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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第6章 竜の誇りと最強の傭兵
72/270

第58話 この人、反則です/全身全霊

三連休につき、久しぶりに三日連続更新(17:00頃)予定です。本日はその第一回になります。


     -この人、反則です-


氏名:エリオット・ローグ

年齢:16歳 性別:男 種族:人間(半『ワイバーン』) 生誕地:???

所有スキル:

【オリジナルスキル】

 “闘神の化身”:戦術立案、戦況把握、瞬間予測、戦闘時における行動の最適化などといった「戦闘感覚」に極めて特化した“増幅”系の『始原の力』

【エクストラスキル】

 なし


【アドヴァンスドスキル】

 なし


【通常スキル】

 “剣術適性+”:剣術に適性がある

 “槍術適性+”:槍術に適性がある

 “鞭術適性+”:鞭術に適性がある

 “斧術適性+”:斧術に適性がある

 “体術適性+”:体術に適性がある

 “弓術適性+”:弓術に適性がある


【種族特性】

“魔鍵適性者”:人間種族の共通スキル

“因子所持者”:亜人種族の共通スキル:タイプ『ワイバーン』


「……なあ、これって、本当なのか?」


 ライルズさんは、テーブルの上に置かれた紙を見て、呆気にとられた表情をしている。

 うん。あたしも書きながら信じてもらえないだろうとは思ったんだけどね。

 だって、誰もが皆、エリオット……さんには、槍術系の【エクストラスキル】“槍士無双”があるものと思っていたのに、見た限り【通常スキル】しかないんだもの。

 でも、ライルズさんが口にした疑問はちょっと違った。


「まあ、あんたの“真実の審判者”の能力を疑うわけじゃないし、あいつの【魔鍵】の性質からすれば、この内容でも納得できなくはないんだけどな。でも、16歳ってのは無いだろ。見た目もそうだが、あいつ、4年近く前からギルドの仕事をしていたはずだぞ?」


「でも、そう見えたんだもの」


 あたしの目に見えるものは、文字どおりの真実だから。

 と、そこにシリルちゃんが口をはさむ。


「さしあたって、年齢の問題は後よ。まず能力から分かることを考えましょう。今、ライルズは【魔鍵】の性質から考えればわかるって言ったけど、どういうこと?」


「ああ、奴の【魔鍵】『轟き響く葬送の魔槍(ゼスト・ヴァーン・ミリオン)』なんだが、あれの神性“狂鳴音叉(シンパシイ)”ってのは、自分のイメージを対象に共鳴させて干渉・支配するって力なんだ。で、こっからは俺の推測なんだけどな……」


 ライルズさんの話によれば、エリオットさん(16歳だから「くん」かな?)は、その【魔鍵】の力を自分の肉体にも使っているのかもしれないらしい。

 理屈の上では、自分のイメージどおりに身体の状態を変更できるってことなんだろうけど、イメージを誤れば大変なことになる。普通、そんな怖いこと、なかなかできないよね。


 でも彼の持つ、【オリジナルスキル】“闘神の化身”があれば、そんな心配はいらない。

 戦闘において最適かつ完璧なイメージを自身の肉体に適用できるというだけでもすごいことなのに、彼にはその受け皿となる戦闘系【通常スキル】が6種類もある。


 最適なイメージを構築できる【オリジナルスキル】とそのイメージの適用先となる多数の【通常スキル】。そして、二つを直結させてしまう【魔鍵】の存在。

 本来なら【通常スキル】所持者は数十年の修行を経て、ようやく【エクストラスキル】に迫る実力になれるかどうかといったところのはずなのに、それが一瞬で可能となる。

 言ってしまえば、エリオットくんは事実上、6種類の【エクストラスキル】を持っているようなもの。


「なんだか、悪魔的な組み合わせの【スキル】と【魔鍵】ね」


 シリルちゃんはそう言うけれど、でも……

 と、そのとき、ルシアくんがあたしが思ったのと同じ疑問を口にした。


「いや、でもさ、シリル。実際、エリオットは槍しか使わないんだろ? あんまり関係ないんじゃないか?」


「そんな単純なものじゃないわ。武器使用系【スキル】は各武器の“操作”の才能を指すものだけど、それに付随して各武器ごとに必要な能力も“増幅”されているのよ。斧なら腕力がなければ使えないし、弓なら目の良さだって必要でしょう?」


