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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第8章 天空の神殿と世界の真実
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第78話 やっぱりほんとに反則です/暗中模索

     -やっぱりほんとに反則です-


 さっきから、あたしは自分の心臓が痛くて仕方がない。

 四本腕の巨大な騎士の姿をした『ゾルクレイド』とエリオットくんの戦いに、あたしはひたすら冷や汗を流していた。

 『ゾルクレイド』はその巨体からは想像もつかないようなすごい速さで四本の巨大な半月刀を振り回し、エリオットくんに向けて休むことなく攻撃を続けている。

 それはさながら、部屋の中央に現れた巨大な竜巻のようだった。


「あわわ……。うう、あ、あ、危ない! ……ふう、よかったあ」


 当たれば全身を粉々にされてしまいそうな斬撃が、エリオットくんの身体すれすれを通過する。

 最初の頃に一度、エリオットくんに攻撃が命中していたけれど、あのときとは状況が大きく違う。あのとき、彼が着ていた灰色の鎧(『乾坤霊石の鎧』というらしい)は、彼自身の手によって脱ぎ捨てられ、近くの床に転がっている。


「心配しないでください。これからあいつの攻撃は、一発だって僕には当たりませんから」


 鎧を脱ぐという突然の行動にびっくりしたあたしに向かっての言葉は、それは心強いものだったけれど……。

 確かにそれからしばらくの間、エリオットくんは一撃だって攻撃を受けてはいないけれど……、巨大な怪物相手に防具なしで戦う姿は、あたしの心臓にすごく悪いんだってば!

 他のコースの皆と違って、ここには【生命魔法】(ライフ・リィンフォース)を使える人なんていないんだからね?


 でも、すごい。人間の動きが、傍から見る者の目で追いかけきれないことなんて、本当にあるんだ……。鎧を脱いでからのエリオットくんは、信じられない速度で動いている。

 いったいあの鎧、どれだけ重かったのよ……。と思い、彼と『幻獣』が離れて行ったのを見計らってから鎧を持ち上げてみたけれど、数秒と持っていられない。


「うそ……。こんなの重すぎでしょう?」


 【スキル】とか関係なく、彼ってば本当に人間離れしてるんだなあ、とつくづく思う。

 ……うん。彼が味方でよかったね。とりあえず、そう思うことにしよう。

 あたしはそうやって目の前の光景から自分の意識を逸らそうと試みたけれど、そこへエリオットくんの声が響く。


「いい加減、こいつの動きも分析できるようになりました! あと少しですから!」


 ああ、だから高速戦闘中にあたしに話しかけたりしなくていいのに……。どうにもハラハラしてしまう。それでもエリオットくんとしては、迫る四本の暴風を危なげなくよけているつもりなんだろう。ライルズさんが言っていたけれど、彼は常に相手の攻撃を必要最小限の動きでかわすらしい。

 でも、あたしには、紙一重でぎりぎり助かっているようにしか見えないよう……。


「せい!」


 エリオットくんの『轟き響く葬送の魔槍(ゼスト・ヴァーン・ミリオン)』が『ゾルクレイド』の胴体部分に命中し、がりがりという音を立てて、装甲板が抉り取られていく。その中から見えたのは、ただの空洞だった。やっぱり、この『幻獣』。鎧そのものが本体なんだね。

 あたしが【オリジナルスキル】“真実の審判者”で確認できた限りの情報をエリオットくんに伝えたため、エリオットくんも別段そのことに驚いた様子はないけれど、こんな相手、どうやって倒せばいいの? 


