第55話 深夜の密会?/自問自答
-深夜の密会?-
「『魔族』は二つの派閥に分かれているわ。それが『セントラル』と『パラダイム』。このうち、前者がわたしを生みだした方で、いわば主流派ね。逆に後者は地下活動に特化した組織で謎も多い。『魔族』の施設にいた頃は、わたしも命を狙われたことがあるしね」
「命を狙われたって、……大丈夫なのか?」
「今は平気よ。因子制御で姿を変えているせいもあるけれど、なにより旅を続ける冒険者の所在はつかみにくいからね」
「なるほど、それでシリルは次々と違う国に移動していたんだな」
ルシアくんが納得したように頷く。確かにシリルちゃん、一つの場所に落ち着くことを嫌っていたものね。
「でも、もう逃げ隠れするのは終わりにしたいの。だから、ヴァリスが大会で活躍して目立つことになろうと、この街にしばらく腰を落ち着けることになろうと、関係ないわ」
「それで、我に優勝しろなどと言ったわけか」
シリルちゃんの言葉に、ヴァリスはようやく腑に落ちたというような顔をしている。
「まあ、優勝するよう話したのは、どちらかと言えば貴方自身のためだけどね。……でも、このままじゃ優勝は難しいわよ?」
シリルちゃんは冗談めかしてそう言うと、一転して真剣な表情であたしたち一人一人の顔を見つめ、胸に秘めた決意を言葉とともに吐き出すように口を開いた。
「きっとみんななら、危険極まりない組織がわたしのことを狙っていると話しても、どこまでだって仲間でいてくれようとするでしょう? だから、隠れるのもやめにしたいし、隠さずに話しておきたい。……そう、思ったの」
シリルちゃんが、これまでにないくらい積極的にみんなのことを頼ってる……。
今までのシリルちゃんなら、一人でこっそり『パラダイム』の居所でも探し出しているところだもんね。
「よし、任せておけって。どんな奴らが来ようと、蹴散らしてやるさ」
「うん。シャルも頑張る!」
シリルちゃんが頼ってくれて、凄くうれしい。ルシアくんやシャルちゃんからは、そんな気持ちが溢れだしてみえた。
何もかもを一人で背負い込んで、潰れそうになっていたシリルちゃん。
でも、これからは、あたしたちがいるよ。決して、シリルちゃんは一人なんかじゃない。
あたしは、ヴァリスの方をちらりと見た。なんだか、物思いに沈んでいるみたい。やっぱり、「このままじゃ優勝できない」って言葉に、無力感を覚えちゃっているのかな?
「さて、それじゃあ、今日はもう寝ましょう?」
シリルちゃんは、そんなヴァリスを意味ありげに横目で見ながら、みんなに解散を告げたのだった。後で何か話でもするつもりなのかな?
それ以上は、よくわからなかったけど、ちょっと気になるなあ。
そして、その日の夜。
あたしは眠ったふりをして、隣のベッドで眠るシリルちゃんの気配を確認する。
しばらくすると、シリルちゃんが部屋の扉をそうっと開け閉めしながら出て行くのが分かった。
うん。やっぱり思ったとおり、ヴァリスに内緒の話をするんだろうな。本当なら盗み聞きなんて良くないんだけど、どうしても気になる。あたしにも内緒の話ってなんだろう?
あたしは同じベッドですやすやと寝息をたてるシャルちゃん(最近ようやくあたしのベッドでも寝てくれるようになった)を起こさないように起きあがると、シリルちゃんの後をつけることにした。
ふっふっふ。こんなときこそ潜伏系【エクストラスキル】“孤高の隠者”の出番だね。
シリルちゃんが向かった先は建物の屋上。前にあたしとヴァリスが話をした場所と同じところだ。
「待たせたみたいね、ごめんなさい」
シリルちゃんは屋上に出るなり、先に待っていた人影に向かってそう言った。やっぱり『風糸の指輪』か何かで待ち合わせ場所を決めていたのかな?
