第53話 バトルマニア/マイスター
-バトルマニア-
わたしたちの眼前で、110人もの冒険者の人たちが戦っています。初めは入り乱れてわけがわからなくなるかと思っていたけれど、弱い人はすぐにリタイアさせられ、ある程度のチームを組んでの戦いもあったので、意外とわかりやすい展開になっていました。
「おいおい、やっぱりバトルロイヤルっていうのは無理があったんじゃないのか?こんなのどう考えたって、上手く立ち回った奴の勝ちじゃないか」
ルシアが呆れたように言いました。
「まあ、でもこの方式は観光客にも大うけしているみたいだから、仕方ないのよ。立ち回りのうまさも強さの一部だし、何より本当に勝ち残れるのは小細工なしでも強い人だけよ」
あんなふうにね、とシリルお姉ちゃんが指差した先には、ヴァリスさんがいます。
「うわ、すごい」
ヴァリスさんは開始早々、10人近い冒険者に囲まれていたはずなのに、今では2、3人しか相手にしていないみたいです。
至近距離から初級魔法を浴びたり、相手の武器が身体をかすめたりして、いくつも怪我をしているみたいだけれど、それでも負けるなんて到底思えません。安心して見ていられます。
「あの“竜気功”って、規格外にも程があるのよ。実際、並みの武器では傷も付かないほどの身体強化と【生命魔法】並みの治癒能力があったら、そのへんの冒険者なんて相手にならないわ」
確かに、あれだけ攻撃を受けても平気なんだもの。凄いです。
「ヴァリス~!頑張って!」
アリシアお姉ちゃんが手を振って応援しています。なんだか、すごく楽しそう。
わたしもいっしょに声を出して応援したくなるくらいです。
最近のヴァリスさんとアリシアお姉ちゃんは、ちょっと妬けちゃうぐらいに仲が良い。わたしにはそのことが、自分のことみたいに嬉しく感じられるんです。
「8人残る、か。予選はなんとかなるでしょうけれど、問題は次よね。『そのへん』のでは済まされない冒険者が相手だと、今のままでは苦しい……かな」
シリルお姉ちゃんは思案顔でヴァリスさんの戦いぶりを見つめています。
気付けば、ヴァリスさんは大きな斧を持った男の人と対峙しています。周りでは、ほとんど決着がつきかけているみたいで、離れた場所からその様子を眺めている参加者までいました。
最初に、大斧を持った男の人がものすごい勢いでヴァリスさんに接近し、横殴りの一撃を浴びせました。ヴァリスさんはその一撃を後方に下がって回避しましたが、その直後、ヴァリスさんの身体が衝撃を受けたかのようにさらに後ろへと吹き飛ばされてしまいます。
「あの斧も【魔鍵】なのかしらね。接近戦用に見えて遠隔攻撃できるタイプかしら。厄介ね」
男の人は倒れたヴァリスさんに駆け寄ると、渾身の力で大斧を振り下ろしました。
「危ない!」
間一髪で横に転がり回避するヴァリスさん。けれど、地面が激しく爆発してその衝撃でさらに横へと吹き飛ばされてしまいました。
「がはははは! どうした、どうした! さっきまでの威勢の良さがないじゃねえか!」
男の人の大きな声がここまで聞こえてきました。
ヴァリスさんは跳ねるように立ち上がると、身を低く沈め、凄い速度で一気に男の人へと間合いを詰めます。
「無駄だって!」
男の人が斧を一振り。再び吹き飛ばされるヴァリスさん。また立ち上がり、またまた突進。同じく斧が振るわれ、近づくこともできずに再度地面に転がされる。
「何やってるんだ、ヴァリスの奴? あれじゃ、じり貧だぞ?」
ルシアが不思議そうにつぶやくのが聞こえました。確かに、いくらなんでも攻撃が単調過ぎます。なにか狙いがあるんでしょうか?
「なんだか、だんだん距離が遠くなっているみたい……」
そういえば、確かに最初の時よりヴァリスさんと男の人の距離が開いています。
わざと? でも、それではますます不利になっているんじゃ?
