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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第4章 魔神殺しの聖女と英雄
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第37話 現れた黒幕/罪業の行き着く果て

     -現れた黒幕-


「サンキュー、シリル!」


 ……いやはや、今のは本気で危なかったな。シリルの防御魔法のおかげで助かった。

 

 赤い髪の先端からチロチロと炎を揺らめかせ、熱気混じりの息を吐く赤の巨人。

 淀んだ水底のような落ち窪んだ目を煌めかせ、毒気混じりの息を吐く青の巨人。

 『フレイムギガント』と『ヴェノムジャイアント』

 この連中、地上で戦った集団認定Cランクモンスター、『マッドオーク』なんかとはケタが違う強さだ。

 よく考えてみたら、単体認定Bランクっていえば『魔竜の森』にいた『ワイバーン』と同じランクじゃないか。

 つまり、一撃で倒すには上級魔法が必要なくらいの強さってわけか。そりゃ、ヴァリスの一撃にも耐えるわけだ。


「ルシア! あなたは攻撃力はあっても、ヴァリスみたいに防御が強くないんだから、敵の遠距離攻撃にも注意しなさい!」


 ああ、シリルにも叱られてしまった。情けないが、そのとおりだな。

 いつの間にか俺は『切り拓く絆の魔剣(グラン・ファラ・ソリアス)』の力を過信していたのかもしれない。


「この分じゃ、『アルマゲイル』って奴を倒すのは骨が折れそうだな!」


「そうよ。だから、わたしもここで無駄に大きい【魔法】を使う余裕はないわ。宮殿に突入する際にも、思っていたより【魔力】を使っちゃったからね」


 そういえば、禁術級魔法を使ったばっかだっていうのに、『マッドオーク』の群れにやたらと中級魔法を連発していたもんな。

 会話を交わしながらも、敵との攻防は続く。今は驚いたことにアリシアが前に出て、『ヴェノムジャイアント』の攻撃を引きつけていた。

 『拒絶する渇望の霊楯(サージェス・レミル・アイギス)』の“虚絶障壁”(ヴァーチャル・バリア)って目に見えないから、ものすごく危なそうに見えるんだが、毒の息吹も彼女のところまでは全く届いていないようだ。


「うおお!」


 ヴァリスが赤の巨人『フレイムギガント』に猛烈な連続攻撃を浴びせている。いくら防具や気功の効果で敵の炎を軽減できるって言っても、あたり構わず火の息をまき散らす相手に、よくあそこまで果敢に攻め込めるものだと思う。

 とはいえ、俺も黙ってみているわけにはいかない。あと何回かは|《暴風の障壁》(ストーム・バリア)の効力はあるだろうから、青い方を片づけてやる。

 今度は慎重に間合いを詰め、アリシアに拳を叩きつけようと悪戦苦闘している『ヴェノムジャイアント』に接近していく。青の巨人は俺に気づくと、顎が外れるんじゃないかってくらいに大口を開けて毒の息を吐こうとするが、俺はそれより早くその懐に潜り込み、そのまま胴体を横薙ぎに斬り払ってやった。


〈グアガガガガ!〉


 断末魔の声を上げ、倒れ伏す『ヴェノムジャイアント』。

 傷口からまき散らされた紫色の毒液も、|《暴風の障壁》(ストーム・バリア)が防いでくれたので浴びずに済んだ。ふう、やっぱりこいつに接近戦は危険だったか。


「よし! なんとかやれたな」


 俺は軽く一息つくと、ヴァリスの方を見る。ちょうどそちらも、決着がつくところだったようだ。


〈グバア!〉


 ヴァリスの放つ渾身の回し蹴りが『フレイムギガント』の首筋に叩き込まれ、その首が奇妙な方向に折れ曲がった。あきらかな致命傷を受けた巨人は、地響きを立ててゆっくりと倒れる。


「ふん。まだ、修行が足りん」


 ヴァリスが顔や手に負った火傷を気功で癒しながら呟く。あれだけやって修行不足って、どんだけ向上心があるんだよ。でも、ああいうところは、俺も見習わないといけないのかもな。


 と、そこへ別の声がかかる。


「ワタシ、手伝えませんデシタ……」


 シャル、……いや『フィリス』か。悲しそうにしょんぼりと項垂れているみたいだ。

 みんなの役に立ちたかったのに、上手くできなかったことが悔しい。

 そんな心の内がありありとわかるほどの落ち込みようだ。

 まあ、無理もないよな。急にこんな戦闘が始まったんじゃ、【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)を使うタイミングも難しかっただろうし。そんなに気にすることないってのに。


 ……ん? なんだろう? 