あたしはシリルちゃんが屋上に出たのを確認してから、階段室の陰に身を潜める。
「構わん。だが、こんな回りくどい形までとって、何の話だ?」
返事をしたのはやっぱりヴァリス。あたしからは姿を確認できないけれど、声からすれば間違いない。
「回りくどいのは、他のみんなには聞かれたくない……、ううん、あなたが聞かれたくないだろう話をするためよ」
「どういう意味だ?」
訝しげな声で訊き返すヴァリス。屋上にコツコツというシリルちゃんの足音が響く。
「それより、本題に入りましょう。明日の試合、このままだと間違いなく、勝てないわよ」
「……。やってみなければわかるまい」
「次の試合の相手、見なかったの? 魔導師系Sランク冒険者グレゴリオ・ジオデム。昨年大会の準優勝者。今日のミスティよりもさらに格が上の相手よ」
「ふん。大会前は優勝も狙えると言っていた割には、その言い草か。我に対する評価もめまぐるしく変わるものだな」
ヴァリスはちょっと苛立った声を出した。うーん、確かにちょっと言い方がきついなあ、シリルちゃん。
「わたしは『このままだと』って言ったの。心配しなくていいわ。絶対に勝てる方法を教えてあげる」
「なんだと?」
「アリシアの『真名』を呼べばいいのよ。Sランクだろうとなんだろうと【竜族魔法】を使用する『竜族』の敵じゃないわ」
「……何を言うかと思えば。そんなことができるわけがなかろう」
「どうして?」
シリルちゃん。当たり前だよ。だってそんなことをしたらヴァリスは、元の姿に戻れなくなるかもしれないじゃない。それに、あたしなんかと『魂のつがい』になりたいなんて、思ってくれないよ……。
「アリシアが我の『真名』を呼んだのは、事故のようなものだ。……いや、お前のせいだったか? いずれにせよ、それを我の都合で縛ってよいはずがあるまい。彼女には彼女の人生がある」
……ヴァリス、そんなふうに考えていてくれたんだ。
「なるほど、『人間と繋がるなんて汚らわしい』なんて言うよりは、幾分ましな理由ね。でも、まだ答えとしては十分じゃないわ。あなたが自分から彼女の『真名』を呼べない理由としては、ね」
「何が言いたい?」
「あなたは恐れているのよ。自分の心の中にある『ソレ』を認めてしまうことを。そしてその恐れこそが、あなたを弱体化している本当の原因」
「我は、何も恐れてなどいない」
「なら、正面から向き合ってもらいましょうか。……アリシア。彼女の持つ【オリジナルスキル】“真実の審判者”の能力について、これまでの一連の出来事を通じてわたしが考察したことを話してあげる」
ええ? なんで、ここであたしの【スキル】の話が出てくるの?
シリルちゃんは、ヴァリスの心に言葉を染み入らせようとでもしているみたいに、ゆっくりと説明を始める。
「“真実の審判者”は『始原の力』の一つ、“同調”にきわめて特化した【オリジナルスキル】よ。彼女が他人の名前や素性、感情まで読み取れてしまうのは、“同調”の結果ということになるわね。たとえ対象が【歪夢】であろうと【魔装兵器】であろうと、そこにわずかでも自我や意識、あるいは刻み込まれた【魔力】があるのなら、彼女はそれに“同調”する」
そっか、てっきり生き物にしか通用しない能力なんだと思っていたけど、そうなんだ。
「“同調”とは『理解』ということよ。そして、ヴァリス。彼女はあなたを理解して、『真名』を呼んだ。その姿は、貴方に“同調”した彼女の意志。それはすなわち、あなたの意志。つまり、あなたが人身になったのは、あなたが『そうありたい』と願ったからよ」
「我が人身になりたいと願っただと? ……出鱈目を、言うな」
「貴方は今、自分が『人身に貶められて』、弱くなったと思っている。だからこそ、弱い。『竜族』の強さの源泉は、自我の強さであり存在の力そのもの。だから、強くなりたいというのなら、貴方自身を認めなさい。貴方が『人身であることを自ら望んだ』のならね」
「我自身を認める……」
「話はそれだけよ。アリシアの『真名』の件は二人の問題なんだろうし、わたしが口を挟むつもりはないわ。ただ、いま言ったこと、よく考えてね」
そう言って、シリルちゃんは再び足音を響かせる。どうしよう! こっちに来ちゃう!