その答えは、すぐにわかりました。
ヴァリスさんが身構え、またもや突進を開始。同じことの繰り返しにうんざりしたように、男の人が大斧を振りまわす。けれど、今度は、ヴァリスさんが宙を跳んだんです。
「なるほど。あの斧を振った後、どのくらいのタイミングや速度で衝撃波が来るのか測っていたんだな。間合いをあけたのは跳躍による回避をしやすくするためか」
ルシアが解説でもしてくれるみたいに言いました。
ヴァリスさんは男の人が再び斧を振るうより早く、その懐に飛び込むと、強烈な掌打を浴びせました。たまらず吹き飛び、血を吐く男の人に【生命魔法】がかけられます。
「やったね、ヴァリス! 勝ち残っちゃった!」
アリシアお姉ちゃんが跳びあがって叫びました。
結局、ヴァリスさんが斧使いの男の人を倒したことで8人の本選進出者が決定し、第一日目が幕を閉じました。
「いやあ、凄かったな、ヴァリス。あれだけの冒険者の中で勝ち上がるんだから、大したもんだぜ。もう、観客席の中でもかなり話題になってたぞ?」
「ふん。最後に苦戦してしまった。我もまだまだだ」
ルシアの言葉に、不満げに答えるヴァリスさん。あの程度じゃ満足しないってことなのでしょう。すごい向上心です。……でも、その言葉を聞いたシリルお姉ちゃんは、なんだか困ったようにため息をついています。
「どうしたの?シリルちゃん」
アリシアお姉ちゃんもシリルお姉ちゃんのそんな様子に気付いたのか、訝しげに声をかけます。
「ううん。今はいいわ。それより、少し街の中でも観光して回りましょう?ここは【魔法具】をつくる“魔工士”達の街なんだから、いろいろと掘り出し物があるかもしれないしね」
「さんせい!可愛い服とか売ってないかな?」
……アリシアお姉ちゃんが言う、「可愛い服」とはわたしに着せるもののことです。最初はわたしも嬉しかったけど、付き合い続けているとどんどんエスカレートしてくるので、大変なんです。
「わ、わたしはあっちを見てくる!」
慌てて駆けだすわたし。
「あ!シャル!もう、ルシア。今回はあなたが保護者役なんだから、シャルについて行ってあげて」
「ああ、了解」
そうして結局、わたしはルシアと街を見て回ることになったのでした。
なんで、こうなっちゃったんだろう?
「えーと、……よし、シャル。とりあえず、何か食べないか? 甘い物とか、どうだ?」
なんだか、ぎこちない感じですけど、一応わたしに気を遣ってくれているのはわかるので、無碍にもできません。
「うん。食べたい!」
決して食べ物に釣られたわけじゃないけれど、「甘いもの」には心惹かれる……。
わたしたちが向かった先は、壁面内部への7番ゲートをくぐった先にある『飲食店街』。
この円柱都市アルマグリッドは、こうやって区画ごとに店の種類を分けたりすることで、多くの観光客の人気を得ているらしいのです。
「よし、この店でいいかな?」
「うん」
着いたのは一軒の喫茶店。建物はあまり大きくないけれど、凄くお洒落な感じがする店で、ルシアにしては、よくこんな店を選べたものだと感心してしまいました。
中に入り、それぞれケーキと飲み物を注文するわたしたち。と、そこへ。
「うまいなあ! これ! いいバトルを見た後に食うケーキは最高だぜ!」
近くの席に一人、大きな声でケーキにパクついてる人の姿があります。
赤い甲冑で身体の要所を守り、腰には二本の短剣を下げた男の人。二十代から三十代くらいに見えるその人は、日焼けした肌に短く切った金髪が良く似合う人でした。
「あ、あれって、まさか……。なんで、こんなところに?」
「ん? おお! ルシアじゃないか!やっぱりいたのか。ヴァリスが大会に出ていたから一緒だとは思ったが、嬉しいねえ、こんなところで会えるとは」
ルシアの知り合い?
