第51話 鋼の街/ヴィダーツ魔具工房
-鋼の街-
ここまでの旅の道のりを整理しようと思う。
俺たちは冒険者なんだから、色々な国を回るのも悪くはないが、シリルの召喚獣『ファルーク』という移動手段があるせいか、それぞれの国をついつい足早に通り過ぎているような気もしてしまう。
最初に俺が召喚された【聖地】があったのは、パルキア王国。辺境ではあるが平原と丘陵地帯が多く、国土も肥沃で豊かな国だ。貴族の支配力が極めて強い国でもある。
『竜の谷』があるのもこの国で、かつて『竜族』にちょっかいを出して軍隊を全滅させられたこともあるらしい。(国を滅ぼされたってのは大げさな伝説みたいだが。)
そうそう、あの国で俺たちは冒険者ギルドに登録したんだったな。ライルズさん、強かったなあ。今でもまだ、勝てないだろうか?
次に訪れたのは、ホーリーグレンド聖王国。かつては『魔神オルガスト』とモンスターの集団に蹂躙されていた国だが、今ではだいぶ復興を果たしているみたいだ。特殊技能の持ち主しか入れない聖騎士団は精鋭中の精鋭としても知られているし、団長のエイミアは『魔神殺しの聖女』として崇拝されている。地形的には隣国同士なためか、大きな湖がある以外は、パルキアとそう変わらない。
あの国ではシャルの【魔鍵】を見つけたり、聖騎士団と共闘したりと色々あった。
大変なこともあったけれど、エイミアやサイアスさん、それに聖騎士のみんなは元気にしているだろうか?
この前までいた国は、エルフォレスト精霊王国。『世界樹』も多いってことで自然の豊かな国だったな。特に森林が国土の四割を占めているだけあって、空気も凄くきれいだった。
別れてから何日も経っていないが、レイフォンたちも今頃は、新しい未来に向けて頑張っているんだろうな。
「……とまあ、そんな感じなんだが、ここはいくらなんでも、これまでの国と違い過ぎるだろ!」
俺は、眼前に広がる『摩天楼』を見上げて叫ぶ。
「うるさいわねえ、一人でぶつぶつ言っていたかと思ったら、何をいきなり叫びだしているのよ」
シリルは心底うるさそうに俺を睨む。でも、仕方ないじゃないか。俺はこの世界に来てから、外に出ればとにかく自然にあふれていて、町の中だって石を積んで造られた壁や橋、木造の建物なんかが立ち並ぶ、そんな風景しか見てこなかったんだ。
なのに俺の目の前にあるのは、一言で言うなら『鋼の街』だ。
足元こそ石畳の続く道になっているが、建物の壁面はすべて、明らかに金属の光沢を持った素材で構成されている。
建物自体の高さ、大きさも半端ではない。ひとつひとつが見上げるほど高く、一軒家のような建物は一つもない。
「なあ、これ、町の人はどこに住んでいるんだ?」
「建物の中に決まっているでしょう? この『外縁部』の区画は集合住宅が多いのよ。その方が安全だからね」
シリルの言葉に、ピンとくるものがあった。
「ああ、ここも昔、Sランクモンスターがいたってことなのか?それで、防御を固めているとか?」
「違うわよ。前にも話したけど、ここは世界で一番冒険者が集まる街だから、治安もあまりよくないの。冒険者もピンからキリまでいるからね」
なるほどね。それもそうか。前の国で見た『密伐者』たちを思い出す。
俺たちが今いるのは、円柱都市アルマグリッド。通称、『鋼の街』。
とある理由から、世界で一番多く冒険者が集う国であり、俺たちがここに来た目的も、その理由によるものだった。
「凄いです。本で読んで知っていましたけど、こんな町あったんだ……」
「シャルちゃん。上ばかり見ていると転んじゃうよ?」
「先ほどそうやって転んだのは、アリシアだったと思うが」
「もう! ヴァリスったら!」
威容を誇る鉄の街門を抜けて真っ直ぐ進むと、街の中心部が見えてくる。
「ここが、円柱都市アルマグリッドの中心部ね。わあ!凄い!ほんとにすり鉢みたいだ」
シャルはいつになく興奮しているみたいだな。
まあ、気持ちはわからなくもない。俺たちの『眼下』に広がるのは、街の中心部を深く円形に掘り下げて造った、すり鉢状の街並みなのだ。
円の直径は軽く数キロに及ぶらしく、向こう側の縁はほとんど見えない。
全体的には中心地に向かって緩やかに下り坂となっているが、ところどころ階段のように平らな部分があり、そこにさっきの高層建築ほどではないが大小様々な金属製の建物が立っている。
ここだけ、こんなに凄い建築技術があるってことは、やっぱり『魔族』絡みだろうか?
