第71話 パーティータイム/バースデー
-パーティータイム-
いきなりですが、ピンチです。
「シャ、シャルちゃんは好きな食べ物とかあるのかな?」
「え、えっと……その、甘いものが好きです」
「そっかあ、甘いものかあ。うんうん。可愛いねえ」
誰か、誰か、助けてください!
そんなわたしの心の叫びにも関わらず、その人はわたしが座っているのと同じ長椅子に腰かけたまま、少しずつ距離を詰めて近づいてきます。浅黒い肌にずんぐりとした体型の彼がにじり寄ってくる姿は、それだけで迫力というか、妙な圧迫感を覚えます……。
うう、怖いです。彼、ダリルさんは悪い人じゃないはずですが、今は何故かいろいろとピンチな気がしてなりません。とにかくもう、わたしを見る目がこわいんです!
こんなとき、いつもなら頼りになるはずのシリルお姉ちゃんは近くにいません。
というのも、本日の主役であるところのシリルお姉ちゃんは、わたし以上にたくさんの人たちに囲まれているからです。わたしはみなさんの輪から取り残されたような気持ちになりながらも、食堂の隅で食事をしていたのですが、そこにやってきたのがダリルさんでした。
──そう、今日は街を護るのに協力してくれた冒険者のみなさんを集めての祝勝会、兼シリルお姉ちゃんの銀髪銀眼の姿のお披露目(?)会、兼『誕生日会』なのです。
きっかけは、一連の事件が終わってヴィダーツ魔具工房に戻った直後、アリシアお姉ちゃんが言った一言でした。
「そういえば、シリルちゃん。もうすぐお誕生日だよね? 17歳の」
「え? そうだったかしら?」
「誤魔化そうとしても駄目だよ? あたしにはわかっちゃうんだから。……だからね? せっかくの機会だし、お誕生日会でもしようよ」
アリシアお姉ちゃんは、見るからにうきうきした様子でそんなことを言いだしました。ですが、対するシリルお姉ちゃんは、なぜか戸惑ったような顔をして首を振ります。
「い、いいわよ、別に。誕生日なんて、そんなたいしたことじゃないわ」
「たいしたことあるよ。だってシリルちゃんが生まれた日だよ? 大事件じゃない! お祝いなんだから、パーティーしなくっちゃ!」
「で、でも、そんな大げさにしなくても……」
しつこく食い下がるアリシアお姉ちゃんに対し、シリルお姉ちゃんはなかなか首を縦に振りませんでした。
「いいじゃないか。みんなで集まってパーティーってのも、それだけで楽しそうだろ?」
「ル、ルシアまで! ……もう、わかったわよ。確かに、知り合いにこの姿のことを説明するのにも良い機会かもしれないし……」
最後まで難色を示していたシリルお姉ちゃんも、ルシアのちょっとした発言を境に、ようやくパーティーの開催を承諾してくれたのでした。
結局、パーティーはガアラムさんの魔具工房にある食堂を借りて実施することが決定し、わたしも料理やお酒、その他もろもろの準備をお手伝いをすることになり……
「──そして、現在に至るわけですけれど……以前のシリルお姉ちゃんの姿を知る人から見れば、びっくりするような話でしょうし、皆が周りに集まっちゃうのも無理はないんですよね……」
実際、銀髪銀眼姿のシリルお姉ちゃんは、わたしから見てもとても『可愛い』女の子です。姿が変わっても話し方までは変わらないけれど、わたしと歳が近くなったみたいな感じがして、なんだか嬉しくなってしまいます。
「ん? どうしたんだい、シャルちゃん? 一人で何を言っているのかな?」
この状況さえ、なんとかなれば……。
「そうそう、シャルちゃん。この飲み物なんだけど、甘くてとてもおいしいよ?」
そう言ってダリルさんが差し出したのは、いわゆるカクテルというものです。
つまりお酒です。わたしも準備を手伝ったから知っています。
飲むと酔ってしまう飲み物です。人は酔うと判断力などが鈍くなります。
ちなみにわたしはまだ12歳です……。
ズザザザザ! とわたしは思わずダリルさんから距離を置きました。
わたしにそんなものを飲ませてどうするつもりなんですか、この人は!