 シャルのいつもの生意気さが感じられないせいか、こうして落ち込んでいる姿を見ると、どうにも庇護欲をそそられるような……?

 俺はそんな思いに駆られて、なんとなく慰めの言葉をかけてみる


「気にするなよ。乱戦になったら【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)も使いづらいだろうからな」


「え? うん。ありがとウ。ルシア」


 うお? 『精霊』と入れ替わったからか随分と素直だな。俺に向かってのシャルの笑顔ってのは初めて見るかもしれない。なんだよ、こんなに可愛い顔もできるんじゃないか。

なんだか嬉しいぞ。


「フィリス、無理はしない方がいいわ。こんな石造りの人工物しかない地下室じゃ、【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)を使うのにもかなり負担が大きいはずなんだから」


「ハイ。シリルお姉ちゃん」


 シリルお姉ちゃん……か。シャルでもフィリスでも、シリルへの態度は同じなんだな。そうなると、別にシャルとフィリスは正反対の性格とかってわけじゃないのか?

 じゃあ、なんなんだろうな、いったい。


「うふふ、シャルちゃんも本当はルシアくんのこと、好きなんだよ。ただちょっと、素直じゃないだけ」


アリシアが笑いながらそんなことを言ってくるが、どういう目で見ればそう見えるんだ?


「喧嘩するほど仲がいいって言うでしょ?」


 そう言ってにっこり笑うアリシア。そういえば、再会してから今まで、随分とアリシアの機嫌がいいんだよな。なにかあったんだろうか?

 が、そんな疑問を投げかける間もなく、


「さあ、行きましょう?」


 シリルの言葉に、俺たちは気を引き締めて、壊れた扉の向こう側に足を踏み入れる。


 パチパチパチパチ。


 手を叩く音? 気の抜けるような拍手の音が部屋の奥から聞こえてくるみたいだ。

 そして、ほとんど同時に薄暗い部屋に一気に照明が照らされた。


「いやいや、御見事だよ。Bランクの巨人どもをああも鮮やかに倒すとは、驚いたね。ようこそ、わが城へ、強き者よ」


 その声はかなり若い男のものだ。というか、子どもの声だと勘違いしかねないくらいに甲高い。声のした方はもちろん部屋の奥。そこには、なんと『玉座』があり、お伽話でしか見ないような王冠を頭にかぶった青年が腰かけている。

 男の赤い髪と赤い瞳は火の“精霊紋”を連想させるが、炎というよりまさに血の色と言った感じで、白皙の美貌にも恐ろしいほど調和している。

 そしてその頭上には、恐らくあれが『アルマゲイル』だろう、巨大な目玉とそれを覆う黒い触手の群れ。ふよふよと宙に浮かぶその姿は、不気味さと同時に強烈な威圧感を与えてくる。


「待っていたよ。君たちほどの強者ならば、僕の配下としても相応しい。今からワクワクするじゃあないか。なあ、ワイゲル」


 その男は、玉座に腰かけた姿勢のまま、すぐ左脇に立つ男の顔を見上げる。

 すると、ワイゲルと呼ばれたローブ姿の初老の男は、いやらしい笑みを浮かべた。


「仰せのとおりです。陛下。吾輩の研究も大いに進展するでしょう」


 妙だな。なんで、こんな地下室に玉座があって、何の違和感もないんだ?