 さっきからこんな調子で削り続けてはいるけれど、このままじゃらちが明かない。あたしがだんだんと焦れはじめたそのとき。


 いっこうに当たらない攻撃に業を煮やしたのか、『ゾルクレイド』は四本の武器を交差させるようにエリオットくんに突き出し、彼が掲げた槍に激突させた反動で大きく後ろに飛びさがる。ここまでで初めて見る、防御的な行動だ。

 と思ったらその直後、すさまじい攻撃が来た。


 雄叫びこそあげなかったけれど、力を溜めるかのように低く身をかがめたかと思うと、弾き飛ばされてようやく体勢を整えたばかりのエリオットくんに向けて、宙を跳んでいく。

 エリオットくんも咄嗟に右へ跳躍し、その攻撃を回避しようとしたけれど、またも予想外の動きを見せる『ゾルクレイド』。

 手にした半月刀を床に叩きつけることで、身体は空中にありながらも強引に方向転換をしてのける。そしてそのまま左右2本ずつの半月刀を羽のように構え、斜めに傾いた独楽のように鋭い回転を加えながら、回避行動直後のエリオットくんに襲いかかった。


「あ、危ない!」


 あたしは反射的に叫んだ。だって、どう見ても回避できるタイミングじゃないんだもの。

 けれど、あたしの目の前で起こったことは、予想を完全に裏切るものだった。

 それは、宙に舞う『ゾルクレイド』の腕。かなりの勢いで振り回されているところを切り離されたらしく、宙を跳んだそれは、すごい音をたてて部屋の壁に激突する。


「奴の動きは分析できたって、言ったじゃないですか」


 エリオットくんは、なんでもないような顔で突き出したままの『槍』を引きながら、あたしを安心させるように笑いかけてくる。

 後で聞いたところでは、肘の関節部分に槍の先端をねじ込んでから、神性“狂鳴音叉(シンパシイ)”を使って内部の空気を膨張・爆発させたらしいのだけど、どれだけ目が良ければ、どれだけ反射神経があれば、そんな真似ができるんだろう?


 うん。この人相手に心配するとか、無駄みたいだね。もうこうなったら、スリルでも楽しむつもりで観戦しちゃおう! エリオットくんのあまりに平然とした様子に、あたしはちょっとやけくそ気味に決意した。


 腕をちぎり飛ばされ、体勢を崩したまま倒れこんだ『ゾルクレイド』はというと、突然失われた腕のバランスに対応できていないのか、これまでの素早い動きからは一転して、もたもたと立ち上がるところだった。


「まあ、いくら“剣聖”級の技量があったところで、自我のない『幻獣』じゃ、このくらいが限界なんだろうね」


 エリオットくんは少しだけ憐みのこもった視線を向けると、『轟き響く葬送の魔槍(ゼスト・ヴァーン・ミリオン)』を腰だめの姿勢で構える。……あ、もしかしてあの体勢って。


 ガシャガシャと音を立てながら立ちあがった『ゾルクレイド』に向けて、エリオットくんは放つ。彼の最大最強の攻撃技『轟音衝撃波』を。


 びりびりと空気を震わす爆発音が部屋中に響き渡る。パラパラと埃が舞い落ちる中、晴れていく煙の中から姿を現したのは、上半身を完全に吹き飛ばされた『ゾルクレイド』。

 空虚な鎧の巨人騎士は、しばらくそのまま立ち尽くしていたかと思うと、残った下半身もぼろぼろに崩れはじめ、最後にはすっかり消えてなくなってしまった。


「やったね! エリオットくん!」


 あたしは勢いよく彼の元まで駆け寄ると、その手を取って上下にぶんぶんと振る。


「あ、えっと、あはは。……途中、心配をおかけして、すみませんでした」


「ううん。いいよ。結局は圧勝だったもんね!」


 と言いつつあたしは掴んでいた手を離す。ついつい握ってしまったけど、エリオットくんは表情に出さないだけで、かなり狼狽えているのが分かったからだ。

 確か彼の【魔鍵】には干渉能力を応用した精神制御の効果もあったはずなんだけど、こういう時は使えないのかな?


 気づけば、エリオットくんはいそいそと脱いでおいた鎧を着こみ始めている。

 あたしに持ち上げることすら厳しかったのに、ひょいひょいと簡単に持ち上げていた。


「ね、ねえ。どうしてそんなに重い鎧を着ているの?」


 脱いだ方が速く動けるなら、いつもそうした方がいいんじゃないかな?