「え? どうしたんだい? シャルちゃん?」
「どうしたんだい? じゃねえ! この変態バカ兄貴!」
バキ!というすごい音とともにダリルさんの妹、リエナさんの拳がようやく彼を沈黙させてくれました。ああ、もの凄い窮地から生還した気分です……。
「悪かったね。シャル。うちのバカ兄貴が迷惑かけてさ。でも、嫌だったらガツンとやっていいんだよ? これ、ちょっとやそっとじゃ壊れないからさ」
実の兄を、モノ扱いしている人がいます……。とはいえ──わたしはこれまでリエナさんのことを怖い人だと思っていましたが、今回ばかりはまるで天使のように見えていたことも確かです。
「ほら! いくよ!!」
リエナさんは、威勢よく言いながらダリルさんの襟首をつかみます。
そしてそのまま、ずるずると引き摺られるように離れていくダリルさんの姿。それを見届けて、ようやく安心したわたしは、改めてシリルお姉ちゃんの姿を探しました。
もちろん、そこはこのパーティーの騒ぎの中心。アリシアお姉ちゃんやミスティさん、それに魔具工房の主人であるガアラムさんや孫のハンスさんたちに囲まれて、シリルお姉ちゃんは少し困ったような顔をしています。
「ほらほら、そんなしけた顔してないでさ、飲みなよ! さあさあ!」
ミスティさんはシリルお姉ちゃんの隣に腰かけた状態で、しきりに酒杯を勧めていました。
「ちょ、ちょっと待って! わたしは見ての通り、未成年よ?」
シリルお姉ちゃんは、今までの姿については、訳あって【魔鍵】の力で変装していたのだと説明していました。少し無理がある気もしますが、誰も追及しないでくれるところは信頼関係というものなのかもしれません。
「いまさら、なに言ってんのさ。でもまあ、あれだね。まさか、『氷の闇姫』の正体がこんなお嬢ちゃんだとは思わなかったわ、ほんと。ああ、そうだ。これからは『シリルちゃん』って呼んだ方がいいかい?」
「ミスティ……。いい加減にしないと、貴女の小さいころの夢が踊り子になることだったこととか、ばらしちゃうわよ?」
「わああ! 『ばらしちゃうわよ』って、ばらしてるじゃない!」
ミスティさんは顔を真っ赤にしてシリルお姉ちゃんの襟首を掴み、がくがくと揺さぶりました。
「あははははは!」
シリルお姉ちゃんは前後に身体を揺さぶられながらも、なんだかとっても楽しそうです。それにしても、『踊り子』ですか。なるほど、それでミスティさんって、胸に巻いた赤い布とか蛇柄の巻きスカートとか、露出が多くて派手な感じの服装をしているんですね。
「へええ、踊り子かあ、いいなあ。ミスティさんの踊り、見たいなあ」
そんなふうに鼻の下を伸ばしながら、だらしない声を出したのはハンスさん。彼の目は、それはもう食い入るようにミスティさんの胸や腰のあたりを見ています。
「うう……、そんなに大したものじゃないのよ?」
そう言いながらもミスティさんはいそいそと立ち上がると、踊るためのスペースがありそうな場所へと移動し始めました。
え? あんなに恥ずかしがってたのに踊るんですか?