 俺はいぶかしく思いながら、あたりを見回す。


 ……ああ、そうか、ここは「本当に」謁見の間なんだな。


 床に赤絨毯こそ敷いていないものの、玉座の周囲が一段、いや三段ぐらい高くなっている。一方で部屋の入り口から玉座までの一本道の左右には、十人ほどの不気味なローブ姿の男たちがあたかも臣下のごとく並んでいるのだ。

 だが、おかしい。モンスターは『アルマゲイル』一体だけなんだろうか。

 

「お前がここの親玉か?」


 俺は、頭に浮かんだ疑問をとりあえず脇に置くと、玉座に座る男に剣を突き付けるようにして言った。ここからでは、相手までかなり距離がある。それでもそれなりに殺気を込めて睨みつけてやったはずなのに、当の相手はといえば、その冷たい美貌に笑みすら浮かべながら軽く頷いただけだった。


「親玉ではなく、王様だよ。君は頭が悪いのかな?」


「なんだと?」


 こいつ、完全にイカれてる。俺は断定した。まともに相手をしてやることはないな。

 すでに周りのみんなも油断なく戦闘態勢をとっているのだ。有無を言わさず戦ってもかまわないはずだ。

 だが、そんな俺の肩を軽く押さえるようにして、シリルが『王様』に問いかける。


「あなたたちの目的は何? どうやって『アルマゲイル』を操っているの?あれだけの数の【アンデッド】やモンスターを使役する方法は何?」


「おやおや、そんなに一度に質問をされても困るね、お嬢さん。心配しなくとも全部、教えてやるとも。くくくく」


 答えたのは『王様』ではなく、その脇に立つワイゲルだった。他の連中と違い、ローブのフードはかぶっていないため、頭部が露わになっている。白髪の混じり始めた頭髪を首の後ろで一つにまとめ、開いているかどうかわからないぐらいに目が細い。


「……それから、こんな時代遅れの【キメラ】もどきが、あなたたちの研究とやらの成果だとでも言いたいわけ?」


「な!?」


 シリルのタイミングを見計らったかのような言葉に、ワイゲルは硬直する。細身の身体をぶるぶると震わせ、顔を紅潮させてシリルを睨みつけている。


「き、貴様、貴様貴様貴様ああああ!」


 怒り狂った男の叫び声とともに、周囲のローブ姿の男たちに異変が起こり始めた。



     -罪業の行き着く果てに-


 やっぱり、思った通りだ。

 わたしはここに来るまでの間、【アンデッド】やモンスターの様子を“魔王の百眼”でつぶさに観察してきた。

 でも、その時点では特に異常は感じなかった。いや、というよりも『いつも通りに』異常なモンスターであるということしかわからなかった。

 けれど、ここの手前の部屋で、人間以外に『複数のモンスターの【魔力】が混じった』モンスターを見て、確信した。


「『混沌の種子』を使って、人間に複数のモンスターの因子を植えつけて、モンスター同士を融合させようとした。そんなところかしら? 時代遅れにも程があるわね」


 自分で言っていて吐き気のするような話だ。いったい何人の人が犠牲になったのか?

 周囲ではなおもローブ姿の男たちに異変が生じ続けていた。もはやローブの内側は、人間の形をしていない。それどころか、人間の大きさですらなくなり、丈夫そうな布地がビチビチと裂け始めている。


「貴様、貴様! よくも我が研究を時代遅れだなどと、ぬかしおったな!」


「見苦しいぞ。ワイゲル」


 『王様』気取りの青年が、ワイゲルに軽い調子で声をかける。頭のおかしい狂人のような振る舞いを見せる青年だが、不思議と人を従わせる迫力がある。


「陛下、ですが!」


「僕の言うことが聞けないのか?」


 凄んでいるわけでも威厳があるわけでもない、軽い言葉。その言葉にワイゲルは舌打ちしながらも従った。周囲のローブが蠢くのも、いつのまにか止まっていた。


「悪かったね。こいつ、研究のこととなると、すぐ熱くなるんだ。困ったことにね。まあ、いいか。王様として質問されたことには答えよう。そうだね。こんな感じでどうだ?」


 彼が血の色をした瞳を軽く細めると、あらぬ方向から声がした。


「ボクノモクテキハ、セカイノシハイ」

「あるまげいるモあんでっとモ、ボクガ、オウサマダカラ、シタガッテクレルンダ」

「ジダイオクレカドウカハ、ボクニハワカラナイナ」


 声は、ローブ姿の化け物が発したものだ。それも、あたかも『王様』の言葉を代弁するような話し方だ。まさか、この男が操っている?