「じゃあ、エリオットって……」


「少なくとも、戦闘技術にかけては万能の超人だと思った方がいいわね」


 うーん、ほんとに反則だね。


「ところで、生誕地はなんで『?』なんだ?」


うう、やっぱりそれを聞かれちゃった。


「それは、あたしがここで言っちゃ駄目な気がするから」


「……」


 あたしができるだけ真剣な顔でそう言うと、ルシアくんは何かを察したように押し黙る。

 やっぱり、他人の素性を覗きみるなんて、気分のいいものじゃないよね。

 気持ち悪い……か。フェイルに言われた言葉を思い出す。


「アリシア、ありがとう。対策を考えるには十分参考になった」


「え? あ、うん!」


 ヴァリスにお礼、言われちゃった。うん、そうだよね。役に立てて、……良かった。


 あたしたちは今、円柱都市外縁部の一角に立つ高層建築物の一室にいる。

 ここはライルズさんが宿泊する部屋なんだけど、武芸大会のスポンサーから特別に貸与されているんだって。普通ならすごいお金持ちじゃないと使えない部屋なのに、やっぱり武芸大会上位常連ともなると待遇が違うんだね。


「そんなにいいものじゃねえよ。ここの成り金どもは大概、武芸大会の観光収入でひと山当てた奴ばかりだ。特に俺とエリオットの試合は話題になって丁度いいから、こんな部屋を用意してでも俺に参加してもらいたいってわけさ。ま、せいぜい利用させてもらっているけどな」


 ライルズさんはつまらなさそうに伸びをしながら、ソファの背もたれによりかかる。

 テーブルを挟んで反対側のソファに座るヴァリスはと言えば、紙に書かれた内容に真剣に目を落としていた。


「まだ、あるな。奴は【因子所持者(ハイブリッド)】だ。ライルズの炎の槍を受け止めたのは『ワイバーン』の鱗だろう?」


「ああ、でも『ワイバーン』が相手なら貫けたはずなんだけどな。あいつは多分、『ワイバーン』の因子自体も【魔鍵】で制御してるんだと思う。そうじゃなきゃ、説明がつかない」


「因子制御ですって?」


「ん? どうしたシリル。突然大声出して」


「あ、ごめんなさい」


 そう言えば、シリルちゃんも『魔族』の因子を制御して今の姿になっているんだっけ?

 だとすると、エリオットくんの年齢不相応なあの姿も、同じなのかな?


「そんな訳だからな。単純な近接戦闘で奴を凌駕しうる可能性があるのは、今のところ“竜気功”が使えるヴァリスだけだ。後は【魔鍵】の神性への対抗策だな」


 ライルズさんはそう言うと、ソファに背中を預けたままの姿勢から、軽い反動を付けて跳びはねるように立ち上がる。何気なくやってるけど、すごい身体能力だよね。


「こんな辛気臭いところで紙を眺めていても埒があかないだろ? トレーニングルームにでも行こうぜ」


 辛気臭いところって言うけど、高級そうなソファやテーブル、綺麗なお皿やグラスが並べられた立派な食器棚に、天井にはシャンデリアまであるようなすごい部屋だよ?

 もうちょっといたいくらいの素敵な部屋だと思ったけれど、あたしたちはライルズさんに急かされるように、その部屋を後にした。


「さ、ここだ」


 着いた場所は、建物の2階のかなり広いスペースを使って造られたピカピカの部屋。

 磨き上げられたフローリングの床や部屋の隅の方に置かれた身体を鍛えるために使うらしい、いくつもの器具。あれもきっと【魔法具】なんだろうな。


「ここで訓練でもするのか?」


「いや、試合は明日だからな。あんまり本格的なものじゃない。ただ、俺がエリオットについて知っていること、たとえば奴の動き方の癖なんかを教えるには、実際に動きながらの方がいいだろ?」


「なるほどな」


 ヴァリスは、いつになく真剣な顔をしている。

 うーん、こういう時のヴァリスって、すごく格好いい……。


「アリシアさん?」


 ふと、名前を呼ばれる。はっと気がついて声のした方を向くと、不思議そうな顔をしてあたしを見上げるシャルちゃんがいた。


「シャル。今のがね、『恋する乙女の顔』って奴よ。わかった?」


「シ、シリルちゃん!? いったい何を!?」


 突然の言葉に戸惑うあたしにまるで取り合わず、シリルちゃんはシャルちゃんにウインクしてみせる。え? 今のって……。


「……? あ! うん。わかった。今のが『恋する乙女の顔』、なんだね!」


 一拍遅れて、元気よく返事をするシャルちゃん。やっぱり、アイコンタクトだ!