「こっちこそ、驚きましたよ。まあ、武芸大会ともなれば、バトルマニアのライルズさんがいてもおかしくはないんでしょうけど」
「言ってくれるじゃねえか。まあ、その通りだけどよ。……ところで、その可愛らしいお嬢さんは誰だ?シリルから鞍替えしてその子にしたのか?いくらなんでも若過ぎだろ?」
「なわけないでしょうが!だいたい『鞍替え』ってどういう意味ですか、まったく。この子はシャル。旅の途中で知り合った仲間です」
ルシアのいい加減な自己紹介に、その人、ライルズさんはわたしを見ると、にやっと笑いました。
「ふうん。よろしくな、お嬢さん。俺はライルズ。一応、こいつらの試験官をやったんだぜ」
同じくおざなりな自己紹介。そう言えば、ヴァリスさんが自分を負かしたって言ってました。じゃあ、強いんですね。この人。
「よ、よろしくお願いします」
「ところで、ルシア。お前は出ないのかよ。大会」
「俺はタッグ戦で出るんです。ライルズさんこそ、さっきは見なかったですけど……」
「俺はシード組だよ。決まってるだろ?そうか。タッグ戦か。ヴァリスとルシアの二人と同時に戦えるってのも捨てがたいな。よし、タッグ戦の受付ならまだ間に合うか。俺も適当な相手を見つけてエントリーしてこよう!」
そう叫ぶや否や、こちらの話も聞かず、出て行ってしまいました。
「あーあ、行っちゃったよ。タッグ戦には俺とシャルで出るのにな」
「……なんていうか、凄い人だね」
「ああ、強いし、いい人だとは思うけど、戦闘大好き人間なんだよ。シャルも見てわかっただろ?」
確かに、よくわかりました。バトルマニア……ですか。色々な人がいるものです。
-マイスター-
ヴィダーツ魔具工房の工房主であるガアラムさんは、魔工士系【スキル】の最高峰、“至上の名工”を所持する、この街でも有名な武器職人の一人らしい。
同時に気難しい人としても有名で、気に入った相手にしか武器を造らない頑固一徹の職人なのだという話だけれど、今、ワタシの前にいる人が、そんな人とは到底思えない。
「ふむふむ。なるほど、やはりシャルとフィリスでは【精霊魔法】の使い方にもそれぞれ、癖があるようじゃな。こりゃ、面白いわい!」
工房の奥、試作品を実験するために設けられたスペースで、ワタシとシャルを何度も交代させて【魔法】の具合を確かめていたその人は、老人の姿でありながら、子供みたいに目を輝かせている。
「せっかくの貴重な『新世界樹』じゃ。なるべく削るような真似はしないようにせんとな。とはいえ逆に破損や滅失がないよう、徹底した防護策が必要となるわけじゃが、肝心の【精霊魔法】の威力が落ちたのでは意味がない。そこが調整のしどころというわけか」
ワタシたちをここまで呼んでおいて、自分の世界に入ってしまうのはやめてほしい。
対処に困る相手が一人、いるわけだし。
「いやあ、シャルちゃん。今は、『フィリス』ちゃんかな? いつみても可愛いねえ。その服、どこで買ったんだい?フリルがとても素敵だね。何なら僕が、他にも服を見繕ってあげるよ?」
ガアラムさんが自分の世界に入るや否や、助手として傍らにいたハンスさんが声をかけてくる。最初はシャルも、彼をいい人だと思っていたけれど、シリルお姉ちゃんに切々と説き伏せられてから、ようやく警戒するようになったみたい。
