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異世界人と銀の魔女  作者: NewWorld
第3章 覚醒する精霊と湖底の魔鍵 
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第29話 デートです!/賓客待遇

遅ればせながら、一応の注釈です。

通貨単位の1ガルド=1円です。

単純ですが、わかりやすさが何よりということで。

   -デートです-


 今日はでーとなのです!

 

「アリシア。足元をよく見て歩け。また、転ぶぞ」


「またって、今日はまだ転んでないでしょ?」


 あたしは、ヴァリスの言葉に頬を膨らませる。だけれど、本当はすごく機嫌がいい。

 あたしとヴァリスは今、二人きりで、カルナックの商店街を歩いているのだ。


 石畳が整備されて、レンガ造りの店が並ぶ商店街は、活気に満ち溢れていて、すごく楽しい。街路樹も花壇もあって、とっても綺麗だし、あたしが住んでいたルーズの町も汚くはなかったけれど、やっぱり違う。つい嬉しくなってスキップをしようとしたら、ヴァリスに注意されちゃった。


「まったく、お前ときたら、少しは落ち着いたらどうだ。護衛する身にもなれ」


 そうなんだよねえ。ヴァリスは、あたしを護衛しているつもりなんだよね。ヴァリスの感情はあたしには読み取れないから、ほんとのところ、どう思っているのかは分からないけれど。


「『拒絶する渇望の霊楯サージェス・レミル・アイギス』があるんだから、そんなに心配はいらないよ。だから、もっと気楽にいこ?」


「油断は禁物だ」


 ほんと、ヴァリスも生真面目なんだよね。まあ、そこがいいとこなんだけど。

 よし、それじゃあ……


「じゃあ、ヴァリス。はぐれないように腕でも組もっか?」


 言うが早いか、あたしはヴァリスの左腕を抱きかかえるようにして、身体を寄せた。

 ちょっと恥ずかしいけれど、ここが攻め時……かな?


「アリシア……、これでは、かえって動きづらいと思うが……」


 はうう、効果がなかった……。 あたしはそうっと彼の顔を見上げてみる。

 サラサラの金髪に縁取られた、貴公子みたいに端正な顔立ち。透き通るような青い瞳と視線がぶつかる。

 一瞬、胸の奥で心臓が跳ね上がった。けれどあたしは、それを抑え込むように目を逸らさず、にっこりと笑って見せる。


「……」


 ヴァリスは、少し驚いたような顔をして、それからぷいっとあたしから視線を外し、周囲を見回す素振りを見せた。


「で、目当ての店はもうすぐなのだろう?」


 なんだか、焦ったような声で話題を変えるヴァリス。もしかして、少し照れてる?

 うん、少しは効果があったのかも。


「そうだよ。宿のおじさんに聞いた限りだと、このあたりに町で一番大きな魔法具のお店があるらしいから」


 そう、あたしたちは買い物に来ているのです。しかも二人で。

 これをデートと言わず、何と言うのでしょうか! 

 少なくとも傍から見れば、間違いなく恋人同士、だよね?


「あれだな。早く行くぞ」


 つれないなあ。でも、とりあえず、ショッピング開始!