 この二人、いつの間にそんな技を!?


「うう……、シャルちゃん、いつからそんなに意地悪になったの?」


 だんだんシリルちゃんに似てきているんじゃないだろうか? 

 良くない傾向だよ、これは……。


「ふふ! 気を抜いてデレっとした顔をしてるから、隙ができるのよ?」


 口元に手を当てながら含み笑いをしてみせるシリルちゃん。とてもあたしの親友とは思えないほどに憎たらしい表情だ。


「もう! 許さないんだから!」


 あたしはそんなシリルちゃんを捕まえようと手を伸ばしたけれど、するりとかわされてしまった。悔しいけれど、シリルちゃんも実は相当、運動神経いいんだよね。


「なんだ。お前ら、そんな仲だったのか。じゃあ、ヴァリスも格好悪いところはみせられないってわけだ」


「はうう、ライルズさんまでそんなこと言って!」

 

 ますます恥ずかしくなったあたしは、ヴァリスの方をこっそりと窺う。

 けれどヴァリスは、あたしの方を見向きもしない。反則としか思えないエリオットくんの能力を聞かされても、真剣に、ただひらすらに、勝つための方法だけを考えている。

 ヴァリスのどこが格好いいのかって言ったら、……もちろん見た目もそうだけど、何よりもまず、あたしには決して真似できないその生き様だと思う。

 どんなに困難な状況にあっても、一切の恐れもなく、悩みもせず、ましてや諦めることなんて絶対になく、どこまでも気高く、そして何よりも誇り高い。


 あたしには、そんなヴァリスの心の動きだけは、どうやっても読み取ることができない。

 でも、そんなこととは関係なく、あたしはヴァリスのことを見続けていたいと思う。

 心なんか見えなくても、見えるものはあると思うから。

  


     -全身全霊-


「さあ、皆さま。大変長らくお待たせいたしました! 本日の最終試合は、個人戦の決勝戦です! 最強の戦士はいったい誰なのか! それが、今日、決定いたします!」


 相変わらずの演出過剰なアナウンスに、観客たちから一斉に歓声が沸き起こる。


「エリオットー! 今日も魅せてくれー!」


「ヴァリス様ー! 負けないでー!」


 だが、今はそんな歓声も耳に入らない。ただ、目の前に現れた男の姿に意識を集中する。

 ライルズ戦の時と同じ、石のような灰色の鎧を纏い、その下の衣服までもがぼんやりした色合いのものだ。

 無造作に伸ばされた髪も、無機質な光を宿す瞳も、すべてを曖昧にするような『灰色』で統一されている。

 強さとは、もっとはっきりと鮮やかなもので象徴されるべきである。我のかつての姿、黄金の鱗しかり、竜王様の虹色の鱗しかり。だが、この男は全てにおいてその真逆の位置にいるような印象さえ受ける。


「さあ、間もなく試合が開始されます。果たして、エリオット・ローグの四連覇なるか?はたまた、ここまで前回準優勝のグレゴリオを含む強豪たちを打ち破ってきたヴァリス・ゴールドフレイヴが新時代を築くのか?」


 エリオットが手にした【魔鍵】『轟き響く葬送の魔槍(ゼスト・ヴァーン・ミリオン)』を構える。


「君の試合は見せてもらったよ。たとえ君が何者であろうと、僕は負けるわけにはいかない。僕は、最強でなければならないのだから」


「我はただ、全力を尽くすのみだ」


 我にも、負けられない理由ならある。勝つことによって証明しなければならないものが、ここにあるのだ。視界の端で我の姿を見つめ続ける彼女の姿をとらえながら、我は改めて決意する。


