第75話 アフェクション/口は災いの元
-アフェクション-
単調な山道をひたすらに登り続けることしばらく、シリルお姉ちゃんは途中で急に道を外れると、こんもりとした茂みの中へと入っていきました。
一般的な『天嶮の迷宮』の探索方法は、山腹に口を開けて待ちかまえる無数の洞窟のひとつに入り、頂上へ向けて複雑に入り組んだ内部構造を辿っていくらしいのですが、やっぱり今回は違うみたいです。
わたしたちもその後を追いかけていくと、シリルお姉ちゃんは一見して何の変哲もない岩壁の前に立っていました。
「ん? この前の地下施設みたいに隠蔽されてるのか? じゃあ、俺が……」
「いえ、大丈夫。ここは『セントラル』の施設よ。解呪の方法は知ってるから」
シリルお姉ちゃんはルシアの言葉に首を振ると、岩壁に手をつき目を閉じました。
すると、岩の壁がみしみしと軋みはじめます。やがて低い地響きのような音とともに岩肌の一部がスライドし、中から銀色に輝く扉が姿を現しました。
「さ、ここが入口よ」
シリルお姉ちゃんは驚くみんなを尻目に、中へとためらうことなく入っていきます。
そして、後に続くわたしたちが目にしたものは、見たこともないような不思議な空間でした。
弾力のある銀の床。素材自体が淡い光を放つ白い壁。そして、宙に浮かぶ複数の水晶球。
「こ、これは驚いたな……」
「金属? それにしては柔らかいような気もするし……」
エイミア様とエリオットさんも驚きの声を上げています。
わたしたちもシリルお姉ちゃんから『魔族』の技術力について聞かされてはいましたが、実際にこうしたものを目の前にすると圧倒されてしまいます。
「疑っていたわけじゃないけれど、本当に『魔族』は存在するのだな。ギルドも『魔族』が絡んでいるというし……」
複雑な顔でつぶやくエイミア様。かつて、エイミア様の弟さんを犠牲にした『魔神』討伐作戦を計画したのもギルド。その裏で糸を引いていたのが『魔族』となれば、その心中は穏やかではないかもしれない。
「……いろいろ思うところはあるでしょうけれど、ここは我慢してね。認証を受けないと『天空神殿』には入れない以上、表向きだけでもいい顔をする必要があるわ」
それを慮ってのシリルお姉ちゃんの言葉。
けれど、そこへ意外なところから反応が返ってきました。
「そんなことはないよ。少なくともこの僕を前に、あえていい顔なんてする必要はないさ」
「!?」
誰もいないはずの空間から響く声に、わたしたちは驚いてそちらを見ました。
そこには、ぼんやりと浮かぶ一つの人影。短めの黒い髪に大きめの黒い瞳。すらりとした細身の身体。黒髪黒目で端正な顔立ちをしているせいか、少しルシアと似ているかもしれません。けれど、ルシアよりも柔和で中性的な印象も受けます。
ただし本物ではなく、水晶球から投射される光によって浮かび上がった立体映像のようです。けれど、身に着けた装飾品タイプの【魔装兵器】や腰に差した剣に刻まれた細かい紋様などもはっきりと見え、まるで本物がそこにあるかのように精巧な映像でした。
「ノエル! どうしてあなたがここに?」
「やあ、シリル。久しぶり。どうしてかと言えばそうだね、僕がここの管理者だからさ」
シリルお姉ちゃんのお知り合いなのでしょうか? ノエルと呼ばれたその人は、いかにも優しげな笑みを浮かべてシリルお姉ちゃんの質問に答えました。
「管理者? 馬鹿言わないで。今や元老院のメンバーにも手が届こうかというあなたが、こんな辺境の観測施設の管理者だなんて、ありえないわ」
「辺境だからこそ、見えてくるものもあるのさ。君の知りたいことだって、見えてくるかもしれないよ? ここは世界の観測施設なんだからね」
「……やっぱり、あなたは知っていたのね? わたしが聞かされていた伝説が嘘だって」