よく見ると、頬がほんのり上気しているみたいですし、酔っているみたいですね……。
やっぱり、お酒は怖いです。冷静な判断力がなくなります。
「よお、シャル。ちゃんと食ってるか?」
「ルシアじゃないもん。そんなにがつがつ食べたりしないよ」
わたしは急に声をかけられて、反射的に憎まれ口を返してしまいました。
「相変わらず手厳しいなあ。まあ、いいや。だいぶ盛り上がってるみたいだな。みんなも」
そう言いながらルシアはわたしの相向かいの席に腰を下ろしました。手には料理の皿と飲み物のグラスがありますが、どうやらお酒ではないみたいです。
「ルシアはお酒、飲まないの?」
「ああ、少しは飲んでみたんだけどな。苦いっていうか、あんまり美味いもんじゃないよな、あれ」
ふふ、なんだかんだ言って、ルシアって子供みたいです。場の盛り上がりについていけていない様子には親近感を覚えましたが、少し不満な点もあります。
「ルシアはシリルお姉ちゃんのところにはいかないの?」
「ん? ああ、まあ、あれだけ皆に囲まれてるとな。いいんじゃないか? 普段一緒にいられない皆との親睦を深めるのが優先だろ? 俺たちは後からでもお祝いしてやれるんだしな」
せっかくの誕生日なんだから、シリルお姉ちゃんの傍にいてあげればいいのに……。
そんな風にも思いましたが、まさか口に出しては言えません。
「それにほら、ヴァリスだって、さっきからずっとグレゴリオさんと話し込んでいるんだぜ?」
「……うん。そうだね」
それには、わたしもさっきから気付いてはいました。二十代の若者にしか見えないヴァリスさんと白髪混じりの頭をしたグレゴリオさんの組み合わせは、何とも異様でありながら、なぜかそこだけ渋い大人の雰囲気が漂っています。
「さっき何を話してんだか、近くに座って聞き耳を立ててたんだけどよ。こないだの試合のこととか、『強さ』とは何かとか、そんなまじめな話ばっかしてんだからな。恐れいるよ。こんな時くらい少しは羽目を外せってんだよな」
「うん……」
盗み聞きとは感心できませんが、それはまったくの同感です。
「ん? シャル、もしかして眠いのか? 寝るんだったら上に行けよ?」
「うーん……」
少し、眠いかもしれません。夕方から始まったパーティーはまだ終わる気配を見せませんし、寝るには少し早いけれど、準備やら何やらで忙しかったので少し疲れているのかも。
「何なら、俺がおぶってってやるぜ?」
「嫌。……『フィリス』に代わるからいい」
まったくもう、そんなことばっかり言って……。
ラクラッドの宮殿から助けてもらった際、ルシアに背負われて目が覚めた時のことは、思い出すだけでも恥ずかしいというか、屈辱というか、とにかく顔から火が出るくらいなのに。
結局わたしは、後をフィリスに任せて眠ることにしました。
-バースデー-
シャルが寝息をたてはじめると同時に、ワタシが表に現れる。
といってもこれは比喩みたいなもので、実際にはシャルの身体は起きたままだ。でも、ワタシが表に出ている間については、シャルの身体も睡眠時のような休息がとれるみたいなので、ワタシがこうして表に出るのは夜が多かったりもする。
「うーんと、フィリスに代わったのか?」
「ハイ。……ところでルシア。ひとつ教えてもらいたいことがあるのデすが」
「なんだ?」
「誕生日って、なんですカ?」
ワタシの問いに対し、ルシアはガクっと目の前のテーブルに突っ伏してしまう。
「おいおい、なんですかもなにも、そのままだろ?」
「ハイ。でも、何を祝うのですカ?」
「……そりゃ、祝うんだから良かったねってことだろう? 生まれてこなけりゃ、今、こうして楽しく過ごすこともできないんだからさ」
「かもしれませン。でも、それを言うなら、なんでもそうなんじゃないデすか?」
生まれることに限らず、ソレがなかったら今がない、なんてことはたくさんあるはずだ。
「アリシアも言ってたけど、生まれるってのは大事件なんだよ。『存在が始まった日』なんだぜ? で、そいつが存在してくれているだけで嬉しいって気持ちを伝えるのが、誕生日を祝うってことなんだと思う。『生まれてきてくれて、ありがとう』ってな」
「生まれてきてくれて、ありがとウ……?」
「ああ、お前はシリルのことをそんな風に思えないか?」
「……うん。思える」
そうか。だからみんな楽しそうで、嬉しそうなんだ。
シリルお姉ちゃんが、この世界に生まれた日だから。
ワタシとシャルを救ってくれて、守ってくれて、心配してくれて、優しくしてくれるシリルお姉ちゃん。ワタシとシャルが大好きな、シリルお姉ちゃん。
生まれてきてくれて、ありがとう……。
「ま、そのうち誕生日が来たら、フィリスとシャルの誕生日会もしようぜ」
「……うん」
不覚にも、ルシアの言葉に涙が出そうになってしまう。……涙? ワタシが?