「この鎧に使われている『乾坤霊石』なんですけど、地属性禁術級魔法で具現化することのできる特殊な鉱石なんです。そして地属性を凝縮したこの鎧は、着用者を地水風火の四属性から保護する効果があるんですよ。このとおり、僕は肉弾戦専門ということで【魔法】対策は必須ですからね」


 なるほど、さっきは『ゾルクレイド』が【魔法】やそれに類する攻撃をしてこないとわかったから脱いだんだね。

 重すぎて他の人には着れない鎧だけれど、エリオットくんにはまさにぴったりの防具だったんだ。これだけ揃ってると、ほんとにこの人、やっぱりますます反則です。


「さて、それじゃあ行きましょうか?」


「うん」


 そういえば、ヴァリスとシャルちゃんたちはどうなったのかな?

 声をかけるのも邪魔かもしれないけれど、シリルちゃんに聞いてみればいいんだし、呼びかけくらいはしてみよう。


「シリルちゃん? 聞こえる?」


〈ええ、聞こえるわよ。さすがにエリオットは強かったわね。〉


「あ、やっぱり見てたんだ?」


〈ええ、まあね。〉


「それじゃ、ヴァリスたちは今、どうしてるかな? もし大丈夫そうなら繋いでほしいんだけど……」


〈……やめた方がいいわね。ある意味、あの二人の訓練区画が一番の難関だから。今もまだ戦闘中よ。〉


「え? そうなんだ……。大丈夫かな?」


〈ふふっ。心配ないわよ。確かに厄介な相手だから時間はかかるけど、あの二人が負けるはずがないでしょう?〉


 あれ? シリルちゃんってば、珍しく随分と楽観的なことを言ってる。今までのシリルちゃんなら、何事も最悪のケースばかり想定して、一人ですべてに対応策を考えちゃうところがあったのに。


〈どうしたの? アリシア。〉


「ううん。シリルちゃんも大人になったなあ、って思ってね」


〈な、なによそれ……。わたしは初めから大人よ?〉


 まじめな口調で返事をしてくるシリルちゃん。


「ぷふ! うふふ、あははははは!」


〈もう! なんなのよ!〉


 ああ、シリルちゃんってほんとに可愛い。シリルちゃんには悪いけど、あたしは可笑しくて可笑しくて、しばらく笑い転げてしまったのだった。



     -暗中模索-


 シリルからの通信により現状を把握した我とシャルは、とりあえず螺旋階段を歩きはじめる。


「巡礼コースだかなんだか知らんが、くだらない茶番につきあわせてくれたものだな」


 我は正直、『魔族』という種族を信用する気にはなれない。奴らは『神』と共謀し、『竜族』を罠にはめ、『邪神』ともども封印したような連中なのだ。

 その後の隔離空間における『邪神』との死闘がいかに凄惨なものだったかを思えば、そう簡単に信用するわけにはいかない。今回もどんな罠があるか知れたものではないのだ。


「足元が透けて見えます……」


 シャルの呟きが聞こえてきた。確かに、床や壁を透かして峻険な山々の様子が見える。


「ふむ。だが材質そのものは頑丈なようだ。ガラスのように砕ける心配はあるまい」


「は、はい、そうですね」


 シャルは緊張気味な面持ちで言葉を返してくる。そういえば、シャルと二人きりになったことは、今までになかったかもしれない。


「あ、あの、ヴァリスさん?」


「む? なんだ?」


「アリシアさんには連絡を取らなくていいんですか?」


「なぜだ?」


「え? だって心配じゃ、ないんですか?」


「問題あるまい」


 我の言葉にシャルは何故か、不満そうな顔をする。

 いったい何が気にかかるというのだろうか?


「で、でも、さっきのシリルお姉ちゃんの話では、戦闘用の『幻獣』が出るって話ですし……」


「ああ、なるほど。だが、それこそ心配いるまい。アリシアはエリオットと共にいるのだ。奴が負けるところなど想像もつかない」


「エリオットさんを信用しているんですね」


「奴は強い。あの武芸大会の時も、奴は完全に全力を出し切っていたとは言い難いだろうからな」


 我がそう言うと、シャルは少しだけ考え込むような仕草をした後、こんな言葉を口にした。


「でも、やっぱりちょっと気になります……」


「どういう意味だ?」


 さっきからシャルは何が言いたいのか?

