聖女を守りし者
世界樹への天使降臨事件?から半年。
一部でレンきゅんヒールと呼ばれる辻ヒールの乱舞により、CoHOのプレイヤー人口は激変していた。
既存プレイヤーは狩りの効率が上がったと喜び
引退組はデスペナが結果的に緩和されたと舞い戻った
CoHOに興味はあった新規組は、これ幸いと参加した
そして
いつしか大樹の天使の名は、ネット上の有名キャラの一人となり
CoHO世界唯一の幼女天使を一目見ようと集まるものが殺到した
その爆発的な人口増加により運営はサーバを強化し(ただし、経緯から別ワールドの増設は意味の無いものと判断された)、更には大規模アップデートによるレベルキャップの解放を予定より大幅に前倒しにして実装した。
その全ては大樹の天使たるレンを中心とした現象ではあったのだが。
ただ一人、レン本人のみがその事実を知らなかったのである。
***
そんなこんなで毎日のように深夜までCoHOに接続しているレン。
休むことなく本を読み、休むことなくヒールを連発する。そんなレンも現実世界の蓮はサラリーマン。夜も更ければ眠るのではあるが、レンは当然のように寝落ちを繰り返す毎日であった。
CoHOにおいては、使用者が睡眠状態に入ったと判断されて一時間程で接続を切断する。街など非戦闘中であればプレイヤーは消えるように消失し、戦闘中であれば死亡判定後に大樹前へ転送の後に消失させる。つまりは、その消えるまでの一時間は無防備な寝姿を衆目に晒すことになるのだが、一般的なリアル女子プレイヤーとは違うレンは、何の躊躇をすることなく大樹前で豪快に寝落ちを敢行してしまっていた。
そう、それは今日も今日とて同じである。
「う~あ~・・・も、もうちょっとでこの章・・・ぐぅ。
はっ!?も、もうちょ、ももも」
大樹の下では船を漕ぎながら睡魔と闘うレン。
眠いが、もう少し先をと限界に挑戦し続けるあまり意味不明の独り言を連発し、ご自慢のヒールを四方八方に誤爆しながら、たらした涎を拭っている。その姿が注目の的になっていることももはや気づかぬまま、レンは1ページ、2ページ進んだ所で睡魔に敗北した。
「zzz・・・」
時を置かず地面に横になり静かに寝息を立て始めるレン。
そうなれば、ヒールが無くなったからと回復もそこそこにポータルを呼び出すもの、レンの姿を待ってましたと某ギルド謹製高品質オペラグラスで堂々と観賞を始めるもの、そして最後によからぬ事を企み動く不埒者に分かれていた。
「さて、そろそろ行きますか」
不埒者の一グループ、最近CoHOに登録した新参達の一グループが腰を上げる。
「噂以上にすげえ回復力だったな、アレなら超高効率のレベリングできるな」
「タゲ行って死ぬけど引き戻して座らせときゃ良いからな、休みなしに働かせりゃ俺らのレベルアップなんてすぐだぜ」
「抵抗しても脅しつけりゃ良いしな、聖女なんてLV1にも負けるほど貧弱だって言うしよ」
「他の奴らに拉致される前に動くか」
彼らにとってはレンは金の掛からぬポーションのようなもの。
CoHOの世界で後発である彼らがより目立つポジションに登り詰めるため、その行為が悪質な迷惑行為になることも理解しようともせずに行動を開始する。
「寝てる奴を捕まえてパーティ登録しちまうからよ、すぐにポータル開けよ」
「分かってる、この時間なら運営だって寝てるから反応鈍いだろ」
「移動しちまえば他の奴らも追いかけてくるの難しいしな」
「んで、脅しつけてパーティ了解させちまえば、問題なし、と」
自信満々に穴だらけの計画を語り合う彼ら。
実行したとしても上手くいくはずも無く、例外なくアカウント永久削除となるだけなのであるが、それを実行しようとする愚か者はいつまでも居なくならない。しかし、その沸いて出てくるような彼らの計画も、ここで消える。
「んじゃ、行く・・・」
『ちえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!』
リーダー格の男が足を踏み出した途端に響き渡る声。
何処からか声と共に弾丸のように飛び出してきた声の主は、男の脚に器用に蟹バサミをかけると、そのまま手馴れた様子で男を地面に引きずり倒す。
「なっ、なっ、なっ!?」
「甘いあっま~い、貧弱、ひんじゃく~ぅ」
男が反応する暇も無い。
倒れこんだと思った瞬間には身につけた武器は外され、関節を極められて身動きが取れなくなってしまう。首を巡らせれば同様に拘束された仲間達の姿が見え、更にはそれを行っているのが全員女性とあって、男の驚愕は更に加速する。
もちろん、ゲーム的にはレベル>性差能力値のため、不思議でも何でも無いのではあるが。
「隊長、拘束完了であります!!」
彼等をあっさりと縛り上げた女の一人が、遅れてやって来た女性に向かい軍隊式の敬礼と共に報告する。
「よろしい。
拘束まで10秒、PvP判定もなし、みんな腕を上げたわね」
「恐縮であります!!」
答礼する女性。
よくよく見れば全員が同じ某ド○ツ軍の様な軍服装備に身を包み、もはや置物となった彼らを見下ろすこともせず、にこやかに報告を続けている。それに何より異常であるのは、この騒ぎの中にあって、一切の反応を見せないギャラリー達の様子であった。
「なっ、なんで攻撃ができるんだよ!