 あたしたちがたどり着いたのは、大きな看板の付いたおしゃれな感じの一軒のお店。

 建物の大きさも三階建てでかなり大きい。


『カルマの魔法具店』。看板にはシンプルな名前がおしゃれな字体で書かれている。

中に入ると、店内には、所狭しとたくさんの商品が陳列されていた。


「あ、『精輝石』がある。シリルちゃんは、ここで買ったのかな?」


 値段を見ると一個十万ガルド。明りに使うだけなのに、結構お高めだ。

 他にも一階には、小物類を中心にたくさんの魔法具がおいてあった。


「魔法具か。【魔鍵】とは違うのだろう?」


「うん。魔法具は使い手を選ぶものが少ないし、魔工士系の【スキル】がある人が作るものだからね。全然、別物だよ」


「? これはなんだ?」


 ヴァリスが手に取ったのは、竜の形をした小さな石。


「ええっと、『竜のお守り』だって。持っているだけで体力を少しだけ底上げしてくれる効果があるみたい。まあ、竜の形は御利益があるようにってことなのかな?」


「そうか。ふむ。形だけでも、あやかろうという気持ちはわからぬでもないな」


あたしが説明文を見ながら教えてあげると、ヴァリスは少し誇らしげな口調でそう言った。

そんなヴァリスは、なんだかちょっと可愛いかも。ちなみにこのお守りは一万ガルド。


「う~ん、どうも一階にあるのは比較的安くて、効果が弱い物みたいだね」


「そうか。なら上の階に行くか?」


「あ、でもでも、可愛い小物とかあるかもしれないし、もう少し見て回ろうよ」


「今後の旅に使う装備を整えに来たのではなかったのか?」


 やっぱりそう言うと思った。確かにそれも目的だけど、実際はそれを口実にシリルちゃんからお小遣いをもらって、デートにこぎつけたんだけどなあ。


「それだけじゃ、つまらないでしょ?」


「ふむ、そうか」


 あれ? 案外素直に聞いてくれた。よかった。


 それから、あたしたちは一階を一通り見て回り、買い物を続けた。

 ひとつは、風の糸を繋ぎ、離れた場所でも小声で会話ができるっていう何組かの『風糸の指輪』。すごく便利なうえに、金と銀のセットになっていて、綺麗な緑色の小さい宝石がついているのがポイント高いよね。

 それから可愛い猫のブローチがあったので、色違いでシャルちゃんとシリルちゃんの分のお土産もあわせて三個を購入決定。『闇猫のブローチ』っていって、暗闇での視力が少しだけ良くなるんだって。使い道は少ないけれど、可愛ければ問題なし!


 それらでしめて150万ガルド。一般庶民の一か月の稼ぎの何倍もかかっちゃった。ほとんどが指輪の値段だけれど、魔法具って高いものはほんとに高い。

 もっとも、現状、二億五千万ガルドの収入が入ったばかりのあたしたちには、大した金額じゃないし、シリルちゃんからは、お金さえ出せば、ギルド支給の特別製に匹敵するぐらい良いものを買えるんだから出し惜しみはしなくていいって言われているんだよね。


 そんなこんなで、今度は二階に上がるあたしたち。


「へえ、ここは武器や防具がいっぱいあるんだね」


「武器はともかく、防具に関しては、今の我にも必要かもしれないな」


 ヴァリスはそう言うと、真剣な顔で品定めを始めた。うーん、一階では随分楽しんじゃったから、ここは邪魔しないようにした方がいいかな?

 あたしも自分の着る物を探そう。


「あ!可愛い服!……でも、そんなにすごい効果があるわけじゃないのか」


 あたしは、女性用のローブやドレスが並ぶ一角で、ひとつひとつ手に取って胸元に合わせてみる。うーん、デザインと機能性を併せ持ったものがあればいいんだけど。

 そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。


「お客様。どんなお召し物をお探しでしょうか?」


 恭しく頭を下げてきたその人は、蝶ネクタイつきのタキシードみたいな服を着て、綺麗に髪を撫でつけた30歳ぐらいの男性だった。


「ええっと、その……」


 突然話しかけられたことに動転して、言葉が出ない。いつもあたしはこうなのだ。なまじ人の感情が見えるから、あたしの言葉に人がどう反応するのかが怖くなって、上手く言葉が返せない。

 けれど、その人はそんなあたしの様子に気を悪くした風も、怪訝に思う風もなく、にっこりと笑って言葉を続けた。


「こちらは魔法具店ですので、様々な力を秘めた物がございます。無論、ご婦人がたの魅力を引き立てるデザインにも力を入れておりますので、どんな御要望でも遠慮なく、おっしゃってください」


「あ、はい。あたし、冒険者なんですけど、その、動きやすくて丈夫で、…水とか汚れにも強いものなんかがいいのかなって思っていたんですけど……」


 あたしが何とか無難な言葉を選びながらそう言うと、その人は少し首を傾げた。うう、悪い感情じゃないけど、何かを企んでいるみたいな?


