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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第5章 精霊の国と歪む世界
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第44話 やっぱりすごい、あたしの親友/妖精女王

     -やっぱりすごい、あたしの親友-


 もう、どうしてこんなふうに険悪な状態になっちゃうのよう!

 そうは思ってみたものの、よく見れば、レイフォンくんもルフィールさんもかなり深刻で複雑な事情を抱えているみたいで、その感情をはっきりと読み取ることができない。

 ただ、シャルちゃんを子作りの道具に使うつもりがあるわけじゃないみたい。

 もっとも、それならいいですよ、なんて言えるような状況じゃないけれど。


「で? なに? わたしたちを力づくで、どうにかできるとでも思っているのかしら?」


「……できれば、手荒な真似はしたくないんです。おわかりでしょう?『精霊』ならタイムラグなしで【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)が使えます。あなたがどんなに強力な魔導師でも、これは防げません。どうか、御同行を」


 ルフィールさんの言葉は、紛れもなく脅し文句だけれど、どこか悲痛な感情が見え隠れしている。


「シリルちゃん……」


 あたしはシリルちゃんに声をかけようとした。けれど、その前に手で遮られちゃった。


「アリシア。あなたには彼らの気持ちが分かるのかもしれないけれど、それは関係ないわ。彼らは今、現実にわたしたちに対し、『脅威』を向けてきているのよ。どんな理由があろうと、力づくで物事を進めようとする奴に譲歩してやる理由なんてない」


 あたしたちの周囲には、ぼんやりとした影のような『精霊』が宙に浮いている。シリルちゃんの『ローラジルバ』みたいな上位精霊でもない限り、『精霊』にははっきりした形はないのが普通。でも、【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)はもちろん使えるし、『世界樹』の傍ならその威力はあたしたちの命を奪うのに十分すぎるものになるはずだった。


「シリル殿! おやめ下さい。あなた方に勝ち目はありません!」


「あるわよ。あなたたちはわたしたちが動かない限り、攻撃しないのでしょう?なら、『動いた瞬間に終わっていれば』いいだけだもの」


「……無駄です。彼らには【魔法陣】の構築を感知すると同時に攻撃するよう命令してあります。自動で攻撃が始まってしまうんです。だから、おやめ下さい」


『精霊』は自分の意志では動かない。シリルちゃんは挑発的な言葉を使うことで、『精霊』への命令内容を確認しちゃったんだ。本人から言わせちゃうなんて、抜け目ないな。


「魔導師に対するには、それが妥当な命令でしょうね。じゃ、ルシアは『精霊』、ヴァリスは『グリフォン』。シャルは牽制をお願いね。とどめはわたしに任せていいわよ」


「どうして分かってくださらないのです!『精霊』に物理攻撃は通じないのですよ?」


 本来なら、ルフィールさんの言うとおりなんだけど……。

 決着は、あっという間のことだった。


「……はい、終わりね」


 あくまで冷静なシリルちゃんの声。


「な、ああ……!」


「う、うそ!」


「ひ、ひいっ!」


 いくつかの驚愕の声。

 あたしは何もしなかったので、全体の様子がわかったのだけれど、決着までの流れは大体こんな感じ。


 まず、ルシアくんの身体がぐらりと揺れた。次の瞬間、正面を見据えたままのルシアくんは、向かうべき方向を見もせずに真横へ跳躍し、その先にいた一体の『精霊』をあっさりと斬り裂く。

 もちろん、その間も他の二体の精霊は【魔法陣】が感知されないため、動くことはない。


「そ、そんな! なぜ『精霊』が?」


「教えてあげる義理はないわね」


 ルフィールさんの疑問を冷たく突き放すシリルちゃん。ルシアくんの【魔鍵】って、一見して単なる剣にしか見えないから、普通はわからないだろうね。


 ルフィールさんたちもあわてて命令を変更しようとしたんだろうけれど、シャルちゃんが【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)で起こした強い突風に、たまらず尻もちをついて倒れてしまう。そして、その隙はルシアくんが動かない残る二体の『精霊』を斬るのには、十分すぎる時間だった。