「シ、シリルちゃん……」


 と、そのとき、後ろからアリシアが震える声でわたしに声をかけてくる。


「どうしたの?」


「あの人、変だよ……。普通じゃ……ない」


「ええ、それは見ればわかるわ。……それとも、見てわかる以上のことがあるの?」


 わたしの言葉にアリシアの頷く気配がある。当然、わたしの視線は油断なく、『王様』に向けられたままだ。モンスターを操っているのがこいつなら、ワイゲルより危険なはずだ。


「さあ、おしゃべりはこれくらいにしよう。君たちの力をもっともっと、見せてくれ」


 だが、アリシアが続きを話すより早く、『アルマゲイル』が宙を滑るように降りてきて、彼とわたしたちの間を塞ぐ。

 と同時に再び周囲のローブ姿の化け物が蠢きだし、とうとうその姿を露わにした。


「ひっ! なにあれ……」


「気味が悪いぜ……」


 アリシアとルシアが嫌悪の声をあげるが、無理もない。

 現れたのは、複数のモンスターを混ぜ合わせたような醜悪な姿の怪物だった。

 

「ひゃはははっは!これぞ我が研究の成果!『ワーウルフ』の俊敏さと『ゴブリン』の体力を備え持つ『ゴブリンウルフ』、『ゲイルトロール』の再生能力と『ホーンドタイマイ』の防御力を併せ持つ『トロールタイマイ』、……」


 ご丁寧にも解説を始めるワイゲルに、わたしは呆れた目を向けた。


「馬鹿馬鹿しいわね。こんなもの、もう何百年も昔にやりつくされた研究よ?モンスター同士を組み合わせたところで、反発して上手くいくわけがない。研究結果ももう出てるわ」


 もちろん、『魔族』の研究だ。人間にモンスターの因子を混ぜる『混沌の種子』は、無数の実験の一つに過ぎない。『魔族』は手段を選ばず、他にもさまざまな実験をしている。


「くははは!それが愚かなのだ!人間はモンスターの因子に適合したではないか。その結果が『亜人種』だ。ならば、反発を起こさない方法もあるはずだろう!」


「だから何? 『亜人種』を攫って因子の適合の仕方を研究したとでも言うの?」


 そんなことぐらいでなんとかなるなら、『魔族』ももっと別の結果を出しているはずだ。


「来るぞ!」


ヴァリスが鋭く叫ぶ。もう問答を交わしている余裕はなさそうだ。


『アルマゲイル』の黒い触手が一斉にこちらに伸ばされてくる。それは、単なる触手の攻撃に見えて、巨木をもなぎ倒しかねない力を秘めている。わたしは話している間に用意しておいた【魔導の杖(スタッフ)】を掲げ、【魔法】を発動しようとした。


しかし、それより早く。


〈焼き尽くす炎〉


 言葉とともに、『アルマゲイル』が触手もろとも業火に包まれる。


「フィリス?」


 今のは【精霊魔法】(エレメンタル・ロウ)? けれど、そもそも周囲には火の気がほとんどないため、使えたとしても、もっと威力が落ちるはずなのに……。やはり『精霊』自身が表に出ているから?

 とはいえ、今ので倒せるほど『アルマゲイル』は弱い敵ではない。わたしは【魔導の杖(スタッフ)】を油断なく構え、炎の先を見つめる。

 周囲では【キメラ】たちとヴァリス、ルシアが戦闘を始めている。

 先ほどの部屋のものと違い、【キメラ】たちがまともに動いている。拒絶反応がない?


「くそ! すばしっこい奴だ」


「く、硬いな」


 ルシアとヴァリスの声に、わたしは反射的に叫ぶ。


「スイッチ!……アリシア、あの二人に敵の特徴を伝えてあげて!」


「うん!」


 まったくもう、お互いに相性の悪い相手と戦闘に入ってどうするのよ。今の二人の言葉から、それが『ゴブリンウルフ』と『トロールタイマイ』であることは、すぐにわかった。

 でも、だとすると、あいつの言う研究は、ものの見事に成功していることになる。


「シリルお姉ちゃん!来マス!」


 フィリスの言葉に、わたしは思考を中断し、今度こそ【魔法】を放つ。


〈裏切りの獣、汝が主を喰らいつくせ〉


喰らう陰影(シャドウイーター)》!