「そうでございますか。しかし、せっかくお綺麗でいらっしゃるのですから、あちらの殿方のためにも、デザインなども気になされてはいかがですか?」


「ええ!?」


 そっか、あたしとヴァリスが腕を組んで入ってくるところを見られたんだ。それと多分、一階で高いはずの魔法具をぽんぽん買っている姿も見ていて、それで売り込みに来ているのね。なるほど、商売上手だわ。


「あの、それじゃ、見繕っていただけますか?」


「ええ、喜んで。……ところで、予算はいかほどでらっしゃいますか? それによって選ぶものも変わってまいりますが」


 言われてあたしは、腰に下げた財布を手に取り、中を見せる。


「えっと、このくらいなんですけど……」


「へ!?」


 あーあ、あんぐりと口を開けて固まっちゃった。

 結構かっこいい感じの人なのに、ものすごく間抜けな顔になっちゃってるよ。でも、仕方ないかもね。

 あたしの見せた財布には、最高級の白金貨の大判(一枚百万ガルドなり!)がたくさん入っていたのだから。



     -賓客待遇-


 魔法の力が込められているという防具類。そのひとつひとつを手にとっては見たものの、その説明書きについては、見えてはいても頭に入ってくることはなかった。

 無論、我とて人間の世界で生活する以上、すでに大部分の文字は読めるようになっている。ゆえに、頭に入らなかったのは、別の理由による。


「……」


 無意識に、少し前までアリシアが抱きついていた左腕のあたりをさする。柔らかく暖かな感触がまだ、残っているような気すらしてくる。竜身でいたころには、まったくの無縁だった「ぬくもり」というもの。慣れない感覚に、我は戸惑いを感じていた。

 そして、同じく無意識に、彼女の姿を店内に探す。どうやら女物の服が並ぶあたりで、次々と胸元に合わせ、何かを確かめているようだ。


 その楽しそうな横顔に、先ほどこちらを見上げながら微笑んできた顔が重なる。

 まったく、不思議な娘だ。なぜ世界最強の種族として恐れられる『竜族』である我に、ああも気安く接することができるのか。

 かつてはそれを、力を失った我を侮ってのことと思っていたが、そういうわけでもなさそうであり、ますます訳が分からない。

 だが、一番不思議なのは我自身だろう。アリシアが近くにいる日常を当たり前のものとして受け入れ、どころか、そのことに少なからず心地良ささえ感じてしまっている。

 少し前までの自分には、考えられなかったことだ。 


 ぼんやりと立ち尽くしていると、そのアリシアの声が聞こえた。


「ヴァリス! こっち、こっち!」


「今、行く」


 我は短く返事をすると、アリシアの方へと向かう。彼女の傍には腰の低い黒服姿の男がおり、やたらと丁重な仕草で案内を務めているようだ。


「どうしたのだ。ここで武器防具を探すのではなかったのか?」


「うん。この人、あ、この店の店主でデリック・カルマさんって人なんだけど、彼が三階の特別な商品を見せてくれるんだって。いこ?」


「特別な商品?」


 我が聞き返すと、脇に控えていたデリックというらしいその男は、こちらにも恭しく頭を下げてくる。店主にしてはまだ若いように見える。


「はい。特別なお客様にのみ、お売りする最高級の品々をご用意してございます。アリシア様とヴァリス様にはぜひ、お目通しをしていただきたく……」


 下へも置かない扱いとはこのことだろう。


「アリシア。何があった?」


 我は早速、一階で買った『風糸の指輪』の機能を使い、小声で問いかける。


「うん。予算を聞かれたから、財布を見せたら、こうなっちゃった」


 なるほど。確かにシリルから渡された金額は軽く五千万ガルドを超えるものだ。アリシアの財布だけでは入りきらず、我も不本意ながら財布を持たされているぐらいである。


 そして案内された三階は、これまでの階とは明らかに趣の違う内装が施されていた。


「うわあ、すごいね。これってもしかして、貴族の人なんかが使うような家具とか置いてあるんじゃない?」


「はい。皆様がお買い物をしていただく空間自体も、皆様に相応しい調度品で揃えさせていただき、少しでもゆったりとした時間をお過ごしいただければという配慮からでございますゆえ」


 ふむ。所持金ひとつでこうも態度が変わるとは驚きだ。しかし、それが悪い事とは思えない。むしろ、こういうものを指して「逞しい」と言うのだろう。


 だが、ここに置かれた品々が最高級品というのは、どうやら間違いないようだ。造りや素材からして、明らかに次元の違うものが並んでいる。


「お二人はさぞや高名な冒険者でらっしゃることと思いますが、何分わたくしどもも、そちらの道には疎いものでございまして……」


 デリックはそんなことを言ってきた。どうやら我らが何者かが気になるらしい。


「ええっと、そんなに高名じゃないんです。ただちょっと、最近大きな仕事が上手くいったのでお金があるだけで……」


「大きな仕事ですか……。あ!で、では、まさか、あなたがたが『オルガストの湖底洞窟』を開拓された方々なのですか!?」


「え? どうして知ってるんですか?」


「それはもう、町中で話題になっている事件ですから。平均Cランクでありながら、前人未到の【フロンティア】開拓を成し遂げた脅威のパーティ……。そうでしたか。それでは、我が店の名誉にかけて最高級の品をご提供させていただきます!」