「嘘? よくわからないけれど、事実は常に複数の側面から観測されることで、異なる真実を持つものだよ」
「何が真実よ! わたしは聞いたのよ? 『世界の分断』から【重なる世界】への移行によって、世界の歪みはむしろ悪化したんだって。何が滅びから救うためよ! 全部、嘘じゃない! あなただって、そうやってわたしを騙し続けていたのでしょう!? だったら他の連中と……同罪よ!」
シリルお姉ちゃんは、これまでに見たことがないくらい激昂していました。単に取り乱している、というのであれば前にもありました。でも今は、大人に騙されていたことを知った子供のように、ノエルさんのことを激しく糾弾しています。
そんなシリルお姉ちゃんに対し、ノエルさんは困ったような顔で問いかけました。
「それは、誰から聞いたんだい?」
「……八百数十年前から生きている『妖精族』」
「八百年? そんな存在がいるとはね。……なるほど確かに、彼らから見たらそうなんだろう。でもシリル。『魔族』から見た真実は、君が教えられていた通りなんだよ」
「どういうこと?」
「【幻想法則】が『分断』された世界では、術式の固定された文字媒体によるもの以外、『神』ならぬ『魔族』が【魔法】を使うことは不可能だった。──多少、強引にでも世界を重ねたのには、彼らなりの理由があったのさ」
「【魔法】を使えるようにするためだけに、世界を犠牲にしたというの?」
「『魔族』にとって『世界』とは、【魔法】のことだ。『妖精族』にとって『精霊』と【自然法則】がそうであるようにね。誰しも、何らかの拠り所なくしては生きていけない。『神』を失った彼らには、それがすべてだったんだ」
拠り所……。わたしにとってのシリルお姉ちゃんたちのようなものでしょうか?
それを失ったとき、他の何を犠牲にしても、それを取り戻したいと考える。わたしでも、そんな風に考えてしまわないとは限らない。
「で、でも、そのせいで世界は!」
「そう、彼らは失敗した。今でこそ『創世霊樹』による応急処置で急場をしのいでいるけれど、いつかは破綻する。無理矢理一つに重ねられた【幻想法則】。つまり【狂夢】は、その名の通り狂った法則だ。だからこその『世界の理』計画なのだけれど……」
「教えて!『世界の理』って、何なの? わたしに【狂夢】を再構築させる。それだけのものではないのでしょう?」
「……不思議なものだね。かつての君はそんなことには興味がなかったはずだ。自分が道具として生まれたことを呪い、一刻も早く『魔導都市』から飛び出すことばかり考えていたはずだろう?」
「そ、それは……」
シリルお姉ちゃんが珍しく口ごもっています。
「いや、責めているわけじゃない。僕は嬉しいんだよ。君がようやく自分から、自分の運命に立ち向かう気になってくれたんだ。……きっと、そこにいる皆のおかげなんだろうね」
そう言ってノエルさんは、黒い瞳でわたしたちを見回します。それは、穏やかでありながら、何かを探るような目に見えました。
「残念ながら僕も、計画の詳細までは知らされていない。だから、僕が君に伝えられることは、僕が独自に探って得た情報なんだ。断片的で申し訳ないけれどね」
そこまで言ってノエルさんは、いったん言葉を切ると、改めてシリルお姉ちゃんのまわりにいるわたしたちに視線を向けてきました。
「──ただし、これは『魔族』の存亡にすら関わる機密情報にあたる。君たちが最後までシリルと運命を共にする気がないのなら、ここからはお引き取り願いたい」
これまでの穏やかな声から一転、厳しくて鋭い言葉は、わたしたちに突き刺さるかのようです。けれど、そんな言葉に怯みもせず、まず前に進み出たのは、やっぱりルシアでした。
「俺は最初からそのつもりだよ。こいつが嫌だと言っても、最後まで付きまとってやると決めてるからな」
えーと、それって、さすがに表現としてはどうなんでしょう?