「少なくとも『魔族』の使う【魔導装置】の類はないわね。ここは単にこういう技術に特化した場所なんだと思うわ。わたしも初めてここに来た時は、人間の技術も馬鹿にしたものじゃないって思ったものよ」
俺たちはすり鉢の縁から下り坂を降りながら、目的の場所へと向かう。
坂を昇り降りする人々の姿もそれなりにあるが、ほとんどが冒険者らしき連中だ。
それにしても、こんな造りじゃ、降りる時はいいけど登る時は大変なんじゃないのか?
「知らないの? この都市にはね、【魔法】で動く専用の昇降機があるんだよ」
俺の知らない知識を語る時のシャルは、なんだかすごく得意げだ。ちょっと悔しいので、両拳でシャルのこめかみのあたりをぐりぐりしてやった。
「いたい、いたい!」
「また、シャルをいじめて!」
がつんとシリルに殴られる。むう、痛い。
「子供だなあ、ルシアくんは」
けらけらとアリシアが笑う一方、こめかみ付近の金髪をくしゃくしゃにしたまま、シャルが涙目で睨みあげてくる。うーん、可愛いな。この顔が見たくて、ついつい苛めてしまうのかもしれない……なんてな。
「ルシアくん、それは好きな子をいじめる小さい男の子の発想だよ?」
冗談だよ。ほっといてくれ。
「ル、ルシアなんて、大嫌い!」
しまった! 怒らせてしまったか。最近この程度じゃ、ここまで怒ることはなかったから油断していた。なぜか耳まで真っ赤にしてそっぽを向くシャルをなだめつつ、ふと気になってヴァリスを見ると、何やら物思いにふけっているみたいだ。
「どうしかしたか、ヴァリス?」
「いや、なんでもない」
そういえば、『精霊の森』を出た後ぐらいから、こんなことが増えているんだよな。ヴァリスにもなにか悩みがあるんだろうか?
「それで、シリルちゃんの知り合いの“魔工士”の人がいるところって、まだ遠いの?」
「ううん。もうすぐよ。彼の工房は壁面内部の『武器街』の一角なんだけど、どちらかと言えば手前の方だしね」
壁面内部? まさかこのすり鉢状の斜面って、中にも空間があるってことなのか?