あたしは少し焦ったけれど、“孤高の隠者”の【スキル】なら、正面から視界にとらえられない限り見つからないはずだよね。
あたしは階段室の壁面に身体を張りつけたまま、自分自身を周囲の世界に“同調”させ、自分の気配を“減衰”する。大した修練を積んだわけでもないあたしが、人間離れしたこんな真似ができちゃう潜伏系【エクストラスキル】の力。これもやっぱり、『始原の力』から影響を受けたものなのかもしれない。
ヴァリス……。本当にシリルちゃんの言うとおり、人間になりたいなんて考えていたのかな? だとすれば、あたしは……。
「だから、あなたは悪くないわ。……もともと、わたしのせいなんだしね?」
黒髪をなびかせ、あたしの前を横切っていくシリルちゃんから、そんな言葉が聞こえた。
こっちを向きもせず、下を向いたまま呟くように口にした言葉だけれど、独り言のようには聞こえなかった。もしかして、全部ばれてた?
……そっか。あたしの【魔鍵】の気配なら、シリルちゃんの“魔王の百眼”にも感じ取れるんだった。
隠れていたことだけじゃなく、わたしがヴァリスのことに責任を感じてしまっていることも、すっかり見抜かれちゃってたんだね。
またしてもシリルちゃんに、してやられちゃったな。
-自問自答-
武芸大会の本選第2回戦。
我の目の前に立つ相手は、前回大会の準優勝者だという男だ。
魔導師系Sランク冒険者グレゴリオ・ジオデム。
限られた舞台における試合形式、それも前衛のいない個人戦においては、【魔法】に発動時間が必要な魔導師などは極めて不利な立場にある。にも関わらず、この男が前回大会で準優勝まで上り詰めることができたのには理由があった。
そして、その理由は今まさに、我の眼前に展開されている。
「さあ、始まりました。本選第2回戦! 開始早々から発動したグレゴリオの【魔鍵】『凍りつく寂寞の星杖』の神性“静死領域”。これをヴァリスがどう攻略するかがカギになるでしょう!」
耳障りな実況の声が告げるように、グレゴリオは【魔鍵】を所持している。
前回大会の準優勝者だけあって、奴に関する情報はいくらでも手に入った。
結論からいえば、むしろこの男の方こそ、戦士系の参加者にとっての天敵のような存在だった。
戦闘開始直後、グレゴリオが杖型の【魔鍵】を石床に突き刺すと、奴の周囲に光の壁が発生した。真四角に区切られたその内側は、文字どおりの絶対領域だ。
さきほどから我は奴に攻撃を届かせるべく、あらゆる角度から突進を試みているものの、そのすべてが通じなかった。
「無駄だ。そんな力任せの攻撃では、【魔鍵】が具現化する事象を打ち破ることなどできぬ。生物も無生物も関係なく、飛び道具はおろか【魔法】まで含めた『動くモノ』すべての動きを止める“静死領域”。わしの【魔法】が完成する前に降参した方が無難だと思うがな」
グレゴリオは【魔鍵】を地に刺したまま、翳した手の先に茶色の【魔法陣】を構築していた。防御に絶対の自信があるのか、眼前に迫る我を無視するかのように落ち着いている。
魔導師のローブを身に着けてこそいるものの、戦士のように大柄で、若々しく精悍な顔つきをしている。情報によれば年齢は50代半ばだとのことであり、人間としては高齢の部類に入るはずだが、衰えた様子は全く見えない。
我は光の壁に向かって立て続けに拳を打ちこむが、その光に触れたと同時に拳そのものが動きを止めてしまう。引くことならできても、押しこむことができない。防がれているというよりは、そもそも動くことを『禁じられている』かのように理不尽な現象が我を阻む。
「ちっ、埒があかん!」
後ろに跳び退って間合いを取った我は、試しにリングの石床を拳で砕き、その破片を奴に向けて投げつけた。すると、石の破片はひとつ残らず光に触れた場所で動きを止め、力なく地に落ちる。
「無駄なことを。……さて、手始めにこれかな?」
奴は茶色に輝きながら重なり合う2つの【魔法陣】に手をかざす。
〈投げ上げられたる石は、槍となりて汝を貫く〉
|《天罰の剛槍》(ランス・オブ・パニッシュメント)!
