size4 葉耶さんの説明じゃ説明になってない ここらできちんと始めるか by山槌
今回の後書き、是非見て下さい!訴えてますから、作者 笑
天辺の近くから太陽が降り注ぎ、大きな銀色の門に緑の葉が影を落とす。
今日も、砂漠の真ん中にいるような我慢できない暑さだ。
葉耶は横にいる山槌をチラッと見つめた。
昨日とは違う青を基調としたアロハシャツに、通気性の良さそうなスラックス。
(この人見てても、暑苦しくならないよなぁ。
まぁ、きちんと洗濯してあるかは別として) もちろん、周りの学生たちの視線も別として・・・・だ。
「ん? なんだ、顔にご飯粒でもついてるか? 」
昨日の鋭い洞察力とは裏腹に、女に観察されている事には鈍いのに葉耶は驚き、目をパチクリさせたが、すぐいつもの表情に戻り、さっさと歩きだした。
「社会の窓が開いてるわよ? 」
「おっとっ」
山槌が慌てている姿を横目で見やり、イタズラな含み笑いをした。
(こいつって本当に、からかうと面白いなぁ) 葉耶が、不意に動かした視線が正面にそびえ立つ母校に捕らえられた。
(帰ってきた・・・・・・ 私は還ったんだ。
祐子が存在場所に)
「宮脇 祐子君のこと・・・・・・ですか。 今頃お聞きになる方がいらっしゃるとは。まぁ、どうぞかけて下さい」
この大学の古株の教授である音梨 一生は、山槌にイスを勧めると、内線電話に手をかけた。
白く、整った髪。
出っ張り気味な腹、何度洗っても長年使ってきた落とせない汚れが目立つ白衣。
優しく、全てを達観視してきたような眼差しは、長い年月を経て落ち着きを醸し出している。
「あぁ、お茶は結構です。 後で、葉耶さんが来るんで、来たら彼女の分だけお願いできますか? 」
山槌の言葉を耳にすると、白くなった眉の下にある目が鋭い光を陰らせた。
山槌の表情はサングラスでわからない。
だが、口は相変わらず三日月を象っていた。
「葉耶・・・・・ それは、天津 葉耶君のことかね? 」
「えぇ。 あ、早速話をお聞きしてよろしいですかね? 」
葉耶のことには触れず、山槌は事件の話をさっと出した。
音梨教授はゆっくりと舐めるように山槌を見つめた。
その後、ソファに深く沈み、鼻から息をフーッと吐いた。
「なんなりと」
「では、その時の状況を話して頂けますかね」
山槌の言葉に反応し、軽く目を瞑った。
「三年前の七月の下旬頃、宮脇 祐子君が何の前触れもなく忽然と消えてしまいおった。昨夜から帰ってないと同室の者が寮母に申し出たのが、翌日の夜じゃったかの。外泊ぐらいはするじゃろうと思っとったらしいんじゃが、元々外泊するような子でもなし、遅くなるというような連絡だってこまめにする子なのに、おかしいと考えて早めに申し出たらしい」
「その申し出たという生徒の名前は?」
「確か・・・・・ 坂巻 佳奈という福祉科の生徒じゃった」
山槌は目を動かし、ふーむと唸った。
「続けてもよろしいか?」
「えぇ、どうぞ」
音梨は、大理石で出来た灰皿の隣から葉巻を取り出した。
外国から輸入された品らしく、お目にかかったことのない綴りが葉巻を飾っている。
「あ、私もタバコ良いですか?」
山槌の言葉に、音梨はそっと頷く。
あまり、気に止めていないのだろう。
山槌の出したタバコを見ると、音梨はほうっと感嘆の息を吐いた。
「それは、トルコでしか手に入らない品ではないかな?」
「えぇ、良くご存じですね。 味も一つ一つ微妙な違いがあるんですよ。例えば、この赤い色のタバコよりも青の方があっさりしてるんです」
山槌のタバコの入った黒いケースを珍しそうに身を乗り出しながらのぞき込み、またゆっくりとソファに寄りかかった。
「昔、友人に貰ったことがあってな。 イスタンブールの煙草屋に置いてあったそうじゃ。そんなに値の張ったもんでもなかったが、あの頃は飛べそうな気がするくらい嬉しかったのぉ」
音梨はそういった後、我に返り、慌てて話を続けた。
「結局、祐子君は見つからずじまいで手がかりもなかった。 その後、祐子君の机の中から一冊のノートが見つかってな。何も書いてなかったんじゃが、最後のページに一言、こう書いてあったんじゃ」