「ん? どうしたフィリス?」
「イイエ、なんでもありまセン」
ワタシは平静を装うように答えた。ワタシにも、シャルの影響を受けるばかりではない『感情』が生まれてきているのだろうか?
「なんだい、やっぱりその子とできてたってのかい?」
ふと、そんな声が割り込んでくる。リエナさんだ。……ということは。
「ああ、安心していいよ。バカ兄貴ならさっき寝かしつけてきた」
気絶させてきた、の間違いでは?
「そうだ。リエナ。さっきの話、考えてみてくれたか?」
「え? そうだね。うん。他ならぬあんたの勧めなんだし、ね」
ルシアの意味深な問いに答えるリエナさんは、少し顔を赤らめているようにも見える。これってまさか……。ワタシは睨み付けるようにルシアの顔を見上げた。
「ルシア……、どういうことですカ?」
「うん? どうした?」
しかし、不思議そうに言葉を返され、ワタシは次の言葉が見つからなくなってしまう。 ワタシはどうして今、こんなに怒っているのだろう? なぜかわからないけれど、ルシアがシリルお姉ちゃん以外の女性と親しくなりすぎるのが気に入らない。
「ん? ああ、そうか。あはははは! 安心しなよ。別にあんたの彼氏をとって食おうって話じゃないよ」
「……彼氏じゃありまセン」
朗らかに笑うリエナさんの言葉に、自分の頬が自然と膨らんでくるのが分かる。
「おいおい、何をそんなにむくれてるんだよ」
「別に、むくれてなんかいまセン。じゃあ、なんの話をしていたんですカ?」
……人の気も知らないで。
「ああ、セカンドウェポンを持ったらどうだって話さ」
「セカンドウェポン?」
「どうも【魔鍵】使いって奴は【魔鍵】に頼りすぎるところがあるんだよな。リエナにしたって、接近された相手を『弓』で殴りつけるとか、無茶もいいところだ。意表を突くことはできても、殴るためのものじゃない以上、威力もたかが知れてるだろ?」
ルシアがそう言うと、リエナさんが茶色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜながら、ばつが悪そうに笑う。
「そうそう、そこで接近戦用の武器を持とうって話さ。聞いたところじゃ、このヴィダーツ魔具工房はかなり出来のいい【魔法具】を作ってくれるみたいじゃないのさ。だからルシアの紹介で頼もうかと思ってね」
「で、他にも【魔鍵】を持ってる知り合いがいたら、セカンドウェポンを勧めてやって、ついでにこの工房を紹介してほしいって話をしたわけだ」
え? じゃあ、ガアラムさんたちのために?
「まあ、ガアラムさんたちには、シャルの剣のことも含めて世話になりっぱなしだからな。少しぐらいは恩返しができればって思ったのさ」
そっか。ワタシはルシアのことを邪推してしまった自分が恥ずかしくなった。ルシアもルシアなりに、いろいろ考えてくれていたんだ。
「実際、【魔鍵】をメインに、【魔法具】をセカンドウェポンにって考え方は画期的じゃないかい? あんたの言うとおり【魔鍵】使いは【魔鍵】の力の強大さのあまり、そういう発想が足りないからね。まったく、たいしたもんだよ」
感心したように言うリエナさん。彼女の目が好意的な光を宿しているように見えるのは、ワタシの思い込みなんだろうか?