俺が疑問の声を上げると、さっきまで機嫌を損ねていたはずのシャルが得意げに胸を張る。
「『円柱都市』って言ったでしょ? もともと鉱山だったこの街は、鉱物の採掘でできた円柱状の大穴にすり鉢状に段差のある斜面を取り付けることで、狭いところにもたくさんの建物が造れるようにしているんだよ」
「なるほどな。すり鉢状なのは、日蔭の場所を少なくするためでもあるのか。でもじゃあ、中はどうなんだ? 真っ暗ってわけじゃないよな?」
「それは入ってみてからのお楽しみよ。さ、ここが一番近い入り口ね。さ、入りましょ」
俺たちがついた場所は、上から五段目ほどの平地であり、近くの壁面には『5番ゲート西口』と書かれていた。その脇には、壁面内部に続くと思われる入口が扉もなく、ぽっかりと開いている。流石に一般的な家屋の扉なんかよりは、ずっと広い間口になっているようだ。
中に入ると、外で見てきたものとは全然違う街並みが広がっていた。
まず、一つ一つの建物が小さい。多くの建物が木材と金属を組み合わせて造ったような家屋になっていて、年季が入った建物が多いように見える。
人通りも外よりずっと多いみたいだが、どちらかというと外よりは庶民的な印象が強いみたいだ。
「外の方が後から移り住んだ上流階級、っていうか富豪たちの住まいになっているのよ。だから、こっちが本当の街の姿と言えるかもしれないわね」
とはいっても、貧乏そうな様子には見えない。なんと言っても街の中が明るく、賑やかなのだ。明るさ自体は【魔法具】を使い、日の光を外部から取り込んだり、大小さまざまな照明を仕掛けたりしているおかげのようだが、それだけじゃなく、街そのものに活気があふれている。
通り沿いに無数の店が並び、威勢のいい掛け声まで聞こえてくる。冒険者だけじゃなく、この街の住人たちも数多く出歩いているようで、シリルの言うとおり、これがこの街の『日常』なのだろう。
異界情緒あふれるというかなんというか、なんだかわくわくしてくるな。
「すごいねえ、あたし、ここ気に入っちゃったかも!」
アリシアも同じことを思ったのか、嬉しそうにはしゃいでいる。
「ここに、わたしの『杖』を造ってくれる人がいるんだ……」
シャルは手にした細長い包みをぎゅっと抱きしめながら呟きを漏らす。
そう、俺たちがこの街に来た目的。それは、エルフォレスト精霊王国で手に入れた『新世界樹』の枝をシャル用の杖に加工するためだった。
枝のままでも十分にシャルの【精霊魔法】を強化する効果はあるみたいだが、やっぱり使い勝手を上げるためには、専門家に加工してもらった方がいいらしい。
とはいえ、事実上、許しを得ているとは言っても、本来なら密伐でもしない限り手に入らない『世界樹』(それも数千本に一本と言われる『新世界樹』)の枝なんてものを迂闊にその辺の人間には頼めない。
そこで、シリルの知り合いの“魔工士”がいるこの街にやってきたというわけだ。
【魔法具】の製作を生業とする“魔工士”たちの都市国家。それは同時に戦いを生業にする冒険者たちが【魔法具】を求めて集う街でもある。ここはまさに、『鋼の街』だ。
-ヴィダーツ魔具工房-
『武器街』を歩いていると、通りすがりの男から声をかけられた。
「あれ? シリルじゃないか! 久しぶりだなあ! 今日はどうしたんだい? おや? お仲間かい? 君に仲間なんて珍しいね。でも、シリルのお仲間ならきっと凄い人たちなんだろうなあ!」
矢継ぎ早に言葉の嵐を投げつけてくるその人物を、わたしは全力で無視して歩く。
「お、おい、シリル。いいのか?」
「いいのよ。あれの相手はしてられないわ」
「ああ! ちょっと待ってくれよ! 冷たいなあ! ぼくとシリルの仲じゃないか!」
「って、言ってるけど、どんな仲なんだ?」
ルシア、お願いだから黙ってて。……でも、無視を続けてるのも、もう限界かも。
「ああ! うるさいわねえ! ハンス!そんなに《虫》に齧られたいのかしら?」
「ひ、ひいい! あれだけは! あれだけはやめてください! お願いします!この通りです!後生だから、どうかどうか!」
我慢できなくなって怒鳴りつけたわたしに対し、その男、ハンスは大げさに跳びあがった後、地に頭をこすりつけるようにして土下座しはじめた。
うう、際限なく状況が悪化していく。仲間のみんなも呆気にとられているけれど、何より通りすがりの人たちの視線が痛い。
「黙れ、って言っているのが、わからないの?」
「あ、ははは、わかりましたです。はい」
わたしが突きつけた【魔導の杖】を見て、ハンスはようやく大人しくなった。
「ね、ねえ、シリルちゃん、その人って……」
「ああ、一応知り合いよ。名前はハンス。見てのとおり、ただの女たらしね。その割には、もてたことなんてないみたいだけどね」