 背後では、ほとんど同時にヴァリスが『グリフォン』を一撃で昏倒させている。


〈真白き世界より来たれ、わが友『ローラジルバ』〉

 

 気付けば、尻もちをついていた三人も、呆然と立ち尽くすレイフォンくんも、召喚された氷の上位精霊『ローラジルバ』を目の前にして、完全に動きを封じられていた。

 宙に浮かんだ白い衣を纏う半透明の女性の姿。さっきまで三人が使役していた『精霊』とは格が違う。そこにいるだけで、見る者の魂までも凍えさせてしまう氷雪の女神。


「さて、言うまでもないことだけど、『ローラジルバ』はタイムラグなしで【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)が使えるわよ。命令内容は、『あなたたちが動いたら、氷漬けにする』ってところね」


「あ、うう……」


 考えてみれば、そんな命令、出せるわけがないと思う。

 『精霊』は融通が利かないところがあって、身じろぎひとつで「動いた」と見なしてしまうはずだから。でもそれが嘘だという確証は、ルフィールさんたちにはない。


「どうしようかしら? 仮にも一国の騎士団と戦闘しちゃったわけだし? このままだとわたしたちもお尋ね者。これは、……『口封じ』しかないかしらね?」


 こういう時のシリルちゃんは、親友のあたしでもゾクっとくるものがある。ましてや、相対している人にとっては、もの凄く怖いだろうなあ。

 あたしにはルフィールさんたちの恐怖がダイレクトに伝わってきてしまったので、なおさら怖くなってしまった。


「ま、待ってくれ! そもそも僕は戦う気なんてなかったんだ。落ち着いてくれ!」


「今更なにを言うかと思えば。時間を稼いでおいて、仲間でも呼ぶ気でしょう?」


「違う。仲間は呼ばない。『妖精族』の誇りにかけて誓う!」


 レイフォンくんは、真剣な表情でシリルちゃんに訴えかけた。その言葉に、シリルちゃんは軽く首を傾げる。


「ふうん。仲間に無様なところを見せたくないからって、わけじゃなさそうね」


「ああ、ルフィールたちも早まらないでくれ。僕は力づくで止めてほしかったわけじゃない。一緒にお願いしてもらいたかったんだ」


 レイフォンくんはルフィールさんたちに責めるような視線を向けた。


「し、しかし、これほど『妖精族』を毛嫌いされている方に説得が通じるとは思えませんでしたし……」


 その視線を受けてうろたえたように言うルフィールさん。

 シリルちゃんはその言葉に、呆れたように片手で顔を押さえて見せた。


「はあ、……極端すぎるわよ。別にわたしは『妖精族』のことなんて嫌いでも何でもないわ。ただ、その、風習が気に入らないだけよ。それも、わたしを巻き込まない分には好きにすればいい話だし」


「では、お話を聞いて下さるのですか?」


「初めからそういうふうに下手に出ていればよかったのに。まあ、内容次第だけど、いずれにしても厄介事なんでしょう?仮に引き受けるとしても報酬はたっぷりいただくわよ」


 ちゃっかりしてるなあ、シリルちゃん。やっぱり、ルフィールさんやレイフォンくんたちが深刻な問題を抱えていることぐらいには気付いていたんだね。


「では、『妖精の森』の最長老様のところに、来てくれないか?」


 途端に顔を輝かせたレイフォンくんの言葉に、シリルちゃんは首を振る。


「今の依頼が先よ。『霊草エクサ』も採取してから時間が経つと使い物にならなくなるし」


「それなら、わたくしたちの『グリフォン』で……、って、あ……」


 ルフィールさんが言いかけて、何かに気づいたように言い淀む。


「案ずるな。気絶させただけで殺してはいない」


 流石はヴァリスだね。ちゃんと手加減してたんだ。でも、あれ?そういえば斬られた『精霊』の方はどうなのかな? あっちは手加減も何もないと思うけど……。


「心配ないわ。召喚精霊の実体は封印具の中よ。だから物理攻撃は効かないし、反属性の【魔法】で消し飛ばされても時間さえあれば復活できる。ルシアに斬られても同じことよ」