こりゃPK行為だろうが、運営は遊んでいやがるのかよ!!」
自らの所業も省みずに叫ぶ男に対し、おそらくは最も格上であろう隊長格の女性が不快そうに顔を歪めはき捨てる。
「クズが人間の言葉を喋るな!!
ミカ、説明なさい」
指示に従いミカと呼ばれた女性が前に出る。
「CoHOでのPvP判定とは、武器、魔法、又は拳にて通常攻撃を行うことで発生します。
物理攻撃もスキルも行わず、自らの体術のみで相手を拘束すればPK判定は愚かPvP判定の対象にもならないのであります!」
「補足すると、女性キャラ相手に行えば別途セクハラ判定が発生するのを忘れないことね」
「あ、忘れていたであります。
申し訳ありません、ラミア隊長ぉ」
ミカの言葉に、ラミアと呼ばれた女性は少しばかりの補足をすると、うなだれるミカの頭を撫でてから前を向いて声を上げる。
「第一小隊、貴女達の活動により本日もレン様の貞操は守られました。総統閣下もお喜びのことでしょう」
「「「はっ!!」」」
「では、本日の第一小隊の活動はレン様のログアウトを確認して終了とする!!
明日は第二小隊と交替し、狩場でのレベルアップに励むこと、いいなっ!!」
「「「了解しました!!(したであります!!)」」」
ラミアの言葉と共に声だけを残し姿を消す女性達。
後に取り残された男達を一瞥することなく、残ったラミアは眠りこけるレンへと優しげな表情を向けると、踵を返してどこかへと姿を消す。その姿をギャラリーたちは冷静に見送ると、またレンの寝顔ウォッチに没頭していった。それこそが、この場での日常であると受け入れながら。
そう、彼女らこそ大樹の天使であるレンを守る精鋭部隊。
自らを聖女親衛隊と名乗り、全員が女性で構成されたその部隊は、CoHOで最も恐ろしくそして頼もしい天使の守護者として、陰ながら毎日の活動を行っていた。
「び~る」
最後に、意味不明な寝言と共にレンが広範囲ヒールを炸裂させ、大樹の下が優しく白く光り輝いた。
そう、彼女らの努力を祝福するかのように・・・
***
【幼女】レンきゅんを愛でるスレ【天使】第360図書館
3 名前:名無しのえっちさん
関連人物まとめ(抜粋)
・聖女親衛隊
レンきゅんを守護する最強の戦闘集団。
構成員は全員女性で、そのクラスも多岐にわたるが、共通することは全員が無刀格闘術(拘束術)をスキルの恩恵なしで身につけていることである。彼女らに目をつけられたら最後、瞬きする間もなく身動き取れないように拘束されてしまう。
スキルを使って反撃すればこちらがPK判定、あげくスキル無しで反撃しようにも組み合った時点でセクハラ通報を使うとあって、反撃することは不可能である。が、彼女らの行動指針はレンきゅんに害意を持つことのみに集約されるため、概ね好意的に受け入れられている。
なお、見抜きの露天商が開発した濃厚練乳みるくバナナなる新商品を問答無用で破棄した事件があり、見抜きの露天商と一部の男性プレイヤーから敵として認定されていたりもする。
なお、そのトップには『総統』と呼ばれる謎の人物が居るらしいが、正体は分かっていない。