「まあ、初めにそのことに気付いたのは、ヴァリスとグレゴリオさんのバトルを見た時だけどな」
「ああ、あの一戦はすごかった。CランクがSランクに勝つなんて、天地がひっくり返ったかと思ったよ」
「そんなにすごいことなんですカ?」
「え? 何を冒険者になりたての素人みたいなことを言ってるんだい。あたりまえじゃないか。Sランクなんて人外の集まりだよ? 文字通り、格が違うんだからさ」
ワタシたちが冒険者になってまだほんの数か月しかたっていないことは、リエナさんには秘密にした方がよさそうだ。ワタシが内心でそんなことを思っている間にも、彼女の話は続く。
「グレゴリオのおっさんだって、AランクからSランクになるまで十数年かかっているんだ。それぐらい、Sランクになるってのは大変なんだ」
でも確か……、ワタシはそれまで、意図的に見ないようにしていた食堂の一角に、ちらりと視線を向ける。
「……あ、ああ、あのエリオットは人外中の人外って奴だね。ギルドの歴史の中でも、冒険者になってわずか数年でSランクになったのなんて、他に皆無だろうし。つまりあいつはSランク冒険者の中でもさらにトップエリート、のはずなんだけどねえ……」
リエナさんは正視に堪えないものでも見たかのように、ソチラから目を逸らす。
「まあ、ほら、相手が相手だからさ。リエナだって知ってるだろ? 有名人なんだし」
「そりゃあ、ね。『魔神殺しの聖女』だろ? 噂に聞く『謳い捧ぐ蒼天の聖弓』の“黎明蒼弓”の凄さも見せつけられたわけだし、それはわからないわけじゃないんだけどさ。でも正直、強い男って奴に幻想を抱きがちな女から見れば幻滅ものだよ、あれは。ルシアの方が強いんじゃないかって思うくらいだけどねえ」
「エリオットより強いってのは言いすぎだろ」
「でも、地下に封印されていたとかいう『魔神』を倒したのは、あんたなんだろ? 普通ならSランク認定されていてもおかしくないじゃないさ」
「それも説明したはずだぜ。封印が完全に解除される前に倒したんだし、ランク認定なんて問題外だよ。そもそも俺一人で戦ったわけじゃないんだからな」
若干苦しい説明ではあるけれど、まさか「ライルズさんが『魔神』になっていました」なんて言えるわけもなかったし、仕方がない。
「それに、強い男って言っても、惚れた相手にはあんなもんさ」
「惚れたって、……やっぱり、そうなのかい?」
「見ればわかるよ。まあ、そんな単純な感情じゃなさそうだけどな」
「見ればわかる、ね……。そんなに鋭そうにも見えないけれど。それってつまり、こっちも『脈なし』って解釈すべきなのかしらねえ。……ま、いいか」
「?」
ワタシをそっちのけで会話を続ける二人。でもルシアの言葉は、ほぼ全面的にアリシアお姉ちゃんの受け売りだ。だいたい、ルシアこそリエナさんの視線や言葉に含まれる感情に気づいてもいないくせに、よく知ったようなことを言えるものだ。
ワタシはさすがに、リエナさんに同情してしまった。
内心ため息をつきながら、再び同じ食堂の一角を見ると、そこには二人の姿がある。
戦士系Sランク冒険者であり、『最強の傭兵』の異名を持つエリオット・ローグ。
元聖騎士団長にして、『魔神殺しの聖女』の異名を持つエイミア・レイシャル。
泣く子も黙る最強の二人組。でも、二人の周りに誰も近寄らず、それどころか誰も視線すら向けようとしないのは、多分それとは別の理由だろう。
もちろん、テーブルに肘をついているエイミアさんの姿が、その理由だというわけでもない。むしろそれだけだったら、綺麗な蒼い髪や全身から醸し出される凛とした雰囲気、切れ長の瞳に宿る愛嬌のある輝きなど、人の目を惹きつけて離さない要因の方が多いと思う。
ワタシたちが『正視に堪えない』と思っている理由の最大のものは、そんな彼女を前にして、恐怖に顔をひきつらせ、借りてきた猫のように縮こまった姿勢でいるエリオットさんの姿だった。