奴の周囲に複数の『槍の形をした巨岩』とでもいうべきものが出現し、螺旋状に回転しながら我に向かって飛来する。これは奴が得意とする【魔法】のひとつで、シリルの話では中級魔法|《天罰の巨岩》(ロック・オブ・パニッシュメント)をアレンジしたものらしい。
とっさに回避を試みるものの、数が多いうえに一本一本の槍自体が大きいため、完全にはよけきれない。何本かの『槍』は我の身体を削るようにかすめていく。
「ぐ、うう!」
痛みと衝撃で思わず体勢を崩したところへ、新たな『槍』が飛来する。
「ぬおおお!」
我はやむなく“竜気功”で強化した両腕を掲げ、正面から迫りくる『槍』を受け止めた。重圧と衝撃に両腕どころか全身に強い軋みが走る。むろん、力を受け流すようにはしたものの、中級魔法とは思えないほどの威力だ。かろうじて軌道を逸らすことに成功したが、両手の痺れはすぐには回復しそうもない。
「ほほう、これに耐えるか! なら、これならどうだ!」
言葉と同時に初級魔法の《石の散弾》が連発されてくる。我は『流体の鱗』を纏い、防御と回避に専念したが、降り注ぐ散弾はやむ気配すらない。
「ぐ! ぬうう……」
初級魔法とはいえ、【魔導の杖】なしでの連続発動が可能なのは、奴が【地属性禁術級適性スキル】“城塞の大君”を所持しているからだろう。何より問題なのは、これだけの波状攻撃を受けていては、いずれ我の防御にも限界が来るだろうということだ。
……そう思った矢先のことだった。いつの間にか、散弾の嵐が止んでいる。驚いてグレゴリオに視線を向ければ、奴の正面には白と茶色の巨大な【魔法陣】が展開されていた。
「この【魔法】は魔力消費が激し過ぎるのだが、ちまちまと戦っていたのでは埒があかないようだからな。止むをえまい。だが、改めて降参を勧めよう。まともに喰らえば、会場に控えた“奇跡の癒し手”クラスの治癒術士でも回復が可能かは保証できんぞ?」
禁術級魔法……か。発動までには少なく見積もっても10分以上は確実にかかるはずだが、奴はそれだけ“静死領域”に絶対の自信があるのだろう。どのみち、これを打ち破れなければ我に勝ち目はない。やるしかあるまい。
「その前に貴様を倒せば問題あるまい!」
「くくく、その意気やよし! 若人は、そうでなくてはな!」
我は再び光の領域へと接近すると全身の気功を最大限に練り上げ、拳を打ちこみ、蹴りを放った。連撃に次ぐ連撃。あらゆる角度、あらゆる方向からの攻撃。
しかし、すべては徒労に過ぎない。【魔鍵】の中でもゼスト系と呼ばれるものは、その強大な力こそが特徴なのだというが、そもそもが力押しで対抗できるような種類の『力』ではないのだ。
擬似的とはいえ、『神』の生み出す【事象魔法】を相手に、人身に堕ちた我が抗うすべなどない。
……そこまで考えて、我はシリルの言葉を思い出す。
「……貴方自身を認めなさい。貴方が『人身であることを自ら望んだ』のならね」
だが、どうなのだろう? 本当に我は人間になりたかったのか?