「要りまセン。今は仕事中でしょウ? しっかりしてくださイ」
「フィリスちゃんのその冷たい言い方もまた、いいなあ!」
……この人には、何を言っても通じそうもない。
「おい、ハンス! 早く手伝わんか! 倉庫から『精霊銀』を持ってこい!」
「ええ! あれ、使っちゃうの? なかなか手に入らない材料だろ?」
「『新世界樹』のコーティング材だぞ? 生半可なものが使えるか!」
「へいへい」
そういって、ハンスさんは工房の奥、厳重に鍵のかけられた倉庫へと入っていく。
「ガアラムさん。『精霊銀』とは何ですカ?」
「うむ。特別に【マナ】の気配が強い【聖地】でしか採掘できないものでな。『精霊』との親和性の高い金属なんじゃ。シャルの中にお前さんがいるという話にも驚かされたが、それならなおさら『精霊銀』は、この『杖』に相応しいじゃろう」
「ありがとウございマス」
「お前さんもシャルと同じで礼儀正しい子じゃな」
そう言ってすごく優しげな表情を浮かべるガアラムさん。
「まあ、礼はいらんよ。わしもこんなに珍しい素材と使い手にはそうそう巡り合えん。……最近は特に【魔鍵】使いが増えてきたからの。わしらがつくる武具も、結局は【魔鍵】には及ばんのじゃ」
そう語る彼の顔は少し悲しそうに見えた。確かに、防具職人ならともかく、武器職人となると、【魔鍵】使いには需要が少ないかもしれない。でも……。
「ワタシもシャルも、立派な冒険者になりマス。そして、ワタシが使うこの『杖』は、ヴィダーツ魔具工房のガアラムさんに造っテもらったとみんなに自慢したいデス」
余計なことかもしれないけれど、ワタシはそんなことを口にした。
すると、ガアラムさんはにっこり笑って、ワタシの頭に手を伸ばしてきた。まめだらけでごつごつしているけれど、柔らかくて暖かい手。ワタシの頭をくしゃくしゃと撫でてくれるその感触は、シャルとワタシが小さいときに、「お父さん」から、ジグルドから、与えられたものと同じ……。
「よし、ならばますます全力で取りかからなくてはならんな。わしの全精力をもって、生涯の最高傑作となるものを創り上げてやろう」
そう言うと、ガアラムさんは近くの机の引き出しから、大きな紙切れのようなものを取り出して、目の前の床に敷く。
「最近は『これ』に頼ることはしとらなんだが、全力を尽くす以上、そんなつまらん意地に捕らわれるわけにもいくまい」
「なんですカ、これハ?」
「うむ。これはな。【魔鍵】じゃよ。『描き出す栄華の紙片』。神性は“精密廟写”。わしの思い描く理想の設計図。それを紙面の上に立体的に投影できる。創作系の【魔鍵】じゃな」
驚いた。【魔鍵】にも色々あるものなんだ。マーセル系は、確かに芸術や工芸関係を司る系統だって言われている。シャルの【魔鍵】『融和する無色の双翼』も色(属性)を混ぜるという意味で、どちらかと言えばそれに近い能力だけれども、ここまで戦闘に関係ない力もあるだなんて思わなかった。
「爺さん! これでいいかい?」
「うむ。そこに置いておいてくれ」
ハンスさんが持ってきた金属の塊は、赤、青、緑、茶色の四色に輝いている。あれが『精霊銀』なんだろうか?