ハンスはその幼い外見のせいで、茶色の髪と目をした美少年にも見えるけれど、実年齢は23歳。わたしよりも年上の男だ。ただし、丈夫な布製のツナギの上に工房で働く職人用の皮の前掛けを付けており、繊細そうな外見に似合わないことこの上ない。
「酷いなあ、シリル。ぼくはこれでも『ヴィダーツ魔具工房』の跡取り息子なんだぜ」
「そういえば、そうね。じゃあ、工房に案内してくれるかしら? それぐらいなら貴方にもできるでしょう?」
「うう、そこまで言わなくても……。はいはい、わかりましたよ」
ハンスは項垂れるようにして、歩き出す。
ふと気がつくと、わたしの後ろからひそひそと話し声が聞こえてくる。
「なあ、シリルの奴、あのハンスって人に随分きつくないか?」
「……うん、多分なんだけど、前にルーズの町の冒険者ギルドで、しつこく言い寄ってくる男に《黒の虫》を仕掛けたって話を聞いたでしょう? 多分、それがあの人なんだよ」
「うげ! まじか。そりゃ、あの怯えようも無理はないよな」
アリシアとルシアが小声で話しているのが耳に入る。
……うう、全部が全部、嘘じゃないだけに何も弁解のしようがない。実際には手足を少し《虫》に齧らせてやっただけなのに……。
そして、いくらも歩かないうちに、わたしたちは目的の『ヴィダーツ魔具工房』に到着した。
「さ、遠慮なく入ってよ」
「なにが、『遠慮なく入ってよ』じゃ! このバカモンがああああ!」
店に入るなり、響き渡った怒号とともに、ハンスの身体が真横に吹き飛ぶ。
ガシャガシャガシャ! と派手な音を立てて近くの資材に突っ込むハンス。
なんだか、懐かしい光景ね。
「まったく、どこをほっつき歩いていたかと思えば、また女を連れ込んできおってからに……。悪いがお嬢さん方。この小僧に何を言われたかわからんが、わしは気が向いたときにしか武器は打たんよ。お引き取り願おう」
立派な髭を顎に生やしたその男性は、鉄拳を振り切った状態で荒く息を吐きながら、やれやれと首を振る。
「ガアラム。わたしの顔、忘れちゃった?」
わたしはそっぽを向く彼、ガアラムの正面に回り込みながら問いかける。
「んん? おお! シリルじゃないか! 久しぶりだのう。元気にしとったか?」
ガアラムは髭面の頑固そうな顔に、穏やかな笑みを浮かべて返事をしてくれた。実際、街の住人でさえ誤解している人が多いけれど、このお爺さんは意外と優しい人なのだ。
「おかげさまでね。にしても、ハンスは相変わらずみたいね」
「うむ。二年前にお前さんからきつくお灸をすえてもらったはずなのじゃが、あの有様じゃ。わしの知名度を女を口説くのに使おうとするのじゃからな。本当に情けないわい」
深くため息をつくガアラム。やっぱり、後継者問題ってどこの家にもあるものなのかしらね。
「酷いよ、爺さん!今回はシリルを案内して来てあげただけなのに、無実のぼくを殴るなんて!」
ガラガラと資材の山を崩しながら立ち上がるハンス。
「おいおい、あの勢いでぶん殴られて、よくあんな元気に立ち上がれるもんだな」
ルシアの呆れたような声が聞こえる。きっと、慣れているんでしょうね。
ガアラムもハンスの抗議はまるで聞こえなかったものとして、話を続けてくる。
「で、何のようだ?お前さんにはわしの武器はいらんじゃろう。ふむ。そちらのお仲間の分かね。まあ、シリルの仲間だというなら、条件次第でやってやらんではないが」
「相変わらず、話が早くて助かるわ。実はこの子の武器をお願いしたいの」
そう言ってシャルを指し示すと、ガアラムが何か言うより先にハンスが目の色を変えて駆け寄ってくる。
「おお!なんて可愛らしい子なんだ!この街は初めてかい? 良かったら僕が案内するよ? 夕日が綺麗に見えるスポットを知っているんだ」
そう言ってシャルの手を取るハンス。そういえば、前に同じことをやって『木登り』させられた奴がいたわね……。けれど、意外にもシャルは嫌がるそぶりを見せなかった。
「本当ですか? ありがとうございます!」
そう言って嬉しそうに笑うと、ぺこりと頭を下げたのだ。
「あ、ああ、うん。任せといて」
当のハンスも、こんな反応は予想していなかったのか、呆気にとられて固まっている。
そうか。今回は『偉い人のように』扱われたわけじゃないからってわけね。
でも、シャルはちょっと素直すぎるかな。悪い男に騙されないよう、教育が必要かもしれない。
見れば、ガアラムもハンスを殴りかけた姿勢で固まっているようだった。
「ふむ。こんな嬢ちゃんの前で殴るわけにもいかんか」
そう言ってハンスに鋭い蹴りを叩き込むガアラムと、再び吹き飛ぶハンス。
それじゃ、殴っているのとあんまり変わらないんじゃないかしら?