 次の瞬間、炎で焼けた体を再生しつつある『アルマゲイル』の背後から、漆黒の獣が姿を現し、貪るようにその身体へと喰らいついた。

 しかし、『アルマゲイル』の最大の特徴は無限の再生力。喰いちぎられた触手も傷つけられた本体も次から次へと再生し、まったくダメージを受けた様子もない。

 けれどこの闇属性の中級魔法《喰らう陰影(シャドウイーター)》は、持続時間が比較的長いのが特徴でもある。しばらくは、触手を喰いちぎりつづけて動きを封じられるはず。


「ルシアくん、そいつの鉤爪、急に伸びてくるから気をつけて!」


「ヴァリス! その鞭みたいなのは、体力を奪ってくるから触っちゃ駄目!」


 アリシアのおかげで得体のしれない化け物相手でも、どうにか対処できているみたいね。

 それでも十体近い【キメラ】が相手じゃ、ルシアもヴァリスも劣勢には変わりないはず。本当は『アルマゲイル』を片付けたいところだけれど……。


「フィリス。『増幅』できる?」


「ハイ。大丈夫デス」


 頼もしい返事をする『フィリス』。


「じゃあ、『水』よ。タイミング、上手く合わせてね」


「ハイ!」


 わたしは手にしたままの【魔導の杖(スタッフ)】を構え、水属性初級魔法を準備する。初級魔法なら、わたしに適性がなくても【魔導の杖(スタッフ)】さえあれば、数秒で使用できるはず。


〈貫き砕け、水塊の槍〉


|《水の槍》(アクアランス)


 わたしが放ったのは、水流を槍に摸して敵を貫くもの。

 けれど実際に発現したのは、巨大な柱状の水の塊で、わたしが杖を向けた先にいた【キメラ】数体をまとめて壁に叩きつけたのだった。


「うおお! びっくりしたあ!」


 目の前のモンスターを吹き飛ばされたルシアが大声をあげている。わたしとしても、とても自分が使った【魔法】とは思えない威力になっていた。これなら何とかいけるはず!

 わたしとフィリスの二人は、ルシアやヴァリスに当たらないよう続けて別の【キメラ】に攻撃するとともに、同じ【魔法】を『アルマゲイル』に叩きつけて牽制していく。


「おのれええ!吾輩の作品を台無しにしおって!」


「うるさい!あなた、自分が何をしているかわかっているの? モンスターは生きとし生けるものの天敵なのよ? それを強化した化け物を生み出そうなんて、どうかしてる!」


 わたしは、怒りにまかせてワイゲルに叫んだ。


「くははは! 天敵だと?馬鹿め!モンスターなど吾輩に取ってはただの駒だ。『亜人種』の因子を埋め込んでやっただけで、ほら、このとおり。かわいいものだ」


「え?」


 この男、今、なんて言った? 人間にモンスターの因子を植えるのでなく、モンスターに人間の因子を植える? 人間の因子だなんて、そんなものどうやって……。

 『魔族』の研究者たちの間でも、人間という存在には未知の部分が多いとされている。

 かくいうわたしも、特別な【スキル】を持つに至った人間をベースに、『混沌の種子』の技術を応用して造り出した『魔族』の因子を植え込んだ存在であり、その逆ではない。

 因子とはすなわち原因である。けれど、いったい何が人間を人間たらしめている因子なのか、それは全くのブラックボックスのはずなのだ。


「人間ではない。『亜人種』だ。くくく、吾輩の改良版『混沌の種子』はモンスターではなく、『亜人種』から抽出したものなのだよ。まだ人間の部分が未成熟な幼児や赤子なら、少し『加工』してやるだけで人間とモンスターの入り混じった因子の抽出が可能なのだ!」


 そんな馬鹿なことって……。

 でも、モンスターの因子同士に拒絶反応が出ないのは、それが理由? 

 そう言えば、わたしは思い出す。エイミアは、こう言っていたのではなかったのか?

 『亜人種』の誘拐事件。その被害者の多くは、「幼い子供や赤子」だった、と。


 なんて、……なんて酷いことを。

 わたしを生み出すための技術がまさか、こんな形で使われているなんて……


 わたしは、目眩がするような激情に襲われて、思わず【魔法】の使用を中断してしまう。

 それは、単体認定Aランクモンスターを前にしては、致命的な隙だった。


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