「よかった。『精霊』さんには、罪はないものね」


 あたしがしみじみと言うと、ルフィールさんが笑顔で話しかけてくる。


「アリシアさん、でしたかしら? 優しいんですのね。『精霊』も世界に生きる大切な命。それが分からない連中が増えている昨今では、あなたのような存在は貴重ですわ」


 うわあ、お世辞でもなく本気で褒められちゃった。なんだか照れちゃうな。

 でも、あたしの場合、身近に『フィリス』ちゃんがいるからだし、そんなに大したことじゃないんだけどなあ。


「さて、じゃあ、この場所に3日後の同じ時間でいいかしら? ……ちょっと疲れたから空から帰りましょう? ……おいで、『ファルーク』」


 シリルちゃんが取り出した封印具の筒から、久しぶりの『ファルーク』ちゃんが登場。


「す、すごいですわ。『グリフォン』以外で空を飛ぶ『幻獣』、それも召喚獣なんて初めて見ました」


 驚くルフィールさんたちの声を聞きながら、わたしたちは『ファルーク』ちゃんの背に乗り、そのまま帰路についたのだった。

 すごいな、シリルちゃん。結局、最後まで主導権を握りっぱなしだったよ。



     -妖精女王-


 ルフィールやレイフォンたちの話を聞くべく、我らは拠点としているアザルスの町に『霊草エクサ』を届けた三日後、再び『妖精の森』に来ていた。

 何の関係もない連中の話をわざわざ聞いてやるなど、いつものお人好しぶりが始まった、かとも思ったが、事態はそんなに簡単なものではないらしい。

 出発前、関わり合いになるべきではないと伝えた我に対し、シリルは深刻な顔つきで首を振ったのだ。


「『妖精族』が人間に助けを求めるなんて、余程のことよ。それもシャル、というか『精霊』がらみなんだとすれば、とりあえず、話だけでも聞く必要はあるわ」


 そう言われては反論のしようがない。確かに、フィリスが『完全なる精霊』であると知った時のレイフォンの様子、それに続くルフィール達の対応はただ事ではなかった。

 後で聞けば、エルフォレスト精霊王国の『精霊騎士団』は、騎士団とは名ばかりで、戦うための集団というより、『世界樹』をはじめとする貴重な資源を護るための組織なのだそうだ。


「もう集まっているみたいだね」


 アリシアの言葉どおり、三日前と同じ『世界樹』の前には、数人の人影が集まっていた。


「ああ!よく来てくれた!ありがとう。助かるよ」


 レイフォンが嬉しそうに我らを出迎える。見れば、今回集まっている者はみな『妖精族』のようだ。


「約束は守るわよ。それで、最長老とやらのところに行くのよね?」


「貴様! 最長老様に対し、不敬の言葉は許さぬぞ!」


 シリルのぞんざいな言葉に鋭く反応したのは、レイフォンよりも若干年上に見える『妖精族』の男だ。(というより『妖精族』には男しかいないらしいが。)


「よすんだ、アルフ。彼らは大事な客人だぞ」


「レイフォン、お前の言うことは信じられない。『完全なる精霊』などいるものか。そんな怪しげな連中を最長老様の下に連れて行くわけにはいかぬ」


 アルフと呼ばれた『妖精族』は頑なな態度を崩さない。目つきの鋭いレイフォンと比べれば、もともと温和な顔立ちをしているはずなのだろうが、今は他の誰よりも険しい表情で睨みつけるような視線をこちらに向けてきている。


