の天使さま・・・か」

「一体何レベル行ってるんだろうなあ、彼女」

「狩りしないでカンストしてるってことは、幾らなんでも無いか」


 優しくレンを見守りながら語り合うロックたちに、噂の的となっているとはついぞ知らぬレンは、寝言のたびにヒールを乱射しながら、幸せそうに寝入っていた。


『ぶみゅっ』



 ***



「第二小隊、もうじきレン様がログアウトなされます。

 それを確認後、今日は解散です!!」

「「「はっ!!」」」

「明日は第一小隊と交替し、レベルキャップ到達していないメンバーの支援を行うこと!!」

「「「了解しました!!」」」


 少しはなれたところにラミアと聖女親衛隊の姿。

 最近は不埒な行動に出るプレイヤーも少なくなり、ラミア達の活動にも余裕が出てきている。


「第一小隊戻ったであります!!」

「ミカ小隊長、このプレイヤーどうします?」

「低レベルプレイヤーへのPK行為は厳罰でありますが、今日は眠いのでラミア隊長に報告だけして寝るであります」

「は~い」


 何処からか戻ったミカたちが、引きずってきたプレイヤーを地面へ放り投げる。

 当然といおうか、ロープで身動きできぬよう拘束されたプレイヤーは、周りのプレイヤーからの同情の欠片も無い視線に囲まれながら、その場へ放置される。


「ラミア隊長、帰ったであります!!」

「お疲れさま、ミカ。

 もうじきレン様もログアウトされますので、それを確認したら今日は休みましょうか」


 一仕事やり遂げた表情のミカの頭を撫でながら、ラミアは深く眠りに入るレンの姿を見つめている。敬愛する総統閣下の指示で始めた仕事が今や彼女の日常になってしまったことに苦笑しつつ、総統閣下が近く約束してくれたお仕置き?の内容に心を馳せる。


「うふふ、楽しみねえ」

「・・・?」



 ***



「だから貴方たちはですね、もう少し反省と言うものを!!」


 更に反対側には大手生産ギルドトップ二人にスキュラの姿。

 仁王立ちするシルクの前に、見抜きの露天商とスキュラは仲良く正座して頭を垂れている。


「なんですか、このスライム饅頭練乳入りってのは!!

 先輩はギルド長としての威厳と言うものをですね」

「は、それは分かって・・・いえ、すみません」


 シルクの手には、露天商渾身の作であるスライム饅頭。

 強く握っても破裂しない弾力と、歯を通せば爆ぜて練乳をぶちまけるという、既に食べ物として色々間違った商品が、シルクの逆鱗に触れてしまっていた。


「やーい、怒られてやんのー」

「スキュラもスキュラです!!

 この饅頭の原料、貴女が狩り集めて来たんですってね?」

「うをっ、やぶ蛇!?あ、はい、すみません」


 矛先が露天商に向いたと油断すれば、氷刺すような視線と共にスキュラへと矛先が戻ってくる。小さくなり謝るしかないと、二人仲良く地面を静かに見つめて耐える。


「そもそもそれをレンちゃんに使おうって性根がですね」

「ほんと、シルクってば元気になったよなあ」

「元気のその矛先が私らに向いてる気がするんだけど」


 背後に並ぶスライム饅頭の在庫の山を眺め、二人はため息をつく。

 二人の全財産の何割かを投じた最高傑作、それを標的にプレゼントするその前に差し押さえられた悔しさに心の中で涙する。


「聞いてるんですか?二人とも!!」

「「はいっ」」



 ***



 それは何時もの世界樹前の微笑ましい光景。

 ギャラリー達はその光景(主にレンの寝姿)を観賞しながら時間を過す。そんな平穏な時の流れは、今、この時をもって終わりを告げた。


『目覚めなさい、数多なる世界の虚ろなる世界樹よ』


 その静かに響き渡った声を、この場の全員が確かに聞いた。


『開くは門、通すは力』


 何かの突発イベントかと顔を上げたプレイヤー達の前に、無数の魔方陣が乱舞する。

 世界樹が強く光を放ち、全員が目を開けていることも出来なくなった。


『選ぶは力、己が力を極めしもの』


 光の中、何人ものプレイヤー達を光が包み込み

 そして、その全員の意識が闇へと落ちた。


『さぁ百の英雄を我らが世界へ召喚せん』

ようやく異世界転移です。

ここから暫くはシリアスの予定?

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