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size2 エルキュール・ポアロ

ご意見やご感想などありましたら、お気軽にお知らせ下さい。作品が良くなるために、全力を尽くしたいので・・・・。では、size2です

私が男の気味の悪い笑顔(?)にひいていると、男は私に出してあったはずのお茶を、ぐいっと飲み干した。

いや、私に出したとは限らないから、そんな偉そうなコト言えないけどさ・・・・。

幸い、口もつけてないし。

どうやら、この男そんなコトは関係ないとばかりに振る舞っている。正に、変人・・・・いや、大物。

「自己紹介をしなけりゃならんね。私は山槌(やまつち)と申すこの事務所の社員兼取締役だ。」

私は正に絶句しながら、山槌を見つめた。

「それは・・・・社員はあなた一人ってコト?」


「まぁ、率直に言えば」

率直にってそのまま言っただけじゃないっ。

何考えてんのよ、この男は。

大体、このファッションだって百歩譲ったってまともとは言えない。

背格好だって、ひょろっこくって頼りがいがなさそうだし、極めつけはこの無精髭。

私は髭がだぁいっ嫌いなんだからっ。

だけど、サングラスが邪魔して上手く顔見えないからかもしれないけど、この男ってまともな格好して髭剃れば、結構な美男子になるんじゃないかって思う。

だからって、コイツを信用出来るかって聞かれたら、はっきり言って出来ない。

 私は音も立てずに立ち上がると、山槌の方へ顔を向けた。 

「申し訳ないですけど、失礼させていただきます」

山槌は片眉をスッと上げ、腕を組んだ。

「私には任せられないという事かな?」

「任せられないのもありますけど、あなたにあんな事件を解けるかって考えると難しいんじゃないかなって思ったから。別に、文句とかじゃなくて見た目からしてちゃらんぽらんに見えるっていうことを客観的に判断してみたんだけど・・・・」

私を意外そうに見ると、堪えたようにニッと笑った。

この三日月笑いは、この男の癖なのだろう。

「こんな率直かつ単純明快な意見は初めて頂いたよ。君に感謝の意を表したいくらいだ」

私はその言葉の最後に、ここへ来たことが本当に無駄だったと感じた。

しかも、これからまた新しい探偵社を探すことに嫌悪感を抱いていた。

「私帰ります。あなたといたら、周りは皆腐ってっちゃうわ」

私の足は男の脇をすり抜け、後ろにあるドアへと踏み出した。

ドアのぶへと手をかけると、探偵の愉快な声が聞こえてきた。

「君はさっき食堂でうどんを食べただろう?」

私はバッと振り向き、探偵の後ろ姿を見つめた。

「どうして・・・・」


「しかも、どうやらあまり味に満足しなかったみたいだね」

探偵は鼻歌を歌いながら呟いた。ようやく振り向いて、葉耶に視線をやった。

「ほら、レシートが落ちていたよ」

葉耶は眉を歪ませて、そのレシートをぶんどった。

何よ、レシートか。

ビビらせないでよ。でも、味が気に入らなかったのを何で知ってるのよ。

「N県に帰ったら、お母さんによろしく。リンゴを送ってくれるよう頼んでほしいなぁ」

「?! 何で、私の出身知ってるの?しかも、うちにリンゴが・・・・」

ふふんと笑って、人差し指をピンっと立てた。

「実に簡単なことだよ、君。いいかい、君の入った食堂は駅にある立ち食いソバだった。ここは、うどんばかり出てしまっていて、都会の立ち食いソバがマズいことを知らなければ、普通はソバを頼んでしまうように得意の話術で店主が勧める。彼は昔、大学で心理学を専攻していたんだよ。おっと、本題に戻るか。それなのに、君はうどんを選んだ。いろんな可能性の中から二つの答えを出した。余程うどんが食べたかったのか、地元のソバが一番上手いところに住んでいるのか」

「そんなのもしかしたら、ソバが嫌いなのかもしれないじゃない。気まぐれとか・・・・」

「それはないな。だったら、立ち食いソバになんか行かない。同じ理論で、ソバアレルギーも却下だ」

葉耶の手が小刻みに震えた。

こいつ、ただ者じゃない。まるで、神のように真実を当てていく。

「極めつけは、君の『周りが腐っちゃう』の一言。良くリンゴの運搬の時に使う農業法だ。ソバの事が後者だと仮定し、二つの事柄から、君がN県の人間で、リンゴを育ててるんじゃないかと推理した。ちなみに、標準語の中にかなり注意しないとわからない方言やアクセントもついていた」

フーッと息を抜いて、探偵はまたイスにきちんと座り直した。

そうして、帽子を頭からはずして、ちょこんと挨拶した。

「呼び止めて済まなかったね。それでは、また会う日まで」

葉耶はその言葉にむっとしながら、歩いてソファの前に立ち、ドサッと座った。

「おや、何か?」

目をばっちり開きながら、首を傾げる。

この男の嫌らしい笑いは、何回見ても見慣れない。

腹立つなぁ、何でも見透かしてるようなこの表情。

「当たり前よ、何で私がうどんを気に入らなかったのを知ってたのよ?」

山槌は大声で笑い、ポケットから飴を二つ取り出して、一つを自分の口の中に、もう一つを葉耶の前に置いた。


「君の顔に書いてあったんだ」



「はぁっ?」


こいつバカじゃないの? でも、こいつの洞察力と推理力は半端じゃない。


まるで、アガサ・クリスティーが生み出したエルキュール・ポアロのようだ。


葉耶は飴を口に放り込むと、紙屑をバックの中に閉まった。


「私の名前は君じゃないわ。天津 葉耶。これからは、名前で呼んで頂戴」


私の言葉を聞くと、山槌は満足そうに喉を鳴らした。


「じゃ、謎解きを始めようか」

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