 すると、シャルは再び考えこむように下を向く。そしておもむろに、こう言った。


「えっと、その、アリシアさんとエリオットさんの男女が二人っきりだなんて、ヴァリスさんは気にはならないですか?」


「……? それを言うなら、ルシアとエイミアも同じだろうに。何が気になるのだ?」


「うう、もういいです。……いつもアリシアお姉ちゃんを見てるのは、気のせいだったのかな?」


 つぶやくような後半部分の言葉はよく聞き取れなかったが、シャルは腑に落ちないと言った顔をしていた。アリシアが誰と二人きりだろうと、特に問題はあるまいに。


 ──そんなことを考えた時、我の心に最初に浮かび上がったのは『不快感』だった。だが、何が不快なのか? その点を突き詰めて考えようとすると今度は、アルマグリッドの街で二人、ピクニックとやらに出かけた時のことを思い出した。

 公園でたわいない話をしながら食事をし、雑貨街で青い宝石のペンダントを購入した。あのとき彼女は、我の手からペンダントを首にかけられると、笑顔を浮かべて「一生大事にする」と言ったのだ……。


 ──なぜこんなことを思い出したのだろうか?

 我は、『竜族』にとってあるまじきことに、自身のことが理解できないでいた。


「ヴァリスさん? どうしたんですか?」


「……ああ。どうやら我は、『竜族』にとっての『難題』に行き当たっているようだ」


「難題? ……えっと、わたし、本ならたくさん読んでますし、話していただけたらお力になれることもあるかもしれませんけれど……」


「そうか。なら、そうさせてもらおう。……この扉の向こうに敵がいるようだ。続きはその後だ」


「は、はい!」


 我の言葉に、シャルは大きく頷くと腰に差した鞘から『差し招く未来の霊剣(エレメンタル・ブレード)』を引き抜く。途端に淡い虹色の輝きが刀身から零れ落ち、彼女の黒を基調としたドレスを照らす。


 重々しい銀の扉を押し開くと、そこには思ってもみなかった光景が広がっていた。


「暗い、ですね……」


「そうだな。だが、かなりの数の敵の存在が感知できる。少なくとも百は超えている」


「ひゃく、ですか?」


〈この区画は一番の難所だよ。通り抜けるには、中にいる無数の『幻獣』を倒す必要があるんだ。その人数で挑むのは正直無謀だと思う。なんなら何体か倒して見せてくれれば、降参しても通してあげるよ? ……それで十分だしね。〉


 シャルの驚く声に重なるように、どこからかノエルの声が響く。


「くだらん挑発だな。倒せばいいというのなら、倒すまでだ」


 我の吐き捨てた言葉に、ノエルからの返事はなかった。


「こうも暗いと何も見えませんね。今、明かりをつけます」


「ああ、頼む」


 我とて“超感覚”はあるものの、肉眼で物が見えるに越したことはない。


〈宙に揺らぐ灯火〉


 シャルが火属性の【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)で明かりを灯したその時だった。

 我は、明かりの中に映し出されたあまりに予想外の光景に目を奪われていた。

 そこは一言で言えば『洞窟』だ。周囲をごつごつとした岩壁に囲まれ、足元も土と石が混じり合ったものだ。ここが建造物の中とは到底思えない。


 ふと、それまで少し離れた場所にいた敵の気配が、一斉に動き始めたのを感じた。


「ヴァリスさん! 敵です!」


 チキチキと耳障りな音を立てながら、そいつらは我らを半包囲する。


「大きな蟻、なんでしょうか?」


 姿からすれば、そう形容するしかない存在だ。黒光りする身体の左右に六本の脚。岩をも噛み砕きそうな巨大な顎に何の光も宿さぬ複眼。体長は人の子供ほどはあるだろうか。

 後ろ四本の脚を使って移動し、前の脚はまるで人間の手のように前に掲げているという点が、蟻とは異なるようだ。


 チキチキという固いものが擦れるような音はますます大きくなり、そしてそれが最高潮に高まった直後、『蟻』どもが一斉に飛び掛かってくる。


〈燃え上がる炎の波〉


 シャルの凛とした声が響くとともに、我とシャルを中心とした半円状に炎の波が生まれ、迫りくる『蟻』どもを飲み込んでいく。見た限りは周囲に炎の気配などないが、大した威力だ。