「シャル。あなたの武器をお願いするんだから、ご挨拶しましょう?」
「うん。……はじめまして、ガアラムさん。わたしはシャル・エンデスバッハです。今日は、わたしの武器を造っていただきたくて、お邪魔しました。どうか、よろしくお願いします」
シャルは強面の老人相手に緊張していたみたいだけど、ちゃんと自己紹介できたみたいね。うん、偉いわよ。
そんなシャルの様子をじっと見ていたガアラムも、にんまりと笑うとうんうんと頷きを返してくれる。
「うむうむ。よい挨拶じゃ。よし、わしに任せておけ!」
すんなりOKが出たわね。流石はシャル、年上キラーね。
けれど、シャルが持っていた包みを紐解いた途端、彼の顔色が変わる。
「……悪いことは言わん。すぐに元あった場所に返してきなさい。まったく、よりにもよって密伐した『世界樹』なんぞ、わしのところに持ってくるものではないぞ?」
「よく一目でわかったわね?」
「当然じゃ。前にもそういう持ち込みは何度かあったからな。無論、全部断ったが。それだけの大きさの枝ともなれば市場価格で数億ガルドは下らんはずじゃ。シリル、いくらお前さんでもそうそう購入できるはずがない」
「大丈夫よ。これはちゃんと『精霊騎士団』と『妖精族』に許可を貰ってきたんだから」
わたしはエルフォレスト精霊王国であった事件について、細かい点は伏せながらも、かいつまんで聞かせてあげた。
「信じられんな。ふむ。なら、その嬢ちゃんが【精霊魔法】を使えるところを見せてもらえんかね?」
「ええ、いいわよ。……シャル」
「うん」
〈巻き起こる風〉
「きゃああ!」
「うおおお!」
言葉とともに、突風が店内を荒れ狂う。吹き飛ばされるほどではないけれど、密閉空間で吹いていいレベルの風じゃない。
「ちょ、ちょっと、シャル!」
わたしは慌てて止めに入る。少し気合を入れ過ぎじゃないかしら? と思ったけれど、そうだった。忘れていた。彼女が手にしているのは枝のままとは言え、『世界樹』。それも数千本に一本の『新世界樹』なのだ。【精霊魔法】が強化される度合いも半端ではない。
「なるほどの。こりゃ、腕が鳴るわい。やはり『新世界樹』じゃったか。よし、悪いが一週間ほど時間をもらえるか?」
どうやらわたしの言うことを疑っていたんじゃなくて、それを確かめたくてシャルに【精霊魔法】を使わせたみたいね。
「なんと言っても貴重な素材じゃ。なんだったら、お前たちもこの工房に滞在してもらっても構わんよ。そのための宿泊部屋もあるからの。もうすぐ、武芸大会も開催される予定じゃからな。待っている間が暇なようなら見に行くといい」
とりあえず、わたしたちは彼の言葉に甘えることにした。