「それでは、試合、開始!」


 最初に仕掛けてきたのは、エリオットだった。ライルズが言うには、絶対的な『戦闘感覚』を誇る【オリジナルスキル】“闘神の化身”を所持するエリオットが、戦闘において何かに躊躇する場面など見たことがないらしい。

 先手必勝、というよりは先に仕掛けて相手にどう対応されようと、最適な一手を選択できるという自信。それがこの、速く、鋭く、真っ直ぐな突進にも表れているのだろう。

 皆がエリオットの動きを指して、『人間離れした』と形容するが、それは誤りだ。

 人間が極めつくしたあらゆる技能に適した身体能力。奴はそれを【魔鍵】によって実現している。だとすれば、この動きは肉体面における『人間の限界』を体現しているのだと思うべきなのだ。


「それでこそ、我が全力で戦う意味がある!」


 我は今までにない練度と強度で、全身の“竜気功”を練り上げる。

 掌に『防刃の鱗』を纏わせ、それ以外の全身に可能な限りの身体強化を行う。


「な! 受け止め……!?」


 エリオットも流石に驚愕を隠せないようだ。それもそのはず、岩をも貫く勢いで突き出された音叉の槍の先端は、我によって一本ずつ両手で掴み取られ、完全に受け止められていたのだから。

 槍に纏わりつく空気の刃がガリガリと耳障りな音を立てるが、我の皮膚を傷つけるには至っていない。


 しかし、予想通りエリオットは冷静だった。槍を後ろに引き、我がそれを離すまいと力を込めた瞬間に槍を手放し、我の顔めがけて掌打を放ってくる。我は邪魔な槍を同じく手放しながら、身を捻ってそれを回避した。

 いくら我が身体強化をしているとはいっても、今のを受ければ無事には済むまい。奴の掌打には、体術系【エクストラスキル】“鎌気剛拳”クラスの気功が込められている恐れがあるのだ。


 エリオットは我が手放したことで宙に浮いた槍を足で蹴り上げながら、後方に跳び下がる。後ろに跳んだ以上、通常なら姿勢や重心も崩れ、追撃のチャンスとなるはずだったが、我は動けなかった。奴の蹴り上げた槍が、寸分たがわず着地した奴の手元に落ちてきたのが見えたからだ。


「人間に、今の突きを受け止められたのは初めてだよ。強いんだな、君は」


 息を切らすでもなく、無表情なまま、けれども実に感心したような声音でそんなことを言うエリオット。『人間に』……か。いまや一部の連中の間では、我が『竜族』の【因子所持者(ハイブリッド)】ではないかという憶測が広まっているはずなのだが、奴は気付いているのだろうか?


「……【魔鍵】を手放しながら、どうしてそこまでの戦いができる?」


「うん? 意味がよくわからないな」


 とぼけているのか?

 奴が自らの【魔鍵】の神性“狂鳴音叉(シンパシイ)”で自分の肉体を制御しているのなら、それを手放せば肉体の制御も元に、つまり【通常スキル】の強さに戻るはずなのだ。だが今の掌打には、尋常ではない威力が秘められていた。


「まあ、いい。今度はこちらから行くぞ!」


 我は、正面からエリオットに向かって高速で接近し、拳打を繰り出す。捨て身にでもならない限り、エリオットにはフェイントは一切通じない。ゆえに攻撃を命中させるには、最短の距離を最高の速度で、例え読めても反応できない一撃を繰り出すしかない。

 ライルズから伝えられた作戦のひとつは、到底戦術とは言えないものだったが、確かにそれが最適なのだろう。だが、エリオットはそれでも反応してみせた。

 手にした槍で我の拳をいなし、弾き、あまつさえ槍の柄を巧みに回転させて反撃まで繰りだしてくる。我は、とっさに傾けた頭をかすめる槍の一撃に顔をしかめつつも、距離をつめて連撃を浴びせかける。


 そこからは、一転して乱撃乱打の応酬となった。だが、互角、とは決して言えない。

 エリオットが我の拳打をことごとく回避しているのに対し、我はどうしても奴の槍捌きを見極めることができない。肌をかすめる空気の刃は『防刃の鱗』で防げても、時折こちらの動きを先読みするように叩きつけられる槍の『打撃』に対しては、どうしてもダメージは避けられない。