「『樹精石の首飾り』のおかげです」


 シャルの首には、『新世界樹』の樹脂から加工された四連石の首飾りがかかっている。よく見れば四種類各々が四属性の光を宿しているのがわかる。


「だが、いまのでせいぜい二十匹足らずだ。まだ来るぞ」


 だがいくら待っても、何も起きる気配がない。

 炎に焼かれた『蟻』たちの死骸も周囲に転がったままだ。


「えっと、これって進むしかないってことでしょうか?」


「だろうな。……この調子で襲い掛かられるとなれば、攻撃手段は【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)をメインにするべきだ。常に攻撃の準備を怠るな。我は敵の足止めをする。……気をしっかり保て」


「は、はい!」


 我とシャルの二人は、慎重に洞窟内を進み始めた。時折分かれ道のような場所に出くわすが、敵を倒すことが目的である以上、比較的多くの気配がする方へと足を進める。


 そして、いくらも進まないうちに、再びチキチキという音が高まり、『蟻』どもが姿を現す。洞窟の通路はかなり広く、天井も高かったのだが、地面と言わず壁と言わず、びっしりと『蟻』の群れが埋め尽くしている。

 流石に天井にはいなかったものの、いつのまにか完全に囲まれていた。


「うう、気持ちわるいです……」


「確かに、な」


 人間で言えば、これは生理的嫌悪感と呼ぶべきものであろうか。自分とはあまりに異質な存在が、大量に、こちらの様子をじっと窺っている有様は、気の弱い人間なら気絶してもおかしくないほど不気味であり、おぞましくもあった。


 だが我は、世界最強の種族『竜族』だ。この身の程知らずの『蟻』どもに、王者に逆らうことの愚かさをわからせてやる。

 我は目配せでシャルに合図を送ると、大きく息を吸い込んだ。


〈グウルガアアアア!〉


 『竜族』の種族特性のひとつ、“竜の咆哮”。

 それは世界への宣言。最強の覇者たるものの存在証明。

 びりびりと空気を震わせ、その声を聴く者の魂までもを激しく揺さぶる。

 今にも我らに飛び掛かろうとしていた『蟻』どもは、あるものは壁から転がり落ち、あるものは地にふせ、あるものは恐慌状態からか仲間を無差別に襲い始めた。

 

「今だ、シャル!」


「は、はい!」


 我の合図で耳をふさいでいたシャルは虹色に輝く『差し招く未来の霊剣(エレメンタル・ブレード)』を地に突き刺すと、親しい友人に接するかのような穏やかな声で世界の【マナ】へ語りかける。


〈地を伝い、吹き上がる火炎の舞〉


 次の瞬間、『蟻』どものいる足元の地面が砕け、一斉に噴出した炎が連中を焼き尽くしていく。


「なんだ? 今の技は?」


「はい。洞窟の中なのであまり無差別広範囲な炎は危険ですから。少しだけ、地属性も混ぜてみたんです」


 確かに、少しではあるが、火属性によって赤く染まったシャルの髪や瞳、うっすらと肌に浮かび上がる紋様にも、茶色が混じっているように見えなくもない。


「『融和する無色の双翼(マーセル・アリオス・クライン)』ではないのか?」


「はい。厳密には融合属性ではなくて、同時展開みたいなものです。練習ではうまくいったので、できるかと思って……。そ、その、まずかったですか?」


「いや、大したものだ。その調子で頼む」


 我がそう言うと、シャルは嬉しそうに笑顔をうかべた。


「はい! まかせてください!」


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