「こっちも暇じゃないのよ。内輪もめしているようなら帰らせてもらうけど?」


 だがシリルは、そんな視線になど、まるでたじろぐ様子もなく言い放つ。


「ま、待ってくれ! ……アルフ、どうしてわかってくれないんだ!」


「なら、証拠を見せてみろ。俺は最長老様の親衛隊として、当然のことを言っている過ぎない」


 アルフはそう言うと、シリルの隣で恐る恐る様子を見ていたシャルに向けて鋭い視線を送る。びくっと身を固めるシャルの肩にルシアが優しく手を置いた。


「びくびくすんなって。『フィリス』を見せてやれば、こいつもきっと腰を抜かすぜ?」


 シャルは、こくっと大きく頷いたものの、肩に置かれた手がルシアのものだと分かった途端、「大丈夫!」と言って振り払っていた。


「貴様、黙っていれば無礼な口を!」


「黙ってないだろ、あんた。むしろ喋りすぎだぜ。それこそ、『黙って見てろ』よ」


「ぐ!」


 いつになくルシアが攻撃的な態度をとっている。不思議に思い、首を傾げていると、アリシアが我にそっと耳打ちをしてきた。


「なんだかんだ言って、ルシアくんもシャルちゃんには甘いよね。あれ、庇ってるつもりなんだよ」


 なるほど、そういうわけか。見れば確かにルシアの立ち位置は微妙にアルフとシャルの間にある。


「……はじめましテ。ワタシは『フィリス』。よろしくお願いしマス」


 シャルもルシアの言葉に従って、フィリスと入れ替わったようだ。

 レイフォンと同じように驚愕するかと思われたアルフは、意外にも黙ったままフィリスのことを見つめている。


「……」


「ん? どうしたんだ?」


 ルシアが訝しげにアルフの顔を覗き込むが、反応はない。


「さあ、行こうか」


 レイフォンはそんなアルフの様子を無視するかのように、我らに手招きをする。


「ちょ、ちょっと待て! なんだ、これは!」


「なんだよ、アルフ。彼女を見れば、人に答えを出してもらうまでもなく、わかるだろう? 僕には及ばないとはいえ、君もれっきとした【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)の使い手なんだから」


「う、く……」


「いいから、ほら、早く最長老様のところへ行くぞ」


 レイフォンは勝ち誇ったように言うと、そのまま森の奥へ向けて歩きはじめる。


「まさか、本当に『完全なる精霊』が存在するとは……。これは、……」


「あ、そうそう、言い忘れていたけれど、フィリスに対して、あまりへりくだったりしない方がいいよ。彼女、そういうのが嫌いみたいだから……って、もう遅かったか」


 レイフォンが振り向いた先には、地に埋まるアルフの姿があった。

 明らかにわざと言わなかったのだろう。

 まったく、『妖精族』の連中も、思ったほど人間と違いはないようだ。


 それから我らがたどり着いた先は、中心にひときわ大きな『世界樹』が立ち、周囲に奇妙な造形の小屋が並ぶ集落のような場所だった。その『世界樹』は、人間が数人で手を繋いだとしても抱えきれないほどの太さと、首が痛くなるほど見上げれなければ頂上が見えないほどの高さを誇っている。


「さあ、こっちだ」


 レイフォンの先導で『世界樹』の根元に向かう。

 巨大な樹木の根が入り組むその間には、岩を椅子にして一人の『妖精族』が座っていた。


「最長老様。先日お話した皆様をお連れしました」


 レイフォンがその人物に恭しく頭を下げる。


「ありがとう、レイフォン。それから、ようこそお客人。はじめまして、わたくしがこの『妖精の森』の最長老、ソアラ・エルファスウッドです」


「あれ? 最長老さんっていう割には、随分若いような気がするけど……」


「ルシア。相手は『妖精族』だ。姿で年齢は判断できん。……だが、『妖精族』には男しかいないはずではないか?」


 ゆえにこその『精霊騎士団』との盟約だったはずだ。だが、目の前にいるのは白い長髪を後ろで束ね、慈愛の表情で微笑む女性の姿である。ゆったりとした服装であるため、体つきまではわからないが、声の高さからいっても間違いなく男ということはないだろう。


「はい。この世界が『変質』するまでは『妖精族』にも女性は生まれておりましたから」


 最長老、ソアラは穏やかな口調で我の疑問に答える。が、その言葉に反応したのはシリルだった。彼女にしては珍しく驚愕の表情を浮かべている。


「世界の変質の前って、……あなた、まさか千年前から生きているの?」


「……千年前? 『邪神』の現出のことですか? いえ、わたくしが生まれたのは今から八百数十年前です。世界の『変質』はおよそ八百年前の話ですから」


 八百年前……か。『竜族』が封印から脱した時期に重なるな。

 ならば、隔離空間から解放された我らの先達が見たという世界の変容は、千年前から二百年かけてのものではなく、ごく短時間に引き起こされた事象の結果だということか?