 そもそもリーチが違い過ぎるのだ。

 どうにか間合いを詰めたと思っても、短く持った石突側の打突を受けて間合いを取らされる。力任せに放った拳は力の方向を変えられ、虚しく空を切る。


 悔しいが実戦経験と戦闘感覚の両面において、我の上を行くエリオットを相手に、このままでは勝ち目はない。

 “竜の咆哮”を使うという手も考えなくはなかったが、自身の状態を制御する【魔鍵】を持つエリオットには効かない可能性が高く、逆に致命的な隙にもなりかねない。

 ならば、どうするか。……簡単なことだ。これまでそうしてきたように、勝つために最善の行動をとればよい。我がライルズから教えられた知識を最大限に生かし、奴の動きの癖からその動きを先読みする。三年の間、奴に勝つためにライルズが研究してきた、そのすべてを使えば、不可能なことではない。


「うおおお!」


 我は、エリオットの攻撃をあえてその身に受けながら、強引に槍を掴みにかかる。すると奴はそれを避けるため、大きく後ろに後退しながら、小さく槍を振ってきた。


「ぐ!」 


 不可視の弾丸が我に直撃し、破裂する。エリオットはこちらの防御方法『防刃の鱗』を分析したうえで、空気の刃ではなく、風を圧縮した弾丸を放ってきたのだろう。

 我は勢いに押され、実際以上に大きくバランスを崩した振りをしてみせる。

 それを見た奴は、こちらの思惑どおり、腰だめに槍を構えた。


 ライルズの言葉を思い出す。


「あいつの攻撃で一番強力なのは、“狂鳴音叉(シンパシイ)”で空気を振動させて繰り出す轟音の衝撃波だ。『グレイシャーマン』とかの衝撃波とは比べ物にならない威力だからな。喰らったら一巻の終わりだぜ。……ただし、凌ぎ切れれば逆にチャンスでもある。俺は危険過ぎて試す気にもなれなかったけど、腰だめの体勢から放つあの攻撃だけは、使用後にかなり大きな隙ができるはずだからな」


 間合いを詰めるのが危険な相手から距離を置き、接近される心配がないと分かれば必ず、エリオットは自身の最大の技を使ってくるに違いない。そう考えての作戦だった。

 だが、問題はここからだ。全身の“竜気功”を極限まで練り上げて、奴の一撃を正面から耐えきり、そのまま奴が体勢を立て直す隙を与えずに一撃で仕留める。

 本来なら不可能としか考えられない話だが、それぐらいでなければエリオットには先読みされてしまうだろう。


 ゆえに、選択する手段は一つ。

 ライルズとのランク認定試験での戦い以降、意識的に使用を避けてきた、全身の気功を一か所に集中する一点集中型防御だ。

 目に見えない衝撃波を、全身全霊を込めて掌に集中させた“竜気功”で受け止める。

 これは一つの賭けだ。だが、勝てる見込みのある賭けでもある。

 なぜなら、我は『竜族』だ。今までは人間の索敵系【エクストラスキル】“天より見下ろす瞳”のようにしか使うことのできなかった“超感覚”。

 『竜族』の数ある【種族特性】の中でも最も基本的なものにして、最も有用性の高いそれの本来の性能が発揮できれば、不可視の衝撃波を『見る』程度のことは決して不可能ではない。


 人身となった我であっても、『竜族』の本質を失ったわけではないのだ。

 “竜の咆哮”の時がそうだったように、自分自身を信じることで、『竜族』としての力をもっと覚醒させることができるはず。


「はあ!」


 エリオットの凄烈なかけ声と共に、螺旋状の回転を加えられながら鋭く突き出される『轟き響く葬送の魔槍(ゼスト・ヴァーン・ミリオン)』。槍が届くような間合いではないが、凄まじい轟音と共に放たれる不可視の衝撃波を、我は確かに感じ取っていた。


「ぬおおおおお!」


 ありったけの“竜気功”を凝縮し、今にも輝かんばかりに力に満ち溢れた掌を、我はそれに向かって突き出した。


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