「もう、ルシアくんてば。それじゃ、変態さんだよ? ……あたしはシリルちゃんの親友だもの。どこまでだって一緒だよ」
と、アリシアお姉ちゃん。……それから、当然わたしも、他の皆も、引き下がるなんて言う人は一人もいませんでした。
「うん。シリル。いい仲間を持ったね。心配だったけれど、旅に出して正解だったかな」
「……ノエル。どうしてあなたは、そこまでしてくれるの?」
「寂しいことを言わないでよ。……僕は君を愛しているんだ。誰よりも、何よりもね。その気持ちだけは、誰にも負けない。僕にとって、君と過ごしたあの日々は、今でも掛け替えのない宝物なのだから……」
すごく熱烈な愛の告白を聞いてしまいました。
ど、どうしよう? ……ううん。シリルお姉ちゃんは、どうするんだろう?
わたしは、はらはらしながらも、ちらりとルシアの方を窺う。やっぱりルシアも動揺しているみたいで、落ち着かなげに視線をさまよわせている。
「……ノエル。さっきは酷いことを言って、ごめんなさい。……いつだって、あなただけは、わたしの味方でいてくれたのに。あんな環境で育って、わたしが歪まずにいられたのは、それこそあなたのおかげだったのに……」
シリルお姉ちゃんの返事は、まんざらでもなさそうな感じです。それに気づいたとき、 なぜだか、悔しいような、焦るような、そんな奇妙な感情がわたしの中に湧きおこりました。
そんなときでした。
場に漂う微妙な空気を、まとめて吹き飛ばすような声が響いたんです。
「俺の方が、あんたよりもずっと、シリルのことを愛している!」
-口は災いの元-
〈……ぐらいのこと、言えんのか! この腰抜けめ!〉
あまりの不甲斐なさに憤慨していると、気づいた時には周囲の視線がこちらに集中していた。ん? おかしいな?
「えっと、まさか今のって、ルシアくんが?」
「で、でも、声が……」
「緊張して声が上ずったのではないかな? 無理もない。あれだけ盛大な愛の告白なのだからな」
「……いえ、エイミアさん。それは少し無理があるような気が」
なんだ、この騒ぎは?
なぜこやつらは、ルシアを見つめてガヤガヤ喚きたてている?
「ち、違うって、俺はそんなこと……」
まったく、腰抜けにもほどがある。この期に及んで何をぐずぐずしているのだか。
好きな女が目の前で口説かれているのなら、万難を排してでも止めようとするべきではないのか? 己の意志を、思いを、大切な誰かに伝えたいと思うなら、ためらうことなく行動すべきであろうものを。
──ふと、一人の人物と目があった。
いや、わらわの姿は見えないはずなのだ。ならば気のせいだろう。
しかし、その人物は顔を真っ赤に紅潮させて、ずんずんとこちらに歩み寄ってくる。いや、もちろんルシアに向かって歩いているのだろうが。
「な、何をあんたは……」
「ちょ、ちょっとまて、シリル。今のは俺じゃないって!」
ルシアがおろおろと慌てふためく中、シリルはなおも早足で距離を詰めてくる。
「恥ずかしいことを言ってくれてるのよ~!!」
〈へ!? のわあああ!〉
わらわは彼女に襟首を掴まれ、前後にがっくんがっくんと揺さぶられる。
〈ちょ、待て! やめい! わらわは『神』だぞ? 襟首つかんで揺さぶるとか、あり得ないだろう!〉
「う、うるさい! もう! なんなのよ! 大体何で、わたしの姿をしているわけ?」
〈い、いやそれより、お主、わらわの姿が見えるのか? っていうか、なんで掴める?〉
「へ?」
ようやく我に返ったシリルは、自分に向けられる「痛いもの」を見るかのような視線に気づいたようだ。
「シ、シリルちゃん。いくら恥ずかしいからって、それはないんじゃ?」
「ふむ。人は取り乱すと、こうまで奇行に走ることがあるのだな」
アリシアという人間の娘となぜか『竜族』のくせに人の姿をしているヴァリスという若者の言葉に、シリルの顔が見る間に青ざめていく。