我は、かつての記憶を思い返す。竜王様から外敵の排除の任を与えられ、することもなく『魔竜の森』の周辺を飛び回っていたあの頃。我は初めて、人間というものを見た。
生まれたころから、同族たちからは人間は穢れた『神』の眷族であると教えられてきた。
我ら『竜族』を裏切り、『竜の谷』に封印した卑劣なる『神』の庇護を受けた存在。
『竜族』とは比較にならぬほど弱い【魔力】しか有していないくせに、他の何よりも繁栄を極め、世界にはびこる矮小にして醜悪なる生き物。
その彼らが『魔竜の森』に巣食うモンスターと戦っていた。
その当時、『魔竜の森』のモンスターの行動が活発化し、外にまであふれ始めていたことは我も知っていたが、『竜族』の力を恐れてか、『竜の谷』に侵入されることはなかった。
だから放っておいたのだが、人間たちにとっては事情が違ったようだ。
この頃の我でも、この森に来る人間たちの目的が、他の人間たちを脅かすモンスターの排除であろうことぐらいは推測できた。
しかし、なぜ『他者』のために命の危険を冒してまで、そんなことをするのかがわからなかった。
牙も爪もなければ、強い【魔力】すら持たぬ人間たちは、それでも仲間たちと力を合わせ、自分たちよりはるかに強大なモンスターと戦い、これを打倒する。
たとえ傷つき倒れても、仲間を守れたことに満足そうな笑みすら浮かべる。
我はそんな人間たちに、何を感じた?
我は『竜族』だ。生まれながらに最強で、誰に頼ることもなく、ただあるだけで世界に君臨できる存在だ。だが、我は人間に、……憧れたのではなかったのか?
自分の身すら顧みず仲間を救うその姿に。強大な敵を前にしても果敢に戦うその姿に。
我は、そんな彼らに自分にないものを感じたのだ。誰にも頼らない強さも、他を圧倒する強さも、彼ら人間の持つ「強さ」には及ばない。自分が持つ力は、本当の強さではない。
……だから、我は「強くなりたい」と願ったのだ。
「最強」ではなお足りない、本当の強さを求めたのだ。
「なら! これは! 我の意志だ! 我は、弱くなど、なってはいない!」
我は、自然と叫んでいた。十分以上もの間、全力で拳を振るいつづけ、それでも一歩たりとも踏み込めない絶対領域を前にして、我はなおも諦めてはいない。
どんなに強大な力が目の前にあっても、決して諦めることなく、戦い続ける。
それこそが……。
「大した根性だが、無駄なことだ。わしの『凍りつく寂寞の星杖』は、『支配』や『法則』といった『神』の本質に近い力を有するゼスト系の【魔鍵】。そんな『神』の力を前に、【魔鍵】も持たないただの人間が敵うはずはあるまい」
その言葉に、我は動きを止める。この男は今、なんと言った?
我があの日以来、憧れてやまなかった『強さ』を持つはずの人間が、自らの強さを否定するようなことを言うのか?
「さあ、そろそろ完成するぞ? わしの最大級の奥義《輝き放つ城塞の巨人》が」
巨大な白い【魔法陣】と茶色い二つの【魔法陣】がひときわ強く輝きを放つ。
シリルから聞いた事前の情報によれば、地属性禁術級魔法《輝き放つ城塞の巨人》は、この世界でも最高硬度を誇る『乾坤霊石』と呼ばれる鉱物でできた巨人の腕を生みだし、対象を左右から圧縮破壊するというものだ。
まともに喰らえばどんなに“竜気功”で身体強化を行っても、跡形も残るまい。
だが、今の我にはそんな情報も、目の前で輝きを強める【魔法陣】も、すべてがどうでもよかった。
そんなことより、この愚かなる人間に、分からせてやらなければならない。
〈グウルガアアアアアア!〉
胸の奥から沸騰せんばかりにあふれ出る激情に任せ、我は『咆哮』をあげた。