 我の疑問に対し、ソアラは驚いたように眉をあげ、我を見つめてくる。だがそれも一瞬のこと、すぐに何かを悟ったように頷くと、ゆっくりと言葉を続ける。


「ええ、おっしゃるとおりです。お若い方。気づいた時には、『聖地』に逃げ込むことが叶わなかった多くの仲間が醜い化け物の姿に変わり果てていました……」


 かつての仲間の末路を思い起こしているのか、悲痛な表情を浮かべるソアラ。

 だがシリルは、何かに苛立つように言葉を続ける。


「な、何を言っているの? 千年前に起きたのは、神々の争いによる『世界の分断』でしょう? 世界が今のように狂ってしまったのは、それが原因ではないの?」


 ソアラの言葉を必死に否定しようとしているようだが、いったい何が問題なのだろうか。

 

「人間の間ではそのように伝わっているのですか?……確かに、その頃から世界に【瘴気】が現れはじめ、そちらのお友達のような『完全なる精霊』はほとんど姿を現さなくなりましたが、決定的な破滅はもっと後のことです」


 ソアラは、突然自分に向けられた言葉に戸惑うシャルに目を向けると、優しく微笑みかけながら言葉を続ける。


「『世界の分断』により辛うじて安定を取り戻していたはずの世界は、八百年前のあの時、無理矢理一つに重ねられたのです。『精霊』はおろか『妖精族』までもが狂い、世界にモンスターがあふれ出したのは、あの時からで間違いありません」


「八百年前……【重なる世界】。で、でも、世界を重ねたのは、『精霊』や『幻獣』を避難させて滅びをくいとめるためだって……」


 シリルは信じられないと言わんばかりに首を振った。顔色が若干、青ざめて見える。


「滅び? どういう意味ですか?」


 ソアラは、不思議そうな顔で尋ね返す。だが、その言葉はシリルの耳には届いていないようだった。


「そう……どこまでも、汚い奴らね。ああ、汚い、汚い、汚い、汚い。……ふふ、わかってた、はずなんだけどね」


 呟きを続けるシリルのあまりの鬼気迫る様子に、周囲の皆が息をのむ。


「シリルちゃん、考えすぎちゃ、駄目だよ?」


 そんな空気を打ち破るかのようなその声は、アリシアのものだ。


「…ええ、ありがとうアリシア。ソアラさんもごめんなさい。余計な話をさせてしまったわね。話を戻しましょう」


 シリルのそんな言葉で、ようやく固まりかけた周囲の雰囲気が和らぐ。


「皆様をゆっくりともてなしたいところですが、ことはあまり悠長にもしていられない話なのです。さ、まずはおかけください」


 そう言うと、ソアラの指先が滑らかに動いた。と同時に周囲の地面が盛り上がり、丁度人数分の人間が腰かけることのできる椅子やテーブルが姿を現す。


「すごい。地属性で造ったんだ」


「お友達。あなたには及びません。我々『妖精族』は『世界樹』の傍から離れれば、肉体や物を媒介にしたもの以外の【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)は使えませんから。……今となっては」


 シャルに向かってにこやかに笑いかけるソアラの声には、言葉通り親しい友人に話しかけるような響きがあった。


「お友達、ですか?」


「はい。わたくしにとっては、あなたたちの気配はとても懐かしい……。遠い昔に遊んだ友人を思い出します。今となっては『精霊』たちも、本来の姿でこの世界に留まることはできませんから。だから、そう呼ばせて下さいな」


「あ、はい!」


 嬉しそうに返事をするシャルの頭に、ポンと手が置かれる。シリルのものだ。


「お友達、はいいけれど、悠長にしていられない話があるんでしょう?」


「はい。このまま放置すれば数年後には、この世界は【瘴気】とモンスターで溢れかえり、まともな生物の住めるところはなくなってしまうでしょう。ですから、どうか皆様のお力をお貸しいただきたいのです」


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