音梨は言葉を切ると、人差し指をピッとたてた。
「『神様 ─── 私は偽善者です 貴方が私をあの人と‘血’というもので繋げてくれたのに 私はそのことから逃げようとしている いっそのこと最初からなくなってしまえば良いのに』と」
山槌は音梨の言葉を口の中で繰り返し、顎を抱えた。
音梨の手は親指の先ほどになった葉巻を、大理石に打ちつけて、赤黒い色を白い煙に変えた。
煙の立ち上る部屋の中は、まるでなぞなぞでもしているようだった。
山槌は全く動かず、その表情も無表情に近い。
明るい光は緑のカーテンに遮られ、一筋二筋と漏れてくる。
開け放たれている窓の隙間からは、小さな涼風が舞い、二人の空間が生み出す煙を軽やかにかき乱した。
「──── 誰もわからんかった。母親も、坂巻 佳奈君や田所君に深見君、警察や師であるこのわしでさえも」
山槌は俯かせていた顔を上げると、三日月の踊る含み笑いを向けた。
「天津 葉耶さんにも?」
音梨の細い目が倍に開かれ、ハッとして口を押さえた。
まるで、話してはいけないことを話してしまった罪人のように。
音梨のごつく、繊細な手は手元にあった葉巻の紙でいつの間にか、小さな鶴を一つ完成させていた。
「・・・・・彼女はその時、病院に入院しておってな。 警察が遺書の類を見つけたと天津君に漏らしてしまって、そのショックから疲労で倒れてしもうて、警察とわしが話し合ってその文章は見せんかった」
ぼそぼそと話してから、ため息をついて眉を顰めた。
「すまんが、こんな老いぼれでもまだまだ仕事が山のように溜まっておるんで、そろそろお引き取り下さらんか」
有無を言わさない響きを伴って、音梨は立ち上がった。
その表情は氷のように冷たく、ひんやりとしている。
山槌はさっきの表情のまま、滑らかな動きで立ち上がった。
そうして、すべるような動きで、自分の名刺をガラスのテーブルの上に置いた。
「何か思い出したことがごさいましたら、一報を」
山槌が音梨に背を向け、ドアの前まで歩いていく。
音梨が木で出来た自分の机に近づき、手で体を支えると、山槌が足を止めた。
「音梨教授」
音梨は動きを硬直させ、山槌の言葉を待った。
「教授は、外科医の名医だとお聞きしましたが、今もそちらを副業としていらっしゃるんですか?」
音梨はそのセリフに、手短に返答した。
「もう十年も前に引退したよ。身体が追いつかんくてな」
山槌はドアを開けて、振り返らずに口を三日月のようにして笑った。
「そんなことはありませんよ。では」
建物から出てきた山槌は、キャンパスのど真ん中で叫んでいる葉耶に見つかった。
「ちょっと、今まで何してたのよっ!」
「ちょっとした散歩を」
葉耶はむっとしながら、山槌の着ているアロハシャツの裾を掴んだ。
「こーんな可愛いレディをほったらかして! 暑苦しいし、男にからかわれるわ、散々よっ」
からかわれるというか、俗に言うナンパだろうが、自分一直線の葉耶にとってはナンパという風に理解できないで怒っているのである。
そんな葉耶を見て、口の中で笑っていると、葉耶が山槌を睨みつけた。
「何がおかしいのよっ!」
「いや、おかしいんじゃなくて・・・・・」
「問答無用っ」
ガシッ
髪を振り乱しながら、ノースリーブを着ている小柄な身体で、背の高い山槌を捕まえ、どんどん引きずっていく。
「あのね、待ってる間にケーキの食べ放題の美味しいお店見つけたのっ」
にっこり笑う葉耶の笑顔に、悪寒を感じる山槌。
葉耶の指先には、門の前に可愛らしいピンクの建物が建っている。
中はほとんど女の子で埋まっている。
「それで?」
「奢っていただきますっ!」
葉耶の口調に押し切られ、首を掴まれた猫のようにしょぼんとしながら、山槌はため息をついた。
読んで下さって、ありがとうございます。ここで出てきたタバコ、本当にそんざいします!!これが、訴えたかったことです 笑後、ご感想や質問、要望もお待ちしています。もう少し、描写を多くしたら?などのアドバイスも待っております。ではっ