「う、うそ? みんなには見えていないの?」
「いや、その、シリル。その芝居はさすがに苦しいのではないか?」
「エ、エイミアまで! 違うの、これは誤魔化すための芝居なんかじゃなくって!」
シリルの顔は再び青から赤へ、目まぐるしく色を変えていく。ここにきて、ようやくわらわは何が起こったのかを理解した。ふむ。さっきの言葉が他の連中にまで聞こえてしまったのか。『扉』が開きかけているという意味ではよい兆候なのかもしれんが……。
「シリルお姉ちゃん……」
「うう、シャル、だから、違うのよ? っていうか、ルシアも何か言いなさいよ! 違うんでしょ?」
「お、ああ。だ、大体声が違っただろ? その、さっきのは、俺の中にいる別の奴が言ったっていうか……」
「ば、ばか! その言い方じゃ……」
シリルが慌ててフォローしようとするも、無駄だった。
特にアリシアの目が、なにやら意地悪そうに細められていく。
「ふーん。そうなんだー。へえー、別の人なんだねー」
「あはは。自分の中の別の奴か。言い得て妙だ。ルシアはなかなか詩人だな」
アリシアのわざとらしげな声に重なった、感心したような声の主は、確かエイミアと言ったか。だが、最も大きな変化があったのは、ノエルという『魔族』だっただろう。
「……そこまで言うか。面白い。僕の十数年間を超える思いがあるというのなら、見せてくれ。……君たちシリルの仲間には、正規ルートの承認は与えない。『巡礼コース』から来てもらおう」
「ちょ、ちょっとノエル! 『巡礼コース』って、訓練用の『幻獣』がいる区画を通るのでしょう?」
「ああ、そうだよ。彼らがほんとうに、君を任せるに足るものか確かめたいのさ。だから、容赦なくやらせてもらう。口ほどにも『ある』ところを見せてもらいたいね。ただし、注意したまえ。君たちの実力を試す手前、団体行動は極力潰させてもらう」
「あ、だめ!」
シリルが止める暇もあればこそ──
【魔法陣】のような紋様が部屋の床に出現したかと思うと、たちまちシリル以外の全員が、まるで底なし沼にでも引き込まれるかのように銀の床へと沈み始めた。
「うおわあ!」
わらわの宿主たるルシアの声が情けなくも木霊する。
「シリルを悲しませたくはないからね。せいぜい、死なないように頑張りたまえ」
ノエルのそんな声とともに、ルシアの視界からは、白く輝く部屋の景色が消え失せた。
周囲を不可思議な粒子の流れが覆っているところをみると、どうやら建造物の構造体内部を強制的に移動させられているようだ。
そしてようやく、ルシアの身体は構造体の壁面から吐き出され、床に放り出された。
「っ痛、いてて、まったく、ファラ。声が出せるようになったからって、第一声がアレって、いくらなんでも酷くないか?」
〈ふ、ふん。お主が不甲斐ないからだ。わらわは悪くない!〉
「へいへい。で、ここはどこなんだろうな?」
ルシアのその問いに答えたのは別の声だ。
「うん。それは確かに疑問だが、その前にどいてくれると嬉しいな。男性にのしかかられたのはさすがに初めてだが、結構重いものだ」
「へ? うわ、エイミアさん!」
ルシアは、ようやく自分が女性を押し倒すような体勢でいることに気づいたらしい。
──いや、嘘だ。この男のことだ。気づいていて、わざと続けていたに違いない。
だが、これだけで終わらないのがこの男が変態たる所以だろう。慌てて立ち上がろうとしたこの男は、姿勢を変える際に、あろうことか触れてはいけない柔らかい場所に手をついたのだ。
「ひゃあん!」
「どわあああ! す、すみません!」
ルシアは顔を真っ赤にして飛び上がり、そのまま着地と同時に土下座の姿勢をとった。まあ、普通なら八つ裂きものだ。土下座程度で済めばよいがな。
「ふー、ルシア。さすがに今のは驚いたぞ? よもやわたしの乳房を揉みしだこうとは」