 そう言うと、デリックは張り切って店の中を物色し始めた。


「なんだか、すごい事になってるんだね」


「ああ、シリルが目立ち過ぎたと言っていたが、やはりそのようだ」


 店の奥から数々の魔法具が引っ張り出され、目の前に山積みにされていく。


 周囲には店員と思しき者たちが続々と集まり、次々に効果の説明しながら試着を勧めてくる。すでにアリシアは試着室の方へ連れ去られていた。


「こちらは、『コランダムタートル』の甲羅から造られた甲冑でございます。並みの剣では傷一つつかない硬度と耐衝撃性に優れた内部構造から、最高級の防具として名高い物ですが……」


「機動性に難があるな」


「では、こちらはいかがでしょう? 耐炎熱、防水性に優れた『デュアルサーペント』の鱗を編みこんで造った服で、軽さも申し分ないかと思います」


「熱や水はともかく、【瘴気】や毒の対策が可能なものはないか?」


「では、これなどは……」


 まったく、賓客待遇もいいところだ。だが、おかけで大した時間もかけずに質の高い物が手に入りそうだ。


「ヴァリス。これ、気に入っちゃったんだけど、どうかな? 似合う?」


 振り向くと、そこにはどうやら店の商品らしい衣服を身にまとったアリシアがいた。

 全体的な構造としては、上下が一つになった服なのだろう。だが、腰のまわりに鮮やかな装飾の施された色違いの布地が二重に縫い付けられているようであり、そこを境に白を基調にした上半分と赤を基調にした下半分とで服の意匠が異なっているため、上下が分かれた服であるようにも見える。

 首元にはリボンが付いており、袖の部分は肩口に軽くふくらみを持たせながらも、腕に向かってすらりと細くなった造りをしている。一方で胸元は大きく開いており、スカートも短いため、防御に不安があるのではないか思うが、動きやすくはありそうだ。


「ヴァリス? 聞いてる?」


「あ、ああ。そうだな。魔法具としてはどんな効果があるのだ?」


「それは後。に・あ・う?」


 アリシアは、しつこく食い下がってくる。


「……ああ。似合う」


「そ、ありがと」


 アリシアは満足そうに笑う。


「で、性能だっけ? えっとね、なんでしたっけ?」


「はい。アリシア様がお召しになっているそれは、魔工士系【エクストラスキル】“至上の名工”を所持する高名な職人の手になる物で、『星光のドレス』と言うものです。一見、通常の衣服に見えるかもしれませんが、縫製に使われた糸はすべて、【フロンティア】『天嶮の迷宮』でしか手に入らない『星雲の光糸』でございます」


「それってすごいの?」


「はい。かの【フロンティア】は一度しか開拓されたことがありません。ゆえに『星雲の光糸』は入手が極めて困難で、かつ希少性が高いものです。その効能も大変優れ物で、あらゆる汚れを近づけない性質から、耐火性、耐水性はもちろん物理・魔法両面において非常に優秀な防具となっています」


 若干露出度が高くなっているのは、素材が希少であるためらしいが、糸自体が力場を形成しているため、全体の防御力も低い物ではないらしい。どうやら、この店でも一、二を争うほど高価な物のようだ。デリックの目の色が違う。しかし、今回は相手が悪かった。


「それで、おいくらですか?」


「はい。本来は四千万ガルドなのですが、冒険者の期待の星であるアリシア様であれば、三千万ガルドに値引きいたします!」


「嘘つき」


「へ?」


 アリシアに嘘は通じない。それがまさかこんな所で役に立つとは思わなかったが、結局、適正価格より値引きさせることには成功したようだ。

……ふむ、二千五百万ガルドか。それでも一般庶民には高額な品であることには違いない。

 我もそれなりの一品を見つけたものの、アリシアが容赦なく値引きをさせたため、最後にはデリックが半泣きのような顔になっていた。


「じゃあ、ヴァリス。お買い物も終わったことだし、町の中をもう少し見て回ろう? この服も着慣らししたいしね」


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