「さて、始めるぞい。……ああ、そうじゃ。これからの作業はわし一人でやった方がはかどる。何時間も紙片を眺めるわしを眺めていても暇じゃろう? 街へでも出かけたらどうじゃ?」
そう言ってガアラムさんは紙片に手を翳しはじめた。一人の方がはかどる、とまで言われては、出ていかないわけにはいかない。
「ありがとうございマス。ガアラムさん」
ワタシは改めて礼を言うと、工房の実験スペースを後にした。
さて、用もないのだし、シャルと交代しよう。と思ったところへ、後ろから声をかけられる。
「フィ~リスちゃん。じゃあ、さっそく街へ出かけようか?」
この人のことを忘れてた。仕方がない。このタイミングでシャルに任せたのでは可哀そうだし、ワタシが適当にあしらっておこう。
「どこに出かけるのですカ?」
「お?じゃあ、一緒に行ってくれるんだね? 嬉しいなあ。じゃあ、まず、カリオスト公園なんか、どうかな」
「公園?」
「うん。綺麗な噴水があるんだよ。ちょうどお昼だし、何か食べる物でも持っていけば、ピクニックにも丁度いいよ?」
意外とまともな提案のように聞こえる。でも、どうだろう。
「ところで、ハンスさんは、その格好デ、行かれるんですカ?」
彼の服装は、相変わらずツナギに職人用の前掛けといった格好で、とてもそんなに洒落た場所に出かけるような服装には見えない。
「うん?駄目かい?」
「……いえ、別ニ」
なんだか意外な感じがしたけれど、本人がいいと言うのならいいのだろう。
そしてワタシたちは、二人でお弁当を持ってカリオスト公園へと出かけることになった。
出かける間際に、お弁当を作ってくれたシリルお姉ちゃんが心配そうな顔をしていたけれど、何かされそうになったらワタシが責任を持って撃退すると話すと、ようやく安心してくれた。
公園は、『武器街』から昇降機を使って都市の外縁部の頂上まで登りきった外にあった。
「どうだい、ここ。いい場所だろう? 噴水もあるし、夕方になれば夕日も綺麗だし、夜になれば夜景も星空も堪能できる」
噴水脇のベンチに二人で並んで腰かけると、道行く人がワタシたち二人を奇妙なものを見るみたいにして通り過ぎているのが分かった。
確かに、ツナギに前掛けを付けた二十代の青年とフリル付きの黒いドレスを身に纏った十二歳の少女が並んでいる様は、かなりの違和感があるかもしれない。
「いい景色デす」
噴水を背に腰かけるワタシたちの眼下には、すり鉢状の街並みの中央に浮遊石で造られた巨大な逆円錐型の『浮遊会場』が浮いているのが見える。
「だろう? 気に入ってくれてよかったよ。さあ、お弁当を食べよう」
なんだか、ハンスさんは思っていたのと違う人みたいだ。どういうことなんだろう?
「ハンスさん。どうして、女の人に声をかけて回っているんデすか?」
「ん? ああ、そうだね。本当は内緒なんだけど、フィリスちゃんには言っちゃおうかな?……実はさ、ぼくって女の人にもてるんだよ」
「……」
やっぱり、聞いたワタシが間違っていたみたい……。
「だからさ、女の人の方が、店に連れてきやすいんだよね。それに、この街のいいところを紹介してあげれば、お得意様にもなってくれるかもしれないしさ」
「え?」
「内緒だぜ? こんなこと、爺さんには言わないでくれよな」
「……ハイ」
「爺さん、自分の造る武器が【魔鍵】には及ばないんだって、ふてくされてるんだよ。まあ、それと親父とお袋が死んだ事故も、爺さんが造った『浮遊石』の乗り物が整備不良で落っこちたせいなんだけど、それにも責任を感じているのかな?」
そう言ってハンスさんはワタシを見ると、にっこりとガアラムさんそっくりの笑顔を浮かべる。
「馬鹿な爺さんだよな。【魔鍵】なんて、一部の人間しか使えないし、汎用性だって爺さんの武器の方が高いんだ。あの事故だって、ちゃんと手入れしてなかった奴が悪いっていうのに」
「じゃあ、あなたは、ガアラムさんにお仕事をしてほしくテ?」
「だから、内緒だぜ? それと、……ありがとう。爺さんがあんなにやる気を出してくれたのは、すごく久しぶりなんだ」
……この人のこと、見直した方がいいかもしれない。そう思った矢先、
「おっと、こぼしちゃったな」
そう言ってお弁当のおかずを拾うそぶりをしながら、ワタシの太ももを凝視する彼の姿が目に入る。どうして、このタイミングで? 本気で殺意が湧いてきた……。
「うどろげあああ!」
おだやかな日差しが降り注ぐカリオスト公園に、絶叫が木霊する。