わずかに頬を紅潮させ、腕で胸元を隠すようにしつつ、息をつくエイミア。
「い、いや、悪かったですけど、なんでそんな、わざわざ生々しい言い方を……」
「ああ、これではお嫁にいけなくなってしまうなあ。うん。ルシア。責任を取って、わたしをもらってくれるというのはどうだろう?」
エイミアはどうやら「からかいモード」に突入しているようだが、罰としては生温い。 だがルシアはその問いに、ほとんど戸惑うことなく即答する。
「遠慮させてください」
「酷いな、即答か? 確かにわたしはシリルほど可愛くないし、あんな愛の告白の後では難しいかもしれないが、悩む素振りぐらいするのが礼儀だぞ?」
「い、いや、そうではなくて。そんなことしたらエリオットの奴に殺されちまいますよ」
「なぜだ? さすがにあの子もそこまで凶暴ではないぞ?」
「うう、駄目だ、わかってない」
〈どういうことなのだ?〉
わらわは心の中でルシアに問いかける。
〈いや、だからさ。エリオットってエイミアのことになるとすげえ怖いんだよ。二人っきりになったとか、ましてや胸を触ったとか知られたら、間違いなく殺される!〉
「まあ、さっきのは一応事故だということにしておいてあげよう。特にシリルに知られたら大変そうだしね。それでいいかな?」
「すみません、すみません、ありがとうございます!」
ルシアが感謝の言葉を繰り返す。
〈よ、よく考えれば、シリルに知れたら殺されるどころじゃすまないぞ……〉
そんな心のつぶやきが聞こえてくる。……相手ができた人間でよかったな、ルシア。
「さて、さっきの『魔族』の話からすれば、我々は巡礼コースとやらに飛ばされたようだな。床に飲み込まれたところから考えるに、ここは地下通路なのではないか?」
エイミアの言葉どおり、そこは通路の行き止まりのような場所だった。
背には白い壁。目の前には淡い輝きを放つ壁に囲まれた、細長い空間が広がっている。
「お? シリルからだ。……よし、『中継、エイミアへ』」
早速わらわの力で生み出した『絆の指輪』を活用する機会が来たようだ。
〈ルシア! それに、エイミアにもつながっているわね?〉
「ああ、聞こえるぞ」
とエイミアが答える。
〈よかった! 他の皆とは連絡が取れたのに、なかなかつながらなかったから心配したわ〉
「あ、いやその、ちょっと立て込んでてさ。気づくのが遅れた。で、シリル。状況を教えてくれないか?」
まったく、何に『立て込んでいた』のだか。
〈ええ。あなたたちは『天空神殿』の巡礼コース2番にいるわ。『魔族』の戦闘訓練に使うものよ。こっちに戻るにはまず、一度その通路から2番訓練塔に向かうしかないの。それから訓練塔最上階まで登り切って、空中連絡通路をわたって中央塔まで戻るのよ。でも、訓練塔には必ず『幻獣』がいるの。通常の召喚獣と違って戦闘用に『調整』された相手よ。かなり手ごわいから注意してね〉
「なるほどな。他のみんなはどうしたんだ?」
〈それぞれ1番にはヴァリスとシャル。3番にはエリオットとアリシアがいるわ〉
「うーん。まあ、組み合わせ的には問題なさそうだな」
〈そうね。ノエルも多少は配慮してくれたんだと思うけど……。それより、どういうことだか、後できっちり話してもらうからね。『ファラ』だったかしら? あなたも覚悟しておきなさいよ。さっきの三倍は揺さぶってあげるんだから! 恥ずかしくって死にそうだったんだからね!〉
〈むう、怖い怖い。だが、まんざらでもなかったろう?〉
〈~~!!〉
試しに聞こえるはずのない声で言いかえしてやると、支離滅裂な罵声が返ってくる。
どうやらこの娘にだけは、わらわの声も普段から聞こえてしまうようだ。
おそらくは、この娘とルシアの間にある【召喚】によって生まれた魂のつながりが、こんな現象を引き起こしているのであろうが、襟首を掴まれて揺さぶられるのだけは、勘弁願いたいところだ。




